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HARU:三日目①
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七時四十分。私は朝練が終わって部室で着替えながら携帯を開いていた。いつもの慣れた小説サイトでKAZUに宛ててメッセージを書く。学校までは歩きで通うほど近いと聞いていたので、多分今頃家を出る準備をしている頃だろう。
『おはよう! 寝坊せずに起きれたかな? 私は今朝練が終わったとこだよー。今日は暖かいね』
昨日から続くような他愛のない会話。ただそれだけで心地よく、いつものくだらない悩みなんて忘れていられる。その理由は分からないけど、KAZUと繋がっていることに夢中になっているのは間違いなかった。
すぐに返信が来なくても、私のメッセージを読んでKAZUが私のことを知ってくれると思うだけで不思議と楽しかった。何度か一方的にメッセージを送ってしまったりしてしまうくらい。だからまたホームルームの合間にでもメッセージを送ってしまうかもしれない。
「山内さん。ちょっと良いかな?」
部室を出たところで渉先輩が手招きで私を呼ぶ。渉先輩から話し掛けられると、安心感のようなものもあるけど、いつも少し緊張してしまうような何かがあった。でも、この時は少しだけ普段と違うような気がした。
「何ですか?」
渉先輩に近寄ると、いつもの嗅ぎ慣れた制汗剤の匂い。男物の香りがきついものではなく、爽やかな石鹸のような香り。しかし、渉先輩の様子はいつもと少し違っていた。
「今日……ちょっと話したいことがあるんだけど。放課後の部活が終わった後、少し待っててくれないかな?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
「それじゃ、また後で」
渉先輩はそれだけ告げると足早に校舎へと向かって行った。話ってなんだろう? そう考え始めたところで携帯に着信があった。小説サイトにメッセージが届いた通知だ。もちろん送り主はKAZU。
『すみません。今まで人違いで馴れ馴れしくしてしまってました』
昨日までとは違う言葉遣いに私は戸惑いを覚えた。戸惑いというよりも混乱や焦りと言った方が良いかもしれない。KAZUがこの二日間親しくしてくれたのは、仲の良かった誰かと勘違いしてしまっていたから? 人違いと分かってしまったから、これからは昨日までとは違った他人行儀な関係になってしまうのか? そう考えたところで私は急いでメッセージを返した。
『人違いでも良いから今までと同じように接してください! 敬語とかもやめてください! これからも仲良くしてほしいです!』
今までの関係が終わってしまうのかと思うと、私は必死になっていた。初めて祈るような気持で返信を待つ。そろそろ教室に向かわないといけないというのに部室の前で携帯を握りしめて立ったままだった。
「ハルー先行くぞー」
遠くからかけられた佐藤の言葉に返事もせず、私は校舎に背を向けて携帯を見つめていた。教室に入らなければいけない時間まであと五分というところでメッセージが届く。
『そう言ってくれて嬉しい。これからもよろしく。あと、HARUも敬語とかいらないからね』
KAZUからの返信を読んで、私は長い長い息を吐いた。良かった……。ただそれだけの感想が頭の中を埋め尽くす。
『ありがとう。これからもよろしく。また後でメッセージするね』
安堵に緩んだ頬を揉みほぐしてメッセージを送ると、私はようやく教室へと向かった。おかげでホームルームに少し遅刻したのはここだけの話。
『おはよう! 寝坊せずに起きれたかな? 私は今朝練が終わったとこだよー。今日は暖かいね』
昨日から続くような他愛のない会話。ただそれだけで心地よく、いつものくだらない悩みなんて忘れていられる。その理由は分からないけど、KAZUと繋がっていることに夢中になっているのは間違いなかった。
すぐに返信が来なくても、私のメッセージを読んでKAZUが私のことを知ってくれると思うだけで不思議と楽しかった。何度か一方的にメッセージを送ってしまったりしてしまうくらい。だからまたホームルームの合間にでもメッセージを送ってしまうかもしれない。
「山内さん。ちょっと良いかな?」
部室を出たところで渉先輩が手招きで私を呼ぶ。渉先輩から話し掛けられると、安心感のようなものもあるけど、いつも少し緊張してしまうような何かがあった。でも、この時は少しだけ普段と違うような気がした。
「何ですか?」
渉先輩に近寄ると、いつもの嗅ぎ慣れた制汗剤の匂い。男物の香りがきついものではなく、爽やかな石鹸のような香り。しかし、渉先輩の様子はいつもと少し違っていた。
「今日……ちょっと話したいことがあるんだけど。放課後の部活が終わった後、少し待っててくれないかな?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
「それじゃ、また後で」
渉先輩はそれだけ告げると足早に校舎へと向かって行った。話ってなんだろう? そう考え始めたところで携帯に着信があった。小説サイトにメッセージが届いた通知だ。もちろん送り主はKAZU。
『すみません。今まで人違いで馴れ馴れしくしてしまってました』
昨日までとは違う言葉遣いに私は戸惑いを覚えた。戸惑いというよりも混乱や焦りと言った方が良いかもしれない。KAZUがこの二日間親しくしてくれたのは、仲の良かった誰かと勘違いしてしまっていたから? 人違いと分かってしまったから、これからは昨日までとは違った他人行儀な関係になってしまうのか? そう考えたところで私は急いでメッセージを返した。
『人違いでも良いから今までと同じように接してください! 敬語とかもやめてください! これからも仲良くしてほしいです!』
今までの関係が終わってしまうのかと思うと、私は必死になっていた。初めて祈るような気持で返信を待つ。そろそろ教室に向かわないといけないというのに部室の前で携帯を握りしめて立ったままだった。
「ハルー先行くぞー」
遠くからかけられた佐藤の言葉に返事もせず、私は校舎に背を向けて携帯を見つめていた。教室に入らなければいけない時間まであと五分というところでメッセージが届く。
『そう言ってくれて嬉しい。これからもよろしく。あと、HARUも敬語とかいらないからね』
KAZUからの返信を読んで、私は長い長い息を吐いた。良かった……。ただそれだけの感想が頭の中を埋め尽くす。
『ありがとう。これからもよろしく。また後でメッセージするね』
安堵に緩んだ頬を揉みほぐしてメッセージを送ると、私はようやく教室へと向かった。おかげでホームルームに少し遅刻したのはここだけの話。
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