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secretcase:善哉の告解
Ecce Fidelis servus(見よ、忠実なしもべ)
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「どぉも~、師匠の弟子、オスカー・ラング言います。よろしゅう願います」
金髪蒼瞳の美青年の顔で、わざとらしいほどの、ベタベタな関西弁。
荷物を抱え、弟子が来日してきた。
翼様は、言葉もなく。唖然としている。
予想外の人物像だった様子だ。
驚かせたくて、あえて事前に言わなかったのだが。
‡*‡*‡
「翼様、これが先日お話ししたわたしの弟子です。オスカー、翼様はわたしの師匠だ。所長と呼び、敬うように」
翼様を紹介する。
「ほんなら師匠の師匠でええですやん」
「わたしの師匠はわたしの師匠であって、お前の師匠ではない」
亜門が失踪した今。翼様を師匠と呼んでいいのは唯一わたしだけである。
そこは譲らない。
「ややこしい!」
もういいからそこに座れ、と。翼様はオスカーに命じた。
「うーん、二人分の魂が見える……守護かな? まあいいか」
翼様は、オスカーのレベルを視て測っている。
特別な、”見鬼”の目を持っている。
その目はこの世ならぬものを映し、映したものの真の姿を看破するのだが。
その目をもってしても、わたしの中の悪魔は見えないのだろうか。
それとも、あえて見ないようにしているのか。
わたしの罪から、目を逸らしているのだろうか。
「神学校育ちで、一応、エクソシストとして悪魔祓いの経験はある。神槍召喚も使えるんだな?」
「はい~」
オスカーはにこにこしている。
「じゃ、これ祓ってみて。お手並み拝見」
翼様は、懐から妖魔を封じてある札を取り出し、破った。
「へ、」
‡*‡*‡
札に封じてあるのは、下級妖魔である。
この程度なら、2分以内に祓わないと未熟者、と怒られたものだ。懐かしい。
「ちょ、ちょちょちょ、アカン、アカンていきなりは! 心の準備っちゅーモンが、」
オスカーは襲い掛かる妖魔から逃げ回りながら、懐から聖水を出している。
わたしと翼様は護身結界を張っているので、妖魔の視界に入っていない。
「Fiat lux!」
ばしゃあ、と聖水をかけ、妖魔は崩れて消えた。
「はぁ、はぁ、……アカンてもう、はぁ、びびったぁ、」
ぜえぜえと息を荒げている。未熟者め。
「5分以内か。……まあまあ、合格ラインかな? でも、聖水無駄にかけすぎ。最小限でいい」
「オスカーは合格ですか。安心しました」
不合格なら、荷物持ちにするくらいしかない。
日本で運転免許を取らせなければ。
「厳しい!」
甘いほうである。
わたしたちの頃に比べれば。
厳しい親が、孫には甘くなるようなものだろうか。実際、孫のような年齢ではある。
中身はともかく。
‡*‡*‡
オスカーはマニュアルを渡された。
翼様が、新しい所員用にとわざわざ作ってくださったものだ。ありがたく読むがいい。
「一日の基本料金3万て、ドル?」
こそこそと耳打ちしてきた。
日本なのにドルなわけがないが。信じられないのだろう。
「いや、円だ」
「やっす! そないな良心的価格でやってけるん?」
本物の依頼が毎日来るものでもないし、有能すぎるため、一日以上掛かることなど滅多にない。
当然、依頼料だけでは食べていけないが。
「不動産を多数所有しているので問題ない」
「道楽稼業かいな!」
「それと、相手によって値段設定を変えている」
翼様は子供と善人の依頼は基本料金のみか、タダでやってしまうのだ。
浮世離れしているのは呪術師の家系で育ったせいか、お坊ちゃまだからかはわからない。
だが、生活に困ることはない。彼の好きにさせたいと思う。
「ぼったくれる太い客来ーい」
「こら、品のないことを言うな」
などと言っていたら、依頼人が来たので。
翼様はオスカーに任せていた。日本での初仕事となる。
依頼人は、女から藁人形で呪われた男だった。
恋愛関係ではなく、嫉妬。羨望。逆恨み。醜い憎悪を感じた。
呪物を破壊すれば終了、という簡単な仕事であるが。
‡*‡*‡
「……ああ、槍が木っ端微塵だ。未熟者め」
式神を飛ばして、様子を見守っている。
危険があれば、いつでも助けに入れるように、だ。
翼様は厳しいが優しく、慈愛に溢れている。
「あれ、意外と制約が面倒ですよね」
その”地”に散っている、信仰心を集めた槍だ。それと、その地の言葉を使用しないといけない。
翼様は、わたしをちらりと見て。
「……天之瓊矛」
呟くと。
その手に、強い光を放つ槍が出現した。
オスカーが出したものとはレベルが違う。わたしが出していたのとも数段。
これが本来の、天之瓊矛の力か。
「”神槍召喚”の術は、未熟者でも使えるよう、色々な制約で縛って術式を組んだんだ。コントロールが難しいから」
そう言って。槍を消した。
やはり、とんでもない才能を持つ人だと思う。
神威を集め、神の姿を顕現させる術を構築したのも翼様だ。
このような稀有な才を持つ人の生を、たった百年程度で終わらせるにはもったいない。
だから。
良かったのだ。これで。
金髪蒼瞳の美青年の顔で、わざとらしいほどの、ベタベタな関西弁。
荷物を抱え、弟子が来日してきた。
翼様は、言葉もなく。唖然としている。
予想外の人物像だった様子だ。
驚かせたくて、あえて事前に言わなかったのだが。
‡*‡*‡
「翼様、これが先日お話ししたわたしの弟子です。オスカー、翼様はわたしの師匠だ。所長と呼び、敬うように」
翼様を紹介する。
「ほんなら師匠の師匠でええですやん」
「わたしの師匠はわたしの師匠であって、お前の師匠ではない」
亜門が失踪した今。翼様を師匠と呼んでいいのは唯一わたしだけである。
そこは譲らない。
「ややこしい!」
もういいからそこに座れ、と。翼様はオスカーに命じた。
「うーん、二人分の魂が見える……守護かな? まあいいか」
翼様は、オスカーのレベルを視て測っている。
特別な、”見鬼”の目を持っている。
その目はこの世ならぬものを映し、映したものの真の姿を看破するのだが。
その目をもってしても、わたしの中の悪魔は見えないのだろうか。
それとも、あえて見ないようにしているのか。
わたしの罪から、目を逸らしているのだろうか。
「神学校育ちで、一応、エクソシストとして悪魔祓いの経験はある。神槍召喚も使えるんだな?」
「はい~」
オスカーはにこにこしている。
「じゃ、これ祓ってみて。お手並み拝見」
翼様は、懐から妖魔を封じてある札を取り出し、破った。
「へ、」
‡*‡*‡
札に封じてあるのは、下級妖魔である。
この程度なら、2分以内に祓わないと未熟者、と怒られたものだ。懐かしい。
「ちょ、ちょちょちょ、アカン、アカンていきなりは! 心の準備っちゅーモンが、」
オスカーは襲い掛かる妖魔から逃げ回りながら、懐から聖水を出している。
わたしと翼様は護身結界を張っているので、妖魔の視界に入っていない。
「Fiat lux!」
ばしゃあ、と聖水をかけ、妖魔は崩れて消えた。
「はぁ、はぁ、……アカンてもう、はぁ、びびったぁ、」
ぜえぜえと息を荒げている。未熟者め。
「5分以内か。……まあまあ、合格ラインかな? でも、聖水無駄にかけすぎ。最小限でいい」
「オスカーは合格ですか。安心しました」
不合格なら、荷物持ちにするくらいしかない。
日本で運転免許を取らせなければ。
「厳しい!」
甘いほうである。
わたしたちの頃に比べれば。
厳しい親が、孫には甘くなるようなものだろうか。実際、孫のような年齢ではある。
中身はともかく。
‡*‡*‡
オスカーはマニュアルを渡された。
翼様が、新しい所員用にとわざわざ作ってくださったものだ。ありがたく読むがいい。
「一日の基本料金3万て、ドル?」
こそこそと耳打ちしてきた。
日本なのにドルなわけがないが。信じられないのだろう。
「いや、円だ」
「やっす! そないな良心的価格でやってけるん?」
本物の依頼が毎日来るものでもないし、有能すぎるため、一日以上掛かることなど滅多にない。
当然、依頼料だけでは食べていけないが。
「不動産を多数所有しているので問題ない」
「道楽稼業かいな!」
「それと、相手によって値段設定を変えている」
翼様は子供と善人の依頼は基本料金のみか、タダでやってしまうのだ。
浮世離れしているのは呪術師の家系で育ったせいか、お坊ちゃまだからかはわからない。
だが、生活に困ることはない。彼の好きにさせたいと思う。
「ぼったくれる太い客来ーい」
「こら、品のないことを言うな」
などと言っていたら、依頼人が来たので。
翼様はオスカーに任せていた。日本での初仕事となる。
依頼人は、女から藁人形で呪われた男だった。
恋愛関係ではなく、嫉妬。羨望。逆恨み。醜い憎悪を感じた。
呪物を破壊すれば終了、という簡単な仕事であるが。
‡*‡*‡
「……ああ、槍が木っ端微塵だ。未熟者め」
式神を飛ばして、様子を見守っている。
危険があれば、いつでも助けに入れるように、だ。
翼様は厳しいが優しく、慈愛に溢れている。
「あれ、意外と制約が面倒ですよね」
その”地”に散っている、信仰心を集めた槍だ。それと、その地の言葉を使用しないといけない。
翼様は、わたしをちらりと見て。
「……天之瓊矛」
呟くと。
その手に、強い光を放つ槍が出現した。
オスカーが出したものとはレベルが違う。わたしが出していたのとも数段。
これが本来の、天之瓊矛の力か。
「”神槍召喚”の術は、未熟者でも使えるよう、色々な制約で縛って術式を組んだんだ。コントロールが難しいから」
そう言って。槍を消した。
やはり、とんでもない才能を持つ人だと思う。
神威を集め、神の姿を顕現させる術を構築したのも翼様だ。
このような稀有な才を持つ人の生を、たった百年程度で終わらせるにはもったいない。
だから。
良かったのだ。これで。
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