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ローラン・ロートレック・ド・デュランベルジェの人生

Mon cœur t'appartient.(私の心は君のもの)

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渋る貴族たちには、教会に学校を作り、道徳を教えれば信仰心から犯罪率の低下にも繋がると説得し、納得させた。
どうしても納得してもらえない場合は実力行使で……と思ったが。

殺気に気づいたか、慌てて賛成派に回った。

そうそう。
賢ければそれだけ長生きできるんだから、空気を読めるようになろうな。


全会一致で可決を得て、初勅が決定した。
アンリは、これでいつか同人誌が読める、とうきうきしている。

なんと可愛いのだろう。
アンリの夢を叶えるため、俺も力になろう。

いや、手に手を取って、二人で叶えていこう。アンリの夢は、俺の夢でもあるのだから。


同人誌といえば。
英司の所蔵していた同人誌には”フタナリっ”というジャンルがあった。

姿は美少女で、体格に合わないほど乳房や男根が異様に大きい傾向が多い。
実際の両性具有とは違うが。創作上の存在なので仕方ない。

隠すように仕舞ってあったので、最初は英司の個人的な趣味なのかと思ったが。
英司の好きなイラストレーターのものしかなかったことから、特に英司の趣味ではなかったことはわかっていた。


しかし、その同人誌の話題を出すと、アンリが真っ赤になって否定するのが可愛いので、ついからかってしまう。
我ながら子供のような意地悪はやめた方がいいと思うのだが。

アンリが可愛いのがいけない。


*****


とうとう、この日が来た。

待ちに待った、アンリの戴冠式。
そして、俺たちの結婚式の日である。

プラス36年分の記憶があろうが、俺は17歳だ。前世の記憶を思い出したからといって、俺の総てがヘンリーに成り代わった訳でもない。
いやっほう! とか言って喜び走り回っても許されるはず。


実際、嬉しさのあまり早起きしてしまって、その辺を走り回っていたところをアンドレに発見され、生温い視線を向けられ。
廊下は走らないでください、と風紀委員みたいな注意を受けたが。

めでたい日だからいいんだ。


結婚前は禁欲しなくてはいけない、という誰が決めたのか無駄な決まりがあったため、今日までアンリを抱けなかったせいで欲求不満も限界だ。
それまで毎日のように抱いていたのに、いきなり取り上げられたのだからたまらない。

しかし、毎日アンリの着替えをさせる、という役得をアンドレに戻してやるわけにもいかず。触れるほど近くにいるのに。目の前にいるアンリを抱けない、という生殺し状態だった。
その上寝室も別々で。何度涙で枕を濡らしたことか。

だが、今日は結婚式で。今夜は初夜になる。
つまり、苦しかった日々はこれで終わる。解禁だ。


*****


欲望が発散出来なかった分、今までにないくらい今日の準備に力を注いだ。

戴冠式、結婚式の衣装だけでなく、城の飾りつけ、花の種類や配置まで完璧だ。
城の警備は厳しいテストを勝ち抜いた精鋭の騎士たちが守っている。


王城への引っ越しもすでに終わり、戴冠式の後はそのまま居住可能だ。

前国王やその王子たちらは前日から他の領地へ移動済み。
そこから儀式のためにこっちへ来る。


第七王子だったアンドレは、アンリの世話係ではなく、側近として王城にもついてくるという。
アンドレがアンリに対してどういう感情を持っているか、いまいちわからない。

肉欲を持っていたなら、俺よりも先に手を出す機会はいくらでもあっただろうに。
兄弟愛でもなさそうだし。

恋心を抱いていたなら、俺と関係を持った時点で出奔してもおかしくないのだが。

この先もずっとアンリに仕える気でいると本人が言っているのを聞いた。
相変わらず俺のことは敵視しているが。


アンリは「世話焼きオカン」だと言う。
完全に恋愛対象として見られていないのが安心というか憐れというか。


さすがに乳児から面倒を見ていた相手に、性欲は抱かないか。
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