過労死社畜は悪役令嬢に転生して経済革命を起こす

色部耀

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水の王国編

え、私足がすくんでる?

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 そんな茶番を演じながら私たちはベンネスに向けて水中を進む。往路と同じく珊瑚の森では多くの魔物に襲われたけど近衛兵とアウラ王子の戦闘力は計り知れず、難なく突破することができた。
 リラは戦闘に参加しなかったものの、自身と私を守る結界を張るなどして足手まといにならない動きをしていた。さすが賢者と呼ばれているだけある。

「リラは私たちに渡した魔法を全部使えるの?」

 ふと気になった私はリラにそう尋ねる。

「あれは魂に刻む魔法だから私は下位互換のかなり弱い魔法しか使えないの。だから戦いの役には立たないかな」
「そっか」

 そりゃ、レヴィアタンを拘束したり、打ち倒したりできる魔法をバンバン使えたら私たちなんていらないよね。
 それでも下位互換とはいえ魔法を使えるのであればすごい。

 そうこうしているうちに私たちは復路の半ばまで来た。そこで日は傾き、夜になる。
 ここからが本番だ。

「このままベンネスまで帰ることは出来なさそうだな」

 先頭を歩くアウラ王子は遠く闇の中を見据えてそう言った。私には何も見えない。しかし唸るような重低音が体の芯に響く。鯨の鳴き声。それに近い何か。

「総員戦闘準備! アウラ王子の攻撃が通るようにレヴィアタンの眷属を削れ!」

 そう言ったのは隊長のティード。近衛兵たちは剣や槍を構えて魔法の準備をする。そしてーー

「来たぞ」

 アウラ王子がそう言って頭上に魔法を放つ。その魔法は小さな太陽のようで、光源となってあたりを照らす。
 アウラ王子の魔法に照らし出されたレヴィアタンは私が思っていたより禍々しく、姿が見えただけで私は足がすくんでしまった。
 空を覆うほどの巨体。ただ押しつぶしにかかられただけで全滅してもおかしくない大きさ。体長100mは余裕であるだろうか。鯨を元にしたレヴィアタンの体表には隙間なく蠢く魔物が無数にいる。そのほとんどは巨大な真っ黒なイカの魔物で、そのうねる様子は生理的嫌悪感を刺激する。
 圧倒的な恐怖感と嫌悪感。
 その2つに私は動くことができなくなってしまった。

「お姉さま!」

 隣からかけられた声に私はようやく体が動くようになる。レヴィアタンの体から剥がれるようにして私たちに襲いかかってきたイカの魔物の群れ。硬直していた私を心配してくれたアリスのおかげで戦いの邪魔にならない場所に移動することができた。

「レジーナ様。私がお守りしますのでここより前に出ないようお願いします」

 メアリーがそう言う。私はリラと共に岩壁を背にした。リラが使ってくれている結界とそのすぐ外で魔物を斬り伏せるメアリー。確かにここにいるのが1番安全そうだ。けど……。

「私だけ守られてて役立たずなのは……」

 独り言を呟いて悩む。ゲームだとそもそもレジーナはこの場に存在していない。レジーナもメアリーもリラもいない。だから3人でこの場に固まっていてもおそらく戦況は変わらない。でも私は何もしないということができない。今までそうして生きてきた。ちゃんとしたいと思って生きてきた。
 誰かの役に立ちたいと思って頑張ってきた。

「なら、ここで膝を抱えて怯えてるわけにはいかないよね!」

 自分の頬を両手で叩いて気合いを入れる。リラは結界に集中しているしメアリーは魔物との戦闘から手が離せない。多分今の私の声は聞こえていない。

「みんな! 怪我人はこっちに退避して! 安全圏で完治させて前線に送り出すから!」

 力の限り叫ぶ。魔物と戦闘中の近衛兵たちはわざわざ返事をしないが、私から最も遠い位置にいるアウラ王子が槍を掲げて反応を示してくれた。
 大丈夫。私はこの世界でもちゃんとできる。
 ゲームだとモノローグの1文で死傷者が出たとだけ語られる戦い。言葉通り違う次元から見ているとそれだけのことかもしれない。それだけで良かったのかもしれない。でもこの世界で生きることになって、この世界に生きる1人になって、私は肌で感じている。心で感じている。
 たった1文で死んだと言われただけでいい人間はここにはいない。みんな家に帰れば家族がいる。国を思って自らの命をかけて戦うヒーローたちなんだ。
 死なせちゃダメだ。私にはそれができる力があるかもしれないから。
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