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32・絶対に許さない(アイリス視点)
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「おおっ、アイリス! 帰ってきたか!」
フーロラ国。
アイリスが王城のレナルドに部屋に入ると、彼女を見るなりレナルドが駆け寄ってきた。
「レナルド殿下、すみません。ご迷惑をおかけして……」
「君が無事なら、それでいいんだ。よく帰ってきてくれた」
そう言って、レナルドはアイリスを抱きしめる。
彼の温かみを感じながら、アイリスは帝国で起こった出来事について思い出していた。
(わたしの計画は完璧だった……)
レナルドと結婚するため、箔をつける。
そのためにアイリスは、帝国で行われる聖女の神託を利用することにした。
聖女に選ばれれば、レナルドとの結婚の障害はなくなる。
ゆえに神託が成功したかのように、魔法で見せかけるつもりであったが……。
(なのにあの女のせいで、全部台無し! なんで気付いたのよ!)
前もって大司祭と接触し、古代遺物に保護魔法をかけてもらうことによって、油断を誘った。
あとは古代遺物に触れると同時、魔法を発動するだけのはずだった。
しかし、あと一歩のところでエルナが割り込み、アイリスの企みを阻止したのだ。
(しかも、エルナが古代遺物に触れると、変な反応が出るし……あいつが聖女ですって? レナルドに捨てられた女のくせに生意気な!)
──実際、エルナは捨てられたのではなく、自分の意思で帝国に向かったわけだが……アイリスは自分の都合のいいように記憶を改竄し、心の安定を保っていた。
「ですが、聖女に選ばれませんでした……その上、今回のことで陛下もお怒りでしょう……」
「ああ。帝国に抗議して無理やり君を帰国させることは出来たが、陛下はそれも気に入っていないらしい」
分かっていたことだが、レナルドの口から聞かされると、心にくるものがある。アイリスは俯いた。
「あっ……こんなこと、君に聞かせる内容じゃなかったね! 君は悪くないんだ。全て、エルナが悪い」
「そうです。さっさとエルナさんが帰ってくれば、陛下もお怒りじゃないでしょうに……」
帝国のヴィーラントといえば冷酷無比、悪逆非道として名高い王子だ。
さぞ、エルナがどんな酷い目に遭わされているかと内心期待していたが……違った。
特等席で、神託の挑戦者を見守るエルナはとても幸せそうだった。
とてもじゃないが、ヴィーラントと嫌々婚約した人間とは思えない。
(ヴィーラント殿下も、エルナさんのどこが気に入ったんだろう? あんな、貴族であることしか取り柄がない女なのに!)
憤慨するアイリス。
もっとも、そのような姿はレナルドに見せられない。
彼はお淑やかな女性が好きだから。
「でも、困ったね……今回のことで、エルナに関する抗議文を帝国に送ることも出来なくなるだろう」
「下手に動けば、ますます陛下の怒りを買うでしょうからね」
「そうなんだ。動くとしても、必ずエルナを取り戻せると確信してから。でも、帝国の領地に入ることすら困難になったし……」
レナルドが頭を悩ませる。
「──お困りのようですね」
その時。
部屋の中に、一人の男らしき存在が現れた。
「だ、誰だ!? どうやって入ってきた?」
レナルドがアイリスを庇うように、前に出る。
窓際に突如、現れたように見える男は、全身黒づくめの怪しい容貌をしていた。
顔を拝みたいが、フードを頭から深く被っており、今どんな表情をしているのかすら分からない。
「護衛の騎士はなにをしている! おい! さっさとこいつを摘み出──」
「無駄ですよ。結界を張らせてもらいました。いくら叫んでも、部屋の外から中の状況は窺い知れないでしょう」
部屋の扉に向かって声を張り上げるレナルドに対して、怪しい男は冷静にそう言った。
「安心してください。なにも、あなたたちに危害を加えるつもりはありません。私はあなたたちを助けにきたのですから」
「なんだと?」
男の言葉に、レナルドが眉をひそめる。
「あなたは今、かつての婚約者を取り戻そうとしている。そうですよね?」
「どうして、貴様がそんな事情を……と言いたいところだが、その前にまずかつてのじゃない。事情がなかったらあんなヤツどうでもいいが、今も婚約者だ」
「失敬」
くすくすと笑う男。
「とはいえ、あなたの婚約者は他国にいて、簡単に近寄ることすら出来ない。ですが……私なら、あなたたちの手助けをすることが出来る」
「なんだと!? それは本当か?」
レナルドが前のめりになって、男の話に興味を示す。
こんな怪しげな男の言うこと、信頼出来るはずがない。
だが、不思議なことに彼の言葉には聞かずにはおられない魅力があった。
毒林檎だと分かっていても、口にせざるを得ないような甘美な響き──。
「大丈夫、私にお任せください。全て上手くいく」
そう言った際、男の口元が邪悪に歪んだのを、アイリスとレナルドも見逃してしまった。
フーロラ国。
アイリスが王城のレナルドに部屋に入ると、彼女を見るなりレナルドが駆け寄ってきた。
「レナルド殿下、すみません。ご迷惑をおかけして……」
「君が無事なら、それでいいんだ。よく帰ってきてくれた」
そう言って、レナルドはアイリスを抱きしめる。
彼の温かみを感じながら、アイリスは帝国で起こった出来事について思い出していた。
(わたしの計画は完璧だった……)
レナルドと結婚するため、箔をつける。
そのためにアイリスは、帝国で行われる聖女の神託を利用することにした。
聖女に選ばれれば、レナルドとの結婚の障害はなくなる。
ゆえに神託が成功したかのように、魔法で見せかけるつもりであったが……。
(なのにあの女のせいで、全部台無し! なんで気付いたのよ!)
前もって大司祭と接触し、古代遺物に保護魔法をかけてもらうことによって、油断を誘った。
あとは古代遺物に触れると同時、魔法を発動するだけのはずだった。
しかし、あと一歩のところでエルナが割り込み、アイリスの企みを阻止したのだ。
(しかも、エルナが古代遺物に触れると、変な反応が出るし……あいつが聖女ですって? レナルドに捨てられた女のくせに生意気な!)
──実際、エルナは捨てられたのではなく、自分の意思で帝国に向かったわけだが……アイリスは自分の都合のいいように記憶を改竄し、心の安定を保っていた。
「ですが、聖女に選ばれませんでした……その上、今回のことで陛下もお怒りでしょう……」
「ああ。帝国に抗議して無理やり君を帰国させることは出来たが、陛下はそれも気に入っていないらしい」
分かっていたことだが、レナルドの口から聞かされると、心にくるものがある。アイリスは俯いた。
「あっ……こんなこと、君に聞かせる内容じゃなかったね! 君は悪くないんだ。全て、エルナが悪い」
「そうです。さっさとエルナさんが帰ってくれば、陛下もお怒りじゃないでしょうに……」
帝国のヴィーラントといえば冷酷無比、悪逆非道として名高い王子だ。
さぞ、エルナがどんな酷い目に遭わされているかと内心期待していたが……違った。
特等席で、神託の挑戦者を見守るエルナはとても幸せそうだった。
とてもじゃないが、ヴィーラントと嫌々婚約した人間とは思えない。
(ヴィーラント殿下も、エルナさんのどこが気に入ったんだろう? あんな、貴族であることしか取り柄がない女なのに!)
憤慨するアイリス。
もっとも、そのような姿はレナルドに見せられない。
彼はお淑やかな女性が好きだから。
「でも、困ったね……今回のことで、エルナに関する抗議文を帝国に送ることも出来なくなるだろう」
「下手に動けば、ますます陛下の怒りを買うでしょうからね」
「そうなんだ。動くとしても、必ずエルナを取り戻せると確信してから。でも、帝国の領地に入ることすら困難になったし……」
レナルドが頭を悩ませる。
「──お困りのようですね」
その時。
部屋の中に、一人の男らしき存在が現れた。
「だ、誰だ!? どうやって入ってきた?」
レナルドがアイリスを庇うように、前に出る。
窓際に突如、現れたように見える男は、全身黒づくめの怪しい容貌をしていた。
顔を拝みたいが、フードを頭から深く被っており、今どんな表情をしているのかすら分からない。
「護衛の騎士はなにをしている! おい! さっさとこいつを摘み出──」
「無駄ですよ。結界を張らせてもらいました。いくら叫んでも、部屋の外から中の状況は窺い知れないでしょう」
部屋の扉に向かって声を張り上げるレナルドに対して、怪しい男は冷静にそう言った。
「安心してください。なにも、あなたたちに危害を加えるつもりはありません。私はあなたたちを助けにきたのですから」
「なんだと?」
男の言葉に、レナルドが眉をひそめる。
「あなたは今、かつての婚約者を取り戻そうとしている。そうですよね?」
「どうして、貴様がそんな事情を……と言いたいところだが、その前にまずかつてのじゃない。事情がなかったらあんなヤツどうでもいいが、今も婚約者だ」
「失敬」
くすくすと笑う男。
「とはいえ、あなたの婚約者は他国にいて、簡単に近寄ることすら出来ない。ですが……私なら、あなたたちの手助けをすることが出来る」
「なんだと!? それは本当か?」
レナルドが前のめりになって、男の話に興味を示す。
こんな怪しげな男の言うこと、信頼出来るはずがない。
だが、不思議なことに彼の言葉には聞かずにはおられない魅力があった。
毒林檎だと分かっていても、口にせざるを得ないような甘美な響き──。
「大丈夫、私にお任せください。全て上手くいく」
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