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HARU:二日目
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「千秋ー。今日は外でお弁当食べよー」
昼休みになった途端、私は半ば強引に友人の手を引いて教室を出た。千秋は見た目だけは派手で、一部の生徒から少し距離を置かれたりしている。しかし、私は周りからの目を気にせずに好きな格好をしている彼女が好きだった。私にはできないことだったから。
「あ、ハル。佐藤も誘っていい?」
廊下に出たところで思い出したかのように千秋は私に言った。佐藤は私と同じテニス部で、部活中はよく話をする。
「良いよ。じゃ、私はここで待ってるから」
「おう」
男らしいような返事と共に教室に戻って行った千秋は少し照れ臭そうに頬を染めていた。誰の目から見ても明らかな恋心。おそらく佐藤本人以外は皆気付いているだろう。少しして千秋が佐藤を引き連れて戻ってくる。
「よう。外ってどこ行くんだ? テニスコートのベンチとか?」
「あ、それ良いかも」
「何も考えてなかったのかよ」
私の同意に対してやれやれといった感じの佐藤。
「私が外の空気吸いたかっただけだからどこでも良かったの!」
弁当箱と水筒の入った袋を下げて、私が先頭を歩く。千秋と佐藤は後ろで仲良く話をしている。これはあんまり邪魔をしないようにしないと。
テニスコートに着くと、もちろん私たち三人しかいない。いつも教室で食べている冷えたお弁当も、外で食べるってだけで何だか美味しくなっているような気持ちになる。外の空気が良いからか、やっぱり普段と違うことをしてるっていう新鮮さがあるからかは分からないけど。
「ハルってアイス食べるのとかジュース飲むのは早いのに、ご飯食べるのは遅いよなー」
千秋が面白いものを観察するように私を見る。休みの日に見せたアイス一気食いが余程印象に残っているのだろう。
「せっかくおばあちゃんが作ってくれたお弁当なんだし、味わって食べなきゃ」
「アイスだって味わって食べた方が良いんじゃねーの?」
ベンチで背中を反らせている佐藤が笑いながら言い放つ。声が大きいものだから、若干馬鹿にしているような言い方に聞こえる。
「あの頭にキーンって来るところまでがアイスの味なの! 分かってないなー」
反論しつつもゆっくりおかずに手をつける。しかし、佐藤は私に興味など無かったのだろう。道具倉庫を漁ってラケットとボールを持ってきた。
「千秋。こいつが食ってる間ちょっと打とうぜ」
「いいね! やるやる! ラケット使って良い?」
私と佐藤はテニス部だけど、千秋は帰宅部でラケットなんか持っていない。
「私の使って良いよ。ってか、佐藤が持ってきたやつ片方私のだし使う気満々じゃん」
「バレたか」
そう言いながら、佐藤は私のラケットを千秋に渡してショートラリーを始めた。千秋は運動神経がいいので、ボールを返すだけなら問題ない。しかし、それでも素人なことには変わりないので結果的に佐藤が走り回っている。
五分くらい経っただろうか。私もお弁当を食べ終える。
「あんまり走ったらスカートの中見えちゃう!」
「佐藤のえっちー」
「違うって!」
「佐藤のノーコーン」
「外野! うるせーぞ!」
二人が楽しんでいる様子を茶化しながら私は携帯を開く。そして、授業中の続きをする。
『テニスコートで食べるお弁当はなかなかの味!』
何の脈絡もなく唐突に送り付けたメッセージ。少し暗い話をしたりもしたが、半日経ってどうでも良いことを好き放題送るようになってしまった。KAZUは携帯画面の向こう側でどんな返事をしたら良いのか悩んでいるのだろうか。小説家だから上手い返しでも考えてくれているのだろうか。
「こんにちは!」
携帯を見ながら口元を緩ませていると、佐藤が突然大きな声を出した。驚いて顔を上げると、ラケットバッグを背負った渉先輩がコートに入って来た。渉先輩は三年生の男子テニス部部長。私たちが部外者をコートに入れて遊んでいるにもかかわらず、笑いながら近付いてくる。
「半分練習に使って良いかな?」
怒るでもなく、後輩相手にも関わらずあくまで謙虚な姿勢でそう聞いてくる。高校最後の大会も近いので、昼休みも練習をしたいのだろう。
「あたし抜けますよー」
千秋がそう言ってコートから出ようとしたところで、渉先輩は残念そうな口調で返事をした。
「別に部活中って訳じゃないし、遊んでくれててもいいんだけどな」
本当にお人好しな先輩だ。それなのに、誰も渉先輩に生意気な態度を取る人はいない。誰より練習熱心で礼儀正しく常に気配りを忘れない姿勢は、単純に叱りつけたりするよりも強い影響を周りに与えている。部活内で最も憧れを持たれている先輩なのは間違いない。私も……そんな先輩に憧れる一人だ。
「渉先輩。良かったら俺が練習相手します!」
佐藤が待ってましたとばかりに名乗りを上げる。テニス部員でなくても、真剣な表情に変わる佐藤を見るだけで渉先輩がどれだけ上手いのかが分かるだろう。
「じゃあ、サーブ練習したいからリターンお願いできるかな?」
「はい!」
そうして佐藤と渉先輩は練習を始める。私と千秋はその間時間を持て余してしまったので、自動販売機に飲み物を買いに行くことにした。
「なあ、ハル」
「ん?」
スポーツ飲料とカフェオレを買った千秋は何を買おうか悩んでいる私に問いかけてきた。
「やっぱりハルって渉先輩狙い?」
「狙いって……。別にそんなこと考えてないけど」
仲の良い先輩。良くしてくれる先輩。実際のところは分からないけど狙っている女子はいるだろう。
「あたしもそろそろ佐藤に告ろうかと思ってるんだけどさ。あたしらが付き合い始めたらハルが一人じゃん? そしたらほら。そんときに渉先輩と付き合い始めたら丁度良いし」
「何が丁度いいよ。別に一人になるわけじゃないし。大丈夫だもん」
話している内に自動販売機に入れたお金が返却されてしまった。もう一度入れ直すと、千秋が勝手に飲み物を選ぶ。
「渉先輩って麦茶っぽくね?」
「私が飲みたい奴選んでたんだけど。まあいいや。せっかくだし先輩にあげる」
まあ、確かに渉先輩は麦茶好きだけど。
「あたし結構良い仕事したんじゃない?」
「さあねー」
そう言って結局笑いあった。テニスコートに戻ると丁度昼休みが終わる五分前の予鈴が鳴り、佐藤と渉先輩は片付けをしていた。
「あ、渉先輩。私がブラシやります」
コート整備のためにブラシをかけていた渉先輩の下に駆け寄ったが、渉先輩は頑なにブラシを渡してくれなかった。
「俺が使ってただけだし、俺がするよ」
結局私は渉先輩の隣を歩くだけ歩きながら、さっき買ってきた麦茶を渡した。
「ありがとう。お金はまた今度返すから」
律儀にそう答える渉先輩だったが、今度は私が譲らなかった。
「大会で……入賞できなかったら返してください。前祝いです」
「ははは。そっか。じゃあ、ありがたく貰っとくよ」
にこにこと、とても嬉しそうに笑う渉先輩。その姿を見て私も少し嬉しくなった。
午後の授業が始まると、私はまた机の下に隠れて携帯をいじっていた。もちろんKAZUとメッセージでやり取りをするため。昼休み中に送っていたメッセージには、本当にテニスが好きなんだねとだけ返信があった。
『KAZUは今日の放課後、何か用事ある? 私はもちろん部活だけど。やっぱり直ぐに帰って小説書くのかな?』
とにかく最近の私はKAZUの小説を読むことが楽しみで仕方なかった。昨日、一昨日と二日連続で読むことができたので、次が待ち遠しくて仕方がない。毎日でも新しい作品が読めたらいいのに……なんて我儘さえ頭に浮かんでしまうほど。しかし午前中に聞いた話だと、流石に次回作は早くても今週末になるのだろう。
早く次の作品を書いて欲しい。新しい小説の内容いついて語り合いたい。
『まあ、そんな感じかな。今日は図書委員の当番があるから直ぐには帰れないけどね。でも、図書室でも携帯で書けるし家にいるのとそんなに変わらないかも』
KAZUは本当に小説のことばかり考えている。本当に楽しそうに書いている。好きなことを好きだと堂々としている。私と違って強いなあ。私だって本当は漫画も好きだし、朝に放送されてる少女向けアニメも好き。だけどそんなこと誰にも言えないし、知られたくもない。
もしかしたら、私と同じで本当は好きだけど言えないでいる人もいるかもしれない。でも、中学時代におばあちゃんが言っていた台詞が心に引っかかって私を縛る。
――いい歳して漫画とかアニメとか見てたら心配だわ。
――オタクってやつ? なんだか気持ち悪いわね。
直接私に投げかけられた言葉ではなかった。テレビに映る大学生や社会人達に向けて言われた言葉だった。しかし、好きなものを否定している様子は私の心を縛るに十分だった。いつも優しく、私のことを大切にしてくれているおばあちゃんが言っていたからこそなのかもしれない。好きなものを好きだと言うには勇気がいる。誰かに嫌われるかも知れない壁を超える勇気がいる。
だから、多分私は携帯小説を読んでいるということを誰にも言えないのだろうと思う。
『ねえ。KAZUが小説を書いてることを知ってる友達っているの?』
過去に書いていた小説のことをネット上とはいえ酷く言われたと言っていたし、もしかしたらKAZUが小説のことについて語っているのは私にだけなのかもしれない。ネット上で繋がっているからこそ素直になれているだけなのかもしれない。私のように――
『あれ? 言ってなかったっけ? 知ってるのはHARUだけだよ。親にも言ってないし、言えないだろうな』
私しか知らない。その言葉は純粋に嬉しい。だけど、やっぱり気になってしまう。
『やっぱり、昔色々あったから?』
今のKAZUは自慢しても良いくらい素敵な小説を書いている。恥ずかしがる必要なんてないと太鼓判を押せる。けど誰にも言ってないし言えないと――。授業中というのも加味してもKAZUからの返信には時間がかかった。突っ込んだことを聞き過ぎたかと不安になるには十分な時間だった。
『ううん。昔から誰にも言ってなかったよ。やっぱり……怖いしさ。自分が好きなものを否定されることって。小説書いてるなんて、普通の人からしたら根暗で馬鹿にする対象に思えるだろうし。それに内容だって俺の考えていることが書かれてるわけだから、そこまで否定されるかもしれないって思うとなかなか言えるもんじゃないよ』
ああ――。同じだ――。KAZUは私と同じなんだ。だから私はKAZUの書く小説にこんなにも惹かれるんだ。授業中にもかかわらず、KAZUの言葉で私は少しだけ目頭が熱くなった。
昼休みになった途端、私は半ば強引に友人の手を引いて教室を出た。千秋は見た目だけは派手で、一部の生徒から少し距離を置かれたりしている。しかし、私は周りからの目を気にせずに好きな格好をしている彼女が好きだった。私にはできないことだったから。
「あ、ハル。佐藤も誘っていい?」
廊下に出たところで思い出したかのように千秋は私に言った。佐藤は私と同じテニス部で、部活中はよく話をする。
「良いよ。じゃ、私はここで待ってるから」
「おう」
男らしいような返事と共に教室に戻って行った千秋は少し照れ臭そうに頬を染めていた。誰の目から見ても明らかな恋心。おそらく佐藤本人以外は皆気付いているだろう。少しして千秋が佐藤を引き連れて戻ってくる。
「よう。外ってどこ行くんだ? テニスコートのベンチとか?」
「あ、それ良いかも」
「何も考えてなかったのかよ」
私の同意に対してやれやれといった感じの佐藤。
「私が外の空気吸いたかっただけだからどこでも良かったの!」
弁当箱と水筒の入った袋を下げて、私が先頭を歩く。千秋と佐藤は後ろで仲良く話をしている。これはあんまり邪魔をしないようにしないと。
テニスコートに着くと、もちろん私たち三人しかいない。いつも教室で食べている冷えたお弁当も、外で食べるってだけで何だか美味しくなっているような気持ちになる。外の空気が良いからか、やっぱり普段と違うことをしてるっていう新鮮さがあるからかは分からないけど。
「ハルってアイス食べるのとかジュース飲むのは早いのに、ご飯食べるのは遅いよなー」
千秋が面白いものを観察するように私を見る。休みの日に見せたアイス一気食いが余程印象に残っているのだろう。
「せっかくおばあちゃんが作ってくれたお弁当なんだし、味わって食べなきゃ」
「アイスだって味わって食べた方が良いんじゃねーの?」
ベンチで背中を反らせている佐藤が笑いながら言い放つ。声が大きいものだから、若干馬鹿にしているような言い方に聞こえる。
「あの頭にキーンって来るところまでがアイスの味なの! 分かってないなー」
反論しつつもゆっくりおかずに手をつける。しかし、佐藤は私に興味など無かったのだろう。道具倉庫を漁ってラケットとボールを持ってきた。
「千秋。こいつが食ってる間ちょっと打とうぜ」
「いいね! やるやる! ラケット使って良い?」
私と佐藤はテニス部だけど、千秋は帰宅部でラケットなんか持っていない。
「私の使って良いよ。ってか、佐藤が持ってきたやつ片方私のだし使う気満々じゃん」
「バレたか」
そう言いながら、佐藤は私のラケットを千秋に渡してショートラリーを始めた。千秋は運動神経がいいので、ボールを返すだけなら問題ない。しかし、それでも素人なことには変わりないので結果的に佐藤が走り回っている。
五分くらい経っただろうか。私もお弁当を食べ終える。
「あんまり走ったらスカートの中見えちゃう!」
「佐藤のえっちー」
「違うって!」
「佐藤のノーコーン」
「外野! うるせーぞ!」
二人が楽しんでいる様子を茶化しながら私は携帯を開く。そして、授業中の続きをする。
『テニスコートで食べるお弁当はなかなかの味!』
何の脈絡もなく唐突に送り付けたメッセージ。少し暗い話をしたりもしたが、半日経ってどうでも良いことを好き放題送るようになってしまった。KAZUは携帯画面の向こう側でどんな返事をしたら良いのか悩んでいるのだろうか。小説家だから上手い返しでも考えてくれているのだろうか。
「こんにちは!」
携帯を見ながら口元を緩ませていると、佐藤が突然大きな声を出した。驚いて顔を上げると、ラケットバッグを背負った渉先輩がコートに入って来た。渉先輩は三年生の男子テニス部部長。私たちが部外者をコートに入れて遊んでいるにもかかわらず、笑いながら近付いてくる。
「半分練習に使って良いかな?」
怒るでもなく、後輩相手にも関わらずあくまで謙虚な姿勢でそう聞いてくる。高校最後の大会も近いので、昼休みも練習をしたいのだろう。
「あたし抜けますよー」
千秋がそう言ってコートから出ようとしたところで、渉先輩は残念そうな口調で返事をした。
「別に部活中って訳じゃないし、遊んでくれててもいいんだけどな」
本当にお人好しな先輩だ。それなのに、誰も渉先輩に生意気な態度を取る人はいない。誰より練習熱心で礼儀正しく常に気配りを忘れない姿勢は、単純に叱りつけたりするよりも強い影響を周りに与えている。部活内で最も憧れを持たれている先輩なのは間違いない。私も……そんな先輩に憧れる一人だ。
「渉先輩。良かったら俺が練習相手します!」
佐藤が待ってましたとばかりに名乗りを上げる。テニス部員でなくても、真剣な表情に変わる佐藤を見るだけで渉先輩がどれだけ上手いのかが分かるだろう。
「じゃあ、サーブ練習したいからリターンお願いできるかな?」
「はい!」
そうして佐藤と渉先輩は練習を始める。私と千秋はその間時間を持て余してしまったので、自動販売機に飲み物を買いに行くことにした。
「なあ、ハル」
「ん?」
スポーツ飲料とカフェオレを買った千秋は何を買おうか悩んでいる私に問いかけてきた。
「やっぱりハルって渉先輩狙い?」
「狙いって……。別にそんなこと考えてないけど」
仲の良い先輩。良くしてくれる先輩。実際のところは分からないけど狙っている女子はいるだろう。
「あたしもそろそろ佐藤に告ろうかと思ってるんだけどさ。あたしらが付き合い始めたらハルが一人じゃん? そしたらほら。そんときに渉先輩と付き合い始めたら丁度良いし」
「何が丁度いいよ。別に一人になるわけじゃないし。大丈夫だもん」
話している内に自動販売機に入れたお金が返却されてしまった。もう一度入れ直すと、千秋が勝手に飲み物を選ぶ。
「渉先輩って麦茶っぽくね?」
「私が飲みたい奴選んでたんだけど。まあいいや。せっかくだし先輩にあげる」
まあ、確かに渉先輩は麦茶好きだけど。
「あたし結構良い仕事したんじゃない?」
「さあねー」
そう言って結局笑いあった。テニスコートに戻ると丁度昼休みが終わる五分前の予鈴が鳴り、佐藤と渉先輩は片付けをしていた。
「あ、渉先輩。私がブラシやります」
コート整備のためにブラシをかけていた渉先輩の下に駆け寄ったが、渉先輩は頑なにブラシを渡してくれなかった。
「俺が使ってただけだし、俺がするよ」
結局私は渉先輩の隣を歩くだけ歩きながら、さっき買ってきた麦茶を渡した。
「ありがとう。お金はまた今度返すから」
律儀にそう答える渉先輩だったが、今度は私が譲らなかった。
「大会で……入賞できなかったら返してください。前祝いです」
「ははは。そっか。じゃあ、ありがたく貰っとくよ」
にこにこと、とても嬉しそうに笑う渉先輩。その姿を見て私も少し嬉しくなった。
午後の授業が始まると、私はまた机の下に隠れて携帯をいじっていた。もちろんKAZUとメッセージでやり取りをするため。昼休み中に送っていたメッセージには、本当にテニスが好きなんだねとだけ返信があった。
『KAZUは今日の放課後、何か用事ある? 私はもちろん部活だけど。やっぱり直ぐに帰って小説書くのかな?』
とにかく最近の私はKAZUの小説を読むことが楽しみで仕方なかった。昨日、一昨日と二日連続で読むことができたので、次が待ち遠しくて仕方がない。毎日でも新しい作品が読めたらいいのに……なんて我儘さえ頭に浮かんでしまうほど。しかし午前中に聞いた話だと、流石に次回作は早くても今週末になるのだろう。
早く次の作品を書いて欲しい。新しい小説の内容いついて語り合いたい。
『まあ、そんな感じかな。今日は図書委員の当番があるから直ぐには帰れないけどね。でも、図書室でも携帯で書けるし家にいるのとそんなに変わらないかも』
KAZUは本当に小説のことばかり考えている。本当に楽しそうに書いている。好きなことを好きだと堂々としている。私と違って強いなあ。私だって本当は漫画も好きだし、朝に放送されてる少女向けアニメも好き。だけどそんなこと誰にも言えないし、知られたくもない。
もしかしたら、私と同じで本当は好きだけど言えないでいる人もいるかもしれない。でも、中学時代におばあちゃんが言っていた台詞が心に引っかかって私を縛る。
――いい歳して漫画とかアニメとか見てたら心配だわ。
――オタクってやつ? なんだか気持ち悪いわね。
直接私に投げかけられた言葉ではなかった。テレビに映る大学生や社会人達に向けて言われた言葉だった。しかし、好きなものを否定している様子は私の心を縛るに十分だった。いつも優しく、私のことを大切にしてくれているおばあちゃんが言っていたからこそなのかもしれない。好きなものを好きだと言うには勇気がいる。誰かに嫌われるかも知れない壁を超える勇気がいる。
だから、多分私は携帯小説を読んでいるということを誰にも言えないのだろうと思う。
『ねえ。KAZUが小説を書いてることを知ってる友達っているの?』
過去に書いていた小説のことをネット上とはいえ酷く言われたと言っていたし、もしかしたらKAZUが小説のことについて語っているのは私にだけなのかもしれない。ネット上で繋がっているからこそ素直になれているだけなのかもしれない。私のように――
『あれ? 言ってなかったっけ? 知ってるのはHARUだけだよ。親にも言ってないし、言えないだろうな』
私しか知らない。その言葉は純粋に嬉しい。だけど、やっぱり気になってしまう。
『やっぱり、昔色々あったから?』
今のKAZUは自慢しても良いくらい素敵な小説を書いている。恥ずかしがる必要なんてないと太鼓判を押せる。けど誰にも言ってないし言えないと――。授業中というのも加味してもKAZUからの返信には時間がかかった。突っ込んだことを聞き過ぎたかと不安になるには十分な時間だった。
『ううん。昔から誰にも言ってなかったよ。やっぱり……怖いしさ。自分が好きなものを否定されることって。小説書いてるなんて、普通の人からしたら根暗で馬鹿にする対象に思えるだろうし。それに内容だって俺の考えていることが書かれてるわけだから、そこまで否定されるかもしれないって思うとなかなか言えるもんじゃないよ』
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