日没のリインバース ~死んだら転生する世界で生き続ける俺たちの物語~

八夢詩斗

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最終章 日没編

0056 スタンドバイミー

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 魔力が体を行き渡る感覚が心地よい。今までつっかえていたところにまで魔力を感じる。でも綺麗ごとだけじゃない。俺はたくさんの人を殺し、可能性を奪った。その人たちを背負っていかなくてはならない。この重さを感じながら生きなくてはいけない。この心地よいという感覚にはいつも罪悪感が宿る。それでいいのだ。今はまだ。それを失ってしまったなら、よりよい世界を築くことを諦めてしまう。自分さえよければいいとはもう思わない。まずはカンナだ。俺は絶対にあきらめない。彼女の抱える闇を、一緒に背負いたい。

 俺は目を開く。もう十分に休んだ。正直言って彼女に勝てるはずもない。それでもちゃんと目を見て向き合ってやる。どれくらい時間が経ったのかわからないが、最初は道化の元へいこう。俺はリベリカ近くへとゲートで向かった。

「おやおや!シヴァさん社長出勤とは随分とご出世なされたようですねぇ」

「強烈な皮肉をありがとう。もう終わったんだな」

「ジョーク冗談ですよ、実際たのしかったですからねぇ。むしろ感謝感激していますとも!」

 片腕がなくなったにも関わらず、道化はいつもの調子で語り掛けてくる。いや、いつもよりも何というかわざとらしさが少ない感じもした。周囲には秩序を失ったカラフルな魔素が漂い、激戦の様子がうかがえる。ここは素直に温存できたことを感謝しておこう。

「ちょうどちょうど残党狩りも終わったところですから、アナタはさっさとすぐにフィアンセ―のところへ向かうべきでしょうねぇ!」

「ああ、お言葉に甘えさせてもらうよ。お前はどうするんだ?」

「ワタシは誠に本当に残念ではありますが、行っても足手まといになってしまうでしょうから、一度いったん休ませていただきますよ」

 やはり今日はやけに素直な気がする。道化ほどの男でも魔力を解放しすぎれば少しは素にもどるということだろうか。自然と小さく笑ってしまう。

「何が可笑しいんでしょう?ジョークの1つも発していないのですがねぇ……」

 仕草は相変わらずだが、どうにも面白く見える。これは俺の視方が変わったせいかもしれないな。

「なんでもないんだ。じゃあ、行くよ。またなジョジョ」

「む?ああ、ええ、何というか少し変わりましたねぇ、トバリさん。とっとと痴話喧嘩の片を付けて来てください。まったくやれやれ、巻き込まれるのは二度と勘弁ですよ」

 俺は明らかにジョークとわかる言い方をする道化師ジョジョの元を去り、ソフィエンテへと向かった。ツクヨミの話では上空に合図が残っていればカンナがいるということだったが、遠目にそれは確認できない。もうすでに戦いは終わっているようだ。見にいっても無駄だろう。涅槃と統一政府のどちらが勝っていたとしても、俺にできることはあまりない。いや、敵が残っているならば倒しておくべきなんだろうが、今はカンナの方を優先すべき、というよりも俺の意志として無駄な戦いをしたいとは思わなかった。カンナさえ説得できれば、おそらく奴らは瓦解するだろう。

 すぐに次元門《ゲート》を出してエウロパへと向かうことにした。しかし、後ろから気配を感じて振り返る。まさかとは思ったが……鉢合わせるとはな。しかも涅槃は負けたらしい。

「おい!クソトバリ!」

 見るからに魔力切れ寸前といった風体の4人組だ。俺が隊長を務めていたルナン軍の元長月隊。どうやら教皇と太陽を倒したのは彼ららしい。俺は複雑な気持ちになる。あいつらは俺を殺したいだろうか?ルナンに核魔導兵器を撃ち込んだのは俺だと知っているだろうか?相手がどんな感情を抱いているにせよ、俺には戦うつもりなど毛頭なかった。その選択肢はハナからない。

「久しぶりだな、みんな」

 最後に会ってからどれ位経ったのだろう。実際の時間軸ではたいして時は経っていない。それでも、色々とありすぎたからか、とんでもなく長く会っていないように感じる。

 殴りかかろうとするカルラを制して霜月が言葉を発した。後に続いて北条も声を上げる。

「隊長……いえ、長月トバリ。貴方はあくまでも涅槃の側に立つんですか?」

「私たちを……殺すんですか!」

 いつもは賑やかなはずの嵐山やカルラは黙っており、対照的に普段は感情的にならないはずの霜月と北条が声を荒らげている。なにより北条があんなにハッキリと声を出すなんてとても珍しかった。

「俺は……どちらの側でもないよ。お前たちも殺さない。いや、殺すなんてできない。綺麗ごとに聞こえるかもしれないけど」

「そうです!綺麗ごとですよ!タイチョーは……ルナンの人をたくさん殺したんですよね」

 嵐山はうっすらと涙を浮かべながら、手は出さないようにこらえつつも声を上げる。

「そうだ。ルナンにとどめを刺したのは俺自身だ。やらされたことで、おれがやらなくても誰かがやったこと……そんな言い訳はしたくもない」

「クソッタレ!てめえっ……!ぶっ殺す!」

「やめて!カルラくん。最後まで聞こう」

 北条が察してくれたのか、今にも飛び掛かろうとするカルラをまたしても制する。成長した、ということだろうか。

「ありがとう北条……俺はたくさんの命を人生を奪った。この世界で生まれるはずだった多くの感情を、幸せを、奪ったんだ。それは変わらない。忘れられるわけもない。だからずっと背負っていく。報いられるか、許してくれるかなんてわからない。それは殺めてしまった人々だけじゃなくお前たち含めて残された人々にもだ。つけてしまった傷は消えないかもしれない。でも、これから生まれるそういう痛みを少しは減らせるように、世界をよりよくしていきたいと思っている。そのために俺の命を使う。それしかできないんだと思う」

 パチンッと乾いた音が鳴り響く。霜月が歩み寄って俺の頬を打ったのだ。

「私は……これで許します。痛っつつ……なんでこんな仮面なんて付けてるんですか?後ろめたいみたいで格好悪いですよ」

「ああ……外れないんだ。悪い」

「どいてください!リオコ新タイチョー!女巨人の剣アングルボダ!」

 一瞬反応ができない。あれは、アーティファクト!?流石にそれはやりすぎだ、と思うがそれくらい怒りがあるということだろう。甘んじて受け入れたいところではあるが流石に死ぬわけには行かない。俺はかわそうと考えたが、よく見るとどうやらその巨大な剣は間合いの外のようだったのでその場で動かないことにした。

「ちょ!?ハヅキ!やりすぎよ」

「違いますよ!ぶっ殺したりしませんって!ほら……ご尊顔が見えますよ?」

 大剣は見事に仮面だけを斬り、久々に感情の揺らぎが戻り、自分の目で世界が見れた。そうか、世界はこんなに美しかったっけ。嵐山以外の驚いた顔もなんだかとても面白くてつい笑みがこぼれる。

「うわ!笑ってるんですけどこの人!やっぱりぶっ殺しますか!?」

「ま、待ってくれ。どうにも、お前たちと再会できたことが嬉しくてだな……」

「キッショいんだよ!クソが!」

 カルラは思い切りみぞおちに蹴りを入れてくる。すごい威力だ。思わずえずいてしまった。

「本当はクソぶっ殺してやりてえが、今はオレの魔力もねえ。次会った時は覚悟しとけよ」

「あ、ああ……覚悟しておくよ」

 そうして腹を抱えながら顔を上げると今度は目の前に北条が立っている。次は何をされることやらと心の中で身構えた。

「私は……隊長のせいだとは思いません。だけど、さっき言ったことは守ってください。命を使い切ってください。私も手伝えることがあるなら手伝いますから」

 目を見てハッキリと……親心みたいなものもあふれる。なにより手伝ってくれると言ってくれたことが嬉しかった。気づくと目頭が熱い。

「私も別に恨んでないですよ。世界はしょぎょーむじょーでじゃくにくきょーしょくですから!死ぬときはしっかり死んで、生きるときはしっかり生きるべきです!」

 変なところでサバサバとしている。でも救われた。俺はどんな顔をしているだろう。ほほを伝う水は塩辛い。

「ちょ!?めっちゃ泣いてますよ?カルラっち強くけりすぎじゃないですか?」

 わいわいとにぎやかに話しているあいつらを見て、心の内がざわめく。すべて失ったと思っていた。だけど、あいつらはまだ隊長と呼んでくれるし、受け入れてくれている気がする。俺にも残っていたものがあった。帰れる場所があるのかもしれない。カルラには殺されるかもしれないが。

「はあ、なんだか、いの一番にぶってしまった私が恥ずかしいですね。引き留めてしまってごめんなさい、トバリ隊長。カンナさんのところへ行くんですよね?」

「ああ、ありがとう。カンナとは話さなきゃいけないことが沢山あるからな。殺されてしまうかもしれないけど」

「何を弱気になってるんですか?隊長らしくもないですよ。世界をよりよくするために必要だと考えているんですよね?それなら迷うことはないですよ。私たちも待ってますから。その……また一緒に、戦いましょう。私にはこの隊の隊長は荷が重いです」

「はは。確かに、思い起こすだけで大変な日々だったよ。悪かったな急に押し付けて」

「そこは許していません。なので責任を取ってください」

「さっさと行きやがれ!明光との痴話喧嘩なんか終わらせろ。クソったれが」

「いってらっしゃい。隊長」

「バーイ!またお会いしましょう!」

 俺は見送ってくれるみんなに背を向けて、ゲートをくぐる。

「ありがとう、みんな」
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