異世界の婚活イベントに巻き込まれて言葉が通じないままイヌ耳黒騎士に娶られてネコにされてしまいました。

篠崎笙

文字の大きさ
22 / 68

レオニダス王との出会い

しおりを挟む
ゼノンは必ず、俺を取り戻しに来るはずだ。
今もきっと、地下道を見つけて追い掛けて来ているに違いない。


でも、ここは他国の領地で。
竜族とは仲良くなさそうな感じだったし。

これがきっかけで、本格的に戦争とかになっちゃったりしたらどうしよう。

俺が、安全な馬車から降りちゃったから。
こんなことになったんだ。


こんな、簡単に捕まっちゃって。
何も出来ないなんて。

俺って無力だ……。


*****


モグラ族の二人は、城の門にいた兵士に「いつものだ」、と声を掛けて。

兵士は俺の顔を覗き込んで。
よし、と頷くと。

二人が城に入るのを許可した。

何がよし、なんだよ!?
何も良くないよ!?


城の中に入ると、赤と金で彩られた派手な天井が見えた。
わあ、中華風……?

「陛下、献上品でございます!」

どうやら、王様の前まで運ばれてしまったようだ。
モグラが邪魔で良く見えない。


「献上品だと? それは人ではないか。まさか、どこからか攫ったのではあるまいな?」
渋い声だな。

王様に早く縄を解いてやれ、と言われて。
二人はタンカみたいのを下ろし、俺の拘束を解いた。

何これ、戸板じゃないか。
道理でしっぽが痛いと思ったよ。


起き上がって、正面を見ると。
見上げるほど大きな王座に、竜の角を生やした、これまた大きな男の人が座っていて。

まるで驚いたように、俺を見た。


燃えるような赤い髪、意思の強そうな太い眉。金色の目。
鼻筋の通った、整った顔。耳は、エルフみたいに尖っている。

背中には西洋のドラゴンっぽい羽根が生えてるし、鱗の生えた立派な尾が見える。
これが竜人か。格好良いな。

獣耳じゃないの、モグラの他にもいるじゃん……。

耳に毛が生えてない人を”猿人”呼ばわりした人って、単なる世間知らずなんじゃないか?
全くもう。


「むむ?」
竜の王様は鼻をひくつかせ、眉間に皺を寄せた。

「この匂い、……随分とご執心な相手がいるのではないか。犬臭いぞ」
犬じゃないし。狼だし。

まあ竜の人にとってみれば、あまり変わりはないのか。
俺も最初イヌミミだと思ってたし。


*****


「私はレオニダス・メルクーリ。ここアナトリコ王国の王である。国の代表として詫びよう。すまなかった、どうやら我が国の者が迷惑を掛けたようだな。すぐに家まで送らせよう。そち、名は何という?」

そう言って俺の傍まで来て腰を折って。立ち上がるのに手を貸してくれた。
すまなそうな顔をしてる。

王様に謝罪させてしまったモグラ二人は、慌てて頭を下げた。


あれ? 王様、まともじゃん。
てっきり争いごと大好きな戦闘狂みたいな種族かと思ってた。

常識がありそうな人でほっとした。


「スオウ・クロノです。先日、”道逢の儀”でゼノン・リカイオスとツガイになりました。その新婚旅行の帰りに攫われてしまって……、」

「ゼノン・リカイオスだと!?」
レオニダス王は、カッ、と目を見開いた。

「何と、あのむっつりめ。いつの間にこんなに可愛らしい嫁を貰っていたのだ、生意気な」

ちょっと。
頭を撫でないでくれるかな。


「攫われて来たというのに妙に落ち着いているし、私の顔を見ても怯えないとは。かなり肝の据わった嫁だ。羨ましい……」

まあね。
攫われるのは二回目だからね!

って、レオニダス王の顔、怯えるほど怖くないと思うけどな。

身長は3メートルくらいあるから迫力はあるけど。
と思ってじっと見たら、頬を染めた。

純情少年みたいな反応しないでくれるかな! 俺、男だからね?


「王妃様と初めてお会いした時はかなり怯えて泣かれたそうですしね」

王座の横に立っていた騎士が笑みを押し殺しながら言った。
赤毛に青い目のおじさんだ。

「デメトリ、余計なことは言わんでいい」
背後の騎士を睨んでる。


「あの、ゼノンとお知り合いなんですか?」

他国の王様と王子が知り合いでもおかしくはないんだろうけど。
こことはあんまり仲が良さそうじゃなかったのに。

「ん? ゼノンの名を知らぬ者などおらんだろう。王子の身で黒騎士となり、”神に愛でられし存在”であるのに」


神に愛でられし存在?

そういえば。
ゼノンの親も、神に愛された子、だとか何とか言ってたような。

「ゼノンって、そんなに有名だったんですか……」
「その様子では、ゼノンの名に惹かれて求婚を受けたのではなかったのか?」

あ、あの騎士。
どこの田舎から来たんだ、みたいな目で見た。


「いえ、こことは違う世界にいたのを連れてこられたので。初対面だし、情報も全く無い状態でした。花を差し出されてうっかり受け取ったら求婚成立してたんで……」


*****


異世界の話を冗談かと思ったのか。
レオニダス王は面白がって、ゼノンのことを教えてくれた。


今から27年前、満月の夜。
ゼノンが生まれる前に月の光が消え、生まれた直後に光が戻ったという。

ああ、ゼノンって27歳だったんだ。10こ上かあ。
他人から聞いて、初めて知ったよ……。


「ああ、皆既月食の日に生まれたんだ……いい記念になりそう」

「あれは”皆既月食”というのか? ヴォーレィオの王城に光が差し、神に祝福された王子として、ゼノンはその名を知らぬ者はいないほど有名になったのだ」


成程。
皆既月食とか皆既日食とかの知識が無ければ神様の仕業かと思うよな。

仕組みを知ってても不思議だもん。

「太陽がこの惑星の丁度反対側になる時、月の光が遮られて真っ暗になる現象ですね。逆もあります」
「そ、それは本当か?」

目で見ないとわからないというので。
蝋燭と丸いもの二つで再現して見せたら。

その場にいた全員が大興奮だった。


「何故、誰も知らぬはずの、空の上で起こったことを知っているのだ……。”異世界”から来たと言ったな。まさか……天上人なのか?」

「ああ、まあそんなもんかなあ」
面倒臭くなったので適当に答えたら、レオニダス王は俺の前に跪いて。


「天上人を見下すような形で申し訳ない。知らぬこととはいえ、数々の無礼をお許しください」
深々と頭を下げられてしまった。

「我らの種族をひと目で当てられたはずだ! 天人様を攫うとは、何と畏れ多いことを。罰を当てないでください」
「どうかお許しを、お願いします!」

モグラ族の二人も、震えながら平伏している。
モグラ族ってそんなレアなの?


崇められてしまった……。
神様の実在する世界で、適当なことを言ってはいけないと学習した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

猫の王子は最強の竜帝陛下に食べられたくない

muku
BL
 猫の国の第五王子ミカは、片目の色が違うことで兄達から迫害されていた。戦勝国である鼠の国に差し出され、囚われているところへ、ある日竜帝セライナがやって来る。  竜族は獣人の中でも最強の種族で、セライナに引き取られたミカは竜族の住む島で生活することに。  猫が大好きな竜族達にちやほやされるミカだったが、どうしても受け入れられないことがあった。  どうやら自分は竜帝セライナの「エサ」として連れてこられたらしく、どうしても食べられたくないミカは、それを回避しようと奮闘するのだが――。  勘違いから始まる、獣人BLファンタジー。

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

黒豹拾いました

おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。 大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが… 「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」 そう迫ってくる。おかしいな…? 育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

転生したら猫獣人になってました

おーか
BL
自分が死んだ記憶はない。 でも…今は猫の赤ちゃんになってる。 この事実を鑑みるに、転生というやつなんだろう…。 それだけでも衝撃的なのに、加えて俺は猫ではなく猫獣人で成長すれば人型をとれるようになるらしい。 それに、バース性なるものが存在するという。 第10回BL小説大賞 奨励賞を頂きました。読んで、応援して下さった皆様ありがとうございました。 

処理中です...