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Ⅲ
異世界で、乾杯。
しおりを挟む多めに作ったはずのガーリックトーストは、あっという間に食い尽くされていた。
野菜をスティック状に切って。バーニャカウダでも出しておこうか。前菜だ。
アンチョビと火を通して柔らかくしたニンニク、オリーブオイルを混ぜ合わせたディップソースを鍋で温めて。野菜を浸して食べる料理だ。
ニンニクとアンチョビ大好きですが何か?
「ウィル、これ運んでー」
ウィリアムを呼んだのに、全員来た。
「これ、何て料理です?」
もう酔っぱらってるのか、オズワルドは顔真っ赤だ。飲み過ぎるなよ?
「バーニャカウダ。このソースに、野菜とか浸して食べる。熱いから気を付けて」
「はい、了解です!」
良い笑顔だった。
*****
ああ、大皿に山盛りの野菜が、欠食野郎どもの胃袋へ消えていく……。
あいつら、俺の分を残そうとか、欠片も考えてなさそうだな。
味見と称してつまみ食いしてるからいいけど。
この分じゃ、クリームシチューもスープみたいに飲み干されそうだ。
17と18の食べ盛りの騎士たちにお腹をすかせた25の若者と、26の餓えた神職だ。さすがに園児の胃袋とは桁が違う。
シチューの他に、メインを考えるか。
肉料理がいいな。シンプルなステーキはいい加減食べ飽きてるだろうから、ハンバーグにしよう。
ハンバーグは肉100%より、パン粉のつなぎが入った方が口当たりが軟らかくて好きだ。チェダーチーズを載せて。
いっそ、お子様ランチならぬ大人様ランチにしてしまうか。
”創造”で大きなワンプレートを作成。
ハンバーグの下にはナポリタン。具は、オーソドックスに玉ねぎとピーマンとウインナーソーセージだ。
仕切りはシャキシャキのレタス。オムライスにはエビフライをのせて、ケチャップで猫ちゃんとか描いたりして。
デザートはイチゴの中に練乳を注いで凍らせたもの。シンプルだけど、これ美味いんだよな。
茶碗蒸しとプリンを交互に出して混乱させても面白いな。
あ、シチューを煮てる間にエビとマッシュルームのアヒージョも作るか。プチトマトとブロッコリーも入れて。鶏肉で作っても美味いんだよな。
アヒージョは、オリーブオイルとニンニクで食材を煮込んだ料理のことである。食材は何でもアリだ。
ホタテの貝柱をベーコンで巻いてバターソテーしたのも美味い。……ちょっとくどすぎるか?
お客様には、美味しいものを食べさせたい。
今回、酒と食材は”創造”のスキルで作っちゃったが、料理は自分の手で作りたい。
*****
追加で作ったアヒージョも胃袋の中に消え去った頃、全員分の大人様ランチ完成。
「ウィル、メインできたよー」
「待ってました!」
また皆で来たので、トーストを添えたシチューの皿と大人様ランチのプレートを各自運んでもらおう。
俺も自分の分を持って、テーブルに向かう。
「お疲れ様。大変だったろう」
ウィリアムは自分の皿を置いて。俺の手から皿を受け取ってテーブルへ置き、俺の椅子を引く。流れるような動きだった。イケメンスキル高すぎる。
「えー、愛らしき御使いリン様のご降臨ならびに新居完成、そして最高に美味しいお料理に」
プレストンはビールの入ったタンブラーを掲げた。こっちも乾杯の音頭ってあるんだ。
「この料理の名前は何です?」
「大人様ランチ。冷めないうちにどうぞ」
オズワルドに食事を勧める。
オムライスの中身はケチャップライスでもいいけど。出汁で炊いたご飯にした。
うん、上手くできたな。
「ガラスのコップも大変素晴らしいものでしたが、この、タンブラー? これもまた、素晴らしいですね!」
キンキンに冷えた、銅製のタンブラー。最後のひと口まで温くならずにビールが飲めるという優れものである。
「中のお酒は、麦酒ですよね? とても美味ですが、どこの酒造で手に入れ……、」
言いかけて。
”創造”のスキルで作ったものだと気づいたようだ。
中のビールは、昔オクトーバーフェストで飲んだ旨いビールを思い浮かべて作った。
俺だけジュースで乾杯だ。
俺の身体は子供だから、あと最低5年は酒が飲めないのがつらいが。喜んでもらえてよかった。
この世界、15歳で成人扱いだからな……。
早く大人になりたいと思うようになるとは……。中身はおっさんなのに。
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