神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙

文字の大きさ
21 / 71

異世界で、昭和を感じる

 ウィリアムがこれなら作れると言っていた、ハムサンド……つまり、も。

 ”挟む”は英語でputであって、決してサンドなどとは言わない。外国で注文したら、砂を食わされる羽目になる。
 ”~サンド”は完全なる和製英語だから。

 イギリスのサンドイッチ伯爵が、トランプゲームをしながらでも片手で食べられる軽食を求めた逸話から、その名がついたという。だから。サンドイッチ……それもハムサンドなんて名称、日本人以外の口から出て来るわけがないんだ。

 偶然こっちにも同じ名前の人がいて。同じ料理を作らせる可能性って、どのくらいある?
 全くない、ということはないかもしれないが。限りなくゼロに近いはずだ。

 この世界にはなかったという、塩湖や赤い塩のことも知っていたのも。


 *****


 考えてみれば、気付くヒントはいくらでもあったんだ。
 忍者、雪見障子って言葉。

 この家を見て、最初はただ驚いてたように見えたけど。
 この世界には存在しないはずの、水洗式トイレや浴槽、スプリングのソファーやベッドに対しては反応が薄かったのは。

 まさか。ウィリアムは。
 日本の。


「そうではないかと思っていたけど。あの”お子様ランチ”の大人版で確信した」
 顔を上げたら、目が合った。


 あ、ウィリアム、全然酔ってない。顔も赤くないし、真顔だ。
 アルコール、自力で解毒したのか?

 ウィリアムは、あくまでも静かに。
 だが威圧感のある声で言った。


「……君は、日本から来たのだね?」


 ひええ。
 ごめんなさい、俺がやりました!

 と。
 つい、やってもいない罪を認めたくなってしまうような迫力だった。


「ウィリアム様、なに子供を本気で口説いてんの? 未成年はダメっしょ。あはは、」
 オズワルドの明るい声で、気が抜けた。

 鍋のシチュー、置いてあったフランスパンも。全部三人で食い尽くしてしまったという。
 ……あの寸胴鍋、業務用だぞ? 胃袋に限界無さすぎだ。

 ちょっと救われた気がしたが。


「私は、これから大事な話をしなくてはならない。そこで伸びてるメイヤー師を連れて、今すぐロチェスターに戻れ」
 ウィリアムがそうすると。

「はっ、ただちに遂行致します」
 赤ら顔だったオズワルドの顔色が通常に戻り、きびきびと敬礼した。その後ろにいたオーソンも。

「ああ、明日スペンサー達を呼んで、昼過ぎ頃に来るように」
かしこまりましたラップサープ!」


 オーソンと二人、リビングルームのソファーで撃沈してたプレストンを連行していった。


 *****


 ……明日の昼まで、ウィリアムと二人っきりってことか?
 何をされるんだ、俺⁉


「……そのように絞められる前の家鴨ペットのように怯えずとも、責めるつもりはないのだが。驚かせたか?」
 緊張した背中を、ポンポンと手のひらであやすように叩かれた。

「このような異世界で、まさか同じ国の者と逢えるとは思わず。つい気がはやってしまった。すまない」
「じゃ、やっぱり。ウィ……ウィルも?」

「ああ。私は1970年に日本で生まれた。君と同じ、日本人だった」
 少し困ったような笑顔で言った。


 え? えーと、今が2022年だから、ウィリアムは52歳? 俺が1987年で35歳。17歳年上か。昭和でいうと、俺が62年だから……昭和45年生まれか。ってことは。
 ひと回り以上、年上になるのでは……?

「俺、1987年生まれ……」
 死んだのは2022年だと伝える。

「え? 意外といってたな。……では、更に知らないかもしれないな。私は生前、芸能人をしていたのだけど」
 意外といってたとはどういう意味だ。中身アラフォーには思えないという意味か?

「せいぜん」
 生前、ってけっこうなパワーワードだな。傍で聞いたら電波系みたいだ。

「そう。生前。私は36歳の時に死んで、この世界に生まれ変わったんだ」


 俺が高校くらいの時にはもう滅多にテレビには出てなくて、舞台やコンサートがメインだったそうだ。亡くなったのは36歳の時だから、2006年?
 俺が19歳の時か。料理の専門学校に通ってる頃だな。

「うちの母親ミーハーだったから。知ってるかも。な、名前は?」
 つい、食いつき気味に訊いてしまった。


「 榊原流星さかきばらりゅうせい、という名だったよ」
 ウイリアムが、苦笑しながら答えたのは。
「え⁉ リューセー⁉」

 なんと……!
 俺もよく知ってる名前だった!!


 *****


 当たり前なんだけど。
 今はリューセーの面影なんて全くない、西洋人風の顔だけど。

 本当に、中身は日本人なんだ。

 専門学校にはファンクラブに入って、舞台にも通ってた子もいたくらいだ。
 リューセー自殺のニュースを聞いた老若男女問わず、かなり落ち込んでたっけ。


「やっぱり、聞いたことなかった?」
 男の子は興味ないだろうな、とか言ってるけど。

 とんでもない。リューセーファンだった野郎どもがどれだけ悲しんだか!
 亡くなった後も、カラオケでもパートの奪い合いが起こるほどだったし。追悼メドレーオフなんかも催されてた。


「すごく、知ってる。昭和の大スター! ダニーズ所属、美少年ファイブのリューセー! 一日中、ニュースやってた!」

「……そ、そうか……」
 ドン引きされた。


 しまった。
 はじめて、知ってる芸能人を生で見たからって興奮しすぎた。

 いや、今は転生して、その芸能人の姿じゃないんだけど。まさかウィリアムの中の人がリューセーだったなんて……! 塩対応してしまった自分をひっぱたきたい。
感想 8

あなたにおすすめの小説

冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない

北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。 ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。 四歳である今はまだ従者ではない。 死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった?? 十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。 こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう! そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!? クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。

オレの番になって──異世界に行って愛猫の番にされる話

まめ
BL
不慮の事故により、異世界に転移することになった神木周。 心残りは、唯一の家族だった愛猫・ネロのことだけだった。 ──目覚めた草原で再会したのは、見覚えのある大きな黒い獣。ネロが追いかけてきてくれたのだ。 わからないことばかりの異世界だけど、ネロがいるからきっと大丈夫。 少しずつ心をほどき、神に招かれた世界で穏やかな毎日を楽しむ周たち。 しかし、そんな彼らに不穏な気配が忍び寄る―― 一人と一匹がいちゃいちゃしながら紡ぐ、ほのぼの異世界BLファンタジー。 こんにちは異世界編 1-9 話 不穏の足音編 10-18話 首都編 19-28話 番──つがい編 29話以降 全32話 執着溺愛猫獣人×気弱男子 他サイトにも掲載しています。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!