神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙

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異世界で、前職を語る

 ウィリアムは不思議そうに、蒼い目をパチパチと瞬かせた。
 音がしそうなくらい、長い睫毛だ。

「私が王族だと気づいてたのかい? 騎士だって言ったのに」

 ……え? それ、本気で言ってる?
「むしろあれだけ王族然として振舞っておいて、隠す気あるのかと思ってた」

 行動の端々から出ているロイヤルムーブとか。エルマー公の態度とか、見てたら誰でもわかると思う。

「……まだ、子供だと思っていたしね」
 肩を竦めている。


 ウィリアムは、最初に俺を見た時。
 俺のことはアジア系の顔の子だなあ、と思ったけど。でも、こっちにも他の国にはこういう……堀りが深くない、幼い顔立ちの人種はいないこともないので、特に気にしてなかったそうだ。

 言葉がたどたどしいので、それは幼いせいかと思っていたが。
 物事に対する反応とかを見ているうちに、あまり子供らしくないというか。見た目通りの年齢ではないのだろうな、と勘付いたけど。

 さすがに同じ日本人だという可能性はほぼないと思っていたし。違って落胆しないよう、期待しないでいたらしい。


 *****


 見た目通りの子供じゃないと初日からわかってたのなら、何で添い寝したのかと訊いてみたら。ウイリアムは悪びれもせず言った。
「すぐ真っ赤になって、反応が可愛かったから、つい。この髪も撫で心地良いし」

 つい、じゃない。
 自分の美貌を自覚した上での確信的犯行だった。

 椅子を引いたりエスコートしていたのは、王族として自然に身についている無意識の紳士的振る舞いというか。
 つい、何か手助けしたくなってしまうのだと言われた。

 ウィリアムって、世話焼きな性格だったのか……。


 俺の話し言葉がたどたどしかったのは、別に演技とかじゃなくて。
 単にコミュ障気味なのと、10歳くらいの子供の口調が普通、どんなものかわからなくて悩んでいたからだ。幼児なら良く知ってるんだが。
 言葉の端々におっさん臭さがにじみ出ないよう、言葉を選んで話していたつもりだ。

 得意分野の話なら、流暢に長々と語れる自信はある。


 ウィリアムは、貯水池、塩湖を作った時点では、アジア系かなあ、くらいに思ってたけど。
 俺が作った作った庭を見て。

 これはどう見ても日本庭園だと思って、もしかしたら日本人かも、とちょっと期待したが。それにしては和洋折衷すぎたので、ニンジャに憧れる外国の人も多いことだし。まだ、俺が日本人であるという確信は持てなかったのだという。
 土足じゃないのも、日本の生活スタイルを真似した可能性があるし。
 丸い障子や雪見障子も、アメリカのニンジャ映画に出てくるくらいポピュラーだそうだ。

 おまけに出てくる料理は多国籍。
 イタリアにスペインにフランスと、統一性がないので特定が難しかった。

 でも、どれも最高に美味しかった? 城の料理人以上? それはありがとう。でも、お城の料理人も、あの乏しい材料で頑張ってると思うぞ……。


 *****


 そして。
 俺は、ちょっとした悪戯心で。
 ”大人様ランチ”のそれぞれのオムライスに、トマトケチャップで皆の名前を書いたのだ。
 日本語……それも、ひらがなで。

 ウィリアムは、それで俺が日本人だと確信したんだって。

 当然、皆は読めなかったので。
 自分の名前が書かれたオムライスを手にしたのはウィリアムだけだったそうだ。

 いや、俺は別に、俺の保護者になってくれたウィリアムにまで自分が異世界からの転生者で、生前日本人だったことを頑なに隠し通すつもりはなかったんだけど。
 話すタイミングがなかったというか。単にまだ、そこまで詳しい個人情報を打ち明けるほど、打ち解けてなかっただけだ。


「俺は普通の、地方公務員だったよ。調理師……保育園で、子供に給食とかおやつを作る仕事をしてた」
 そう告げると。ウィリアムは笑顔で頷いてみせた。

「なるほど、やはりプロだったのか。道理でレパートリーが豊富で手際もいいはずだ。ああ、もちろんプロでも要領が悪く及第点も出せない者はいる。君は、センスもあるし、相当研鑽を積んだのだろうね」
 王子様、褒め過ぎです。

 さっき年齢を訊いて、前世では大きなホテルのシェフをしていたのかと思ったらしい。
 いや、そこまで洗練されてはいないと思う……。


 *****


 保育園の場合、先生、園長、事務など大人の分も含め、毎日だいたい100食は作ってたな。乳児やアレルギー持ちの子にはそれぞれ別メニュー。
 おやつも手作りなので、昼ご飯を作った後はほぼ休みもなくおやつ作り。

 栄養士が出してくる、どんなトンチキなメニューだろうが、初見であっても、時間内に作り終えなければならない。
 夏は蒸し風呂、冬は極寒の中、朝から夕方までの力仕事で。ほとんどの調理師が腰をやったり腕の筋を痛めるという、過酷な肉体労働だ。

 しかし、そんな大変な仕事でも。辞めたいとは思わなかった。

 子供たちの笑顔が。
 おいしい、というひとことが。俺の原動力だった。


 お菓子は、材料をきっちり計ってちゃんとレシピ通りに作れば、誰でも美味しく作れるものだが。
 料理はセンスだ。同じ材料でも焼きひとつ、切り方ひとつで味が変わると言っていい。
 幸い、俺には料理の才能があったんだと思う。


 今思えば、いわば、前職が天職だったんだ。
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