過労死社畜は悪役令嬢に転生して経済革命を起こす

色部耀

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土の王国編

え、私なにかやっちゃいました?

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 髭面で部屋着を着ている人が猪の生態学者であるレオン。軍服の人が警備軍司令官のダグラス。2人は元々猪対策で交流があったらしく、すでに猪の縄張りなどの特定は終わっている様子だった。

「並の軍人でも部隊を編成していないと簡単には討伐できないのに本当に大丈夫なのか?」
「レジーナ様。説明をお願いできますか?」

 ダグラスから心配の声を聞いたヒューリはそう言って私に話をまわす。私は食事の席でヒューリに説明した内容を詳細に語った。魔力を持たない生物を捕獲することに特化した魔法があることや、それを使いこなす集落の人間がいること、そしてハンターとして契約する手筈であること。

「魔力を持たない生物を捕縛する魔法……。まさかその集落の人間というのは草原の盗賊団じゃないだろうな?」

 盗賊ということは伏せて説明したにもかかわらず、ダグラスはぴたりとその存在を言い当てた。ヒューリの方を見ると目を瞑って腕を組んで立っているだけ。もしかしてヒューリも気付いていたけどあえて言わなかったのか……?

「……はい。この国に来る途中で襲われたところを返り討ちにしてスカウトしました」
「我が国が奴らにどれだけの被害を受けていたか分からないわけでもあるまい。有用な人材とはいえ、奴らの被害にあった人々やその家族はどう思う? 自分たちに理不尽な悪事を働いた上に安定した職を得ようとしている人間たちを許せると思うか?」

 ダグラスの言葉には重みがあった。言っていることは正しい。人情的で国を想う軍人のまっすぐな心が見える。

「そうですよね。家族が殺された人もいるでしょうし、償えないものも多いと思います」
「彼らは殺人を犯してはいませんよ」
「え?」

 私の話を遮るようにしてヒューリが言った。殺人を犯していない……?

「彼らは金品や食料を奪うだけで殺しは一度たりとも行っていません」
「では被害にあわれた方が納得できる償いも模索できませんか……?」

 少し甘い考えかもしれないが、やはり今後長い目で見ても彼らに職を与えて国に貢献してもらった方がいいと思う。

「そうですね……。それは当事者に聞いて回らなければならないとなんとも言えませんが」
「では聞いてまわりましょう。被害者が納得できる形……。やっぱり金銭面での被害なら金銭面での償いでしょうか……」

 どうするのがお互いに大きな不満が出ない形になるか……。

「猪狩りによる利益の配当権を渡す……というのはどうでしょう」

 ある種の株式のような形。

「過去の被害額に応じた配当権。それ自体も換金できるし、所持している限り猪ハンターズが得た利益のいくらかを得ることができる……とか」
「なんということを考えつくんですかあなたは……」

 ヒューリは頭を抱えながらも口角を上げて笑う。

「そのシステムを応用して広めれば世界が大きく変わりますよ。金だけではない新たな経済の循環が生まれる。はは、これはすごい」
「え、そんなにですか?」
「ええ。換金できる権利。面白いです。それでいきましょう。しかし交渉が済んでいるという元盗賊の方たちに負担を背負わせるわけですから、少々揉めることになるかもしれませんね」
「それでは配当権の発行元はフルハイム家としましょう。配当自体は猪ハンターズの生活に支障が出ない範囲で」
「それなら配当金の監査役は中立を保つために土の王国グランメイズが責任を持って引き受けましょう」

 話がとんとん拍子に決まっていく。この快感は前世での仕事を思い出す。頭の中で思考がとどまることなく流れる感覚。まるで自分の頭が良くなったかのような感覚。聡明なヒューリが話を整理して筋道を立ててくれているおかげで気分が良くなる感覚を持つことができる。
 これだから頭が良い人と話をするのは楽しい。私みたいな凡人でも優秀な人間になれたような気持ちになる。

「正式な契約書類などは明日書記官を集めて作らせましょう。また精査をお願いすることになると思います」
「はい。では今日はこの辺でお開きにしますか?」

 時計を見ると10時前になっている。

「そうですね。今日は解散にしましょう」
「明日から忙しくなりますね」
「はい。この国、いや世界のためにお互い頑張りましょう」

 そう言ってヒューリが差し出した手を握り返す。女性の手を握るには強い力からヒューリの熱意を感じる。
 そうして会議室を後にした私とアリス。宿へと向かう道中、アリスは私にこう言った。

「お姉さまたちが言ってることがひとつも理解できませんでした」

 アリスの頭からは煙が上がっているかのように見えたのだった。
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