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いちゃいちゃ手当てをしました。

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「おとなしくしてろって」

ぺし、と微妙な場所に行こうとしているエッチな手を叩いたら。
失敬、とウインクして、両手を上げてみせた。


……新たに出血してる様子はなし、と。
ほっとする。

リッカルドが相当きっちり縫ってくれたのかな? 手慣れてそうだったし。
でも、脇腹と鎖骨の下辺りに、痣みたいなのが出来てた。

「ここ、青くなってるけど。打ち身かな?」
どこにぶつけたのかと思ったら。

「ああ、撃たれた場所だが。ぶつかった程度の衝撃だ。問題ない」
平然と言ってるけど。

「……えっ、撃たれてたの!?」


全然問題なくないじゃないか!
問題、ありまくりだよ!!


*****


大抵の人間は、的の大きい胴体の方を狙うので、防弾チョッキが有効だけど。
いくら防弾でも、撃たれた衝撃までは防げないようだ。

口径の大きな銃で撃たれれば、身体に穴は開かなくても、その衝撃でけっこうなダメージを受けるものらしい。
至近距離、または口径が大きい場合、痣になるどころか、骨折することもあるとか。


普通の布に見えるけど。
普段着ているシャツも、刃物を通さない、特殊な防刃素材の生地で出来ている、という。

常に襲撃を予想して備えてるのかな。マフィアも大変だ。

僕が着ているシャツもそうだって?
知らなかった……。


「湿布とか無い?」

ナイトテーブルに救急箱があるというので、救急箱を出して。
湿布を、青痣のところに貼った。

ヴィットーリオは嬉しそうに脇腹に貼られた湿布を見ている。

「ありがとう。君が手当てをしてくれたから、通常より早く治りそうだ」
「また、そんな冗談ばっかり言って……」

「真実思ったことを口にしているだけなのだけどね」
肩を竦めた。


改めて見ると、いい身体してるな、と思う。
あちこち古傷だらけなのは、命を狙われたりしてたからか。

この島から、日本に帰りたくて。
僕を迎えに行くために。


*****


「私が一族の首領だけでなく、総帥になったのは、自由を得るためだ。君が気に病むことは何もない」
大きな手で、頬を撫でられる。

僕のせいじゃない、って?
考えてたこと、顔に出てたのかな?

そんな、優しい顔をして。
マフィアのくせに。


「えー、僕のために必死に努力してトップになってくれたんじゃなかったのか……」
大袈裟にがっかりしてみせたら。

「勿論、宗司のために努力したに決まっているだろう」
即答だった。


「それ、さっきの発言と矛盾してない?」

「何のことかな? 忘れてしまった」
すました顔をして言う。


目を見合わせて。
二人で笑ってしまった。


「もっと自主性を持たないと。さっきも言ったけど。そんな簡単に前言を翻すリーダーなんて、部下から信用されなくなるよ?」

ただし、発言が事実誤認によるものだった場合は、素直に潔く認めて改めないといけない。
偽証はよくない。……なんてね。


「言っただろう? 私の生活はいつでも君を中心に回っているからね。君が私の人生のボスだ。従うのは当然では?」
すましたような顔して。

「嘘ばっか。いつも、自分の好きなようにするくせに」

嫌だって言うのも禁止したし。
一週間、ベッドから出してもらえなかった。


*****


「君が心底嫌だと思う行為はしていないつもりなのだけどね」
心外だ、みたいに言うな。

それじゃ、僕がとんでもないマゾみたいじゃないか!


……いや、マゾなのかもしれない。
普通は、あんなことされたら、怒るんじゃないかな?

いくら小さい頃結婚を約束した幼馴染みだったからって、許される限度を超えてるよ。

外国に拉致。
地下室に監禁、拘束されて。

脅されて、一週間も犯されたわけだし。
勝手に戸籍まで弄ってるし!

犯罪行為のオンパレードじゃないか。
その上、輸血とか。

一応ある程度は我慢してるとはいえ、異常なまでの執着を知って。
怯えて逃げたり、嫌いになってもおかしくないと思う。


でも。
何でだか、ヴィットーリオに対しては、怒りとか、マイナスの感情はわいてこないんだよな。

初めての時の、イタリア語での熱い囁きと。
苦しげに、愛してるって言われたのが、耳に残ってるせいかも。

あれは本当に。心の底から出た言葉だっていう気持ちが伝わってきたから。


あの時は、それが母さんに向けられたものだと勘違いしていて。
胸が締め付けられるように苦しくなった。

その理由は。


*****


「……一刻も早く駆けつけて、助けてやりたかったのに。遅くなってすまなかった」
突然謝られた。

それって、もしかして。
「クルーザーで、南郷さんに、演技で襲われた時のこと?」

「ああ、そうだ」
申し訳なさそうに頷いている。


でも。
反乱者の襲撃で、銃撃戦もあったわけだし。

すぐに駆けつけて来れなかったのは、仕方なかったんじゃないかな。


「本当に、何もされてなかったよ?」
あれは、ヴィットーリオが来るまでの時間稼ぎのためにした演技で。

恋人が他の男に犯されてる写真を送ってやれ、なんて。
普通に考えれば、ゲスい提案だけど。

南郷さんがああ言ってくれなかったら、指とか耳とか、削がれてたかもしれなかったんだから。素直に感謝しなくちゃいけないところだ。


「しかし。君の嫌がりようは、演技などではなかっただろう?」
いたわるように、頬を撫でられる。

会話を聞いてて。
声で、わかったのか。本気で嫌がってたこと。


確かに、そうだった。
実際には何もされてなくても。演技だとわかっていても。

他人にくっつかれたり触られるのが、すごく気持ち悪いと思ったんだ。

でも。触れるか触れないかの位置でチュッ、とリップ音を出されただけでも怖気だってしまったくらいだったのに。
ヴィットーリオの場合、嫌悪感を覚えなかったのは。どうしてだろう。

……顔面偏差値の違いだろうか?
いやそんな、まさか。


顔面偏差値で言えば、南郷さんだってけっこうイケメンの部類に入ると思うんだけど。
生理的に無理だった。

それは、どういう理由なんだろうか。
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