突然見知らぬイタリアの伊達男に拉致監禁され、脅されてHされた上に何故か結婚を迫られてしまいました。

篠崎笙

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ブチギレました。

ラブホテルって場所柄、今まで何をしてたか知られてるってことで。
ものすごく、恥ずかしいけど。


「お待たせしてしまって、すみません……、」

車で一人待機していた、その心中を思うと。
謝らずにはいられない。

「ははは、警護対象に尻を狙われるよりはずっといいですし。こちらとしては、ずいぶん楽をさせてもらってます」
メンタル強すぎる。

要人警護ってそうでもないと、こなせない仕事なのかな。
大変だ。


「シャワーの音がしたので、終わったかと思ったらもう一戦とか、このまま泊まりになるかと冷や冷やしましたけどねー」

「鏡張りの部屋というのもなかなか刺激的だったが。やはりセキュリティの整った環境でないと安心して宗司を寝かせられん。泊まりはない」
「わかりました。しかし、さすがに安全面で太鼓判捺せるラブホの確保は難しいですね」

「安価な遊興娯楽施設だからな。ひと時でも愉しめれば充分だろう」

平気な顔をして答えてるヴィットーリオは、メンタル宇宙人なので置いとこう。

今まで、常識のあてはまらない世界で生きてきたんだから、仕方がないよね……って。
……え?


、って?


……まさか。
まさかですよね?

南郷さんを見ると。あ、やべ、って顔をした。

ヴィットーリオは、きょとんとしてる。
そもそも疑問に思ってない顔だこれ。


「や、安心してください。カメラはナシで、聴いてたのは自分だけで、有事の際は自分が無線で各所に連絡するってカタチなんで!」

そっかー、南郷さんしか聴いてないなら安心だー。
って、少しも安心できない。


ヴィットーリオとした、あれもこれも。
全部、盗聴器で聞かれてたってことじゃないか!!


*****


ヴィットーリオは世界的大企業の総帥で、イタリアンマフィアの首領でもある。

最大の懸念だったミルコ亡き今、日本にまで刺客が追って来るような危険はないだろうと思われるが。
日本のヤクザは拳銃も持ってるだろうし。

中国やロシアなど、諸外国から来る可能性があるので。
念には念を入れて有事に備えておくって。

そう言われたら、しょうがないけど。


金銭目的でも、その身柄を狙って来る輩は大勢いそうだ。
ヴィットーリオが何気なくつけてる腕時計だけで、億とかの世界だし。

一般人とは違って、その辺をほいほい散歩することもできないだろう。
不自由でも、警護されるのも仕事のうちだ。

マフィアの”一族”だけじゃなく。全世界にある関連会社、その家族たちの生活までもヴィットーリオの双肩に掛かってる。
防犯上、生活の全てを把握されるのも、ヴィットーリオにとってはごく当たり前のことなんだ。


城の、あの地下室も。
自分以外姿を見るのは許さない、と監視カメラは切ってるものの、リッカルドが異変がないか音声をチェックしているそうだし。

南郷さんだって、これは仕事の一環で。
他人のアレなんて、聴きたくて聴いてた訳でもないだろう。

頭では、理解してる。


そういう相手から、求婚されたんだ。
ヴィットーリオがどういう身分だか知った上で、求婚を受けたのは自分だってわかってる。

わかってるけど。
でも。

恥ずかしいものは恥ずかしいし。
ショックを受けるのは仕方なくない!?


つい最近まで、ごく普通の大学生だったんだ。
何もかもをオープンに出来るメンタルは持ち合わせてないってば!


*****


不利な情報を何も聞かされてなかったので、詐欺に当たるが利益の有無の証明が難しく立件は見送る。

不法に人を逮捕し、または監禁する行為は逮捕・監禁罪。
13歳以上の者に対して暴行や脅迫をしてわいせつな行為をすることは強制わいせつ罪。

籍を勝手に移動するのは有印私文書偽造罪、公正証書原本等不実記載罪。パスポートを勝手に使うのは旅券法違反。
監視カメラで行動を把握、盗聴行為をするだけでは罪にはならないが、監視カメラ、盗聴によるストーカー行為はストーカー規制法違反にあたる。

これらは正当な婚約破棄の理由になる。
つまり。

結婚の約束は白紙、撤回だ!


そのような事を言って。
びっくりして停止した自動車から飛び出したのは、何となく覚えている。


化粧の落ちた女装姿で。
財布も持ってない、無一文で。

アパートに帰ろうにも、すでに解約されて。
荷物も向こうが預かってる状態だっけ?


契約書に無断で署名押印されたなら、有印私文書偽造罪が成立する。
本人の意思を無視しての解約だから、撤回も可能だ。

でも、大家さんに色々聞かれるのも嫌だ。
近所の人には、クリスティアーニの法律事務所で研修してるってことになってるし。


*****


ルイジさんちの養子になってイタリア国籍になった今。
僕は外国人だ。

身分を証明するものを一切所持してない。


……実際、ヴィットーリオのことを訴えたりなんかしないけど。
もししたくても、出来ないだろうし。

相手が大きすぎる場合、天秤は強いほうに傾くもんだ。
法律なんか、しょせん権力者が作ったものだしね。


どっちにしろ、帰る場所もないし。
ヴィットーリオ自身を嫌いになったって訳でもない。

恥ずかしくて混乱して取り乱しただけだ。
今だって、顔を覆ってその辺を走り回りたいくらい恥ずかしい。


すごく気まずいけど。
このまま、ヴィットーリオのところに戻るしかない。


でも。
少しだけ。考える時間が欲しいんだ。

客観的に考えて。
僕は、ヴィットーリオの伴侶として暮らしていけるのか、って。
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