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南の国の王
南の特産品
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「えっと、転ぶので……」
危ないから心配してこうやって運んでくれてるんだと思う、と。
以前うっかり階段から転げて骨折した話をした。
ヨハンは微妙な表情で。そっかー、転ぶからかー、と呟いた。
「じゃ、次からはオレが運ぼっか?」
と言った次の瞬間。
輝く笑顔のヨハンが、視界から消えた。
何事かと思ったら。
今、ジュセルがヨハンのことを蹴っ飛ばしたの? 速くて見えなかったよ!
「無礼者め。神使だぞ。触れるのを許されるのは王である我だけだ」
ジュセルはフン、と鼻息荒く言った。
どっかの残念なイケメンと同じようなことを言ってる!?
†††
「……本気で蹴るなんてひどい……嫉妬は醜いっすよ……」
全然ダメージはなさそうに見えるけど。
しくしく泣いてみせるヨハンをまた蹴ろうとしてるジュセルの胸板を、ぽんぽんと叩いて止める。
「暴力よくない」
「……仕方ない。制裁を与えたいところだが。我のかわいい伴侶どのがそう言うのなら、我慢しよう」
「だから伴侶じゃないってば!」
「恥じらうな、我が伴侶どの」
ジュセルはがはは、と豪快に笑ってる。
もう、けっこう何度もやってるんだよな。このやり取り。
ちょっと楽しくなってきてしまった。
「あ、そういや、我々の角は、うっかり握らないで下さいね? ガチで求婚の証っすから」
ヨハンは自分の角を指差して言った。
へえ、南の国にはそんなしきたりがあるのか。
そういえば、この国の人は、形や大きさは違えど、みんな角が生えてた。
じゃあ、ここでは”言解の魔法”くらいでは求婚には足りないんだな。良かった。
ジュセルの腕は安定性があるから、角に掴まらなくても大丈夫だろうし。
「この馬鹿、何でバラすんだ!」
「そりゃあ純真な神使サマをだまくらかして握らせようとする不敬なヤカラが現れないように、って親切心っすけど~?」
ヨハンはにやにやしていた。
「え、騙そうとするような人なんているんだ……? ありがとう、ヨハン」
求婚のあかしだって知らなかったら、触らせてもらってたかも。
「…………」
ん? 何でジュセル、そんな拗ねたような顔して目を逸らすんだよ?
「そらいますよ~、みんな神使サマが大好きっすからね!」
「まあ、それは違いない」
笑いながら、階段を下りていく。
†††
砦の外に出る前に。
熱で肌が焼けてしまわないように、と。頭から黒い布を被せてくれた。優しいなあ。
そして、砦の端にある、竜馬の繁殖地へ行く。
緑色や紫色。色とりどりの竜馬がいっぱいいる。
金とか銀の竜馬は稀少で、能力も高く、高値で取引されるそうだ。
竜馬のウロコは、ひんやりしてて気持ちいい。
外はこんなに暑いのに。不思議だ。
異世界の法則、いまだによくわからないよ……。
竜馬はどれも人懐っこいな、と思ってたけど。
そうでもないらしい。
「手のつけられない暴れ馬まで、お前さんの手にかかると、まるで子猫みたいにおとなーしくなっちまって。どんな魔法使ったんだ? ま、我等もそうだがな」
とジュセルは笑った。
ああ、子猫というか、猫もいるんだこの世界……。
猫も大きければ馬になるのかな?
猫っていうこと聞いてくれなさそうな、自由気ままなイメージあるけど。
でも、猫馬とか、何か化けて出そうな名前になっちゃわない?
†††
竜馬が懐いてくれるのは、俺が神使だからかな?
動物好きだから、なつかれるのは、正直言って嬉しいけど。ちょっと複雑。
竜馬が、鼻先を寄せてきた。
「ん? 何? くれるの?」
口に咥えていた、何かきらきらしたものをくれた。
竜馬はヒカリモノが好きで、よく巣に集めているらしい。
物語に出てくるドラゴンも財宝とか集めてるけど。何でだろう。綺麗なものが好きなのかな?
竜馬がくれた、こぶし大のものをよく見たら。
透明な。
石、じゃなくて。これは。
「これ、ガラスだ……!」
「ガラス?」
「それは、ガラスという名の宝石なのか?」
……えっ、ガラスを知らないの?
そういえば、この世界で。
窓にガラスが入った建物を、今まで見たことがなかった。ガラス製のものも。
食器は木か、金属か、素焼きに上薬を塗ったっぽい、シンプルな器だったし。
「これを集めて、溶かして固めて器にすると、透明で綺麗な器が出来るんだよ」
「それって売れます?」
”ガラスの器”に興味を持ったのはヨハンで。
きらりと目を光らせた。
「たぶん。すごく壊れやすいけど、綺麗だし。食べ物もインス……いや、見映えするよ。より美味しそうに見えたりして」
ベネツィアだっけ? 高額なガラスもあったし。
有名なスワロフスキーもガラスだっけ?
コップや皿だけじゃなく、綺麗な置物とかも作れるし。
この国じゃ不要かもしれないけど、板状にして窓にはめこんだら雨の日でも濡れずに外を見られるし、防風にもなるって話をしたら。
他の国にはない売り物ができる、と大喜びだ。
「おお。そんなのなら、その辺にいくらでも落ちてるぞ?」
「そうっすね。野郎ども、拾って来い」
と。
兵士たちも手分けして。
ガラスを大量に持ってきてくれた。
危ないから心配してこうやって運んでくれてるんだと思う、と。
以前うっかり階段から転げて骨折した話をした。
ヨハンは微妙な表情で。そっかー、転ぶからかー、と呟いた。
「じゃ、次からはオレが運ぼっか?」
と言った次の瞬間。
輝く笑顔のヨハンが、視界から消えた。
何事かと思ったら。
今、ジュセルがヨハンのことを蹴っ飛ばしたの? 速くて見えなかったよ!
「無礼者め。神使だぞ。触れるのを許されるのは王である我だけだ」
ジュセルはフン、と鼻息荒く言った。
どっかの残念なイケメンと同じようなことを言ってる!?
†††
「……本気で蹴るなんてひどい……嫉妬は醜いっすよ……」
全然ダメージはなさそうに見えるけど。
しくしく泣いてみせるヨハンをまた蹴ろうとしてるジュセルの胸板を、ぽんぽんと叩いて止める。
「暴力よくない」
「……仕方ない。制裁を与えたいところだが。我のかわいい伴侶どのがそう言うのなら、我慢しよう」
「だから伴侶じゃないってば!」
「恥じらうな、我が伴侶どの」
ジュセルはがはは、と豪快に笑ってる。
もう、けっこう何度もやってるんだよな。このやり取り。
ちょっと楽しくなってきてしまった。
「あ、そういや、我々の角は、うっかり握らないで下さいね? ガチで求婚の証っすから」
ヨハンは自分の角を指差して言った。
へえ、南の国にはそんなしきたりがあるのか。
そういえば、この国の人は、形や大きさは違えど、みんな角が生えてた。
じゃあ、ここでは”言解の魔法”くらいでは求婚には足りないんだな。良かった。
ジュセルの腕は安定性があるから、角に掴まらなくても大丈夫だろうし。
「この馬鹿、何でバラすんだ!」
「そりゃあ純真な神使サマをだまくらかして握らせようとする不敬なヤカラが現れないように、って親切心っすけど~?」
ヨハンはにやにやしていた。
「え、騙そうとするような人なんているんだ……? ありがとう、ヨハン」
求婚のあかしだって知らなかったら、触らせてもらってたかも。
「…………」
ん? 何でジュセル、そんな拗ねたような顔して目を逸らすんだよ?
「そらいますよ~、みんな神使サマが大好きっすからね!」
「まあ、それは違いない」
笑いながら、階段を下りていく。
†††
砦の外に出る前に。
熱で肌が焼けてしまわないように、と。頭から黒い布を被せてくれた。優しいなあ。
そして、砦の端にある、竜馬の繁殖地へ行く。
緑色や紫色。色とりどりの竜馬がいっぱいいる。
金とか銀の竜馬は稀少で、能力も高く、高値で取引されるそうだ。
竜馬のウロコは、ひんやりしてて気持ちいい。
外はこんなに暑いのに。不思議だ。
異世界の法則、いまだによくわからないよ……。
竜馬はどれも人懐っこいな、と思ってたけど。
そうでもないらしい。
「手のつけられない暴れ馬まで、お前さんの手にかかると、まるで子猫みたいにおとなーしくなっちまって。どんな魔法使ったんだ? ま、我等もそうだがな」
とジュセルは笑った。
ああ、子猫というか、猫もいるんだこの世界……。
猫も大きければ馬になるのかな?
猫っていうこと聞いてくれなさそうな、自由気ままなイメージあるけど。
でも、猫馬とか、何か化けて出そうな名前になっちゃわない?
†††
竜馬が懐いてくれるのは、俺が神使だからかな?
動物好きだから、なつかれるのは、正直言って嬉しいけど。ちょっと複雑。
竜馬が、鼻先を寄せてきた。
「ん? 何? くれるの?」
口に咥えていた、何かきらきらしたものをくれた。
竜馬はヒカリモノが好きで、よく巣に集めているらしい。
物語に出てくるドラゴンも財宝とか集めてるけど。何でだろう。綺麗なものが好きなのかな?
竜馬がくれた、こぶし大のものをよく見たら。
透明な。
石、じゃなくて。これは。
「これ、ガラスだ……!」
「ガラス?」
「それは、ガラスという名の宝石なのか?」
……えっ、ガラスを知らないの?
そういえば、この世界で。
窓にガラスが入った建物を、今まで見たことがなかった。ガラス製のものも。
食器は木か、金属か、素焼きに上薬を塗ったっぽい、シンプルな器だったし。
「これを集めて、溶かして固めて器にすると、透明で綺麗な器が出来るんだよ」
「それって売れます?」
”ガラスの器”に興味を持ったのはヨハンで。
きらりと目を光らせた。
「たぶん。すごく壊れやすいけど、綺麗だし。食べ物もインス……いや、見映えするよ。より美味しそうに見えたりして」
ベネツィアだっけ? 高額なガラスもあったし。
有名なスワロフスキーもガラスだっけ?
コップや皿だけじゃなく、綺麗な置物とかも作れるし。
この国じゃ不要かもしれないけど、板状にして窓にはめこんだら雨の日でも濡れずに外を見られるし、防風にもなるって話をしたら。
他の国にはない売り物ができる、と大喜びだ。
「おお。そんなのなら、その辺にいくらでも落ちてるぞ?」
「そうっすね。野郎ども、拾って来い」
と。
兵士たちも手分けして。
ガラスを大量に持ってきてくれた。
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