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Ⅳ
異世界で、昭和を感じる
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ウィリアムがこれなら作れると言ったハムサンド……ハムのサンドイッチも。
挟むは英語でputで、決してサンドなどとは言わない。
外国で注文したら砂を食う羽目になる。”~サンド”は完全なる和製英語だから。
イギリスのサンドイッチ伯爵が、トランプゲームをしながらでも食べられる軽食を求めた逸話からその名がついた。
偶然こっちにも同じ名前の人がいて、同じ料理を作る可能性って、どのくらいある?
全くない、ということはないかもしれないが。限りなくゼロに近いはずだ。
この世界にはなかったという、塩湖や赤い塩のことも知っていたのも。
*****
この家を見て、最初は驚いてたけど。
ここにはないはずの、水洗式トイレや浴槽、スプリングのソファーやベッドに対しては反応が薄かったのは。
まさか。ウィリアムは。
「そうではないかと思っていたけど。あの”お子様ランチ”の大人版で確信した」
顔を上げたら、目が合った。
あ、ウィリアム、全然酔ってない。顔も赤くないし、真顔だ。
アルコール、自力で解毒したのか?
ウィリアムは、あくまでも静かに。
だが威圧感のある声で言った。
「……君は、日本から来たのだね?」
ひええ。
ごめんなさい、俺がやりました!
と。
つい、やってもいない罪を認めたくなってしまうような迫力だった。
「ウィリアム様、なに子供を本気で口説いてんの? 未成年はダメっしょ。あはは、」
オズワルドの明るい声で、気が抜けた。
鍋のシチュー、置いてあったフランスパンも。全部三人で食い尽くしてしまったという。
……あの寸胴鍋、業務用だぞ?
ちょっと救われた気がしたが。
「私は、これから大事な話をしなくてはならない。そこで伸びてるメイヤー師を連れて、今すぐロチェスターに戻れ」
ウィリアムがそう命令すると。
「ただちに遂行致します」
赤ら顔だったオズワルドの顔色が戻り、敬礼した。その後ろにいたオーソンも。
「ああ、明日スペンサー達を呼んで、昼過ぎ頃に来るように」
「かしこまりました!」
オーソンと二人、リビングルームのソファーで撃沈してたプレストンを連行していった。
*****
明日の昼まで、ウィリアムと二人っきり?
何をされるんだ、俺!?
「……そのように絞められる前の家鴨のように怯えずとも、責めるつもりはないのだが。驚かせたか?」
緊張した背中を、ポンポンと手のひらであやすように叩かれた。
「このような異世界で、まさか同じ国の者と逢えるとは思わず。つい気が逸ってしまった。すまない」
「じゃ、やっぱり。ウィ……ウィルも?」
「ああ。私は1970年に日本で生まれた。日本人だった」
少し困ったような笑顔で言った。
え? えーと、今が2022年だから、ウィリアムは52歳? 俺が1987年で35歳。17歳上?
昭和でいうと俺が62年……昭和45年生まれか。
かなり年上では……?
「俺、1987年生まれ……」
「え? 意外といってたな。……では、知らないかもしれないな。私は生前、芸能人をしていたのだけど」
俺が高校くらいの時にはもう滅多にテレビには出てなくて、舞台やコンサートがメインだったそうだ。亡くなったのは36歳の時。2006年?
俺が19歳の時か。専門学校に通ってる頃だな。
「うちの母親ミーハーだったから。知ってるかも。な、名前は?」
つい、食いつき気味に訊いてしまった。
「 榊原流星、という名だったよ」
苦笑しながら答えたのは。
なんと。
俺もよく知ってる名前だった。
*****
当たり前なんだけど。
今はリューセーの面影なんて全くない、西洋人風の顔だけど。
本当に、中身は日本人なんだ。
専門学校にはファンクラブに入って、舞台にも通ってた子もいたくらいだ。
リューセー自殺のニュースを聞いて、かなり落ち込んでたっけ。
「聞いたことなかった?」
男の子は興味ないだろう、とか言ってるけど。
とんでもない。
亡くなった後も、カラオケでもパートの奪い合いが起こるほどだったし。
追悼メドレーオフなんかも催されてた。
「すごく、知ってる。昭和の大スター! ダニーズ所属。美少年Ⅴのリューセー。一日中ニュースやってた!」
「……そ、そうか……」
ドン引きされた。
はじめて、知ってる芸能人を生で見たからって興奮しすぎた。
今は転生して、芸能人じゃないんだけど。
挟むは英語でputで、決してサンドなどとは言わない。
外国で注文したら砂を食う羽目になる。”~サンド”は完全なる和製英語だから。
イギリスのサンドイッチ伯爵が、トランプゲームをしながらでも食べられる軽食を求めた逸話からその名がついた。
偶然こっちにも同じ名前の人がいて、同じ料理を作る可能性って、どのくらいある?
全くない、ということはないかもしれないが。限りなくゼロに近いはずだ。
この世界にはなかったという、塩湖や赤い塩のことも知っていたのも。
*****
この家を見て、最初は驚いてたけど。
ここにはないはずの、水洗式トイレや浴槽、スプリングのソファーやベッドに対しては反応が薄かったのは。
まさか。ウィリアムは。
「そうではないかと思っていたけど。あの”お子様ランチ”の大人版で確信した」
顔を上げたら、目が合った。
あ、ウィリアム、全然酔ってない。顔も赤くないし、真顔だ。
アルコール、自力で解毒したのか?
ウィリアムは、あくまでも静かに。
だが威圧感のある声で言った。
「……君は、日本から来たのだね?」
ひええ。
ごめんなさい、俺がやりました!
と。
つい、やってもいない罪を認めたくなってしまうような迫力だった。
「ウィリアム様、なに子供を本気で口説いてんの? 未成年はダメっしょ。あはは、」
オズワルドの明るい声で、気が抜けた。
鍋のシチュー、置いてあったフランスパンも。全部三人で食い尽くしてしまったという。
……あの寸胴鍋、業務用だぞ?
ちょっと救われた気がしたが。
「私は、これから大事な話をしなくてはならない。そこで伸びてるメイヤー師を連れて、今すぐロチェスターに戻れ」
ウィリアムがそう命令すると。
「ただちに遂行致します」
赤ら顔だったオズワルドの顔色が戻り、敬礼した。その後ろにいたオーソンも。
「ああ、明日スペンサー達を呼んで、昼過ぎ頃に来るように」
「かしこまりました!」
オーソンと二人、リビングルームのソファーで撃沈してたプレストンを連行していった。
*****
明日の昼まで、ウィリアムと二人っきり?
何をされるんだ、俺!?
「……そのように絞められる前の家鴨のように怯えずとも、責めるつもりはないのだが。驚かせたか?」
緊張した背中を、ポンポンと手のひらであやすように叩かれた。
「このような異世界で、まさか同じ国の者と逢えるとは思わず。つい気が逸ってしまった。すまない」
「じゃ、やっぱり。ウィ……ウィルも?」
「ああ。私は1970年に日本で生まれた。日本人だった」
少し困ったような笑顔で言った。
え? えーと、今が2022年だから、ウィリアムは52歳? 俺が1987年で35歳。17歳上?
昭和でいうと俺が62年……昭和45年生まれか。
かなり年上では……?
「俺、1987年生まれ……」
「え? 意外といってたな。……では、知らないかもしれないな。私は生前、芸能人をしていたのだけど」
俺が高校くらいの時にはもう滅多にテレビには出てなくて、舞台やコンサートがメインだったそうだ。亡くなったのは36歳の時。2006年?
俺が19歳の時か。専門学校に通ってる頃だな。
「うちの母親ミーハーだったから。知ってるかも。な、名前は?」
つい、食いつき気味に訊いてしまった。
「 榊原流星、という名だったよ」
苦笑しながら答えたのは。
なんと。
俺もよく知ってる名前だった。
*****
当たり前なんだけど。
今はリューセーの面影なんて全くない、西洋人風の顔だけど。
本当に、中身は日本人なんだ。
専門学校にはファンクラブに入って、舞台にも通ってた子もいたくらいだ。
リューセー自殺のニュースを聞いて、かなり落ち込んでたっけ。
「聞いたことなかった?」
男の子は興味ないだろう、とか言ってるけど。
とんでもない。
亡くなった後も、カラオケでもパートの奪い合いが起こるほどだったし。
追悼メドレーオフなんかも催されてた。
「すごく、知ってる。昭和の大スター! ダニーズ所属。美少年Ⅴのリューセー。一日中ニュースやってた!」
「……そ、そうか……」
ドン引きされた。
はじめて、知ってる芸能人を生で見たからって興奮しすぎた。
今は転生して、芸能人じゃないんだけど。
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