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割れ鍋に綴じ蓋でした。

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あと、何で基が僕のブラウスに向かって話しかけたのかと思ったら。
ボタンが盗聴器だったようだ。

そう言われてボタンを良く見てみれば、裏側が機械っぽかった。

「このボタンが盗聴器だって、何でわかったの!?」
「うん。GPSもついてるよね? 稲葉の話からすると、カレシは相当なストーカーなのに、一人で歩かせるはずがないじゃん? 絶対何かつけてると思って。で、アクセサリー類はつけてないし。怪しいのはボタンかな、と」

すごい。名推理だ。
でもカレシ、の語尾を上げて言うな。


「何故、私が近くに居るとわかった?」
「話を聞くからに、俺が不埒な真似をしたら絶対ガラス割って入る。なら、その辺にいるかな、ってカマかけてみたんだよねー」

「…………」
ヴィットーリオは、基に言い当てられて、黙り込んでいる。


*****


どうぞ、と。
ヴィットーリオにココアを出した。

これ、二杯目じゃなくて、ヴィットーリオに用意するために練ってたのか。

Grazieありがとう
Pregoどういたしまして


基は自分のココアを飲み干して。こっちを見て言った。
「さて。客観的な意見としては、こんなヤバイ男やめて逃げなさい、と言いたいところだけど。稲葉がこのY君のことが大好きならいんじゃね? 勝手にしやがれどうぞ、このバカップル、って感じ」

にゃあ、と。僕の膝の上の猫も応えた。


「この人、クリスティアーニの総帥だよね? 何でY君? 卑猥のワイ?」
もといは、ヴィットーリオを示して言った。

顔、知ってたの?
ニュースで見たのかな。

僕がヴィック、って言ったから気付いたとか?

「ああ、私の名は、ヴィットーリオ・デル・テスタ。以前は御手洗みたらい ようという名だった」

「あ、だからY君だったのか。納得。……自分が有名人で。その結婚相手にはとんでもないプレッシャーがかかるって承知の上、プロポーズしたんだよね?」

「勿論。何よりも大切な、最愛の人だ。全てから護りたいと考え、その対策も考えてある」
ヴィットーリオは僕を見て、言った。


「そんなに愛してるなら、いざって時の逃げ場の一つくらい与えてやれっての。そんなんだから、かわいいハニーが切羽詰って、たいして親しくもない男の家に駆け込むことになっちゃうんだぞ。俺が紳士で感謝しな、シニョーレ」

猫の手を持って。
がおー、とか言ってる。

「……善処する」


「俺じゃなく、ちゃんとハニーに言ってやんなさい。……ちっ、稲葉のノート、延々と惚気を聞かされた代金としては安過ぎたな。砂吐きそう」
舌打ちした! ひどっ。


*****


「失礼ながら。君の頭脳なら、人からノートを借りる必要性など感じないのだが?」

調べたのかな?
基は、大学でも評判の秀才だって。

「多様性ってやつだよ。色んな人の意見とか見て、物の捉え方、考え方の違いを知りたかっただけ。そうやって誰も彼もジェラシー向けないように。俺は稲葉には惚れてないから。好きな人もいるし。安心しな」
基は嫌そうに言った。


嫉妬深くてごめん。
顔面偏差値だって、僕より基の方がずっと上なのに。

どう考えても僕なんてモテるわけがないのがわからないようだ。
目とか頭がどうにかしてるんだと思う。


「そうか、それならば安心だ。もし君が恋敵なら、到底勝ち目は無いと思ったのでね」

え?
何でヴィットーリオ、そんな寂しそうな顔してるの? 

「何言ってんのヴィック、どう見てもあらゆる面で優勝だよ!? 鏡見えてる!? 他に敵なんかいないよ!?」


目を見開いた、驚き顔の二人から注目を浴びて。

自分の発言に気付いて、恥ずかしくなった。
紛うことなき惚気でした、ハイ。


「はいはいお似合いのお二人さん、ちゃんと玄関から帰ってね! っていうか、とっとと帰れ!」
休学している僕には関係ないけど、レポート提出〆切間際だった。


*****


「大変お邪魔しました……」

玄関先で、頭を下げた。
庭から靴を回収したヴィットーリオも一礼して。

「宗司がお世話になった礼は、必ずしよう」


「その言い方、裏がありそうでめっちゃ怖いんですけど。稲葉はノートと相殺ってことだから。これで借りも貸しもナシってことで」
基は腕を組んで玄関先に寄りかかった格好で、シニカルな笑みを浮かべてる。

ヴィットーリオにそんな態度取れるとか。
勇気あるなあ。

「では、美味なチョッコラータの礼では?」
「美味しかった? あれ、ココアを練乳で練ってホットミルクで溶かしたんだ。エスプレッソコーヒーを飲みなれた紳士には甘すぎたかと思ったけど。意外とお子様舌かな?」

「ああ、甘いものは好きだ」
「普通に返すし……。別に、他の人におもしろおかしくしゃべったりしないから。特に礼とかいらないよ」

「その点は心配していない。君はからな」
「こっわ!」


「では、失礼。長々と邪魔をしてすまなかった」
ヴィットーリオは、僕の腰にさりげなく手を回して。

エスコートするように、近くで待機していた車に向かった。


「……あの、ごめん、何か色々口走っちゃって」
「いや、全て真実だ。君が黙って受け入れ、耐えていただけで。私はかなりの暴力を君に加えていたのだと知った。望まないサプライズは暴力なのだと」


……あれ、サプライズのつもりだったんだ。
認識の違いってこわい。


*****


車から、南郷さんが出てきて。

「デリカシーが足りず、本当にすみませんでした」
跪いて、頭を下げられたので。

「そんな、南郷さんのせいじゃないし、謝らないでください。自分の仕事をしただけですよね?」


「天使……!」
跪いたまま、手を組んで見上げないで欲しい。

基がドアから顔出して、にやにやしながらこっち見てるから。
早く車出して……。


盗聴器でなく、手首が胸に心拍数を測るテープをつけて、何かあれば脈拍が上がるので、それで駆けつけたらどうかという南郷さんの意見に。
ヴィットーリオは、僕といるとドキドキして上がりっぱなしだから無意味だと返していた。

そうだね。
エッチしてたらどうしても上がっちゃうしね。


でも、涼しげな顔をしてるし。
ドキドキしてるようには見えないけど。

胸に耳を当ててみたら、鼓動が早くなった。


「ほんとだ」
「君の鼓動はどうかな?」

大きな手が、首の動脈を探っている。

「……私と同じだ」
甘く微笑まれて。


更にドキドキしてしまう。
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