9 / 68
1
生活習慣の違い
しおりを挟む
「このまま食べてしまいたいところだが。そろそろ腹が減っただろう? 食事にしよう」
名残惜し気に、ゼノンの唇が離れた。
流されて、そのままされてもいい、と思ってしまった自分に驚く。
半分獣にされてしまったせいだろうか? 理性よりも本能を優先する獣に。
そういえば、昨日の朝ご飯を食べてからずっと食べてなかった。
劇の前にジュース飲んだくらいだ。
色々あって、空腹も忘れていたようだ。
自覚をしたら、突然お腹が空いてきてしまった。
*****
「では、身支度をさせよう」
と。
ゼノンがベッド横のテーブルに乗っていた鈴を取って、チリン、と鳴らしたら、すぐにノックの音がして。
ゼノンが入れ、と言うなり、大勢の使用人が部屋に入って来た。
ゼノンは堂々と全裸のままベッドから降りて、何人かに寄ってたかって服を着せてもらっている。
いきなり何が起こったのかとびっくりしたけど。
ああ、そうか。
王子様だから。靴ひもを結ぶ専用の使用人までいるんだ……。
脱ぐのは自分でしてたけどな。
多分、俺が着る服を持ってる使用人が困惑して。
困ったようにゼノンの方を振り返っている。
仕事の邪魔してるようで申し訳ないけど。
俺は生まれながらの庶民なんで。
銭湯とかじゃあるまいし、裸のまま堂々と人前に何か出られないよ!
しかも今、俺だけマッパじゃん!
思わず上掛けを身体に巻き付けて身体を隠すようにしていたら。
「妻の身支度は全て私がする。着替えはそこに」
ゼノンが使用人に指示した。
察しが良くて助かる。
自分ではわかんないけど、耳に出ちゃってるのかな?
言葉遣いが、俺やアドニスに話すのと、何か違う気がした。
王子様だっていうし。
素の状態の自分を見せるのは、友人とか恋人くらいなのかも。
ゼノンのしっぽは今、ピクリとも動いてない。
*****
ゼノンの身支度を終えた使用人たちが引き上げて行って。
ベッドの上に置かれた着替えを手にしてみる。
これって。
「……なんかこれ、女性用の服に見えるんだけど。俺、女の格好してないと駄目なの?」
「えっ、」
ゼノンは耳をぴんと立てて驚いてる。
しっぽもぶわってなっていて、ちょっと可愛い。
でも。
そんなに驚くことか?
あ、そうか。
俺は昨日、演劇用の衣装……ドレスを着てたんだ。
だから着替えも女物、というかドレスを用意させたのか。
本来俺には女装趣味なんてないってこと、言う暇もなかったもんな。
カツラは、いつの間にか取れてたようで。
見回したら、近くの椅子に引っ掛けてあった。ちょっと見ホラーだ。
「俺が昨日ドレスを着てたのは、劇のために仕方なく女装してただけで。普段は普通に男の格好で、女装する趣味は無いんだけど……」
「えっ? 役者だったのか?」
ハイヒールっぽい靴を持っていたゼノンが固まった。
まさか、物凄く歩き辛そうなそれを俺に履けと?
「違うよ。学校の出し物。観客もいただろ? 文化祭……ってわかるかな? そういうお祭りだったんだ」
「何と、まだ学生だったのか。……年齢は?」
ずいぶん驚いた顔をしてる。
年齢、今訊くんだ……。
まあ今朝まで言葉が通じなかったんだし、しょうがないか。
「17歳、高校生」
やーい犯罪者。と思いながら年齢を言うと。
「良かった。成人済みか……」
ゼノンはあからさまにホッとした様子だ。
あれ? こっちじゃ17歳は未成年じゃないのかな?
「ところで”コウコウセイ”というのは、特殊な教育をする訓練生のことか?」
首を傾げてる。
こっちの世界、”生徒”はあるけど”高校”は無いのか。
どうやらこっちにない言葉は翻訳? されないで、そのまま聞こえるみたいだ。
困ったな。
何と説明すればいいものか……。
*****
とりあえず、俺がいた世界では成人は20歳で。
教育機関は小学校、中学校までは義務教育。高校、大学まであると説明した。
こっちは16歳で成人で、騎士の訓練学校があって。
7歳から15歳までの男は全員そこに通う義務があるそうだ。
ああ、ゼノンが何か騎士っぽいのはそのせいだったのか。
新しい服は採寸して作らせるから、今日はこの服を着て欲しい、と言われたので。
仕方なくドレスを着ることにする。
今日だけだからな!?
ゆったりしたドレスだから、紐で調整すれば大丈夫そう。
でも、胸が余るな……。
ジュリエットの衣装には、丸めたストッキング入れてたんだけど。
どこやったんだ?
訊いたら、着ていたドレスもみんな、さっき来た使用人たちが回収しちゃったらしい。……汚れたもんな。
カツラも被った方がいいかな、と思ったけど。
猫耳が邪魔で、着けられなくなってしまっていた。
耳の穴、開けようかな。
そこまでしなくてもいいか。
下着は紐パンツだった。
こっちにはゴムが無いのかな?
やたら固いブラジャーみたいなやつには、タオルを詰めて調整した。
次に、太股まであるシルクの靴下を、腰に着けたガードルで留める。
あれ? パンツが先だっけ?
ガードルなんて、漫画や画像でしか見たことないからなあ。
しっぽの穴が空いているドレスは、ジッパーじゃなくて紐を結ぶやつで。
紐は後ろについてるから、一人では着られない仕様だ。
なのでゼノンがやってくれてる。
本来、使用人にさせるようなことを王子様にやらせていいのだろうか……。
まあいいか。
ゼノンは俺の足元に跪いて。
ハイヒールの靴を履かされた。甲斐甲斐しいなあ。
ハイヒールを履いても、ゼノンの方が見上げるくらい背が高かった。
190以上あるのかも。
耳を入れたら2メートルくらいあったりして。
*****
「どうぞ、可愛いツガイ殿」
手を差し出されて。
まるで淑女のようにエスコートされてしまう。
エスコート、し慣れた感じだ。紳士だ。
まるで王子様みたい……って、リアル王子様だった。
生まれ育った環境がこんなに違うのに。
俺、この世界に馴染めるのかなあ。
食堂に通されて。
奥の方に案内される。
こっち側が上座になるのかな? 見上げると、ステンドグラスみたいなガラスから光が差し込んでる。
大きなテーブルの端っこに、二つ椅子が並んでる。
え、まさかこんなでかいテーブルなのに。
端っこで二人で並んで食べるの……?
何か変じゃないかと思うけど、異世界なのでルールが違うのかもしれない。
夫婦は並んで食事をするものとか?
椅子を引かれて、席につくと。
給仕の人が現れて、グラスに水を注ぎ、スープを置いていった。
美味しそうないい匂いはする。
でもこれ、異世界の食べ物なんだよな?
味もどんなのか、不安だ。
お腹を壊さずに、美味しく食べられるといいけど。
名残惜し気に、ゼノンの唇が離れた。
流されて、そのままされてもいい、と思ってしまった自分に驚く。
半分獣にされてしまったせいだろうか? 理性よりも本能を優先する獣に。
そういえば、昨日の朝ご飯を食べてからずっと食べてなかった。
劇の前にジュース飲んだくらいだ。
色々あって、空腹も忘れていたようだ。
自覚をしたら、突然お腹が空いてきてしまった。
*****
「では、身支度をさせよう」
と。
ゼノンがベッド横のテーブルに乗っていた鈴を取って、チリン、と鳴らしたら、すぐにノックの音がして。
ゼノンが入れ、と言うなり、大勢の使用人が部屋に入って来た。
ゼノンは堂々と全裸のままベッドから降りて、何人かに寄ってたかって服を着せてもらっている。
いきなり何が起こったのかとびっくりしたけど。
ああ、そうか。
王子様だから。靴ひもを結ぶ専用の使用人までいるんだ……。
脱ぐのは自分でしてたけどな。
多分、俺が着る服を持ってる使用人が困惑して。
困ったようにゼノンの方を振り返っている。
仕事の邪魔してるようで申し訳ないけど。
俺は生まれながらの庶民なんで。
銭湯とかじゃあるまいし、裸のまま堂々と人前に何か出られないよ!
しかも今、俺だけマッパじゃん!
思わず上掛けを身体に巻き付けて身体を隠すようにしていたら。
「妻の身支度は全て私がする。着替えはそこに」
ゼノンが使用人に指示した。
察しが良くて助かる。
自分ではわかんないけど、耳に出ちゃってるのかな?
言葉遣いが、俺やアドニスに話すのと、何か違う気がした。
王子様だっていうし。
素の状態の自分を見せるのは、友人とか恋人くらいなのかも。
ゼノンのしっぽは今、ピクリとも動いてない。
*****
ゼノンの身支度を終えた使用人たちが引き上げて行って。
ベッドの上に置かれた着替えを手にしてみる。
これって。
「……なんかこれ、女性用の服に見えるんだけど。俺、女の格好してないと駄目なの?」
「えっ、」
ゼノンは耳をぴんと立てて驚いてる。
しっぽもぶわってなっていて、ちょっと可愛い。
でも。
そんなに驚くことか?
あ、そうか。
俺は昨日、演劇用の衣装……ドレスを着てたんだ。
だから着替えも女物、というかドレスを用意させたのか。
本来俺には女装趣味なんてないってこと、言う暇もなかったもんな。
カツラは、いつの間にか取れてたようで。
見回したら、近くの椅子に引っ掛けてあった。ちょっと見ホラーだ。
「俺が昨日ドレスを着てたのは、劇のために仕方なく女装してただけで。普段は普通に男の格好で、女装する趣味は無いんだけど……」
「えっ? 役者だったのか?」
ハイヒールっぽい靴を持っていたゼノンが固まった。
まさか、物凄く歩き辛そうなそれを俺に履けと?
「違うよ。学校の出し物。観客もいただろ? 文化祭……ってわかるかな? そういうお祭りだったんだ」
「何と、まだ学生だったのか。……年齢は?」
ずいぶん驚いた顔をしてる。
年齢、今訊くんだ……。
まあ今朝まで言葉が通じなかったんだし、しょうがないか。
「17歳、高校生」
やーい犯罪者。と思いながら年齢を言うと。
「良かった。成人済みか……」
ゼノンはあからさまにホッとした様子だ。
あれ? こっちじゃ17歳は未成年じゃないのかな?
「ところで”コウコウセイ”というのは、特殊な教育をする訓練生のことか?」
首を傾げてる。
こっちの世界、”生徒”はあるけど”高校”は無いのか。
どうやらこっちにない言葉は翻訳? されないで、そのまま聞こえるみたいだ。
困ったな。
何と説明すればいいものか……。
*****
とりあえず、俺がいた世界では成人は20歳で。
教育機関は小学校、中学校までは義務教育。高校、大学まであると説明した。
こっちは16歳で成人で、騎士の訓練学校があって。
7歳から15歳までの男は全員そこに通う義務があるそうだ。
ああ、ゼノンが何か騎士っぽいのはそのせいだったのか。
新しい服は採寸して作らせるから、今日はこの服を着て欲しい、と言われたので。
仕方なくドレスを着ることにする。
今日だけだからな!?
ゆったりしたドレスだから、紐で調整すれば大丈夫そう。
でも、胸が余るな……。
ジュリエットの衣装には、丸めたストッキング入れてたんだけど。
どこやったんだ?
訊いたら、着ていたドレスもみんな、さっき来た使用人たちが回収しちゃったらしい。……汚れたもんな。
カツラも被った方がいいかな、と思ったけど。
猫耳が邪魔で、着けられなくなってしまっていた。
耳の穴、開けようかな。
そこまでしなくてもいいか。
下着は紐パンツだった。
こっちにはゴムが無いのかな?
やたら固いブラジャーみたいなやつには、タオルを詰めて調整した。
次に、太股まであるシルクの靴下を、腰に着けたガードルで留める。
あれ? パンツが先だっけ?
ガードルなんて、漫画や画像でしか見たことないからなあ。
しっぽの穴が空いているドレスは、ジッパーじゃなくて紐を結ぶやつで。
紐は後ろについてるから、一人では着られない仕様だ。
なのでゼノンがやってくれてる。
本来、使用人にさせるようなことを王子様にやらせていいのだろうか……。
まあいいか。
ゼノンは俺の足元に跪いて。
ハイヒールの靴を履かされた。甲斐甲斐しいなあ。
ハイヒールを履いても、ゼノンの方が見上げるくらい背が高かった。
190以上あるのかも。
耳を入れたら2メートルくらいあったりして。
*****
「どうぞ、可愛いツガイ殿」
手を差し出されて。
まるで淑女のようにエスコートされてしまう。
エスコート、し慣れた感じだ。紳士だ。
まるで王子様みたい……って、リアル王子様だった。
生まれ育った環境がこんなに違うのに。
俺、この世界に馴染めるのかなあ。
食堂に通されて。
奥の方に案内される。
こっち側が上座になるのかな? 見上げると、ステンドグラスみたいなガラスから光が差し込んでる。
大きなテーブルの端っこに、二つ椅子が並んでる。
え、まさかこんなでかいテーブルなのに。
端っこで二人で並んで食べるの……?
何か変じゃないかと思うけど、異世界なのでルールが違うのかもしれない。
夫婦は並んで食事をするものとか?
椅子を引かれて、席につくと。
給仕の人が現れて、グラスに水を注ぎ、スープを置いていった。
美味しそうないい匂いはする。
でもこれ、異世界の食べ物なんだよな?
味もどんなのか、不安だ。
お腹を壊さずに、美味しく食べられるといいけど。
35
あなたにおすすめの小説
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
猫の王子は最強の竜帝陛下に食べられたくない
muku
BL
猫の国の第五王子ミカは、片目の色が違うことで兄達から迫害されていた。戦勝国である鼠の国に差し出され、囚われているところへ、ある日竜帝セライナがやって来る。
竜族は獣人の中でも最強の種族で、セライナに引き取られたミカは竜族の住む島で生活することに。
猫が大好きな竜族達にちやほやされるミカだったが、どうしても受け入れられないことがあった。
どうやら自分は竜帝セライナの「エサ」として連れてこられたらしく、どうしても食べられたくないミカは、それを回避しようと奮闘するのだが――。
勘違いから始まる、獣人BLファンタジー。
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
黒豹拾いました
おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。
大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが…
「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」
そう迫ってくる。おかしいな…?
育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。
転生したら猫獣人になってました
おーか
BL
自分が死んだ記憶はない。
でも…今は猫の赤ちゃんになってる。
この事実を鑑みるに、転生というやつなんだろう…。
それだけでも衝撃的なのに、加えて俺は猫ではなく猫獣人で成長すれば人型をとれるようになるらしい。
それに、バース性なるものが存在するという。
第10回BL小説大賞 奨励賞を頂きました。読んで、応援して下さった皆様ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる