神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙

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転生国王は神の使いを寵愛する

ブルームーンと流星

 リンが珍しく”創造”の力を使ったと思えば。
 ビールやウイスキーなどの酒だけでなく、リキュールを何種類か出していた。ジュース、ソーダ水と水、氷も。
 そういえば、この世界にカクテルはまだ無かった。

 見ていたら、クレーム・ド・カカオ、グリーンペパーミント、フレッシュクリームを同量入れて、シェイカーで振っている。……グラスホッパーだな。ミントチョコのような味のする、”喜び”という意味のあるカクテルである。
 なかなか手慣れている。やはり相当の酒飲みだったようだ。


「乾杯、」
 リンがカクテルグラスを掲げると。

「成人おめでとう!」
 皆がそれに応えて祝いの言葉を述べる。

「ん、美味しい」
 リンは嬉しそうにカクテルグラスを傾けた。


 *****


「可愛いバーテンさん、私にも何か一杯ご馳走してくれないかね?」
 声を掛けると。

 見れば、リンのカクテルグラスはもう既にカラだった。なかなかの酒豪でもあったか?
 シェイクしたカクテルは、なるべく温くならないうちに素早く飲むのが鉄則だからかもしれないが。

「ジンライムとかバイオレットフィズならすぐ出来るよ」
 簡単にできる、というが。実際は混ぜるだけでもかなり腕の違いが出るものだ。
 ジンライムは”色褪せぬ恋”、バイオレットフィズは”私を覚えていて”だが。リンの手元にパルフェ・タムールがあるし、こちらにしよう。

「では、バイオレットフィズを」
 近くにいた皆は、私たちの会話に首を傾げていた。こちらにはどれも存在しないものなので当然だが。
 二人だけの暗号のようで、少々小気味いい。


 リンはトールグラスに氷を入れ、ジンとパルフェ・タムールを無糖炭酸水で割り、レモンジュースとシュガーシロップを少量入れ、マドラーで軽く混ぜた。
 やはり手際がいい。ゆっくりしていると、炭酸が飛んでしまうのだ。

「はいどうぞ、」
 グラスをこちらへ滑らせた。

「ありがとう。……うん、美味しいよ」
 華やかな菫の香り。味もすっきりとしていてちょうどいい。

 分量通り入れても何故か美味くないカクテルは多くあるが。リンは料理だけでなく、こちらのセンスも抜群のようだ。


「では、お返しに、」
 シェイカーとカクテルグラスを”浄化”し。
 パルフェ・タムールとジン、レモン果汁を入れてシェイカーを振る。透明感のある薄紫色のカクテル、ブルームーン。ブルーキュラソーを使った青のものもあるが。これは菫のリキュールを使用しているため、紫だ。
 このカクテルには完全なる愛、または叶わぬ恋という意味があるらしいが。さて、私の恋の行方はどうなるのだろう。


 流星がバーテンダーの役をした時に、格好だけでなく、味も最高レベルを、と猛練習したものだ。何に関しても小器用であった流星だが、これだけは苦労した。格好にこだわれば味がおろそかに、味にこだわれば格好がおろそかになってしまう。練習の甲斐もあり、共演者は絶賛してくれたが。

 リンは私がシェイカーを振るのを、うっとりと見ている。

 中身をカクテルグラスに注ぎ、花瓶の蘭の花を添える。食用花なので食べても良い安全なものだ。見栄えも良い。

「今宵の月のような君へ」
 と、ウインクをしてみせ、気障っぽくカクテルグラスを滑らせた。おりしも今日は満月の日だ。

 また格好つけるんじゃない、と怒ったように言われると思ったが。
 リンは頬を染めながらカクテルグラスを傾けた。

「くっ……、格好いい上に、味もいいとか……!」
 少々悔しそうだった。

 そうか。格好いいと思ってくれたのか。それは照れるな。味も褒められて嬉しい。今、初めて流星だった自分を褒めたいと思った。


 見た目はただのオレンジジュースなのにウォッカとガリアーノとオレンジジュースを使ったアルコール度数が20度もあるカクテル、ハーベイ・ウォールバンガーを作ってメイヤー師に飲ませてみたり。
 このカクテルの意味は”視線を感じて…”である。

 様子を見ていたオズワルドらが、私たちの真似をして、色々なカクテルに挑戦しだした。
 適量も種類もわからずに手探りで作るので、レシピも滅茶苦茶である。

 だが、物凄くまずいものだけでなく、何故か奇跡のように美味いカクテルが出来上がったりもした。
 ”鑑定”すれば判明するだろうが。

 こういうものは、その場限りである方が良いだろう。


 *****


 夕食の時間も過ぎ、ビールやウイスキーの酒樽が空になった頃。
 酒宴は解散になった。


 皆、テーブルの上の皿やコップを片付けている。

 スペンサー夫妻に、頑張ってくださいね、と言われ。
 皆が私に気を遣って、早めに酒宴を切り上げたのだと知った。

 皆、気付いていたのだろうか?
 私が、リンが15歳になったら、告白しようと思っていたことを。


 二人きりになり、告白を断られた場合、かなり気まずい。
 帰ろうとするオズワルドとオーソンを引き留めた。

 彼らにも聴かれるのは恥ずかしいが。こうなったら酔った勢いで行こう。


「では、そろそろリンのお願いを叶えてあげようか」
 アコースティックギターを出してもらった。

 細部がわからなくても大丈夫だと神が言っていた通り、ちゃんと音も問題ない。
 さすがに日本語では歌えないので、こちらの言葉にして歌う。


 流星群の降る夜。”僕”は大好きな”君”を海へ連れ出して。二人だけしかいない砂浜に寝転んで、星空を眺めるという歌だ。女性相手の場合、砂浜で裸足になったり寝転がるのは迷惑以外の何物でもないだろうが。
 この歌はかなり売れ、アルバムにはギター弾き語り版も収録された。

 私の場合、星空を一緒に見たい相手はリンである。リンを見て。リンだけに向けて、歌う。


 君を愛してる。
 他の誰かと比べようもないほど。君だけを。君以外愛せない。


 *****


 リンは、真っ赤になって。涙を浮かべながら聴いてくれている。

 私と同じ想いを、君も抱いてくれればいい。
 だけど、そんな奇跡のようなことが起こる確率は、どのくらいなのだろう。

 今、流れ星が落ちるくらいだろうか? この世界では、まだ一度も見たことはないけれど。


「……星降る夜に、君と。永遠に……」
 歌い終わり。最後のワンフレーズを弾いたその時。


 目の端に、一瞬。流れ星が見えた。
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