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Ⅳ
異世界で、前職を語る。
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「私が王族だと気づいてたのかい? 騎士だって言ったのに」
ウィリアムは蒼い目をパチパチと瞬かせた。
音がしそうなくらい長い睫毛だ。
「むしろあれだけ王族然として振舞っておいて、隠す気あるのかと思ってた」
「……まだ、子供だと思っていたしね」
ウィリアムは、最初に見た時。
俺のことはアジア系の顔の子だなあ、と思ったけど。でも、こっちにも他の国にはこういう……堀りが深くない、幼い顔立ちの人種はいるので、特に気にしてなかったそうだ。
物事に対する反応とかを見ているうちに。
あまり子供らしくないというか。見た目通りの年齢ではないだろう、と勘付いたけど。
さすがに同じ日本人だという可能性はほぼないと思っていたし。違って落胆しないよう、期待しないでいたらしい。
*****
見た目通りの子供じゃないとわかってたのなら、何で添い寝したのか訊いたら。
「すぐ真っ赤になって、反応が可愛かったから、つい。この髪も撫で心地良いし」
自分の美貌を自覚した上での確信的犯行だった。
椅子を引いたりしたのは、無意識の紳士的振る舞いというか。
つい、何か手助けしたくなってしまうのだと言われた。
ウィリアムって、世話焼きな性格だったのか……。
俺の話し言葉がたどたどしいのは、単にコミュ障気味なのと、10歳くらいの子供の口調が普通、どんなものかわからなかったからだ。
おっさん臭さがにじみ出ないよう、言葉を選んで話していた。
得意分野の話なら流暢に長々と語れる自信はある。
ウィリアムは、貯水池、塩湖を作った時点では、アジア系かなあ、くらいに思ってたけど。
俺が作った作った庭を見て。
日本庭園風だと思って、もしかしたら日本人かも、とちょっと期待したが。
それにしては和洋折衷すぎたので、ニンジャに憧れる外国の人も多いことだし。まだ、俺が日本人であるという確信は持てなかったのだという。
土足じゃないのも、日本の生活スタイルを真似した可能性があるし。
丸い障子や雪見障子も、アメリカのニンジャ映画に出てくるくらいポピュラーだそうだ。
おまけに出てくる料理は多国籍。
イタリアにスペインにフランスと、統一性がないので特定が難しかった。
でも、どれも最高に美味しかった? 城の料理人以上? それはありがとう。でも、あの乏しい材料で頑張ってると思う……。
*****
そして。
俺は、ちょっとした悪戯心で。
”大人様ランチ”のそれぞれのオムライスに、トマトケチャップで皆の名前を書いたのだ。
日本語……ひらがなで。
ウィリアムは、それで俺が日本人だと確信したんだって。
当然、皆は読めなかったので。
自分の名前が書かれたオムライスを手にしたのはウィリアムだけだったそうだ。
いや、俺は別に、自分が異世界からの転生者で、生前日本人だったことを隠し通すつもりはなかったんだけど。
話すタイミングがなかったというか。
単にまだ、そこまで詳しい個人情報を打ち明けるほど打ち解けてなかっただけだ。
「俺は普通の、地方公務員だったよ。調理師……保育園で子供に給食とかおやつを作る仕事」
「ああ、やはりプロだったのか。道理でレパートリーが豊富で手際もいいはずだ。ああ、もちろんプロでも要領が悪く及第点も出せない者はいる。君は、センスもあるし、相当研鑽を積んだのだろうね」
王子様、褒め過ぎです。
年齢を訊いて、前世では大きなホテルのシェフかと思ったらしい。
そこまで洗練されてはいないと思う……。
*****
保育園の場合、先生、園長、事務など大人の分も含め、毎日だいたい100食は作ってたな。乳児やアレルギー持ちの子には別メニュー。
おやつも手作りなので昼ご飯を作った後はほぼ休みもなくおやつ作り。
栄養士が出してくる、どんなトンチキなメニューだろうが、初見であっても、時間内に作り終えなければならない。
夏は蒸し風呂、冬は極寒の上、ほとんどの調理師が腰をやったり腕の筋を痛めるという力仕事。
そんな大変な仕事でも。辞めたいとは思わなかった。
子供たちの笑顔が。
おいしい、というひとことが、俺の原動力だった。
菓子は材料をきっちり計ってレシピ通りに作れば美味しく作れるが。
料理はセンスだ。同じ材料でも焼きひとつ、切り方ひとつで味が変わると言っていい。
幸い、俺には料理の才能があったんだと思う。
いわば、前職が天職だったんだ。
ウィリアムは蒼い目をパチパチと瞬かせた。
音がしそうなくらい長い睫毛だ。
「むしろあれだけ王族然として振舞っておいて、隠す気あるのかと思ってた」
「……まだ、子供だと思っていたしね」
ウィリアムは、最初に見た時。
俺のことはアジア系の顔の子だなあ、と思ったけど。でも、こっちにも他の国にはこういう……堀りが深くない、幼い顔立ちの人種はいるので、特に気にしてなかったそうだ。
物事に対する反応とかを見ているうちに。
あまり子供らしくないというか。見た目通りの年齢ではないだろう、と勘付いたけど。
さすがに同じ日本人だという可能性はほぼないと思っていたし。違って落胆しないよう、期待しないでいたらしい。
*****
見た目通りの子供じゃないとわかってたのなら、何で添い寝したのか訊いたら。
「すぐ真っ赤になって、反応が可愛かったから、つい。この髪も撫で心地良いし」
自分の美貌を自覚した上での確信的犯行だった。
椅子を引いたりしたのは、無意識の紳士的振る舞いというか。
つい、何か手助けしたくなってしまうのだと言われた。
ウィリアムって、世話焼きな性格だったのか……。
俺の話し言葉がたどたどしいのは、単にコミュ障気味なのと、10歳くらいの子供の口調が普通、どんなものかわからなかったからだ。
おっさん臭さがにじみ出ないよう、言葉を選んで話していた。
得意分野の話なら流暢に長々と語れる自信はある。
ウィリアムは、貯水池、塩湖を作った時点では、アジア系かなあ、くらいに思ってたけど。
俺が作った作った庭を見て。
日本庭園風だと思って、もしかしたら日本人かも、とちょっと期待したが。
それにしては和洋折衷すぎたので、ニンジャに憧れる外国の人も多いことだし。まだ、俺が日本人であるという確信は持てなかったのだという。
土足じゃないのも、日本の生活スタイルを真似した可能性があるし。
丸い障子や雪見障子も、アメリカのニンジャ映画に出てくるくらいポピュラーだそうだ。
おまけに出てくる料理は多国籍。
イタリアにスペインにフランスと、統一性がないので特定が難しかった。
でも、どれも最高に美味しかった? 城の料理人以上? それはありがとう。でも、あの乏しい材料で頑張ってると思う……。
*****
そして。
俺は、ちょっとした悪戯心で。
”大人様ランチ”のそれぞれのオムライスに、トマトケチャップで皆の名前を書いたのだ。
日本語……ひらがなで。
ウィリアムは、それで俺が日本人だと確信したんだって。
当然、皆は読めなかったので。
自分の名前が書かれたオムライスを手にしたのはウィリアムだけだったそうだ。
いや、俺は別に、自分が異世界からの転生者で、生前日本人だったことを隠し通すつもりはなかったんだけど。
話すタイミングがなかったというか。
単にまだ、そこまで詳しい個人情報を打ち明けるほど打ち解けてなかっただけだ。
「俺は普通の、地方公務員だったよ。調理師……保育園で子供に給食とかおやつを作る仕事」
「ああ、やはりプロだったのか。道理でレパートリーが豊富で手際もいいはずだ。ああ、もちろんプロでも要領が悪く及第点も出せない者はいる。君は、センスもあるし、相当研鑽を積んだのだろうね」
王子様、褒め過ぎです。
年齢を訊いて、前世では大きなホテルのシェフかと思ったらしい。
そこまで洗練されてはいないと思う……。
*****
保育園の場合、先生、園長、事務など大人の分も含め、毎日だいたい100食は作ってたな。乳児やアレルギー持ちの子には別メニュー。
おやつも手作りなので昼ご飯を作った後はほぼ休みもなくおやつ作り。
栄養士が出してくる、どんなトンチキなメニューだろうが、初見であっても、時間内に作り終えなければならない。
夏は蒸し風呂、冬は極寒の上、ほとんどの調理師が腰をやったり腕の筋を痛めるという力仕事。
そんな大変な仕事でも。辞めたいとは思わなかった。
子供たちの笑顔が。
おいしい、というひとことが、俺の原動力だった。
菓子は材料をきっちり計ってレシピ通りに作れば美味しく作れるが。
料理はセンスだ。同じ材料でも焼きひとつ、切り方ひとつで味が変わると言っていい。
幸い、俺には料理の才能があったんだと思う。
いわば、前職が天職だったんだ。
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