異世界の婚活イベントに巻き込まれて言葉が通じないままイヌ耳黒騎士に娶られてネコにされてしまいました。

篠崎笙

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挨拶回り

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初心を思い出して、ラブラブ新婚生活を楽しみたいところだったゼノンには悪いけど。

義理を欠いてはいけない。
お世話になった人たちに直接伝えないといけないことがある。


アナトリコ王国に行って。

レオニダス王に、異次元の扉が開いて、依井が元の世界に帰ったという話をしたら。
かなり残念がっていたけど。

無事に戻れたことは良かった、と。
向こうでの幸せを祈ってくれた。

俺で良ければ、また宇宙の話をしますよ、って言ったら。
すごく喜んでくれた。


あと、どこで噂を聞きつけたのか、彫金とか食器作りとかも一緒にやってみたいって。

アナトリコにも良い土があるから、仙人エリミティスも一緒に是非、って誘われちゃった。
アドニスやレダさん、モンタギューさんも呼んで、大勢でわいわいやったら楽しそうだ。


月と狼と黒猫の食器も20客ほど注文したって言われて、恥ずかしかったけど。
結婚を祝ってくれる気持ちが嬉しかった。

俺とゼノンが月神と時間神の生まれ変わりだって判明した話はオフレコなはずなんだけど。
他の国でも、”所持してると幸福が舞い込む縁起物”として話題になっているようだ。


ゼノンと俺と交流を持ったことで、今まで険悪だったヴォーレィオとアナトリコとの関係も変わって来たそうで。
貿易とかでお互い活気づいてきたって話だ。

それで、トゥリティの商品とかも入ってくるようになったんだって。


もっと仲良くなって。
両方にいい影響が出たなら幸いだよね。


*****


「天使殿は、そこに居てくれるだけで幸福を呼ぶのだ」

本気でそんなことを言ってる様子のレオニダス王を、近衛騎士のデメトリは苦笑して見ている。
前はすごい目で見てたのに。


「実は、ゼノン王子が国王になったら和平条約を結びたいという話があるんですが、考えといてください」
デメトリはストレートに言った。

それに対してゼノンは片眉を上げて。
「今はしない理由を訊いても?」

「今のヴォーレィオ国王は好かん。目を見て信用できる人物でないと取引はしたくないのだ」
レオニダス王も正直に言っちゃうし。


そっか。
ゼノンのこと、信用できる人物だって思ってくれてるんだ。嬉しいな。


「……そうですね。私もアナトリコ国王陛下ならば、充分信用に足る人物かと」

「前までは信用に足らぬ男だったか、ははは」
レオニダス王は豪快に笑った。


「ああ、それと。念のためディティコ王国でも”耳の無いヒト”がいるか捜索を頼んだのだが。残念ながら、あちらには居なかったようだ」
「頼んで下さったんですか? ありがとうございます」

「言葉がわかる者なら存在を隠し黙って利用するだろうが、こちらの言葉がわからぬのなら泣きついてくるはず。未だ連絡が来ない故、本当に居なかったのだろう」
皮肉そうな笑みを浮かべて言った。


あ、セルジオス王ってそんな感じな人なんだ。

こすからい性格だって知ってて。
あえて情報を伏せて捜索を頼んだレオニダス王もなかなかだな。


*****


「まあも幼少時より相当苦労して育ったのだ。多少のやんちゃは目を瞑ってやって欲しい」
生まれてすぐから叔父を王に推す派閥に命を狙われ続けて、名を上げるのに必死だったとか。


「夜中暗殺に忍び寄るのは多少のやんちゃでは済まされないと思うが……」
ゼノンは微妙な顔をして首を傾げてる。

「え、狙われてたのは貞操だけじゃなかったの!?」


殺意満々で忍んで来ておいて、夜這いだとか見苦しい言い訳をしていたので、騎士学校中に噂を広めてやったとか。
ゼノンも大概いい性格をしてるな……。

お陰で二大美少年だったアドニスに襲うふりをせざるを得なくなって。
そのせいで未だにアドニスから避けられてるのため、国家間の取引にも影響が出てるそうだ。

何というか、自業自得すぎる。


ゼノンは、命を狙ってこなければディティコ王国とも和平協定結んで貿易取引をしてもいいと考えてるらしい。
心広すぎない?

国の将来を考えれば、そのほうが都合がいいんだって。


じゃあまた遊びに来ます、と言って。
飛竜に乗った。

アルギュロスもおやつを貰えてご機嫌だ。
食べすぎて体重増えたら、飛べなくなったりしない?


*****


次はノーティオ王国へ行った。


モンタギューさんにも、俺の友達が元の世界に戻ったことを話して。
元の世界に戻りたいか訊いてみたけど。

ここで楽しくやってるので、ロンドンには帰りたくないそうだ。


現在ノーティオではモンタギューさん指導のもと、文字を打ち込む機械を製作中だって。
タイプライター? パソコンの前にあったワープロってやつかな? ワードプロセッサーだっけ。

手書きから、機械による文字になるのか。
写本職人の仕事が無くなる? それじゃ、印刷所に勤めてもらったらどうかな。


その後は、活版印刷のあれこれを教えるそうだ。

それなら俺も知ってる。
美術の授業で凸版やシルクスクリーン印刷とかもやったことあるし。


「何と。スオウも知っているのか。ならうちが技術で遅れることは無さそうだな」
ゼノンは大袈裟に胸を撫でおろす仕草をしてみせた。

「いや、さすがにトゥリティの技術には負けるって」
アドニスが笑ってる。

どっちみち、タイプライターと活版印刷の機械が完成したら、その設計図は他の国にも送るつもりだそうだ。
作る技術がなければ部品や機械を売ったり。

その方が、他の国の本とかも気軽に手に入るようになるし。
お互いの国の発展にも繋がるんじゃないか、という考えだそうだ。

目先の利益より、もっと先を見てるんだ。


「だからさ、細かい部品とかはトゥリティの職人に頼みたいんだけど、いいかな?」
「ああ、勿論だ」

これが持ちつ持たれつ、ってやつかな。


*****


「ミスタ・クロノ? ちょっといいかね?」

相変わらず三つ揃えのスーツが似合う英国紳士なモンタギューさんに。
未来では文字の配列はどうなっているか聞かれたので、現在のキーボードを絵で描いた。

「ふむ、やはりスペースキーと数字は必要か……」
簡略化したいけど難しい、と顎を撫でて思案している。


モンタギューさん、最初に見た時より生き生きしてる。

泥酔して、テムズ川に落ちたんだっけ?
それで危うく死にかけて、こっちに来たんだ。

その前に、何か辛いことがあったみたいだけど。

今はこっちの言葉も問題なく話せるそうだし。
幸せそうだし。

ロンドンでの事は、訊かなくていいよな。
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