異世界の婚活イベントに巻き込まれて言葉が通じないままイヌ耳黒騎士に娶られてネコにされてしまいました。

篠崎笙

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生活習慣の違い

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「このまましまいたいところだが。そろそろ腹が減っただろう? 食事にしよう」


名残惜し気に、ゼノンの唇が離れた。

流されて、そのままもいい、と思ってしまった自分に驚く。
半分獣にされてしまったせいだろうか? 理性よりも本能を優先する獣に。


そういえば、昨日の朝ご飯を食べてからずっと食べてなかった。

劇の前にジュース飲んだくらいだ。
色々あって、空腹も忘れていたようだ。

自覚をしたら、突然お腹が空いてきてしまった。


*****


「では、身支度をさせよう」
と。

ゼノンがベッド横のテーブルに乗っていた鈴を取って、チリン、と鳴らしたら、すぐにノックの音がして。
ゼノンが入れ、と言うなり、大勢の使用人が部屋に入って来た。


ゼノンは堂々と全裸のままベッドから降りて、何人かに寄ってたかって服を着せてもらっている。
いきなり何が起こったのかとびっくりしたけど。

ああ、そうか。
王子様だから。靴ひもを結ぶ専用の使用人までいるんだ……。

脱ぐのは自分でしてたけどな。


多分、俺が着る服を持ってる使用人が困惑して。
困ったようにゼノンの方を振り返っている。

仕事の邪魔してるようで申し訳ないけど。
俺は生まれながらの庶民なんで。

銭湯とかじゃあるまいし、裸のまま堂々と人前に何か出られないよ!


しかも今、俺だけマッパじゃん!
思わず上掛けを身体に巻き付けて身体を隠すようにしていたら。

「妻の身支度は全て私がする。着替えはそこに」
ゼノンが使用人に指示した。

察しが良くて助かる。
自分ではわかんないけど、耳に出ちゃってるのかな?


言葉遣いが、俺やアドニスに話すのと、何か違う気がした。

王子様だっていうし。
の状態の自分を見せるのは、友人とか恋人くらいなのかも。

ゼノンのしっぽは今、ピクリとも動いてない。


*****


ゼノンの身支度を終えた使用人たちが引き上げて行って。

ベッドの上に置かれた着替えを手にしてみる。
これって。

「……なんかこれ、女性用の服に見えるんだけど。俺、女の格好してないと駄目なの?」

「えっ、」
ゼノンは耳をぴんと立てて驚いてる。

しっぽもぶわってなっていて、ちょっと可愛い。
でも。

そんなに驚くことか?


あ、そうか。
俺は昨日、演劇用の衣装……ドレスを着てたんだ。

だから着替えも女物、というかドレスを用意させたのか。
本来俺には女装趣味なんてないってこと、言う暇もなかったもんな。

カツラは、いつの間にか取れてたようで。
見回したら、近くの椅子に引っ掛けてあった。ちょっと見ホラーだ。


「俺が昨日ドレスを着てたのは、劇のために仕方なく女装してただけで。普段は普通に男の格好で、女装する趣味は無いんだけど……」

「えっ? 役者だったのか?」
ハイヒールっぽい靴を持っていたゼノンが固まった。

まさか、物凄く歩き辛そうなそれを俺に履けと?

「違うよ。学校の出し物。観客もいただろ? 文化祭……ってわかるかな? そういうお祭りだったんだ」
「何と、まだ学生だったのか。……年齢は?」
ずいぶん驚いた顔をしてる。

年齢、今訊くんだ……。
まあ今朝まで言葉が通じなかったんだし、しょうがないか。


「17歳、高校生」
やーい犯罪者。と思いながら年齢を言うと。

「良かった。成人済みか……」
ゼノンはあからさまにホッとした様子だ。

あれ? こっちじゃ17歳は未成年じゃないのかな?


「ところで”コウコウセイ”というのは、特殊な教育をする訓練生のことか?」
首を傾げてる。

こっちの世界、”生徒”はあるけど”高校”は無いのか。


どうやらこっちにない言葉は翻訳? されないで、そのまま聞こえるみたいだ。
困ったな。

何と説明すればいいものか……。


*****


とりあえず、俺がいた世界では成人は20歳で。
教育機関は小学校、中学校までは義務教育。高校、大学まであると説明した。

こっちは16歳で成人で、騎士の訓練学校があって。
7歳から15歳までの男は全員そこに通う義務があるそうだ。

ああ、ゼノンが何か騎士っぽいのはそのせいだったのか。


新しい服は採寸して作らせるから、今日はこの服を着て欲しい、と言われたので。
仕方なくドレスを着ることにする。

今日だけだからな!?

ゆったりしたドレスだから、紐で調整すれば大丈夫そう。
でも、胸が余るな……。

ジュリエットの衣装には、丸めたストッキング入れてたんだけど。
どこやったんだ?

訊いたら、着ていたドレスもみんな、さっき来た使用人たちが回収しちゃったらしい。……汚れたもんな。


カツラも被った方がいいかな、と思ったけど。
猫耳が邪魔で、着けられなくなってしまっていた。

耳の穴、開けようかな。
そこまでしなくてもいいか。


下着は紐パンツだった。
こっちにはゴムが無いのかな?

やたら固いブラジャーみたいなやつには、タオルを詰めて調整した。

次に、太股まであるシルクの靴下を、腰に着けたガードルで留める。
あれ? パンツが先だっけ?

ガードルなんて、漫画や画像でしか見たことないからなあ。


しっぽの穴が空いているドレスは、ジッパーじゃなくて紐を結ぶやつで。
紐は後ろについてるから、一人では着られない仕様だ。

なのでゼノンがやってくれてる。

本来、使用人にさせるようなことを王子様にやらせていいのだろうか……。
まあいいか。


ゼノンは俺の足元に跪いて。
ハイヒールの靴を履かされた。甲斐甲斐しいなあ。

ハイヒールを履いても、ゼノンの方が見上げるくらい背が高かった。
190以上あるのかも。

耳を入れたら2メートルくらいあったりして。


*****


「どうぞ、可愛いツガイ殿」
手を差し出されて。

まるで淑女のようにエスコートされてしまう。

エスコート、し慣れた感じだ。紳士だ。
まるで王子様みたい……って、リアル王子様だった。

生まれ育った環境がこんなに違うのに。
俺、この世界に馴染めるのかなあ。


食堂に通されて。

奥の方に案内される。
こっち側が上座になるのかな? 見上げると、ステンドグラスみたいなガラスから光が差し込んでる。

大きなテーブルの端っこに、二つ椅子が並んでる。

え、まさかこんなでかいテーブルなのに。
端っこで二人で並んで食べるの……?

何か変じゃないかと思うけど、異世界なのでルールが違うのかもしれない。
夫婦は並んで食事をするものとか?


椅子を引かれて、席につくと。
給仕の人が現れて、グラスに水を注ぎ、スープを置いていった。

美味しそうないい匂いはする。


でもこれ、異世界の食べ物なんだよな?
味もどんなのか、不安だ。

お腹を壊さずに、美味しく食べられるといいけど。
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