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ネイディーンの女王
旅立ち
『視察、ですか……?』
まだ復興の手が行き届いてないだろう、国の隅まで。
この目で見て回りたいのだと、二人の王子に海瑠は言ったのだった。
突然やってきて、帝王学の教育も受けていない海瑠に国を治めるのはまだ無理だろう。
王子らには、名ばかりの女王でもいいと言われたとはいえ。
自分は女王になったのだ。
この国のこと、国民のことをもっとちゃんと知りたいと思った。
言葉は通じるようになったものの、文字までは読めなかったため、書類などは彼らに任せてしまうばかりだが。
「何か、異世界の知識が役に立つかもしれないし。少しでも、力になれればいいと思うんだ。……だめか?」
『私は賛成だ。兄上は?』
『無論』
即決だった。
◆◇◆
新女王と二人の王子の仲睦まじい姿を見れば、士気高揚にもなるでしょう、と側近の騎士たちも賛成した。
新たな女王は、このような辺境にまで気にかけてくれるお優しい方なのだ、と安心すること間違いない、と。
ちょうど地方の復興調査もしたかった、とオーランドは上機嫌であった。
使用人と護衛の隊はつけるものの、側近の騎士がたった二人だけでは心もとないというので。
新たに二人の騎士が紹介された。
ナイジェルとリッターの先輩騎士にあたり、口の堅さも腕前も信頼できるという。
『黒の騎士団隊長、ジェラルド。お初にお目にかかります。たいへん光栄であります』
『白の騎士団隊長、ウォーレン。この度の御指名、望外の幸せであります!』
二人は礼儀正しく腰を折ってみせた。
黒髪に青い目、褐色の肌をした長身の騎士、ジェラルドは槍の名手である。黒い鎧を着ている。42歳。
茶髪に緑の目、小麦色の肌をした逞しい騎士ウォーレンは棒術では右に出るものがいない腕前だという。こちらは37歳。白い鎧だ。
壮年の騎士たちは整った顔立ちで、俳優のようだと海瑠は思った。
隊長格が二人も視察の旅に出てしまって大丈夫なのだろうかと海瑠は心配したが。
それぞれ副隊長が三人もいるので、それらに任せるとのことだった。
◆◇◆
視察の間、国のことは元国王に任せることになった。
短い休暇であった。
しかし、そのおかげで、王子の母である美貌の騎士たちとも対面できた。
『黒の騎士、ハサンと申します』
『白の騎士、アルバートです』
クリシュナの母はハサン、オーランドの母はアルバートという名の、凛々しくも美しい騎士たちで、ナイジェルやリッターとは同期だという。
つまり、海瑠とも同世代である。
こんな立派な男性が子供を産んだのか、と信じられない気持ちはあったが。
どちらも美しい王子たちによく似ていた。
彼らは恐縮しきりであったが。
海瑠が自分にとっても親に等しいので、どうかこれからも親しくして欲しい、と言うと。
彼等は女王からのあたたかい言葉に涙した。
王子たちも思わずもらい泣きをしていたのは秘密の話である。
◆◇◆
騎士たちは騎馬、女王と王子たちは基本、馬車での移動だった。
総数34名に及ぶ騎士隊だけでなく、荷物を載せた馬車や、使用人も大勢ついてきている。
思いがけなく大所帯となってしまったことを心配したが。
彼らが移動することにより、経済効果も上がるというので、海瑠はおとなしく従うことにした。
経済については素人である。
馬車は大きく、中はゆったりとして。ふかふかで座り心地の良い椅子は、横になれば寝られそうだな、と海瑠は思った。
二人の王子は海瑠とは向かい合わせの席に、仲良く並んで座っている。
旅程についての打ち合わせをしているようだ。
二人は出会った日と同じ、黒と白の軍服に、青いマントを羽織っている。
マントはそれぞれの瞳と同じ色の宝石で留められていた。
この宝石は、お披露目の水晶を使った放送のときのように、連絡用にも使われるらしい。
海瑠の胸に輝いている紅い宝石は、キツネから貰ったものだ。
これは魔力のみを凝縮して出来ている、とんでもなく希少な石らしい。
一度だけ身を護ってくれるらしい、と話をしたら。
オーランドが、では身に着けやすいようにしましょう、とネックレスに加工してくれたのだ。
閨事でも思ったが、手先が器用なものである。
海瑠の連絡用の宝石は、同じような紅い色の宝石をイヤリングにしたものだ。
でも、自分たちが常に側にいるので、あまり出番はないと思う、とオーランドは言った。
そう願いたい、と海瑠は思った。
◆◇◆
新女王による視察団が通るのをひと目見ようと、街道には見物客が集まっていた。
飲み物や軽食を売る商売人まで現れている。
確かに経済効果が上がりそうだ。
海瑠を発見した花畑を通り過ぎる、その時であった。
偶然か。
一陣の風が吹き、花びらが舞い散ったのだ。
視察団の訪れを祝うようなそれは、慶事であると皆が喜んだ。
『カイルはこの花びらに包まれるようにして、天より舞い降りてきたのです』
その光景を思い出しているのであろう、オーランドがうっとりとした顔で言った。
それを目にして、馬を駆けたのだと。
『ああ、まさに天女であった』
クリシュナが鷹揚に頷く。
あれから、一ヶ月以上経っていたことに気付く。
そういえば、元の世界ではどうなっているのだろう。
てっきり支えていたワイヤーが外れ、落ちたものと思ったが。
突然、皆の目の前から消えたのだろうか?
リハーサルの途中だった。
公演は、無事済んだのだろうか。中止になってないといいが。
代役は女性だった。
宙吊りが苦手そうだったが、大丈夫だろうか。
親兄弟は、海瑠の身を心配してることだろう。
せめて、自分が無事であることをどうにか知らせることができればいいのに、と海瑠は思った。
◆◇◆
表情を曇らせた海瑠の頬を、クリシュナが撫でた。
『我ら兄弟、頼りなくあろうが、カイルがここで何不自由なく暮らせるよう、心配るつもりだ』
その優しい手と、表情に。
海瑠の目は今にも潤みそうだった。
うわあ、おれ、15も下の子供に慰められちゃってるよ……。
『私たちはカイルが大好きです。もっとワガママ言って良いんですよ? 貴方に尽くしたいのです』
オーランドが続ける。
この視察も、一も二も無く賛成してくれた。
充分尽くしてくれている、と海瑠は思っている。
「んもー、おまえら大好きすぎるー」
思わずクリシュナとオーランドを引き寄せて。
その頬に、交互にキスをした。
『……香油は』
『ここに』
クリシュナの声に、ナイジェルが応え、馬車の窓から瓶が差し出された。
何故持ち歩いているのだ。しかも大瓶。
「香油は、ここに。じゃねえよ。こんな場所でナニするつもりだ」
主従を交互に見て、クリシュナの手をぺしりと叩くが、瓶を持つ手はびくともしない。
不自然な揺れをみせる馬車に、街道の見物客がびっくりしてしまうではないか。
新女王は王子二人と馬車の中でご乱交とか、就任早々そんなふしだらな噂が立つのは御免である。
しかも、嘘ではないのが困る。
「……宿に着いてからなら、いいけど……」
海瑠の、恥ずかしそうに頬を赤らめながらの発言に。若い兄弟は馬車の中で悶々とした時を過ごしたのだった。
まだ復興の手が行き届いてないだろう、国の隅まで。
この目で見て回りたいのだと、二人の王子に海瑠は言ったのだった。
突然やってきて、帝王学の教育も受けていない海瑠に国を治めるのはまだ無理だろう。
王子らには、名ばかりの女王でもいいと言われたとはいえ。
自分は女王になったのだ。
この国のこと、国民のことをもっとちゃんと知りたいと思った。
言葉は通じるようになったものの、文字までは読めなかったため、書類などは彼らに任せてしまうばかりだが。
「何か、異世界の知識が役に立つかもしれないし。少しでも、力になれればいいと思うんだ。……だめか?」
『私は賛成だ。兄上は?』
『無論』
即決だった。
◆◇◆
新女王と二人の王子の仲睦まじい姿を見れば、士気高揚にもなるでしょう、と側近の騎士たちも賛成した。
新たな女王は、このような辺境にまで気にかけてくれるお優しい方なのだ、と安心すること間違いない、と。
ちょうど地方の復興調査もしたかった、とオーランドは上機嫌であった。
使用人と護衛の隊はつけるものの、側近の騎士がたった二人だけでは心もとないというので。
新たに二人の騎士が紹介された。
ナイジェルとリッターの先輩騎士にあたり、口の堅さも腕前も信頼できるという。
『黒の騎士団隊長、ジェラルド。お初にお目にかかります。たいへん光栄であります』
『白の騎士団隊長、ウォーレン。この度の御指名、望外の幸せであります!』
二人は礼儀正しく腰を折ってみせた。
黒髪に青い目、褐色の肌をした長身の騎士、ジェラルドは槍の名手である。黒い鎧を着ている。42歳。
茶髪に緑の目、小麦色の肌をした逞しい騎士ウォーレンは棒術では右に出るものがいない腕前だという。こちらは37歳。白い鎧だ。
壮年の騎士たちは整った顔立ちで、俳優のようだと海瑠は思った。
隊長格が二人も視察の旅に出てしまって大丈夫なのだろうかと海瑠は心配したが。
それぞれ副隊長が三人もいるので、それらに任せるとのことだった。
◆◇◆
視察の間、国のことは元国王に任せることになった。
短い休暇であった。
しかし、そのおかげで、王子の母である美貌の騎士たちとも対面できた。
『黒の騎士、ハサンと申します』
『白の騎士、アルバートです』
クリシュナの母はハサン、オーランドの母はアルバートという名の、凛々しくも美しい騎士たちで、ナイジェルやリッターとは同期だという。
つまり、海瑠とも同世代である。
こんな立派な男性が子供を産んだのか、と信じられない気持ちはあったが。
どちらも美しい王子たちによく似ていた。
彼らは恐縮しきりであったが。
海瑠が自分にとっても親に等しいので、どうかこれからも親しくして欲しい、と言うと。
彼等は女王からのあたたかい言葉に涙した。
王子たちも思わずもらい泣きをしていたのは秘密の話である。
◆◇◆
騎士たちは騎馬、女王と王子たちは基本、馬車での移動だった。
総数34名に及ぶ騎士隊だけでなく、荷物を載せた馬車や、使用人も大勢ついてきている。
思いがけなく大所帯となってしまったことを心配したが。
彼らが移動することにより、経済効果も上がるというので、海瑠はおとなしく従うことにした。
経済については素人である。
馬車は大きく、中はゆったりとして。ふかふかで座り心地の良い椅子は、横になれば寝られそうだな、と海瑠は思った。
二人の王子は海瑠とは向かい合わせの席に、仲良く並んで座っている。
旅程についての打ち合わせをしているようだ。
二人は出会った日と同じ、黒と白の軍服に、青いマントを羽織っている。
マントはそれぞれの瞳と同じ色の宝石で留められていた。
この宝石は、お披露目の水晶を使った放送のときのように、連絡用にも使われるらしい。
海瑠の胸に輝いている紅い宝石は、キツネから貰ったものだ。
これは魔力のみを凝縮して出来ている、とんでもなく希少な石らしい。
一度だけ身を護ってくれるらしい、と話をしたら。
オーランドが、では身に着けやすいようにしましょう、とネックレスに加工してくれたのだ。
閨事でも思ったが、手先が器用なものである。
海瑠の連絡用の宝石は、同じような紅い色の宝石をイヤリングにしたものだ。
でも、自分たちが常に側にいるので、あまり出番はないと思う、とオーランドは言った。
そう願いたい、と海瑠は思った。
◆◇◆
新女王による視察団が通るのをひと目見ようと、街道には見物客が集まっていた。
飲み物や軽食を売る商売人まで現れている。
確かに経済効果が上がりそうだ。
海瑠を発見した花畑を通り過ぎる、その時であった。
偶然か。
一陣の風が吹き、花びらが舞い散ったのだ。
視察団の訪れを祝うようなそれは、慶事であると皆が喜んだ。
『カイルはこの花びらに包まれるようにして、天より舞い降りてきたのです』
その光景を思い出しているのであろう、オーランドがうっとりとした顔で言った。
それを目にして、馬を駆けたのだと。
『ああ、まさに天女であった』
クリシュナが鷹揚に頷く。
あれから、一ヶ月以上経っていたことに気付く。
そういえば、元の世界ではどうなっているのだろう。
てっきり支えていたワイヤーが外れ、落ちたものと思ったが。
突然、皆の目の前から消えたのだろうか?
リハーサルの途中だった。
公演は、無事済んだのだろうか。中止になってないといいが。
代役は女性だった。
宙吊りが苦手そうだったが、大丈夫だろうか。
親兄弟は、海瑠の身を心配してることだろう。
せめて、自分が無事であることをどうにか知らせることができればいいのに、と海瑠は思った。
◆◇◆
表情を曇らせた海瑠の頬を、クリシュナが撫でた。
『我ら兄弟、頼りなくあろうが、カイルがここで何不自由なく暮らせるよう、心配るつもりだ』
その優しい手と、表情に。
海瑠の目は今にも潤みそうだった。
うわあ、おれ、15も下の子供に慰められちゃってるよ……。
『私たちはカイルが大好きです。もっとワガママ言って良いんですよ? 貴方に尽くしたいのです』
オーランドが続ける。
この視察も、一も二も無く賛成してくれた。
充分尽くしてくれている、と海瑠は思っている。
「んもー、おまえら大好きすぎるー」
思わずクリシュナとオーランドを引き寄せて。
その頬に、交互にキスをした。
『……香油は』
『ここに』
クリシュナの声に、ナイジェルが応え、馬車の窓から瓶が差し出された。
何故持ち歩いているのだ。しかも大瓶。
「香油は、ここに。じゃねえよ。こんな場所でナニするつもりだ」
主従を交互に見て、クリシュナの手をぺしりと叩くが、瓶を持つ手はびくともしない。
不自然な揺れをみせる馬車に、街道の見物客がびっくりしてしまうではないか。
新女王は王子二人と馬車の中でご乱交とか、就任早々そんなふしだらな噂が立つのは御免である。
しかも、嘘ではないのが困る。
「……宿に着いてからなら、いいけど……」
海瑠の、恥ずかしそうに頬を赤らめながらの発言に。若い兄弟は馬車の中で悶々とした時を過ごしたのだった。
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