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レオニダス王との出会い
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ゼノンは必ず、俺を取り戻しに来るはずだ。
今もきっと、地下道を見つけて追い掛けて来ているに違いない。
でも、ここは他国の領地で。
竜族とは仲良くなさそうな感じだったし。
これがきっかけで、本格的に戦争とかになっちゃったりしたらどうしよう。
俺が、安全な馬車から降りちゃったから。
こんなことになったんだ。
こんな、簡単に捕まっちゃって。
何も出来ないなんて。
俺って無力だ……。
*****
モグラ族の二人は、城の門にいた兵士に「いつものだ」、と声を掛けて。
兵士は俺の顔を覗き込んで。
よし、と頷くと。
二人が城に入るのを許可した。
何がよし、なんだよ!?
何も良くないよ!?
城の中に入ると、赤と金で彩られた派手な天井が見えた。
わあ、中華風……?
「陛下、献上品でございます!」
どうやら、王様の前まで運ばれてしまったようだ。
モグラが邪魔で良く見えない。
「献上品だと? それは人ではないか。まさか、どこからか攫ったのではあるまいな?」
渋い声だな。
王様に早く縄を解いてやれ、と言われて。
二人はタンカみたいのを下ろし、俺の拘束を解いた。
何これ、戸板じゃないか。
道理でしっぽが痛いと思ったよ。
起き上がって、正面を見ると。
見上げるほど大きな王座に、竜の角を生やした、これまた大きな男の人が座っていて。
まるで驚いたように、俺を見た。
燃えるような赤い髪、意思の強そうな太い眉。金色の目。
鼻筋の通った、整った顔。耳は、エルフみたいに尖っている。
背中には西洋のドラゴンっぽい羽根が生えてるし、鱗の生えた立派な尾が見える。
これが竜人か。格好良いな。
獣耳じゃないの、モグラの他にもいるじゃん……。
耳に毛が生えてない人を”猿人”呼ばわりした人って、単なる世間知らずなんじゃないか?
全くもう。
「むむ?」
竜の王様は鼻をひくつかせ、眉間に皺を寄せた。
「この匂い、……随分とご執心な相手がいるのではないか。犬臭いぞ」
犬じゃないし。狼だし。
まあ竜の人にとってみれば、あまり変わりはないのか。
俺も最初イヌミミだと思ってたし。
*****
「私はレオニダス・メルクーリ。ここアナトリコ王国の王である。国の代表として詫びよう。すまなかった、どうやら我が国の者が迷惑を掛けたようだな。すぐに家まで送らせよう。そち、名は何という?」
そう言って俺の傍まで来て腰を折って。立ち上がるのに手を貸してくれた。
すまなそうな顔をしてる。
王様に謝罪させてしまったモグラ二人は、慌てて頭を下げた。
あれ? 王様、まともじゃん。
てっきり争いごと大好きな戦闘狂みたいな種族かと思ってた。
常識がありそうな人でほっとした。
「スオウ・クロノです。先日、”道逢の儀”でゼノン・リカイオスとツガイになりました。その新婚旅行の帰りに攫われてしまって……、」
「ゼノン・リカイオスだと!?」
レオニダス王は、カッ、と目を見開いた。
「何と、あのむっつりめ。いつの間にこんなに可愛らしい嫁を貰っていたのだ、生意気な」
ちょっと。
頭を撫でないでくれるかな。
「攫われて来たというのに妙に落ち着いているし、私の顔を見ても怯えないとは。かなり肝の据わった嫁だ。羨ましい……」
まあね。
攫われるのは二回目だからね!
って、レオニダス王の顔、怯えるほど怖くないと思うけどな。
身長は3メートルくらいあるから迫力はあるけど。
と思ってじっと見たら、頬を染めた。
純情少年みたいな反応しないでくれるかな! 俺、男だからね?
「王妃様と初めてお会いした時はかなり怯えて泣かれたそうですしね」
王座の横に立っていた騎士が笑みを押し殺しながら言った。
赤毛に青い目のおじさんだ。
「デメトリ、余計なことは言わんでいい」
背後の騎士を睨んでる。
「あの、ゼノンとお知り合いなんですか?」
他国の王様と王子が知り合いでもおかしくはないんだろうけど。
こことはあんまり仲が良さそうじゃなかったのに。
「ん? ゼノンの名を知らぬ者などおらんだろう。王子の身で黒騎士となり、”神に愛でられし存在”であるのに」
神に愛でられし存在?
そういえば。
ゼノンの親も、神に愛された子、だとか何とか言ってたような。
「ゼノンって、そんなに有名だったんですか……」
「その様子では、ゼノンの名に惹かれて求婚を受けたのではなかったのか?」
あ、あの騎士。
どこの田舎から来たんだ、みたいな目で見た。
「いえ、こことは違う世界にいたのを連れてこられたので。初対面だし、情報も全く無い状態でした。花を差し出されてうっかり受け取ったら求婚成立してたんで……」
*****
異世界の話を冗談かと思ったのか。
レオニダス王は面白がって、ゼノンのことを教えてくれた。
今から27年前、満月の夜。
ゼノンが生まれる前に月の光が消え、生まれた直後に光が戻ったという。
ああ、ゼノンって27歳だったんだ。10こ上かあ。
他人から聞いて、初めて知ったよ……。
「ああ、皆既月食の日に生まれたんだ……いい記念になりそう」
「あれは”皆既月食”というのか? ヴォーレィオの王城に光が差し、神に祝福された王子として、ゼノンはその名を知らぬ者はいないほど有名になったのだ」
成程。
皆既月食とか皆既日食とかの知識が無ければ神様の仕業かと思うよな。
仕組みを知ってても不思議だもん。
「太陽がこの惑星の丁度反対側になる時、月の光が遮られて真っ暗になる現象ですね。逆もあります」
「そ、それは本当か?」
目で見ないとわからないというので。
蝋燭と丸いもの二つで再現して見せたら。
その場にいた全員が大興奮だった。
「何故、誰も知らぬはずの、空の上で起こったことを知っているのだ……。”異世界”から来たと言ったな。まさか……天上人なのか?」
「ああ、まあそんなもんかなあ」
面倒臭くなったので適当に答えたら、レオニダス王は俺の前に跪いて。
「天上人を見下すような形で申し訳ない。知らぬこととはいえ、数々の無礼をお許しください」
深々と頭を下げられてしまった。
「我らの種族をひと目で当てられたはずだ! 天人様を攫うとは、何と畏れ多いことを。罰を当てないでください」
「どうかお許しを、お願いします!」
モグラ族の二人も、震えながら平伏している。
モグラ族ってそんなレアなの?
崇められてしまった……。
神様の実在する世界で、適当なことを言ってはいけないと学習した。
今もきっと、地下道を見つけて追い掛けて来ているに違いない。
でも、ここは他国の領地で。
竜族とは仲良くなさそうな感じだったし。
これがきっかけで、本格的に戦争とかになっちゃったりしたらどうしよう。
俺が、安全な馬車から降りちゃったから。
こんなことになったんだ。
こんな、簡単に捕まっちゃって。
何も出来ないなんて。
俺って無力だ……。
*****
モグラ族の二人は、城の門にいた兵士に「いつものだ」、と声を掛けて。
兵士は俺の顔を覗き込んで。
よし、と頷くと。
二人が城に入るのを許可した。
何がよし、なんだよ!?
何も良くないよ!?
城の中に入ると、赤と金で彩られた派手な天井が見えた。
わあ、中華風……?
「陛下、献上品でございます!」
どうやら、王様の前まで運ばれてしまったようだ。
モグラが邪魔で良く見えない。
「献上品だと? それは人ではないか。まさか、どこからか攫ったのではあるまいな?」
渋い声だな。
王様に早く縄を解いてやれ、と言われて。
二人はタンカみたいのを下ろし、俺の拘束を解いた。
何これ、戸板じゃないか。
道理でしっぽが痛いと思ったよ。
起き上がって、正面を見ると。
見上げるほど大きな王座に、竜の角を生やした、これまた大きな男の人が座っていて。
まるで驚いたように、俺を見た。
燃えるような赤い髪、意思の強そうな太い眉。金色の目。
鼻筋の通った、整った顔。耳は、エルフみたいに尖っている。
背中には西洋のドラゴンっぽい羽根が生えてるし、鱗の生えた立派な尾が見える。
これが竜人か。格好良いな。
獣耳じゃないの、モグラの他にもいるじゃん……。
耳に毛が生えてない人を”猿人”呼ばわりした人って、単なる世間知らずなんじゃないか?
全くもう。
「むむ?」
竜の王様は鼻をひくつかせ、眉間に皺を寄せた。
「この匂い、……随分とご執心な相手がいるのではないか。犬臭いぞ」
犬じゃないし。狼だし。
まあ竜の人にとってみれば、あまり変わりはないのか。
俺も最初イヌミミだと思ってたし。
*****
「私はレオニダス・メルクーリ。ここアナトリコ王国の王である。国の代表として詫びよう。すまなかった、どうやら我が国の者が迷惑を掛けたようだな。すぐに家まで送らせよう。そち、名は何という?」
そう言って俺の傍まで来て腰を折って。立ち上がるのに手を貸してくれた。
すまなそうな顔をしてる。
王様に謝罪させてしまったモグラ二人は、慌てて頭を下げた。
あれ? 王様、まともじゃん。
てっきり争いごと大好きな戦闘狂みたいな種族かと思ってた。
常識がありそうな人でほっとした。
「スオウ・クロノです。先日、”道逢の儀”でゼノン・リカイオスとツガイになりました。その新婚旅行の帰りに攫われてしまって……、」
「ゼノン・リカイオスだと!?」
レオニダス王は、カッ、と目を見開いた。
「何と、あのむっつりめ。いつの間にこんなに可愛らしい嫁を貰っていたのだ、生意気な」
ちょっと。
頭を撫でないでくれるかな。
「攫われて来たというのに妙に落ち着いているし、私の顔を見ても怯えないとは。かなり肝の据わった嫁だ。羨ましい……」
まあね。
攫われるのは二回目だからね!
って、レオニダス王の顔、怯えるほど怖くないと思うけどな。
身長は3メートルくらいあるから迫力はあるけど。
と思ってじっと見たら、頬を染めた。
純情少年みたいな反応しないでくれるかな! 俺、男だからね?
「王妃様と初めてお会いした時はかなり怯えて泣かれたそうですしね」
王座の横に立っていた騎士が笑みを押し殺しながら言った。
赤毛に青い目のおじさんだ。
「デメトリ、余計なことは言わんでいい」
背後の騎士を睨んでる。
「あの、ゼノンとお知り合いなんですか?」
他国の王様と王子が知り合いでもおかしくはないんだろうけど。
こことはあんまり仲が良さそうじゃなかったのに。
「ん? ゼノンの名を知らぬ者などおらんだろう。王子の身で黒騎士となり、”神に愛でられし存在”であるのに」
神に愛でられし存在?
そういえば。
ゼノンの親も、神に愛された子、だとか何とか言ってたような。
「ゼノンって、そんなに有名だったんですか……」
「その様子では、ゼノンの名に惹かれて求婚を受けたのではなかったのか?」
あ、あの騎士。
どこの田舎から来たんだ、みたいな目で見た。
「いえ、こことは違う世界にいたのを連れてこられたので。初対面だし、情報も全く無い状態でした。花を差し出されてうっかり受け取ったら求婚成立してたんで……」
*****
異世界の話を冗談かと思ったのか。
レオニダス王は面白がって、ゼノンのことを教えてくれた。
今から27年前、満月の夜。
ゼノンが生まれる前に月の光が消え、生まれた直後に光が戻ったという。
ああ、ゼノンって27歳だったんだ。10こ上かあ。
他人から聞いて、初めて知ったよ……。
「ああ、皆既月食の日に生まれたんだ……いい記念になりそう」
「あれは”皆既月食”というのか? ヴォーレィオの王城に光が差し、神に祝福された王子として、ゼノンはその名を知らぬ者はいないほど有名になったのだ」
成程。
皆既月食とか皆既日食とかの知識が無ければ神様の仕業かと思うよな。
仕組みを知ってても不思議だもん。
「太陽がこの惑星の丁度反対側になる時、月の光が遮られて真っ暗になる現象ですね。逆もあります」
「そ、それは本当か?」
目で見ないとわからないというので。
蝋燭と丸いもの二つで再現して見せたら。
その場にいた全員が大興奮だった。
「何故、誰も知らぬはずの、空の上で起こったことを知っているのだ……。”異世界”から来たと言ったな。まさか……天上人なのか?」
「ああ、まあそんなもんかなあ」
面倒臭くなったので適当に答えたら、レオニダス王は俺の前に跪いて。
「天上人を見下すような形で申し訳ない。知らぬこととはいえ、数々の無礼をお許しください」
深々と頭を下げられてしまった。
「我らの種族をひと目で当てられたはずだ! 天人様を攫うとは、何と畏れ多いことを。罰を当てないでください」
「どうかお許しを、お願いします!」
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