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ネイディーンへ

城へ

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ここはネイディーンという国で。水と緑が豊富な国ですよ。気候は年中温暖で、特産品はこんなもので、他の国との違いは云々、などと。
オーランドがまるで観光大使のように自国について朗々と説明している間に。


そのネイディーン国とやらの城の門まで到着していた。

そして、海瑠はどうやら自分が外国ではなく、異世界にやってきてしまったようだ、と。
ここに来て、初めて気がついた。


そういえば魔法だの、今まで女を見たことがないだの、自分の住んでる世界では考えられないようなことを言っていた。
まあ異世界ならしょうがないか、と海瑠は思った。

あまり深く考えると、頭が破裂してしまいそうである。


理由はわからないが。とにかく来てしまったものは仕方ない。
帰り方すらわからないのだ。
このまま彼らに着いて行くより他にない。

向こうから女王になって欲しい、とお願いしてきた訳だし。悪いようにはしないだろう、との打算もあった。
まずは衣食住の確保が大切である。生きるために。

何より王子たちに逆らうと、後ろの騎士たちがこわい。


◆◇◆


『娘を連れて戻るまでは門を開けてはならぬとのお達しですが……』
王子一行のあまりに早い帰還に、門番は困惑していたようだが。

『見つけてきた』
オーランドがクリシュナの腕の中に収まっていた海瑠を示した。

門番は、海瑠の姿を見るなりすぐに門を開けた。


何だか状況が良くわからないまま異世界に来てしまい、王子一行に城に連行され。
女王候補として国王に面会させられることになっている。

ここに来て、海瑠は倒れそうだった。

とにかくこの局面を乗り越えないと、国の重大な秘密を知ったとかで殺されてしまうかもしれない、と気付いたのだ。
とにかく女の振りをしよう。そう決めた。


幸い、自分は役者である。演技は得意だ。

女だ。女になるのだ。
どうせいつも、ほぼ女装の役ばかりなので、慣れている。


……ちょっとだけ、泣きたくなってきた海瑠だった。


◆◇◆


『おお。連れて来たか……!』

いかつい顔をした国王が喜色満面、物凄い勢いで近寄ってきたので、思わずクリシュナの後ろに隠れた。
オッサンには抱きつかれたくない、と思ったのだ。目に優しくない。

『父上、お顔が怖いのですから怯えさせないでください。下がって』
オーランドはハッキリ言う息子だった。


『私はカール。ネイディーン国王である』
国王は王座に戻って名乗った。

焦げ茶の髪、青い目、カカオ色の肌。
白地に青系の模様の付いた豪奢な服を着て、毛皮で縁取られた青いマントを羽織っている。


美しい息子二人とは全く似てない、いかつい顔だったので。
二人とも母親似で良かったな、と海瑠は思った。
辛うじて、肌はクリシュナ、瞳はオーランドと同じ色なことに気付いた。

しかし、男しかいないのにとは、どういうことなのだろうか。


『30になる”娘”には見えないが……?』

娘、というのは子供を産んでいない、男を知らない身体。
つまり、処女を指す言葉らしい。
”異世界から来た30歳の処女”を見つけて来い、という、たいへんな無茶振りだったことを知った。

どんな特殊性癖の王だ、と薄ら寒くなった海瑠だったが。


『花弁に包まれ、天空より舞い降りる姫をこの目でしかと見ました。神より遣わされた巫女に相違ないかと』
『父上、このカイル姫は間違いなく30歳です。本人がそう申しておりました』
二人は平然と海瑠の性別を偽った。

『おお、カイル姫というのか。美しいのう、……この美貌で30……ええ……妖怪か何かかね?』
魔物の次は妖怪呼ばわりされた。


国王が信仰する海神の神殿で、神官がこの国の未来を占った結果。
暗黒の時代に生まれし穢れなき巫女を見つけ出し、王の座を明け渡し女王とせよ、と神より告げられたのだという。

迷惑な話である。
無茶振りにもほどがある、と海瑠は思った。


王子たち、探すのが面倒だったから、偶然見つけた自分をこれ幸いと連れて来たのではないだろうな、と。
疑いの目で王子たちを見やった。

探しに出たのが今日であるということもあり、その疑いは濃厚である。


◆◇◆


『おまえたちが旅に出ている間、新たな託宣が下ったのだ』

曰く。
王子のどちらかを、女王のつがいにせよ。生まれた子供が、この国の未来を導くであろう、と。

ツガイ……? 子供……?
女じゃないから子供は産めないぞ、と海瑠は思ったが。


『神官殿が参られました!』

腰まである水色の長い髪、サファイアのような瞳。
淡いブルーの、裾の長い神官服を着た美貌の男が王の間に入ってきた。

神官は跪かず、立ったまま軽く礼をしたくらいなので、神官の立場は王に等しいのかと感じた。


しかし、この国、王様以外はイケメンパラダイスだな、と海瑠は思った。

同輩の加奈が知ったら、よだれをたらして喜ぶだろうに。
残念ながら海瑠はストレートの男なので、イケメンに囲まれても嬉しくない。
それどころか、コンプレックスを刺激されっぱなしである。

王子らや騎士はもちろん、兵士も使用人も。道を歩いていたその辺の村人も。今まで目にしたこの国の男は全員、長身で、体格が良いのだ。
海瑠が憧れてやまない、恵まれた肉体ばかりである。やってらんねえや、という気分になっていた。


『神官殿、こちらが王子らが見つけ出した娘である。カイル姫という名で、年は30。この者では如何かな』
国王は、満面の笑みで海瑠を紹介した。

海瑠は内心冷や汗ダラダラで。男だとバレやしないか冷や冷やしていたが。
その様子は、どう見ても穢れを知らないような儚げな美少女であった。


神官は、天女の衣装を身に着けた海瑠の姿を、頭から足元までじっくりと眺めて。

『おお……お美しい……まさしく、お告げ通り、女神の如きお姿……』
神官は海瑠の前に跪いた。

水色の髪が、さらりと流れる。
サファイアのような瞳を潤ませ、神官は海瑠を見上げた。

『わたくしの名はメレディス。海神の神殿ディランにて、神官をしております。新たな女王の誕生を、心より寿ぎ申し上げます』


神官にも、バレなかった……。
ほっとした反面、泣きたくなった。そこまで自分は女にしか見えないのかと。


そして、新たな女王が誕生してしまった。
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