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45歳童貞、異世界へ行く

俺氏、下着について語る。

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「そうか、プロカスはクラッススの死を知らなかったか。……それならまだ、救われる気がするな」


監獄の外で待っていたルプスに。
ガイウスがプロカスのことを話した。

罪を償うには、犯した罪の重さを知らないといけないと思う。
それで反省も後悔もしない人は、一生救われることはないだろう。


「弟子の死に、涙したか。魔王にも、人の心があることに驚いた」
皮肉そうに笑った。

「あ、プロカスはもう、じゃないよ? 俺に魔力封じられた時点で魔王の資格を剥奪されてたし」
っていうか、こっちに落ちてきた時点でもう『魔王?』だったし。


「ええっ!?」
皆驚いている。

あ、知らなかったんだ。

誰でも見ればわかるものじゃないからな。
鑑定持ちじゃないと。


「そうなると。罪状はどうなるんだ?」
ルプスが難しい顔をして悩んでいる。

「ええと……。ゴーレムによる騒擾罪そうじょうざい及びアルバ国襲撃未遂、脅迫罪、過去の器物損壊?」
騎士長官がメモを見てる。

「国家反逆罪とかないの? 内乱罪とか」
「何だそれ」


無いのか……。国家反逆罪。
ああ、だからガイウスが狙われても、犯人が一発死刑とかにはならなかったのか。

「ええと、国家の秩序を転覆せしめる重大な罪とか何とか……」

「国の頭を張る者が弱ければ、その国が負けるだけだ。罪に問われることなどない」
ガイウスは、不思議そうに首を傾げている。


うわあ。
そういえば、ガイウスは色々な国を武力で統一した革命家、張本人だった。

ここ、体育会系みたいな脳の人ばっかりしかいないよ。こわっ。


*****


「ところで皆、普通どんな下着穿いてるの?」

我ながら、とんだセクハラ発言である。
だって、さっきステータス見てからずっと気になってたんだもん。


「え、普通のですが……?」
ルプスは戸惑いつつも答えてくれたけど。

「その普通がわかんないから訊いてるのー!」


「旦那のとか見てないんです?」
「いつも気がついたら脱いでるから知らない……」

多分、床に放り投げてるんだろうけど。
見てる暇とかないし。

公衆浴場でも、下着とか気にしてなかった。

だって俺、初期装備でノーパンだったんだもん。
二回目に入った時、見とけばよかった。


「皆、装備は『肌着』ってなってるのに。俺のだけなんで『えっちな下着』なんだよー!?」

ガイウス以外の全員の視線が、一人に集まる。
そう、ガイウスだ。


ローマ帝国時代に男性が穿いていた、スブリガークルムという下着は、いわばT字帯みたいなもので。
麻でできた腰巻きのようなもので股を覆い、腰で結んでいた。

ロンドンでは西暦1世紀ごろの革製ビキニが発掘されてるし。
剣闘士も、似たような下着を穿いていたと思われる。装備兼下着みたいなもんだったのかもしれないけど。

女性用下着も、古代ローマには3種類のブラジャーが存在していて。今みたいなブラジャーと紐パンだった。
昔の人は下着なんてつけてないみたいに思われがちだが、ローマの衰退と共に失われたものは多いのだ。

昔の下着は、だいたい紐パンだった。
ゴムが流通していない時代なら、それも当然だと。


だから。
も、普通の下着なのかと思ってたのに!!


*****


「ええと、ちなみに、どのような下着なんです?」

ルプスは頭痛を我慢するような様相で訊いてきた。

手っ取り早く見せようかと思ったけど。
察知したガイウスが、がっしりと抱き締めているので見せられません。


「黒い紐のぱんつ……」

「えっちだ」
「ああ、えっちだな」
ルプスと騎士長官が、顔を見合わせて頷いた。

そんな同意いらない。


「いや待て。誤解だ」
ガイウスが慌てて。

「カナメはここに来た時、ローブと靴しか装備していなかった。だから下着を用意しようとしたら、カナメに合う既製品がそれしかなかったのだ」


古代から中世は、布が貴重品で。
個人で糸から紡いだり、一着を一年中着まわしたりしていたそうだけど。

ここは製糸工場や機織工場もあるようで、わりと豊富みたいだ。
といっても、さすがにTシャツ一枚500円レベルとかまではいかないけど。

「うなるほどカネ持ってんだから、発注して作ってもらえばいいだろうが」

「ちゃんと作っているぞ? 今カナメが穿いているのもシルク製で、一枚1オーラするものだ。発注して同じものを10枚作った。似合っていたのでな」
何で得意げな顔してるの。

「………………」

何が誤解なんだろうか。
おそらくガイウスを抜かした全員の思考が一致した瞬間だった。


10枚あるので、日替わりで履き替えてる。
贅沢だなあ。

俺、生前は二枚を手洗いで回してたわ。


「それに、紐なら大人でも子供でも使えるではないか!」
ガイウスは胸を張って言った。

そうだね。
解けたり脱げたりするけどな。


「……ゴムでよくないか?」
ルプスは軽蔑の眼差しだった。

あ、ここ、ゴムもあったんだ……。見たことないな。何に使ってるんだろ。

そういえば、避妊具もあるって言ってたな。
使ったことないけど。


「で、結局、普通の下着って何ー!?」


*****


結局

ルプスはスブリガークルムだった。
元剣闘士だからだろうか。

騎士長官はブリーフっぽいやつ。トランクスっぽい形のもあるらしい。
ガイウスはボクサーパンツ風なやつだった。

みんな、それと厚手のTシャツみたいな肌着を着ていた。
鎧を直接装着するのは痛いもんな。


「下着は、元の世界とあんまり変わらない感じだった」
人それぞれ、好みで違うようだ。

「そう……、まあ気が済んだなら何よりですよ」

ルプスは何だかげっそりしている。
HPは減ってないのにな。


口で説明するのも面倒だ、と。
皆でコロッセウムの控え室に行って、見せてくれたのだ。

男ばかりの下着コレクション。

目には全く嬉しくないけど好奇心は満たされた。
ありがとう。

公衆浴場でも良かったんだけど。
また貸切になっちゃうのも悪いし。


剣闘士はだいたいスブリガークルムだけど、中には紐パン愛用者もいるようだ。
でも革製で、下着兼防具だった。防御力重視だ。


「プルカスに、装備について突っ込まれなくて良かった……」

いや、気付いていたけどあえて見なかったことにしたのかも。
突っ込んだところで誰も得をしない。


*****


ルプスにぽふ、と頭を撫でられた。

「……思ったよりも落ち込まなかったのは、カナメ様のお蔭かもしれないな。ありがとう」

見上げると。
優しい顔をして微笑んでいた。


プルカスは、結婚を考えていた恋人、クラッススの仇だったんだよな。
色々思うところもあっただろう。

「俺、何もしてないよ?」

あ、笑いを提供してしまったか。
魔法使いの王様とか。


「ああ、これは確かに心が安らぐ……」
両手で撫でられる。

モフモフ? そういえば、ガイウスがプルカスとの話の途中で俺を膝に乗せて、ひたすらモフってたな。
モフモフには、精神安定剤的な癒し効果が?


「私の后に気安く触らないでもらいたいのだが」
ガイウスが、ルプスの手を払いのけた。

「狭量な。悋気が過ぎると奥方に愛想を尽かされるぞ。ただでさえ、幼児にいやらしい下着を着せるという変態だというのに」
「誰が変態だ。カナメは幼児ではない、45歳だ!」

「俺、まだ0歳だよ?」
などと小首を傾げてかわいこぶってみたり。


「ああ、……かわいい……!!」
ガイウスに、ぎゅっと抱き締められる。

まあね。
この姿の俺は、天使みたいに可愛いからね。多少はね。

……だからしっぽをモフモフするなと。


「手つきがいやらしい」
「ああ、いやらしいな。さすが変態の名をほしいままにしているだけある」

ルプスも騎士長官も、傍観してないで止めて。


*****


「ふー、気持ちいー」

城にも、風呂バルネアがあるのだ。
家風呂にしてはでかいけど。

内風呂なので、全裸で入る、この解放感。


皇帝は后のことに関してはたいへん心が狭いので、后の裸は自分以外見せない! と使用人を追い出すのだった。
かわいそう。

でもガイウス一人の時は使うみたいなので、堪えて欲しい。
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