50 / 68
4
ありえないはずの再会
しおりを挟む
依井をうちで受け入れる下準備もできたし。
そろそろアナトリコへ迎えに行くことにした。
今回はタキとノエも同行だ。
依井を迎えに行って。
その帰りに徳田さんの家に寄って、連れて帰ってくる予定だそうだ。
だから座席に余裕のある、大きな馬車なんだ。
馬車の窓からかっこよく騎馬に跨ってる二人を見ながら、羨ましく思った。
あっちの方が馬車よりも早いし、機動力もあるんだよな。
そりゃ一番早いのは飛竜だけど。
「俺も乗馬、覚えたいかも……」
「俺が乗せる。スオウは軽いから、二人乗りでも大丈夫だ」
自分が馬の乗り方を教えてもいいけど、一人で乗るのは危ないからダメだって。
過保護すぎだってば。
それに、馬に乗ってたら、アルギュロスが妬くだろうって?
確かに。
自分の方が早いのに、って拗ねそうだ。
確かに、一人で乗るなら飛竜のほうずっとが早いな……。
*****
カルデアポリを経由して、アナトリコのお城へ向かう。
初めてここに来た時は、モグラ族に攫われて地下道を通って来たんだっけ。
我ながら、不思議なくらい緊張感ゼロだったな。
もし奴隷商人に連れ攫われて売られたりしたら、どうなってたんだろ。
なんにしろ、ゼノンが絶対助けに来てくれるだろうから、考えても意味無いかな。
めちゃくちゃ愛されてるよな、俺。
昨夜も、他の国に行くからって。
お腹の中いっぱい注がれてしまった。
まだ奥にゼノンがいるみたいだ。
「こら、そんなに色っぽい顔をするんじゃない」
頬にキスをされる。
「ゆうべのこと思い出してただけだよ」
「まだ眠いなら、城までもう少しかかるから眠っていていいぞ」
優しく頭を撫でられて。
「ん、平気」
ゼノンの、広い胸に擦り寄る。
ゼノンは俺を見て、嬉しそうな顔をしている。
こんなに愛されて。
すごく幸せだよね、俺。
*****
想像通り、だめだった。
一応、これだ、とピンときた相手と色々試してみたけど。
どれも失敗に終わってしまったようだ。
俺とゼノンがそうだったからと。
女の人だけじゃなく、男とも試させてみたんだって。
お見合い、結婚、離婚の繰り返しを何度もやったのか。
そりゃ大変だっただろうな。
双方とも。
「悪い、やっぱダメだったわ」
しばらくぶりに見た依井は、げっそりしていた。
「……しないでいい経験しちゃった……。正直、黒野だけ恵まれてていいなって内心羨ましく思ってたんだけど、思い直したわ。悪かった。愚痴を言わないだけで、お前はお前で苦労してたんだよな……」
依井は真顔で言った。
真剣に同情されてしまった。
いったい、どんな目に遭ったんだろう……。
まあ、いきなり異世界に連れ去られて、強引に男に抱かれて、ずっと女装させられてる状況って。客観的に見れば、わりときついよな。
今はそんなに気にしてないけど。
「お手軽ショートラーニングは諦めて、地道に言葉の勉強させてもらうわ……」
「お、おう。そうか。お疲れ……」
*****
「お力になれず、面目ない……」
レオニダス王は申し訳なさそうにしていた。
デメトリまで。
「いえ、俺の友人のために力を尽くしてくださって、ありがとうございます。心から感謝します」
約束の、宇宙の話を少々していくことにする。
それにはゼノンも反対しなかった。
異世界での話なので、もしかしたらここと同じとは限らないですが、とは言ったけど。
それでもいいらしい。
俺の言ってることは理解できるので、天体望遠鏡を持ってた依井は合間に自分の持ってる知識を披露した。
それを通訳したら、レオニダス王は大喜びで。
どうやら依井のことを気に入ったようだ。
言葉を覚えたら研究者としてうちの国に来ないか、とかスカウトしてるし。
「え、マジで? 王様から直接スカウトされるとか、すげえ光栄なんじゃね?」
「そりゃそうだよ。本来、一般人が普通に会えるような身分の人じゃないんだからな?」
そういう俺も一般人だったんだけど。今は王子の嫁だもん。
おやつの時間にケーキとかをご馳走になったりして、楽しく過ごした。
また是非遊びに行きたいって言ったら、喜んで歓迎してくれるって。
やっぱりレオニダス王は優しくて良い王様だなあ。
*****
「うちに戻る前に、依井の先生を拾ってくから。会ったらびっくりするぞ」
「先生? 言葉わかる人他にもいるんだ。っていうか、もう、ゼノンさんちが黒野が帰る”うち”なんだな」
そういえば。
いつの間にか、すっかり自宅みたいな感覚になってた。
使用人を使うことにはまだ慣れてないけど。
「そりゃもう、俺だって王太子妃殿下だし?」
スカートの裾を持ち上げてみせる。
「違和感なさすぎ!」
それはそれで、男としては悲しいんだけどな。
徳田さんは支度を終えて、荷物をまとめて家の前で待っていてくれた。
鞄の中にはお茶の道具も入ってて、休み時間とかに淹れてくれるって。
楽しみだ。
「この人、母方のじいちゃんにそっくりなんだけど!」
挨拶もそこそこに、依井が驚いていた。
いや、そういう意味で驚かれるとは思わなかった。
「戦時中にここに飛ばされた、徳田 六郎太さんだよ」
「徳田って……。母方の祖父ちゃんも徳田なんだけど。もしかして、親戚だったり?」
「え?」
依井の発言に、徳田さんもびっくりしていた。
*****
よく話を聞いてみれば。
依井の母方の祖父の父親……曽祖父が徳田さんの実の兄だったようだ。
徳田さんは、戦争で死んだとばかり思っていた兄が生きていたことも、その子孫がここに来たことも驚いていた。
「曾祖父ちゃん、弟はラバウルで亡くなったって言ってたよ。生きてたんだ……。教えてあげたかったな」
「ああ、そういえば兄の面影が少しあるかもしれない。どれ、良くみせてくれないか」
徳田さんと依井は握手をして。
本来、出会うはずのない再会を喜び合った。
とんでもない奇跡だ。
そろそろアナトリコへ迎えに行くことにした。
今回はタキとノエも同行だ。
依井を迎えに行って。
その帰りに徳田さんの家に寄って、連れて帰ってくる予定だそうだ。
だから座席に余裕のある、大きな馬車なんだ。
馬車の窓からかっこよく騎馬に跨ってる二人を見ながら、羨ましく思った。
あっちの方が馬車よりも早いし、機動力もあるんだよな。
そりゃ一番早いのは飛竜だけど。
「俺も乗馬、覚えたいかも……」
「俺が乗せる。スオウは軽いから、二人乗りでも大丈夫だ」
自分が馬の乗り方を教えてもいいけど、一人で乗るのは危ないからダメだって。
過保護すぎだってば。
それに、馬に乗ってたら、アルギュロスが妬くだろうって?
確かに。
自分の方が早いのに、って拗ねそうだ。
確かに、一人で乗るなら飛竜のほうずっとが早いな……。
*****
カルデアポリを経由して、アナトリコのお城へ向かう。
初めてここに来た時は、モグラ族に攫われて地下道を通って来たんだっけ。
我ながら、不思議なくらい緊張感ゼロだったな。
もし奴隷商人に連れ攫われて売られたりしたら、どうなってたんだろ。
なんにしろ、ゼノンが絶対助けに来てくれるだろうから、考えても意味無いかな。
めちゃくちゃ愛されてるよな、俺。
昨夜も、他の国に行くからって。
お腹の中いっぱい注がれてしまった。
まだ奥にゼノンがいるみたいだ。
「こら、そんなに色っぽい顔をするんじゃない」
頬にキスをされる。
「ゆうべのこと思い出してただけだよ」
「まだ眠いなら、城までもう少しかかるから眠っていていいぞ」
優しく頭を撫でられて。
「ん、平気」
ゼノンの、広い胸に擦り寄る。
ゼノンは俺を見て、嬉しそうな顔をしている。
こんなに愛されて。
すごく幸せだよね、俺。
*****
想像通り、だめだった。
一応、これだ、とピンときた相手と色々試してみたけど。
どれも失敗に終わってしまったようだ。
俺とゼノンがそうだったからと。
女の人だけじゃなく、男とも試させてみたんだって。
お見合い、結婚、離婚の繰り返しを何度もやったのか。
そりゃ大変だっただろうな。
双方とも。
「悪い、やっぱダメだったわ」
しばらくぶりに見た依井は、げっそりしていた。
「……しないでいい経験しちゃった……。正直、黒野だけ恵まれてていいなって内心羨ましく思ってたんだけど、思い直したわ。悪かった。愚痴を言わないだけで、お前はお前で苦労してたんだよな……」
依井は真顔で言った。
真剣に同情されてしまった。
いったい、どんな目に遭ったんだろう……。
まあ、いきなり異世界に連れ去られて、強引に男に抱かれて、ずっと女装させられてる状況って。客観的に見れば、わりときついよな。
今はそんなに気にしてないけど。
「お手軽ショートラーニングは諦めて、地道に言葉の勉強させてもらうわ……」
「お、おう。そうか。お疲れ……」
*****
「お力になれず、面目ない……」
レオニダス王は申し訳なさそうにしていた。
デメトリまで。
「いえ、俺の友人のために力を尽くしてくださって、ありがとうございます。心から感謝します」
約束の、宇宙の話を少々していくことにする。
それにはゼノンも反対しなかった。
異世界での話なので、もしかしたらここと同じとは限らないですが、とは言ったけど。
それでもいいらしい。
俺の言ってることは理解できるので、天体望遠鏡を持ってた依井は合間に自分の持ってる知識を披露した。
それを通訳したら、レオニダス王は大喜びで。
どうやら依井のことを気に入ったようだ。
言葉を覚えたら研究者としてうちの国に来ないか、とかスカウトしてるし。
「え、マジで? 王様から直接スカウトされるとか、すげえ光栄なんじゃね?」
「そりゃそうだよ。本来、一般人が普通に会えるような身分の人じゃないんだからな?」
そういう俺も一般人だったんだけど。今は王子の嫁だもん。
おやつの時間にケーキとかをご馳走になったりして、楽しく過ごした。
また是非遊びに行きたいって言ったら、喜んで歓迎してくれるって。
やっぱりレオニダス王は優しくて良い王様だなあ。
*****
「うちに戻る前に、依井の先生を拾ってくから。会ったらびっくりするぞ」
「先生? 言葉わかる人他にもいるんだ。っていうか、もう、ゼノンさんちが黒野が帰る”うち”なんだな」
そういえば。
いつの間にか、すっかり自宅みたいな感覚になってた。
使用人を使うことにはまだ慣れてないけど。
「そりゃもう、俺だって王太子妃殿下だし?」
スカートの裾を持ち上げてみせる。
「違和感なさすぎ!」
それはそれで、男としては悲しいんだけどな。
徳田さんは支度を終えて、荷物をまとめて家の前で待っていてくれた。
鞄の中にはお茶の道具も入ってて、休み時間とかに淹れてくれるって。
楽しみだ。
「この人、母方のじいちゃんにそっくりなんだけど!」
挨拶もそこそこに、依井が驚いていた。
いや、そういう意味で驚かれるとは思わなかった。
「戦時中にここに飛ばされた、徳田 六郎太さんだよ」
「徳田って……。母方の祖父ちゃんも徳田なんだけど。もしかして、親戚だったり?」
「え?」
依井の発言に、徳田さんもびっくりしていた。
*****
よく話を聞いてみれば。
依井の母方の祖父の父親……曽祖父が徳田さんの実の兄だったようだ。
徳田さんは、戦争で死んだとばかり思っていた兄が生きていたことも、その子孫がここに来たことも驚いていた。
「曾祖父ちゃん、弟はラバウルで亡くなったって言ってたよ。生きてたんだ……。教えてあげたかったな」
「ああ、そういえば兄の面影が少しあるかもしれない。どれ、良くみせてくれないか」
徳田さんと依井は握手をして。
本来、出会うはずのない再会を喜び合った。
とんでもない奇跡だ。
17
あなたにおすすめの小説
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
猫の王子は最強の竜帝陛下に食べられたくない
muku
BL
猫の国の第五王子ミカは、片目の色が違うことで兄達から迫害されていた。戦勝国である鼠の国に差し出され、囚われているところへ、ある日竜帝セライナがやって来る。
竜族は獣人の中でも最強の種族で、セライナに引き取られたミカは竜族の住む島で生活することに。
猫が大好きな竜族達にちやほやされるミカだったが、どうしても受け入れられないことがあった。
どうやら自分は竜帝セライナの「エサ」として連れてこられたらしく、どうしても食べられたくないミカは、それを回避しようと奮闘するのだが――。
勘違いから始まる、獣人BLファンタジー。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
黒豹拾いました
おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。
大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが…
「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」
そう迫ってくる。おかしいな…?
育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる