禍祓師・天羽翼の事件簿 ~半妖のヤンデレ弟子は夜毎師匠に精を注ぐ~

篠崎笙

文字の大きさ
60 / 61
case0:終章

失われた記憶:前編

しおりを挟む
「ちょっと目を離すと、ご飯食べ忘れてるんだから!」


ミズキちゃんが差し入れに来てくれて。
プンスカ怒りながら、スープを温めている。

ミズキちゃんの家がやっているお祓い屋……という名の人生相談所で、手に負えない本物の霊障や呪いにかかった人を、僕のところに持って来るのだ。

いわば共生関係なので。
こうして気に掛け、一週間に二回ほど、倒れてないか確認に来てくれる。


義哉が居た頃は、善哉に毎朝決まった時間に起こされて、義哉の作ってくれたご飯を食べていた。
その癖が抜けなくて、つい、食事を作るのを忘れてしまう。

我ながら、だめな大人だ。


‡*‡*‡


「ただでさえ貧相な身体なんですから。今に風に飛ばされちゃいますよ」
メリー・ポピンズのように?

そこまでかなあ、と触ってみれば。
あばらが浮いてしまっている。

もう少し肉がつけばいいんだけど。食べても肉にならない。

「ははは、そうなったら歩かなくて済むから楽かも」
「笑いごとじゃありませんよ全く! ああもう、早く善坊帰ってこないかしら!」

段階をいくつかスキップしたとはいえ、神父になるのは大変なのである。
エクソシストになるには更に狭き門を潜り抜けなければならない。

いくら義哉が天才でも、あと2、3年は覚悟しないと。


「僕よりも義哉のほうが心配だな。18になっても僕のベッドに潜り込んでたくらいの寂しがり屋なのに、誰も知り合いが居ないローマでちゃんとやっていけるかなあ」

「……まあ、寂しくて泣いてるのは間違いないでしょうね……」
ミズキちゃんは遠い目をしていた。

わりと口喧嘩をしていた二人だけど。懐かしがっているのかな。


僕も寂しい。
でも、義哉には、退魔の才能がある。エクソシストになれば、たくさんの人を救えるだろう。

亜門も頑張っているようだし。また、みんなで暮らせればいいな。


‡*‡*‡


「はい、雨月魔術及び呪術研究所……、はい、」

電話が鳴ったと思ったら。
ミズキちゃんが応対していた。早い。

そんな、マネージャーみたいなことはしなくてもいいのに。そこまで僕は頼りないかなあ。


「先生、依頼ですよ。女の方から」
80になる祖母が行方不明になり、代わりに小さな女の子がいた、という。

その子は祖母の名前を名乗っていて。
恐ろしい化け物を見たと言い、怯えて泣いているそうだ。


「あらやだ、もうこんな時間。先生、じゃああたしはこの辺で、」

ミズキちゃんは二人がいるという場所が書いたメモを置いて。
慌てて仕事に戻っていった。


「何だろう。幻術? ……呪いかな?」

なんてあるのかな。
とりあえず、行ってみよう。

……あ、また電話だ。


「もしもし?」

『先生。今、お時間大丈夫ですか?』
義哉だった。

噂をすれば影が差す、ってやつかな。

時差は8時間だから、今、あちらは真夜中だ。
寂しくなっちゃったのかな? 声はもう、すっかり大人なのに。


「ええと。今はちょっと。依頼があって出かけるところなんだ」

軽く内容を説明した。
国際電話だし。値段が大変なことになってしまう。


‡*‡*‡


「じゃあ、後で。ごめん」
電話を切って。

慌てて研究所を出た。
子供が怖がって泣いてるなら、早く何とかしてあげないと。


夜のとばりが降りるように、辺りが闇に包まれた。

子供の気配はない。女性の気配も。
……はかられたか。


いや、ミズキちゃんが受けた依頼自体が、架空のものだったのだ。

そういえば、依頼料などに関する受け答えもしていなかった。
電話を受けた時点で、操られていたのか。

しかし、気付かれず、僕を囲い込むとは。
相当の術者だ。

……いや、人間ではないな。これは。


『雨月……とは、お前のことか。榊義哉の、大事な先生とは』
闇の中から、声がした。

何故、義哉の名を?

『おそれるな。我はお前に危害を加える気は無い。まじないをかけにきただけだ』


はあ?
は、危害ではないのか?

というか。
何だ、これは。

馬の顔に人の上半身、馬の下半身を持つ、異形のアヤカシ。


日本の妖怪で該当するのはサガリくらいだが。あれは脚だけの存在だ。
中国の妖怪でもない。

悪魔か? 悪魔になら、いたような。……ええと、確か、レメゲトンの……。


『義哉はお前を手に入れたいと願っている。故に、我は来た』
「!?」

馬鹿な。
あの義哉が、悪魔などの誘惑になんて乗るわけがない。


しかし。
……この悪魔は、嘘を吐いていない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

処理中です...