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38.友達
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橘さんと俺はその声がする方へ同時に目を向ける。そして建物の角から飛び出してきたのは、紛れもなく俺の鍵と小銭入れを咥えた猫。そして必死の形相の美波さんだった。
「なんで美波さん?」
「あ、真壁君! その猫捕まえてください! 真壁君の鍵持って逃げてます!」
猫はスピードを落とさず橘さんの胸に飛び込んで丸くなった。美波さんはスピード落として橘さんから隠れるように俺の影に入る。
「はい。真壁君。私の友達は優秀でしょー。えへへ」
橘さんは猫から鍵を受け取ると俺に手渡す。確認するが間違いなく俺の鍵と小銭入れだ。まりものキーホルダーが猫のヨダレで濡れているのは仕方がない。猫は橘さんの膝の上で満足げにふんすと鼻息を立てている。
「あ……」
美波さんは俺と橘さんの様子を見て悲しげな声を漏らす。
「ところで、なんで美波さんはこの子を追いかけてたの?」
「えっと……その……それはですね……」
美波さんは歯切れ悪くそう言うと、小さな体を更に小さくした。橘さんは猫を撫でながらもキラキラした瞳で美波さんの様子を伺っている。おもちゃを前にした猫のようだ。
「たまたま、そう、たまたま偶然食堂でお二人が話をしているのを聞きまして。これはアピールチャンスだと思って私も真壁君の鍵を探していたんです」
「なんのアピールだよ」
「えっと、その。真壁君に恩を売って捨てられないようにと……」
「はあ……」
盛大にため息が出る。橘さんも不思議そうな顔をしている。
「それで学校内を探していたら猫が真壁君の鍵を咥えて歩いているのを見つけたんです。それで追いかけてきたら……」
「俺に渡すために鍵を運んでいた猫だったと」
「はい……」
そう言って美波さんは肩を落とす。結果はどうであれ、美波さんも俺の探しものを手伝おうとしてくれていたことには変わりないし……。
「探してくれてありがとう」
「私、ちゃんとアピールできてましたか?」
「はいはい。できてたできてた。てか、美波さん」
「はい」
「友達なんだから捨てるとかそんなのないから安心してよ」
美波さんはそれでも納得できないのか、黙って視線を落とす。
「でも私の探しものの手伝いに付き合ってくれなくなったりしませんか?」
「友達が困ってたら助けるのが普通だよ。ね、橘さん!」
橘さんの言葉を借りたので、そのまま橘さんに話を振った。橘さんは待ってましたとばかりに立ち上がる。膝の上に乗っていた猫は不服そうに飛び降りていた。
「そうそうー。私も美波さんが困ってたら助けるよー。友達だもん。えへへ」
美波さんの顔を覗き込むようにして言った橘さん。好意と善意しか無い橘さんだが、美波さんは怯えるように後ずさった。
「友達……に……なったら……よろしくお願い……しますことになるかもしれません……」
「可愛い……」
怯えた様子の美波さんを見て、橘さんはポツリと呟いた。そして、目を輝かせて美波さんににじり寄っていった。
「可愛い。えへへ。可愛い!」
「え、待って。待ってください。なに、何なんですか! いやー! 来ないでくださいー!」
「待ってー」
先ほどまで猫を追いかけていた美波さんは、逆に追いかけられていた。そのまま二人は俺の目が届かないところまで走っていってしまった。取り残されたのは俺と一匹の猫だけ。
「変わった人たちだねー」
「にゃー」
落ち着いた様子で返事をしてくれた猫。橘さんが話をすることによってある程度他の人の言葉を理解できるのかもしれない。
スマートフォンで時間を確認すると、もう少しで十時になるところ。橘さんへのお礼は明日改めてするとして、そろそろ俺も部屋に帰ろうか。
橘さんが言っていた、友達が困っていたら助けるのが普通という言葉……。その言葉で美波さんの記憶のことはできる限り助けてあげようと改めて思った。まだ美波さんにとって友達と呼べる人は俺だけみたいだし、俺が助けないと。
報酬の話はなかったことにしておこう。期待は……してない。多分。いや、絶対。美波さんの身体を好きにしてもいい権利は……。まあ、保留くらいにしておいてもらおうかな。
「なんで美波さん?」
「あ、真壁君! その猫捕まえてください! 真壁君の鍵持って逃げてます!」
猫はスピードを落とさず橘さんの胸に飛び込んで丸くなった。美波さんはスピード落として橘さんから隠れるように俺の影に入る。
「はい。真壁君。私の友達は優秀でしょー。えへへ」
橘さんは猫から鍵を受け取ると俺に手渡す。確認するが間違いなく俺の鍵と小銭入れだ。まりものキーホルダーが猫のヨダレで濡れているのは仕方がない。猫は橘さんの膝の上で満足げにふんすと鼻息を立てている。
「あ……」
美波さんは俺と橘さんの様子を見て悲しげな声を漏らす。
「ところで、なんで美波さんはこの子を追いかけてたの?」
「えっと……その……それはですね……」
美波さんは歯切れ悪くそう言うと、小さな体を更に小さくした。橘さんは猫を撫でながらもキラキラした瞳で美波さんの様子を伺っている。おもちゃを前にした猫のようだ。
「たまたま、そう、たまたま偶然食堂でお二人が話をしているのを聞きまして。これはアピールチャンスだと思って私も真壁君の鍵を探していたんです」
「なんのアピールだよ」
「えっと、その。真壁君に恩を売って捨てられないようにと……」
「はあ……」
盛大にため息が出る。橘さんも不思議そうな顔をしている。
「それで学校内を探していたら猫が真壁君の鍵を咥えて歩いているのを見つけたんです。それで追いかけてきたら……」
「俺に渡すために鍵を運んでいた猫だったと」
「はい……」
そう言って美波さんは肩を落とす。結果はどうであれ、美波さんも俺の探しものを手伝おうとしてくれていたことには変わりないし……。
「探してくれてありがとう」
「私、ちゃんとアピールできてましたか?」
「はいはい。できてたできてた。てか、美波さん」
「はい」
「友達なんだから捨てるとかそんなのないから安心してよ」
美波さんはそれでも納得できないのか、黙って視線を落とす。
「でも私の探しものの手伝いに付き合ってくれなくなったりしませんか?」
「友達が困ってたら助けるのが普通だよ。ね、橘さん!」
橘さんの言葉を借りたので、そのまま橘さんに話を振った。橘さんは待ってましたとばかりに立ち上がる。膝の上に乗っていた猫は不服そうに飛び降りていた。
「そうそうー。私も美波さんが困ってたら助けるよー。友達だもん。えへへ」
美波さんの顔を覗き込むようにして言った橘さん。好意と善意しか無い橘さんだが、美波さんは怯えるように後ずさった。
「友達……に……なったら……よろしくお願い……しますことになるかもしれません……」
「可愛い……」
怯えた様子の美波さんを見て、橘さんはポツリと呟いた。そして、目を輝かせて美波さんににじり寄っていった。
「可愛い。えへへ。可愛い!」
「え、待って。待ってください。なに、何なんですか! いやー! 来ないでくださいー!」
「待ってー」
先ほどまで猫を追いかけていた美波さんは、逆に追いかけられていた。そのまま二人は俺の目が届かないところまで走っていってしまった。取り残されたのは俺と一匹の猫だけ。
「変わった人たちだねー」
「にゃー」
落ち着いた様子で返事をしてくれた猫。橘さんが話をすることによってある程度他の人の言葉を理解できるのかもしれない。
スマートフォンで時間を確認すると、もう少しで十時になるところ。橘さんへのお礼は明日改めてするとして、そろそろ俺も部屋に帰ろうか。
橘さんが言っていた、友達が困っていたら助けるのが普通という言葉……。その言葉で美波さんの記憶のことはできる限り助けてあげようと改めて思った。まだ美波さんにとって友達と呼べる人は俺だけみたいだし、俺が助けないと。
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