34 / 83
Ⅵ
美しき伯爵の高貴なる義務
しおりを挟む
『わたしは、少々無茶な方法で魂を飛ばしたせいか、こちらへ来て、今まで、前世での記憶のほとんどを失っていたようです』
まだ頭が痛むのか、額を押さえた。
8歳の時に、アンリ……俺を見て。前世の記憶がなかったのに、ひと目で惹かれたのは。
やはり”運命の相手”だったからだろうと言う。
どうしても、手に入れたくて。
でも、足りなくて。
理由もわからず、求める気持ちだけは、自分の中に揺るぎなく存在していた。
こうして前世の記憶を思い出さなかったら、いつか際限なく膨らんでいく欲望が暴走して。本当に拘束して、塔に閉じ込めてしまいかねなかった、とか。
思い出した今は、自分の欲望を優先するよりも、「今度こそ、この手で幸せにしたい」。そんな気持ちでいっぱいだという。
それは良かった。
頼むから精神年齢相応の落ち着きを得てください。
と、自分にも特大のブーメランをぶん投げてみたり。
*****
「今まではぼんやりと、この世界に違和感を覚えていた。だが、前世での記憶を完全に取り戻したのは……」
こっちの言葉で言って。俺を見た。
「”I love you”……こことは違う世界の言葉での、熱い愛の告白のおかげだ。俺もあんたを愛している。”I love you too”」
めちゃくちゃいい笑顔だった。
寝てたと思ったのに。
あれ、聞こえてたのかよ!?
「素直に愛を囁いてくれないのは何故なのか、悩んでいたが。なるほどね。恥ずかしがりやな”ニホンジン”だったせいか。納得した」
すっかりロロに戻った顔で、頷いている。
そうですよ。日本の男の子はみんなトゥーシャイシャイボーイなんですよ。
はいはい、そういう理由で納得してくださいね!
もう二度と、言わないからな!?
前からこいつ執着やべえな、とは思ってたけど。
まさか、前世から追いかけてきてたとは想定外すぎる。
しかも俺、ヘンリーの顔すら見てないんだから。
でも、同じ”異世界人”だっていう、共通の認識がある相手ができたのは嬉しいかもしれない。文化とか全然違う世界だからか、どうしても疎外感があるっていうか。
たまに、寂しくなるし。
しかし、こいつがずっと、中の人である俺の情報を得た状態で接していたわけじゃなかったことは感謝したい。
「こいつあんな済ました顔して、見た目ょぅι゛ょの同人誌読んでたんだー」とか思われてたら死ねる。
秒で死ねる。
だって。美しき伯爵アンリ君として生まれ変わったからには、それらしく演じないといけないじゃん?
いくら中身がアレなオタクでも。
それがノブレス・オブリージュ、高貴なる義務ってやつじゃん?
*****
ロロはとてもいい笑顔をこちらへ向けた。
「そういえば、あんた”フタナリ”が好きだったんだよな? 願いが叶って、良かったな!」
『よくねえわ!! その記憶は忘れろ!』
グッジョブ! って感じに親指立ててんじゃねえよ!
こっちにはそんな仕草、存在しないからな!?
通じるのが俺だけで嬉しい? ああそう。
「”ニホンゴ”で話してる方が、本当のあんたって感じがして、いいな。……うん、すごくいい」
嬉しそうだ。
異世界語で日本語、って言われると。そこだけ発音とかが浮いて聞こえて、ちょっと面白い。
「こっちの言葉は、だいたいアンドレに教わったんだろ? これから二人でいる時は、できるだけ”ニホンゴ”で話して欲しい」
話し言葉にすら妬くのかよ。そこまでアンドレに対抗心燃やさなくても……。
世話係として、自分の知らない時間を共有してるのが悔しい、とか言われても困る。
ロロは俺より年下なんだし、しょうがないじゃん。
『別に、二人でいる時なら日本語で話してもいいけど……』
楽だし。
まだ頭が痛むのか、額を押さえた。
8歳の時に、アンリ……俺を見て。前世の記憶がなかったのに、ひと目で惹かれたのは。
やはり”運命の相手”だったからだろうと言う。
どうしても、手に入れたくて。
でも、足りなくて。
理由もわからず、求める気持ちだけは、自分の中に揺るぎなく存在していた。
こうして前世の記憶を思い出さなかったら、いつか際限なく膨らんでいく欲望が暴走して。本当に拘束して、塔に閉じ込めてしまいかねなかった、とか。
思い出した今は、自分の欲望を優先するよりも、「今度こそ、この手で幸せにしたい」。そんな気持ちでいっぱいだという。
それは良かった。
頼むから精神年齢相応の落ち着きを得てください。
と、自分にも特大のブーメランをぶん投げてみたり。
*****
「今まではぼんやりと、この世界に違和感を覚えていた。だが、前世での記憶を完全に取り戻したのは……」
こっちの言葉で言って。俺を見た。
「”I love you”……こことは違う世界の言葉での、熱い愛の告白のおかげだ。俺もあんたを愛している。”I love you too”」
めちゃくちゃいい笑顔だった。
寝てたと思ったのに。
あれ、聞こえてたのかよ!?
「素直に愛を囁いてくれないのは何故なのか、悩んでいたが。なるほどね。恥ずかしがりやな”ニホンジン”だったせいか。納得した」
すっかりロロに戻った顔で、頷いている。
そうですよ。日本の男の子はみんなトゥーシャイシャイボーイなんですよ。
はいはい、そういう理由で納得してくださいね!
もう二度と、言わないからな!?
前からこいつ執着やべえな、とは思ってたけど。
まさか、前世から追いかけてきてたとは想定外すぎる。
しかも俺、ヘンリーの顔すら見てないんだから。
でも、同じ”異世界人”だっていう、共通の認識がある相手ができたのは嬉しいかもしれない。文化とか全然違う世界だからか、どうしても疎外感があるっていうか。
たまに、寂しくなるし。
しかし、こいつがずっと、中の人である俺の情報を得た状態で接していたわけじゃなかったことは感謝したい。
「こいつあんな済ました顔して、見た目ょぅι゛ょの同人誌読んでたんだー」とか思われてたら死ねる。
秒で死ねる。
だって。美しき伯爵アンリ君として生まれ変わったからには、それらしく演じないといけないじゃん?
いくら中身がアレなオタクでも。
それがノブレス・オブリージュ、高貴なる義務ってやつじゃん?
*****
ロロはとてもいい笑顔をこちらへ向けた。
「そういえば、あんた”フタナリ”が好きだったんだよな? 願いが叶って、良かったな!」
『よくねえわ!! その記憶は忘れろ!』
グッジョブ! って感じに親指立ててんじゃねえよ!
こっちにはそんな仕草、存在しないからな!?
通じるのが俺だけで嬉しい? ああそう。
「”ニホンゴ”で話してる方が、本当のあんたって感じがして、いいな。……うん、すごくいい」
嬉しそうだ。
異世界語で日本語、って言われると。そこだけ発音とかが浮いて聞こえて、ちょっと面白い。
「こっちの言葉は、だいたいアンドレに教わったんだろ? これから二人でいる時は、できるだけ”ニホンゴ”で話して欲しい」
話し言葉にすら妬くのかよ。そこまでアンドレに対抗心燃やさなくても……。
世話係として、自分の知らない時間を共有してるのが悔しい、とか言われても困る。
ロロは俺より年下なんだし、しょうがないじゃん。
『別に、二人でいる時なら日本語で話してもいいけど……』
楽だし。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
363
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる