神様の手違いで幸運値ゼロだったお詫びに異世界で救世主に転生するはずだった俺が砂漠の王様に攫われて寵妃にされてしまいました。

篠崎笙

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再び、ワーヒド国

猛スピードで帰還

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 猛毒のツチノコ相手に、大トカゲが意外な奮闘を見せ。怪獣大戦争は互角の争いのようだ。
 いい加減、喧嘩を止めないと。

 せっかく修復した周囲の建物まで破壊されそうだ。
 全くもう。


「すぐ喧嘩して、仲良くできない子は嫌い!」
 そう言って、二匹に背中を向けると。

『キュッ!?』
『なんと!?』


 二匹の戦いは、終わった。


 †††


 アーディルの大トカゲは、すごすごとアーディルの後ろに隠れた。
 大きすぎて全然隠れてないけど。精一杯自分を小さく見せようと頭を抱えてしゃがんでるのがちょっとかわいい。

 ツチノコは、砂の中に頭を突っ込んでいる。……ただ今反省中、というポーズだろうか?


 ……何だかいつの間にか、見物人ギャラリーがたくさん集まってきてるような気がしないでもない。
 そりゃ、大トカゲとツチノコの戦いなんて滅多に見られるもんじゃないからな!
 大迫力、一大スペクタクルだよ。

「はぁ……、」
 何だかやたら疲れた。

 アーディルが、慰めるように俺の肩をぽんぽんと叩いた。


「我らがハカムの一族に伝わる魔導でしか従わせることのかなわぬ、かのソーバン・カビラをも魅了し従えるとは。マラークではなく、魔の者イブリースだったか……!」
 憎々しげな声に。

 声のした方を見ると。
 ワーヒド国まで連行されるため、厳重に縛られた状態でここまで連れて来られたハカムが、怖い顔でこっちを睨んでいた。

 魔の者、か……。

 日本で厄病神扱いされていた時のことを思い出して。胸が痛くなった。
 ゼロだった幸運値は、少しだけしか修正されてなくて。トラブルメーカー体質なのは相変わらずな気がする。
 一か月も経たないうちに、二回も攫われるなんて。絶対、ついてないと思う。

 いつか、災いを呼ぶ存在だとか言われたらどうしよう……。


「ふん、悪に染まり、濁りきった貴様の眼には見えまい? どのような生物をも魅了する、ミズキのこの純粋な魂の輝きが」

「アーディル……」
 逞しい腕。広い胸に抱き寄せられて、ほっとする。

 なんか、すっかり甘やかされちゃってるなあ。
 さすがは王様。カリスマの塊だ。

「……好き……!」
 思わず、ぎゅっと抱き着いた。

「むう、まだ帰れぬというのに。このような状況で大胆にもねやに誘うとは。小悪魔 サギールイブリースめいたところはあるやもしれんな?」
 アーディルは子供みたいに口を尖らせた。

「誘ってないし。何となく、言いたかっただけだし」
「無自覚か、なんと罪作りな」
 ぎゅっと抱き締められる。

 一刻も早く、ワーヒド国に帰りたいところだけど。
 まだここでやるべきことがあるので帰れないのだった。


 †††


「スルタン、破壊された建物の修復、完了致しました!」
「指導のため、兵を数名残しましょうか?」

 ワーヒド国の兵たちが来て、アーディルに状況を報告した。

 もう全ての修復が終わったんだ。さすが、仕事が早い。
 上が優秀だと、全体的に効率も良くなるのかも。どっかの元国王も見習ってほしい。ハカムのことだけど。


 アーディルは臣下にてきぱきと指示を出して。
 皆に向けて、手を上げた。

「皆の者、我が妃の奪還だけでなく、予想以上の成果を手に入れた。作戦終了、これよりワーヒドへ帰還する!」
 そう言って。

 俺を抱えたまま、ひらりと大トカゲに飛び乗った。

 わあっ、とアーディルを讃える声が上がって。
 イスナーンの国民たちからも好意的に見送られて、イスナーン国を後にした。


 今度見に来る時は、国の人たちみんな、笑顔で迎えてくれるかな?
 幸せに暮らして欲しい。

 あ。
「ツチノコ、何してるんだ? 早くおいで。置いてっちゃうよー」

 砂に頭を埋めたままのツチノコに声を掛けると。
 ザっと鎌首をもたげて。

 嬉しそうに、いそいそと後を追ってきた。

 ……駄目だ。
 うっかり可愛いな、とか思ってしまった。

 人間の言葉を話す、猛毒の大蛇なのにな……。


 †††


 大トカゲは足が早いけど、ツチノコも移動速度がやたら早かった。

 巨体をくねらせ、滑るように砂の上を移動して。先頭を走っているアーディルの大トカゲの隣にぴったりついたと思ったら。

 ……あっ、鼻で笑った。蛇なのに!


「ん? ……おお?」
 大トカゲの手綱を持っているアーディルが、困惑したような声を上げた。

 大トカゲ、明らかにスピードアップしてる。
 ツチノコと張り合わないで欲しい。相手はUMAだぞ!


「ス、スルタン……! お待ちを……!」
「は、早すぎます!」

 兵たちが慌てて追いかけて来るけど。
 互いの勝負心に火が付き、ボルテージの高まった二匹にはかなわなかった。

 あっという間に引き離されて。
 他の大トカゲが豆粒みたいになって、見えなくなった。


 後続を大幅に引き離しちゃった。

 それほどの猛スピードで走ってるのに。背中は安定していて、あまり揺れてない。
 大トカゲ、凄いなあ。

 それに追いついてきてるツチノコも凄いけど。

「ふむ、早く帰れるのならばよいか……」
 アーディルは激走する大トカゲを制御するのを諦めて、遠い目をしていた。

 むしろ好都合だとか言ってるし。

 そうだね! 一刻も早くワーヒドに帰りたかったもんな!
 俺もだよ!


 ああ、早く帰って、お風呂に入りたい!


 †††


「おお、スルタン! マラーク様!」
「よくぞご無事で……! 他の兵は?」

 デッドヒートの末。
 国の門に到着するなり、ワーヒド国で俺たちの帰りを待っていた兵が、わらわらと出迎えに来た。

「そ、はいったい……!?」
 大トカゲと並走してきたツチノコを見て、仰天していた。

「ああ。イスナーンのソーバン・カビラだが。今やマラークのしもべとなった。害はない」
 な? と。
 アーディルが確かめるようにツチノコに視線を向けると。

 ツチノコは悠然と鎌首をもたげて、兵たちを睥睨へいげいした。
『応。我が名は”ツチノコ”。愛らしきマラークの第一のしもべなり。ゆえにマラークの愛する民には決して手を出さぬことを約束しよう。害をなそうとする外敵からも護ってやろうぞ』

 出す手はないけどな。蛇だから。
 足があったら蛇足だ。


「ひっ、しゃべった!?」
「イスナーンのソーバン・カビラ? あの、伝説の怪物ワハシュ……!?」

 言葉を話す蛇に、みんな驚いて震えあがった。
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