19 / 56
おとり捜査に挑戦してみました。
しおりを挟む
翌日。
本が読みたいと言ったら、図書室に案内された。
またしてもヴィットーリオに抱き上げられて、だけど。
この部屋の入り口にはセキュリティは施されていないようだ。
最初、広めの書斎みたいな部屋を想像していたけど、ちょっとした図書館並みの広さだったのでびっくりした。
ヴィットーリオは本棚から、自分が昔使っていたという和伊辞典と伊和辞典を出してくれた。
落書きをしたのはマルチェッロだ、と言って。
何かと思えば、エッチな単語に二重線が引いてあって笑った。
「くれぐれも、無理はしないように」
お昼にまた迎えに来る、と言ってヴィットーリオは仕事に行った。
*****
内容的にも、図書館並みの蔵書だ。
何となく見てまわって。
特に意識せず、手に取ったのは法律関係の本だった。
弁護士になろうと志したのは。
周りから見ても恥ずかしくない、立派な職業で。
母さんに親孝行が出来ると思ってたからだった。
だから。
もう、弁護士を目指す意味が無くなったけど。
将来というか、今後、捨てられた時のことを考えれば手に職は欲しいところだ。
現状じゃ、どう言葉を飾ろうが、マフィアのペットだもんな……。
滞在ビザをどうしたのかはわからないけど。
しばらく日本に戻れないなら、改めて弁護士を目指すのは難しそうだ。
司法試験に受かっても、すぐ弁護士になれる訳じゃない。
一年弁護士事務所で働いた実績を積んでから、試験を受けないといけないし。
イタリアは石を投げれば弁護士に当たるってくらい弁護士の人数が多くて、合格率も高いようなので。
じゃあこっちで挑戦してみるか……と思ってイタリアの法律関係の本を読んでみたら。
当たり前なんだけど、法律関係の専門用語がいっぱいで。
これ、新たに覚えなおすのきついな……。
かなりげんなりした。
さて。
どうしたもんかな。
*****
「Le dispiace se mi siedo di fianco a Lei?」
声変わりしたばかりのような声。
「prego」
カタ、と。席について。
ページを繰る音。
タイトルはLa Bella e la Bestia。……美女と野獣、か。
ヴィットーリオと僕の場合、絶世の美男子と平凡な男になるのかな?
『僕のこと、話さなかったんだ?』
囁くような声。
ジョルジョは、てっきり叱られるだろうと思ってたけど、何のお咎めもなかったので驚いた、と言った。
なるほど。
直接彼を問いただすより、泳がせておいて、裏に潜む大物を釣る方法を選んだんだ。
『君は、日本人だよね? 総帥の親戚なの?』
思わず吹き出しそうになったけど。
どうにか耐えた。
それはありえないだろ、顔面偏差値から考えて。
全然似てないし。
『見ての通り、彼と血縁関係はないよ』
顔を指差したけど。
ジョルジョは小首を傾げて、笑いはしなかった。
自虐ネタは不発か……。
*****
『念の為、確かめただけだよ。随分丁重に扱ってるって聞いたけど。どういう関係か、聞いていいかな?』
どうやらジョルジョはまだ、僕に協力させたいようだ。
裏にいる黒幕をあぶり出すチャンスかもしれない。
無理はしないよう言われたけど、護衛の人もつけてあるそうだし。
大丈夫だよね。
『実は、彼が日本にいた時に……』
最初に勘違いしてた、母さんがヴィットーリオの初恋の相手じゃないか、という話をした。
『だから、僕は母さんの身代わりに攫われたんだと……』
思ってたけど違った、とまでは言わない。
実際に、そういう風に勘違いしてたので嘘ではない。辛かったことを思い出して、つい感情が入ってしまった。
騙すのは、良心が痛むけど。
『可哀想に……、それで、訴えようと思ったの?』
ジョルジョは僕の手元の法律書を見て言った。
こっちの都合のいいように勘違いしてくれたようだ。
『弁護士を雇うお金もないし。勝てないよ……』
『大丈夫、証拠さえ集めれば勝てる。弁護士はこっちで用意する』
がしっと手を握られた。
『……人をペット扱いするなんて、許せない』
襟の高い服を着てたけど。
首輪が見えてしまっていたようだ。
今まで見せていたような、わざとらしいお坊ちゃまな態度でなく、本当に怒っているように見えた。
『また隙を見て来るから、それまで何とか耐えて。必ず助けてあげるから』
と言って。
ジョルジョは図書室を出て行った。
黒幕に報告しに行くんだろう。
うまく引っ掛かってくれればいいけど。
*****
「宗司……、危険な真似は許さない、と言ったはずだが……?」
昼になって、迎えに来たヴィットーリオは。
僕を仕事部屋に連れ込んで、怒りを堪えている様子で静かに言った。
仁王立ちで。
かなり怖いんだけど。
何でおとりになってみたのがバレたのかと思ったら。
首輪には盗聴器が仕掛けられていたようだ。
じゃあ、先日ジョルジョに声を掛けられたのも、知ってたのか。
それで、危ないと思って駆けつけてきたんだ。
やけに早いと思った。
前のと今回の件で。
見張りに置いた構成員……でいいのかな? の中にも、反ヴィットーリオ派に買収されてる者がいる、と判明したそうだ。
誰も通すな、って命じたのに。
ジョルジョが中に入れたのは、手引きした人間がいるからだった。
獅子身中の虫ってやつだ。
本が読みたいと言ったら、図書室に案内された。
またしてもヴィットーリオに抱き上げられて、だけど。
この部屋の入り口にはセキュリティは施されていないようだ。
最初、広めの書斎みたいな部屋を想像していたけど、ちょっとした図書館並みの広さだったのでびっくりした。
ヴィットーリオは本棚から、自分が昔使っていたという和伊辞典と伊和辞典を出してくれた。
落書きをしたのはマルチェッロだ、と言って。
何かと思えば、エッチな単語に二重線が引いてあって笑った。
「くれぐれも、無理はしないように」
お昼にまた迎えに来る、と言ってヴィットーリオは仕事に行った。
*****
内容的にも、図書館並みの蔵書だ。
何となく見てまわって。
特に意識せず、手に取ったのは法律関係の本だった。
弁護士になろうと志したのは。
周りから見ても恥ずかしくない、立派な職業で。
母さんに親孝行が出来ると思ってたからだった。
だから。
もう、弁護士を目指す意味が無くなったけど。
将来というか、今後、捨てられた時のことを考えれば手に職は欲しいところだ。
現状じゃ、どう言葉を飾ろうが、マフィアのペットだもんな……。
滞在ビザをどうしたのかはわからないけど。
しばらく日本に戻れないなら、改めて弁護士を目指すのは難しそうだ。
司法試験に受かっても、すぐ弁護士になれる訳じゃない。
一年弁護士事務所で働いた実績を積んでから、試験を受けないといけないし。
イタリアは石を投げれば弁護士に当たるってくらい弁護士の人数が多くて、合格率も高いようなので。
じゃあこっちで挑戦してみるか……と思ってイタリアの法律関係の本を読んでみたら。
当たり前なんだけど、法律関係の専門用語がいっぱいで。
これ、新たに覚えなおすのきついな……。
かなりげんなりした。
さて。
どうしたもんかな。
*****
「Le dispiace se mi siedo di fianco a Lei?」
声変わりしたばかりのような声。
「prego」
カタ、と。席について。
ページを繰る音。
タイトルはLa Bella e la Bestia。……美女と野獣、か。
ヴィットーリオと僕の場合、絶世の美男子と平凡な男になるのかな?
『僕のこと、話さなかったんだ?』
囁くような声。
ジョルジョは、てっきり叱られるだろうと思ってたけど、何のお咎めもなかったので驚いた、と言った。
なるほど。
直接彼を問いただすより、泳がせておいて、裏に潜む大物を釣る方法を選んだんだ。
『君は、日本人だよね? 総帥の親戚なの?』
思わず吹き出しそうになったけど。
どうにか耐えた。
それはありえないだろ、顔面偏差値から考えて。
全然似てないし。
『見ての通り、彼と血縁関係はないよ』
顔を指差したけど。
ジョルジョは小首を傾げて、笑いはしなかった。
自虐ネタは不発か……。
*****
『念の為、確かめただけだよ。随分丁重に扱ってるって聞いたけど。どういう関係か、聞いていいかな?』
どうやらジョルジョはまだ、僕に協力させたいようだ。
裏にいる黒幕をあぶり出すチャンスかもしれない。
無理はしないよう言われたけど、護衛の人もつけてあるそうだし。
大丈夫だよね。
『実は、彼が日本にいた時に……』
最初に勘違いしてた、母さんがヴィットーリオの初恋の相手じゃないか、という話をした。
『だから、僕は母さんの身代わりに攫われたんだと……』
思ってたけど違った、とまでは言わない。
実際に、そういう風に勘違いしてたので嘘ではない。辛かったことを思い出して、つい感情が入ってしまった。
騙すのは、良心が痛むけど。
『可哀想に……、それで、訴えようと思ったの?』
ジョルジョは僕の手元の法律書を見て言った。
こっちの都合のいいように勘違いしてくれたようだ。
『弁護士を雇うお金もないし。勝てないよ……』
『大丈夫、証拠さえ集めれば勝てる。弁護士はこっちで用意する』
がしっと手を握られた。
『……人をペット扱いするなんて、許せない』
襟の高い服を着てたけど。
首輪が見えてしまっていたようだ。
今まで見せていたような、わざとらしいお坊ちゃまな態度でなく、本当に怒っているように見えた。
『また隙を見て来るから、それまで何とか耐えて。必ず助けてあげるから』
と言って。
ジョルジョは図書室を出て行った。
黒幕に報告しに行くんだろう。
うまく引っ掛かってくれればいいけど。
*****
「宗司……、危険な真似は許さない、と言ったはずだが……?」
昼になって、迎えに来たヴィットーリオは。
僕を仕事部屋に連れ込んで、怒りを堪えている様子で静かに言った。
仁王立ちで。
かなり怖いんだけど。
何でおとりになってみたのがバレたのかと思ったら。
首輪には盗聴器が仕掛けられていたようだ。
じゃあ、先日ジョルジョに声を掛けられたのも、知ってたのか。
それで、危ないと思って駆けつけてきたんだ。
やけに早いと思った。
前のと今回の件で。
見張りに置いた構成員……でいいのかな? の中にも、反ヴィットーリオ派に買収されてる者がいる、と判明したそうだ。
誰も通すな、って命じたのに。
ジョルジョが中に入れたのは、手引きした人間がいるからだった。
獅子身中の虫ってやつだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
286
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる