生まれ変わったらしんでました

かんた

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1章 ゾンビになった日

息子

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 日も暮れて、ルシルが自宅に帰っていったその夜。

 ケロックは早めに入ったお布団の中でようやく泣き止んだ。


(あーよく泣いた)
『お疲れ様です』

(あれ、今まで全然話しかけてこなかったじゃない)
『話しかけるタイミングを逃してました。あなたの頭の中、すごいことになってましたよ?』
(え、きみって僕の頭の中の住人なの?)
『どうなんでしょうね、あなたのスキルであることは間違い無いのですが』

【天の声】さんの謎は深まるばかりである。

『あ、そうそう、先ほど女神様から通信が入りまして』
(なにそっち繋がってんの? 僕も話したいことがあるから繋いでくんない?)
『残念ながら一方通行です』
(悪魔の手先め)
『女神の手先です、まあ神託だと思って諦めて聞いてください。お客様がいらっしゃいました』
(お客様?)

















「眠れないのか?」


 同じ頃、ケロックの両親もまた、早めにベッドに入っていた。

 半刻は経っているだろうか、ルナリアは窓の外をじっと見つめていて、ファランもそれに気づいて声をかけた。明るいうちは恥ずかしさのあまり兜をつけっぱなしにしているファランだが、寝るときはきちんと外し、ボサボサながらも紺に近い黒髪が闇の中でも不思議と目立っていた。

「・・・・・ファラン、私、母親失格かな」

 ルナリアはファランに目を向けず、感情を押し殺すような声で聞き返した。いつもの女性らしい話し方がなくなり、子供のように素直に問いかける。

 半ば自問自答に近かったのかもしれない。
 ファランは答えない。

「顔色は悪いけど、あまり感情を出さないところは変わってない。肌は少し冷たいけど柔らかいまま。無口なのも前と一緒。本もよく読むし、相変わらず少食だし。ゾンビになって、生前の魂がもう無いだとか、嘘みたいだな、って」

 内容に反して、ルナリアの声は途中から震えだしている。
 この時点で、ファランはルナリアが言いたいことが何となくわかっていた。それは、ファラン自身も故意に考えないようにしていたことだったから。
 それでもファランは答えない。

「・・・・・そう、。ケロちゃんの顔で、ケロちゃんの目で、ケロちゃんの泣き声で、私の前にいるのは、『ケロちゃんじゃないんだ』。そう思うと、ふとした時に、『』って」
「ルナリア」

 ルナリアの話を遮るように、初めて声を上げるファランだが、名を呼ぶ以上のことはしない。
 ルナリアは止まらない。

「前のケロちゃんが死んじゃったのは、今のケロちゃんのせいじゃないのにね。どうしてかな、私の中に、悔しいような、憎いような、寂しいような、真っ黒なものが湧き上がってきて。目の前の我が子を、わたし、愛せない、のかな・・・・・」
「ルナリア!」

 いつの間にか俯いて言葉を紡ぐルナリアの眼に黒い影がさすのを見て、今度は語気を強めて呼びかけるファラン。
「ダメだ、ルナリア。それは現実逃避でしかなく、俺たちは受け入れなきゃいけない。いなくなった家族と、新しい家族を」
「いなくなったとか簡単に言わないで!」
「そんなこと言ったら、あいつだって浮かばれないよ」
「勝手に決めないでくれない!? あの子だってもしかしたら帰って来たいのかもしれない! ただ、・・・・・・」





「おとうさん? おかあさん?」

 気づけば、目の前にはケロックがいた。



 






「・・・・・ケロちゃん」


 一度死んでから、初めて自分のことを「お母さん」と呼ぶ我が子に、ルナリアは少し落ち着いたようであった。



 そんな彼女とは裏腹に、ファランは目の前の息子を少し(いやかなり)不気味だと思ってしまった。

 冒険者生活が長かった上に、仮にも王国の騎士団に所属するファランは、過信はせずとも他とは一線を画す実力であると自負している。油断したとはいえ、そんな彼が何の気配も感じずに接近を許してしまったこともある。
 だがそれ以前に、ときは、背筋が凍るような悪寒が走ったのだ。



 ケロックが優しく微笑む。
 これも『あの時』から初めてのことで、ルナリアはさらに感激し涙するが、ファランの中の警鐘は比例するようにけたたましく鳴り響く。

 息子は生前ですら滅多に笑わない。タイミングを考えると、彼の目からは我が子の顔が酷く恐ろしいものに見え、戦慄した。


 この異常に気づけない妻は、既に精神の均衡を崩しているのかもしれない。そう思ったファランは、妻をその背にかばうようにして身を乗り出した。

「ファラン?」

 そんな夫の意図を読めないルナリアは、怪訝そうな顔をして様子を伺う。















 父親の口から一瞬、しかし力強く浴びせられた言葉に、ケロックは軽く目を見張った後、少し寂しそうな顔をしてまた微笑む。


「手紙」
「「・・・・・は?」」
「手紙、書いといたから。おとうさんから借りてた本の真ん中」


 ケロックはそれだけ言い残し、ペタペタと廊下に歩いていく。
 少し振り返り、あっけにとられた顔をする二人を見て、また笑った。


 息子が闇に溶ける瞬間。
 それまでの一瞬は、間違いなくかつての息子だった。

 そう思っても、二人して一歩も動けなかったのである。








『あなたが転生した時、入れ違うようにして一人の少年の魂が女神様の元を訪れたそうです』
『女神様はもののついでだと、その少年の願いを叶えてやることにしました』

『女神様も半ば予想してたことだそうですが、少年は最後に家族と話がしたいとお願いしました。女神様は願いを叶えるために色々と手続き裏工作を行い、一週間かけてようやく必要な条件を揃えました』

『その少年の魂ですが、一晩だけあなたの体に降ろそうと思います』
『あなたが覚えた音魔法により、事実上の会話は可能になりました。もちろんあなたには断る権利もありますが』

『私はスキルですが、たった一週間の付き合いで、あなたがどういった選択をするのか、大体わかりますよ』








その日『ケロック・クロムハーツ』は、夜明けまで妹との会話を楽しんだという。








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