最凶の悪役令嬢になりますわ 〜処刑される未来を回避するために、敵国に逃げました〜

鬱沢色素

文字の大きさ
32 / 44

32・絶対に許さない(アイリス視点)

しおりを挟む
「おおっ、アイリス! 帰ってきたか!」

 フーロラ国。
 アイリスが王城のレナルドに部屋に入ると、彼女を見るなりレナルドが駆け寄ってきた。

「レナルド殿下、すみません。ご迷惑をおかけして……」
「君が無事なら、それでいいんだ。よく帰ってきてくれた」

 そう言って、レナルドはアイリスを抱きしめる。
 彼の温かみを感じながら、アイリスは帝国で起こった出来事について思い出していた。

(わたしの計画は完璧だった……)

 レナルドと結婚するため、箔をつける。
 そのためにアイリスは、帝国で行われる聖女の神託を利用することにした。
 聖女に選ばれれば、レナルドとの結婚の障害はなくなる。
 ゆえに神託が成功したかのように、魔法で見せかけるつもりであったが……。

(なのにあの女のせいで、全部台無し! なんで気付いたのよ!)

 前もって大司祭と接触し、古代遺物アーティファクトに保護魔法をかけてもらうことによって、油断を誘った。
 あとは古代遺物アーティファクトに触れると同時、魔法を発動するだけのはずだった。

 しかし、あと一歩のところでエルナが割り込み、アイリスの企みを阻止したのだ。

(しかも、エルナが古代遺物アーティファクトに触れると、変な反応が出るし……が聖女ですって? レナルドに捨てられた女のくせに生意気な!)

 ──実際、エルナは捨てられたのではなく、自分の意思で帝国に向かったわけだが……アイリスは自分の都合のいいように記憶を改竄し、心の安定を保っていた。

「ですが、聖女に選ばれませんでした……その上、今回のことで陛下もお怒りでしょう……」
「ああ。帝国に抗議して無理やり君を帰国させることは出来たが、陛下はそれも気に入っていないらしい」

 分かっていたことだが、レナルドの口から聞かされると、心にくるものがある。アイリスは俯いた。

「あっ……こんなこと、君に聞かせる内容じゃなかったね! 君は悪くないんだ。全て、エルナが悪い」
「そうです。さっさとエルナさんが帰ってくれば、陛下もお怒りじゃないでしょうに……」

 帝国のヴィーラントといえば冷酷無比、悪逆非道として名高い王子だ。
 さぞ、エルナがどんな酷い目に遭わされているかと内心期待していたが……違った。

 特等席で、神託の挑戦者を見守るエルナはとても幸せそうだった。
 とてもじゃないが、ヴィーラントと嫌々婚約した人間とは思えない。

(ヴィーラント殿下も、エルナさんのどこが気に入ったんだろう? あんな、貴族であることしか取り柄がない女なのに!)

 憤慨するアイリス。

 もっとも、そのような姿はレナルドに見せられない。
 彼はお淑やかな女性が好きだから。

「でも、困ったね……今回のことで、エルナに関する抗議文を帝国に送ることも出来なくなるだろう」
「下手に動けば、ますます陛下の怒りを買うでしょうからね」
「そうなんだ。動くとしても、必ずエルナを取り戻せると確信してから。でも、帝国の領地に入ることすら困難になったし……」

 レナルドが頭を悩ませる。



「──お困りのようですね」



 その時。
 部屋の中に、一人の男らしき存在が現れた。

「だ、誰だ!? どうやって入ってきた?」

 レナルドがアイリスを庇うように、前に出る。

 窓際に突如、現れたように見える男は、全身黒づくめの怪しい容貌をしていた。
 顔を拝みたいが、フードを頭から深く被っており、今どんな表情をしているのかすら分からない。

「護衛の騎士はなにをしている! おい! さっさとこいつを摘み出──」
「無駄ですよ。結界を張らせてもらいました。いくら叫んでも、部屋の外から中の状況は窺い知れないでしょう」

 部屋の扉に向かって声を張り上げるレナルドに対して、怪しい男は冷静にそう言った。

「安心してください。なにも、あなたたちに危害を加えるつもりはありません。私はあなたたちを助けにきたのですから」
「なんだと?」

 男の言葉に、レナルドが眉をひそめる。

「あなたは今、かつての婚約者を取り戻そうとしている。そうですよね?」
「どうして、貴様がそんな事情を……と言いたいところだが、その前にまずのじゃない。事情がなかったらあんなヤツどうでもいいが、今も婚約者だ」
「失敬」

 くすくすと笑う男。

「とはいえ、あなたの婚約者は他国にいて、簡単に近寄ることすら出来ない。ですが……私なら、あなたたちの手助けをすることが出来る」
「なんだと!? それは本当か?」

 レナルドが前のめりになって、男の話に興味を示す。

 こんな怪しげな男の言うこと、信頼出来るはずがない。
 だが、不思議なことに彼の言葉には聞かずにはおられない魅力があった。
 毒林檎だと分かっていても、口にせざるを得ないような甘美な響き──。

「大丈夫、私にお任せください。全て上手くいく」

 そう言った際、男の口元が邪悪に歪んだのを、アイリスとレナルドも見逃してしまった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

処理中です...