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Ⅷ
異世界で、家族を想う。
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「陛下、お帰りなさいませ」
城の前ではオーソンが出迎えて。ナムグンの手綱を引いて、オズワルドが厩に行った。
抱いていたシロを下ろすと、成犬の姿になって庭へ駆けてった。
これからここが自分の住む場所だから、安全とか確かめに行ったんだろう。
「あ、どこかにシロ用の水場作っていい?」
”聖水”を求めてくる人たちのために、家の外に水場を作っておいたんだけど。
シロが気に入って、家に戻る時、そこで水を飲むのが習慣みたいになってたから。同じようなのを作ってやりたい。
「あの花壇の近くなどいかがでしょう?」
オーソンが示した。
あの辺なら、花に水をあげるのにも丁度良さそうだ。
*****
「ここにも、人が集まるようになるだろうな……」
ウィリアムが、嬉しそうに走り回るシロを見て呟いた。
「……水場、お城の外にも作ろうか?」
俺が作った水場は、”神の使い、狛犬様が好んで飲まれているありがたい聖水”だと国外でも噂になって。リズリーにはかなりの人が水を汲みに通ってくるようになっていた。
給水制限や、販売をすればいいという人もいたけど。
なるべく、この能力で作ったもので商売はしたくないんだよな。
”創造”の能力で生やしたサトウキビやテングサとかは、そのまま流通させるんじゃなくて、加工して他の人の手も入るからセーフ、って考えだ。
神様からは、好きなように使っていいとは言われてるけど。俺の倫理観からすれば、この能力をお金儲けに使うのは、ずるい気がするから。
「リン様のお荷物は、これだけですか?」
オーソンが、俺の鞄を持ってくれた。
ここに来る時に、身一つで来ていいよ、って言われたけど。
着替えくらいはリズリーの家から持ってきた。これ以上服を作られても困るし。
冷蔵庫の中身で卵や牛乳などの日持ちしないものは、ちょうどパーティーで使い切ったので大丈夫だろう。後は乾物くらいか。
一応、スペンサー夫妻にはあるものは使っちゃっていいよって言っておいたし。
「ようこそ、我が家へ」
ウィリアムが、胸に手を当てて優雅に腰を折ってみせた。
我が家というには広すぎるけど。
ウィリアムと、一緒に住むところか。
「今日からここは君の家だよ」
「じゃあ、ええと……ただいま?」
「ふふ、おかえり。私の可愛いリン」
ふわあ。甘い……! 何その蕩けそうに甘い微笑み。ドキドキしちゃうだろ!
「……コホン、」
オーソンがわざとらしく咳払いした。
玄関先で二人の世界を作るなって? それはウィリアムに言ってよ!
*****
ウィリアムは、新しく改修した場所を説明してくれた。
お風呂の浴槽は、寝たまま浸かれるところや少し深い場所も作ったとか。プールじゃないんだから。打たせ湯もあるんだ?
時間制でお城の人たちにも開放してるという。二人だけで使うのはもったいないもんな。
風呂場の内装は、職人が気合入れて仕事したとあって、凄い装飾になってた。
お風呂の床は転んでも痛くないように溝が刻んであるゴム製だ。壁は白、お風呂の中は薄い青に塗られてる。余計にプール感が……。
こんな広くちゃ掃除が大変そうだ、と一瞬思ったけど。そういえば、”浄化”があった。
魔法って、つくづく便利だ。
人間の仕事が減っちゃいそうな気もするけど。
光魔法は全員が持ってる訳じゃないから、総合的なバランスは取れてるのかな?
新しく中庭に出来た噴水も見た。展望塔跡だっけ。
ここで、前国王と第一王子が亡くなったのか。
慰霊碑があって。二人の魂を慰めるための場所だと書いてあった。
あらかじめ予言で聞いてても、魔物に襲われて身内を亡くしたのはショックだっただろうな。
王妃……お母さんはウィリアムが5歳くらいの時に亡くなってるという。
遠い親戚はいるそうだけど。
ウィリアムにはもう、家族はいないんだ。
*****
「これからは、俺がウィルの家族になるよ」
そう言って、ウィリアムの手を握った。
それに、神様にお願いすれば、家族が増えていくだろうし。
何人までOKなんだろう?
「ウォン、」
シロが俺たちの間にずぼっと顔を突っ込んできた。自分もいるぞ、って?
「ああ、シロも私の家族だ」
ウィリアムはシロの額を撫でた。
「クゥン」
ぶんぶんしっぽを振ってる。
お義父さん、お義兄さん。
どうか、天国から見守ってくださいね。
慰霊碑に向かって手を合わせた。
城の前ではオーソンが出迎えて。ナムグンの手綱を引いて、オズワルドが厩に行った。
抱いていたシロを下ろすと、成犬の姿になって庭へ駆けてった。
これからここが自分の住む場所だから、安全とか確かめに行ったんだろう。
「あ、どこかにシロ用の水場作っていい?」
”聖水”を求めてくる人たちのために、家の外に水場を作っておいたんだけど。
シロが気に入って、家に戻る時、そこで水を飲むのが習慣みたいになってたから。同じようなのを作ってやりたい。
「あの花壇の近くなどいかがでしょう?」
オーソンが示した。
あの辺なら、花に水をあげるのにも丁度良さそうだ。
*****
「ここにも、人が集まるようになるだろうな……」
ウィリアムが、嬉しそうに走り回るシロを見て呟いた。
「……水場、お城の外にも作ろうか?」
俺が作った水場は、”神の使い、狛犬様が好んで飲まれているありがたい聖水”だと国外でも噂になって。リズリーにはかなりの人が水を汲みに通ってくるようになっていた。
給水制限や、販売をすればいいという人もいたけど。
なるべく、この能力で作ったもので商売はしたくないんだよな。
”創造”の能力で生やしたサトウキビやテングサとかは、そのまま流通させるんじゃなくて、加工して他の人の手も入るからセーフ、って考えだ。
神様からは、好きなように使っていいとは言われてるけど。俺の倫理観からすれば、この能力をお金儲けに使うのは、ずるい気がするから。
「リン様のお荷物は、これだけですか?」
オーソンが、俺の鞄を持ってくれた。
ここに来る時に、身一つで来ていいよ、って言われたけど。
着替えくらいはリズリーの家から持ってきた。これ以上服を作られても困るし。
冷蔵庫の中身で卵や牛乳などの日持ちしないものは、ちょうどパーティーで使い切ったので大丈夫だろう。後は乾物くらいか。
一応、スペンサー夫妻にはあるものは使っちゃっていいよって言っておいたし。
「ようこそ、我が家へ」
ウィリアムが、胸に手を当てて優雅に腰を折ってみせた。
我が家というには広すぎるけど。
ウィリアムと、一緒に住むところか。
「今日からここは君の家だよ」
「じゃあ、ええと……ただいま?」
「ふふ、おかえり。私の可愛いリン」
ふわあ。甘い……! 何その蕩けそうに甘い微笑み。ドキドキしちゃうだろ!
「……コホン、」
オーソンがわざとらしく咳払いした。
玄関先で二人の世界を作るなって? それはウィリアムに言ってよ!
*****
ウィリアムは、新しく改修した場所を説明してくれた。
お風呂の浴槽は、寝たまま浸かれるところや少し深い場所も作ったとか。プールじゃないんだから。打たせ湯もあるんだ?
時間制でお城の人たちにも開放してるという。二人だけで使うのはもったいないもんな。
風呂場の内装は、職人が気合入れて仕事したとあって、凄い装飾になってた。
お風呂の床は転んでも痛くないように溝が刻んであるゴム製だ。壁は白、お風呂の中は薄い青に塗られてる。余計にプール感が……。
こんな広くちゃ掃除が大変そうだ、と一瞬思ったけど。そういえば、”浄化”があった。
魔法って、つくづく便利だ。
人間の仕事が減っちゃいそうな気もするけど。
光魔法は全員が持ってる訳じゃないから、総合的なバランスは取れてるのかな?
新しく中庭に出来た噴水も見た。展望塔跡だっけ。
ここで、前国王と第一王子が亡くなったのか。
慰霊碑があって。二人の魂を慰めるための場所だと書いてあった。
あらかじめ予言で聞いてても、魔物に襲われて身内を亡くしたのはショックだっただろうな。
王妃……お母さんはウィリアムが5歳くらいの時に亡くなってるという。
遠い親戚はいるそうだけど。
ウィリアムにはもう、家族はいないんだ。
*****
「これからは、俺がウィルの家族になるよ」
そう言って、ウィリアムの手を握った。
それに、神様にお願いすれば、家族が増えていくだろうし。
何人までOKなんだろう?
「ウォン、」
シロが俺たちの間にずぼっと顔を突っ込んできた。自分もいるぞ、って?
「ああ、シロも私の家族だ」
ウィリアムはシロの額を撫でた。
「クゥン」
ぶんぶんしっぽを振ってる。
お義父さん、お義兄さん。
どうか、天国から見守ってくださいね。
慰霊碑に向かって手を合わせた。
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