巨人の国に勇者として召喚されたけどメチャクチャ弱いのでキノコ狩りからはじめました。

篠崎笙

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キノコマスター、魔王と対峙する。

おやすみ、クレプスクロ

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今のところ、魔物の発生も天変地異も、小康状態らしい。
クレプスクロの精神が安定しているからかな?


黒竜になったバルの背に乗って、城に戻る。

初めはバルのことをニンゲンくさい、と言って警戒していたものの。
はやい、はやい、と大喜びで。

危うく飛び跳ねて、バルの背から落っこちるところだった。


「緑がいっぱいだ!」
自然の多く残る、静かの森も気に入ったようだ。


*****


途中で、巡回していたミゲルに会って、合流した。
ミゲルは俺が抱いてる子猫を見て、不思議そうな顔をしたけど。何か、ただならぬ事情を察したのか、何も訊かれなかった。


「お帰りなさいませ。ずいぶんお早い……ななな、なんと!」

俺たちを出迎えたエリアスの視線は。
俺の腕に抱かれた可愛らしい黒い子猫に釘付けだ。

「あの、そちらの子猫ちゃんの頭を撫でても、よろしいでしょうか?」

クレプスクロは、不思議そうに俺の顔を見て。
また、エリアスを見上げると、こくりと頷いてみせた。

「撫でてもいいって」
「ありがとうございます! ああ、なんと可愛らしいのでしょう……!」

エリアスの人差し指で、そっと優しく撫でられて。
クレプスクロは、瞳孔をまんまるにしてびっくりしてる。

「おれを嫌わないニンゲンがいるんだ……」

「素晴らしい! お話まで出来るのですか! 何と賢くて、可愛らしいのでしょう! 私はあなたを嫌いになんてなりませんよ。……よしよし、お名前は?」
エリアス、デレデレだ。


「おれ、クレプスクロ!」
得意げに、しっぽをぴんと立てて名乗った。

「ああ、とてもいいお名前ですね? 丁度、今くらいの時間の事です。……黄昏どき」
そう言って、エリアスはオレンジ色に染まった空を見上げた。

もう、そんな時間だったんだ?
 黄昏時クレプスクロ

クレプスクロの金色の目に、夕焼けの空が映って。きらきらしている。
綺麗だな。


「あれが。あのきれいなのが、おれの名前?」

「ええ、そうですよ。あなたの綺麗なお目々にそっくりですね?」
エリアスはにっこり笑って。


「では、夕食に致しましょうか。クレプスクロのご飯はどうしましょう? お肉? お魚?」
「えーと、普通の食事で大丈夫だと思う」

猫の姿をしているけど、猫じゃない。
魔王……というか、神様の半身なわけだし。


*****


クレプスクロは、乳キノコのシチューを美味しそうに食べた。
猫舌ではなかったようだ。


バルが、事情を説明したようで。
夕食の後、ミゲルは王都へ報告をしに戻って行った。

あちこちに興味津々なクレプスクロは、火のついてない暖炉に飛び込んで灰塗れになったり。
そこら中を、楽しそうに探検している。

俺もまた、ハチワレ猫に変身して。
クレプスクロを頭に乗せて、城内を案内した。


食事をした食堂から調理場へ行くと、ヒゲの立派な料理長はじめ、シェフたちからも大歓迎されて。干し魚をもらったクレプスクロはご機嫌だ。

お風呂を見て、毛を逆立てたり。
玄関ホールから、ゆるやかな螺旋階段を上って。図書室に、ビリヤードみたいなのやカードゲームなどをする遊戯室。

ダンスホールでは、絨毯に爪をひっかけてしまったり。
客室や寝室。宝物室。

俺もまだ見たことがなかった部屋も、一通り見てまわった。


探検を終えたクレプスクロは、居間で。
ハチワレ猫の姿で横になっている俺の腹の上に乗っかって、すっかりリラックスした様子だ。

ぽんぽこりんなお腹が丸見えだぞ。

親子みたいですねえ、とエリアスが言って。
バルが拗ねた。


「おれ、こんなに楽しいの、生まれてはじめてだ……」

ハチワレ猫な俺のもふもふな腹毛に大の字になって埋まりながら。
クレプスクロは満足そうに言った。

あふ、とあくびをして。

「眠くなってきた。……起きても、みんないる?」
ずいぶんと甘えた声だ。

俺だけじゃなく、もうバルやエリアスにもすっかりなついてる。
可愛くてしかたない。

「そうだな」
「ええ、いますよ」
バルとエリアスが答える。


「じゃあ、もう寂しくない。うれしいな」

おやすみ、と言って。
クレプスクロは目を閉じた。


「おやすみ、クレプスクロ。いい夢を」


*****


すやすやと、もう寝息を立てている。
安心しきった様子で。

「どこに寝かせようか? あたたかい場所がいいな」

人間の姿に戻って。
丸くなって寝ている子猫を抱き上げた。


「では、寝床を用意しましょう、」

エリアスがそう言って、椅子から立ち上がって。
俺の手許を、凝視している。


何事かと思って、自分の手許を見れば。
子猫の姿が、揺らいでいた。

クレプスクロの全身が、光に包まれてる。


驚いて、様子を見ていたら。
クレプスクロの身体が、光の粒みたいになって。

俺の手から、さらさらと、消えていってしまう。


「嘘だろ。何で? まさか、自動的に、あの島に戻っちゃうとか?」
「いや、これは……」
バルが何か言おうとした時。


頭の中で、声が響いた。


男でも女でもない、子供でも老人でもない。
優しい声で。


”ありがとう、貴方が慈悲の心を注いだお陰でクレプスクロは満足して眠りにつきました。負の感情は全て浄化され、希望となってわたしの中へ還ったのです”


これからは、試すことなく人類を見守っていくことにする、と。
その声は言って。


俺の手から、クレプスクロが消えてしまった。
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