日没のリインバース ~死んだら転生する世界で生き続ける俺たちの物語~

八夢詩斗

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最終章 日没編

0046 ジョーカー

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 僕はひとりぼっちなんかじゃなかった。表面的には、だけど。とても小さな頃から、何事も上手くやれていた。天才だったのだ。自ら、自ずから言ってしまうというのも烏滸がましく傲慢だと感じなくはない。だけど僕はそういうだから仕方がないのだ。

 魔法も含め何事もそつなく、難なくこなすことができた。なんだってお茶の子さいさいの人気者。貴族の子に生まれ、未来を将来を期待され、順風満帆な人生。でも、当の本人は退屈だった。退屈で退屈で仕方がなかった。みんなの期待に応えるだけの人生に嫌気がさしてしまった。いつでもニコニコと愛想を振りまき、相手の顔を立てながら、期待を先読みして行動する。礼儀正しく、貴族らしく紳士に振る舞い、社交的な場にも出かけてもっと上流な人たちに取り入るのだ。うまくやれていた。そう。とてもとてもうまく。だけど、そうしていつの間にか自分というものを見失っていた。気づかぬ間にアイデンティティはどこかへ行ってしまったのだ。
 
 張り付けた笑顔の裏。仕舞い込んだ数々の数多ある感情は激情であり、無視できないものになっていた。 僕はなんで笑っているんだろう?何も面白いことなんてないのに。いつしか……いつからだろうか。この世界がぐちゃぐちゃになることを望んていた。人間は退屈だと不幸でもいいから何かイベントが起きてほしいと願ってしまう。君も願ったことがあるだろう?隕石が落ちたらいいのにだとか、ゾンビでも現れてくれればいいのにだとか。僕が退屈なのは日常が退屈な世界だから。世界のせいだ。もっと面白おかしい世界に生まれ変われたならこんな悩みもなかっただろうにってね。そうやって悶々と日々を消費していた僕はその日、死神に出会った。

 もう150年以上も前の話だ。でもハッキリとくっきりと覚えている。その時期は革命が起こって各地がごたごたとしていた。なんとまあ、王族が処刑されてしまったのだから当たり前だ。とんでもない事件だった。市民たちは飢えに飢え、限界だった。自由と平等という大義を掲げ、多くの人が死に、たくさんの魔素が溢れた。僕はとても興奮した。ついに終末の日アポカリプスのような、恐るべき、来るべき、楽しい日が訪れたのだと。そんな動乱の中で新しく権力を握ったピエールは政敵を次々に処刑台《ギロチン》送りにしていった。気に食わない人物が続々と死んでいく。この権力は爽快で愉快で、楽しかった。僕は彼に取り入っていたし、一緒になって沢山の人を実質的に殺したのだ。人生で味わったことのない愉悦。まあ、それも最初の数人までだ。そこからは大してエクスタシーは感じられなかった。だがそんな時だ。死神が現れたのは。

 彼は突然に現れた。あんな魔法は一度だって見たことがなかった。今までは魔法なんてせいぜい武器や生活道具の拡張だと思っていたのに、瞬間移動じみた魔法を見てしまったのだから驚くのも無理はないだろう?僕はそんな感情をいつものごとく当然のごとく表には出さず至って冷静で沈着で品格のある調子で話しかけた。

「エクセレントでエレガントな魔法ですねぇ。しかし、とても物騒な格好だ。一体何者です?よもやまさか死神などという安直な存在だとでも言うのでしょうか?」
 
 ピエールはその姿を見て怯え切っていた。きっとおそらくきっと、罪だとか罰だとかそんなくだらないことを考えていたのだと思う。死神が死をもたらしに来たのだとね。そして、あろうことか魔法を放ったのだ。だが、死神のような男が大鎌を振ると一瞬にして魔法は立ち消え、気づいたときにはすでにピエールは死んでいた。鮮やかで艶やかで美しかった。非現実的なほどに。

「ああ、なんとなんと凄まじく素晴らしい力だ……!僕も殺すんですか?貴方にならば殺されても構いません。ただし、少し遊んでから、だと嬉しいのですが」

「任務は完了した。お前に用はない」

 その言葉を聞いたとき、すごく悲しかった。この人物であれば僕のこの満たされない心を潤してくれると思ったのに。去っていこうとする彼を止めたかった。どうしても。

「行かせませんよ。儡儡人形《グーグードールズ》」

 僕は魔力を思い切り解放した。久しぶりだった。貴族社会では人前で魔力を解放するのは野蛮とされているし、干渉しないことがマナーだったのだから仕方がない。せき止められていた感情と魔力が溢れる。それはある種の快感でありカタルシスだった。10体もの影人形が死神の周りを取り囲む。最高記録だった。こんなことは僕の知る誰もできなかった。これだけの数を自在に操るのは並大抵ではないのだ。僕は天才で奇才なのだから例外なのだが。

「ほう……?」

 これには少し死神も驚いたようだった。だが、一瞬のうちにその鎌によって僕の人形たちは成す術なく消え去っていた。あっけなく。とてもとても儚く。ありえなかった。あの鎌に何かカラクリがあるとは分かる。でもどうしたらいいのかはわからない。僕はすぐに諦めた。諦めるときには潔く迅速に、だ。一度諦めることで初めて見えることもある。勝つだけが戦いではない。

「ハハハハハ……何度見てもマジックの種はわかりませんねぇ。貴方のその鎌に何か仕掛けがあるようですが……随分と高度な技術だ。とてもとても敵いそうにありません。僕の負けですよ。で、す、が、殺すのは待った方がいい。僕という才能は必ずやお役に立ちます。どんなことでもやってみせましょう。貴方の弟子にしていただきたいのです。損はさせません」

「……ついてこい」

 これには僕も驚いた。意外にもあっさりすんなりと僕は彼の所属する組織、涅槃に入ることになった。試練を超えて、家族を皆殺しにした。大して心は痛まなかった。もうすでに僕の心は死んでいたようなものなのだから。こうして僕は愚者の称号を与えられ、道化師ジョリージョーカーになった。

「僕のアイデンティティは何なんでしょう?」

「自由に演じればいい」

 彼は言った。それはまさに僕にぴったりと重なった。僕の人生は道化だった。ずっと演じてきた。それはこれからも変わらない。だけど、人はみな何かを演じているのだ。理想の自分に近づくために演じ続けるのだ。

 僕は今、怒りに満ちていた。これは演技だろうか。どちらだってかまわない。やつらを恐怖に貶めるために必要ならば自分の感情も使うまでのこと。舞台装置もたっぷり使ってやろう。奴らに嵌められたサリエルのために。

「やあどうもどうもリベリカのお偉いさん方!ピエロがあなた方を1人残らず殺しにやってまいりましたよ。ワタシの名前はジョリージョーカー!どうぞ気軽にジョジョとお呼び下さい!まあ、アナタがたにとっては死神とでも思っていただければ幸いですねぇ。それは光栄で虚栄で身に余りある栄誉です。派手に殺し合いましょう!ワタシは激しく著しく怒っているのです」

「まんまと現れるとはな、涅槃の道化。しかもたった1人とは……ジョークのつもりかな?」

「滅相もない!ワタシはいつだってどこでだって真面目もマジメ、大真面目ですよ!」

 確かに大統領は取り巻きの兵士を随分とたくさん従えていたし、来ることも読まれていたらしい。手の内もある程度バレているかもしれない。だが関係はなかった。僕はいきなり魔法を解き放つ。ド派手に。華々しく。ショーの開幕だ。
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