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最終章 日没編
0058 日没
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カンナの動きが変わる。さっきまでの単調な動きじゃない。一撃一撃が鋭く、こちらの動きに合わせてきている。
「星座のつるぎ!」
いつの間にか雨は上がっていた。そして夕陽がさす空に、およそ似つかわしくない無数の光輝く剣が夜空を埋め尽くす星座のごとく覆っている。どうやら冷静になってきたらしい。話も通じるようになってきたが、殺意も変わらない。とても厄介極まりない状況だ。
俺は全力で魔力を解き放つ。ツクヨミとの訓練の時と同じ。いや、それ以上に出し惜しみはしない。前の時はただ感情の濁流に流されるだけだった。でも、今はもっとはっきりと自分の感情が見える。流れに乗りながらも、その流れを構成する細やかな感情たちが……浮かび上がる闇とそれに対を成す光の群。その奥深く、先にあるのは……なんだ?まだ、見えないものが深奥にある。
「超重力渦《ブラックホール》」
今はとにかくカンナの攻め手を受け止めるしかない。俺は巨大な重力の塊を天へと生み出した。それは降り注ぐ星座の剣たちを引っ張り込み、飲み込んでいく。俺は同時に神器《カルマグラディウス》を使って、なんとか鋭い槍の連撃をさばいた。
「カンナ!君は心の底で、自分こそが一番の異分子だと思っているんじゃないか?」
カンナは苦しそうな表情のまま攻撃の手を緩めない。ぶつかり合う光と闇がコントラストを成して、白黒の火花を飛ばしている。
「だから、ずっと囚われているんじゃないのか。自分だけが周りと違うから、自分が許せないんじゃないのか?それじゃ一生救われないだろ。一生、苦しみが消えないのは当たり前だ」
「終末の神狼!終末の神狼……終末の神狼!!」
彼女の魔素は大きく揺れ、攻撃の手が緩まり俺は一度距離をとった。だが、彼女の放った魔法によって周りを巨大な狼の群れが守るように取り囲む。なんて数だ……素直に尊敬するよ。でも……!
「逃げるなよ!そのままじゃ、一生とらわれたままだ!ちゃんと苦しみと向き合うんだ!自分と……向き合えよ!」
「うるさい!うるっ……さい!!」
彼女の手の動きに呼応してフェンリルたちが群れを成して獲物を殺そうと飛び掛かってくる。これは彼女の心の反映だ。防御反応だ。俺の叫びは届いている。きっと、核心をついている。俺はさらに魔力を解放した。絶対にあきらめない。
「反重力渦《ホワイトホール》!」
天に再び出現したのは巨大な天使の輪を想起するような、そんな反重力の穴だ。その揺れる渦の中から、先ほど取り込んだ星座を描くほどの無数の剣たちが狼の群れへと降り注ぐ。流れ出る剣の速度はすさまじく、次々と狼たちを屠っていった。とりのがした奴らも今の俺なら切り伏せられる。俺は戦いながらも言葉を紡いだ。
「前に……言ってくれたよな。人が生きているのは誰かの願いの証明だって。人は苦しくても生きなくちゃいけないって」
「それは……そうだよ。その言葉は呪いなの。君にも呪いをかけた。現に君はその言葉によって生かされてきた。そして、私も知らない製作者《だれかさん》の呪いに縛られている。そうでしょ?」
「違う!カンナは自分で自分を縛り付けているだけだ!」
願いが呪いになるなんて、ふざけるな。想いが溢れてくる。言いたいことを全部言わなくちゃ気が済まない。こんなのはおかしいんだ。
「人の願いを呪いに変えてしまうのは、自分自身だけなんだよ!わかるだろ!」
「なんなの!そんな分かった風な口ばっかり言って……!トバリくんに何がわかるって言うの?人の気持ちなんて、お互いに誰にもわからないのに!絶対にわかり合うことなんてできないのに!!」
「そうだ、わからない。俺は君の心がわからないよ。でも、だからこそこんなに必死なんじゃないか!君の心が知りたくて、そばにいたいって思うんじゃないか!たとえ完全でなくなって、分かち合いたいんだよ!一緒に生きたいんだよ!!」
「どうして……?なんでそんなに私のことを思うの?迷惑なの。君に死んでほしいのに、心が揺れちゃうの。苦しくてしょうがないの。もう、やめてよ。私は君の事なんて……」
彼女の目からはぼろぼろと涙がこぼれている。そして俺も気づけば泣いていた。魔素は彼女の心象を表すように震え、それと同調するように俺の心も揺れている。
「本当は……わかってるんだろ?この世界からバグを全部消すことなんて、できやしないって。だってバグは生まれ続ける。生き物は突然変異を繰り返して生き残ってきたんだ。そして、それが世界を動かしている。だって、このリインバースが存在しているのだっておかしいんだよ」
「だったら……どうしたらいいの?なんで私は死ねないの?教えてよ、トバリくん」
魔力の根源。奥深くに眠る感情。コード。それがだんだんと輪郭を帯びてくる。それは手を伸ばせば届きそうで、意識をすると遠ざかってしまう。それは矛盾した存在だ。無限であり有限。確かに存在するけれど、つかむことができないイデア。
「答えられないんでしょ?そっちこそわかってよ……一緒に生きたくたって一緒にいられなくなる悲しみを。殺したくなくても殺さなきゃいけない痛みを。もういいの、どんなに綺麗ごとを言ったって一緒に生きることなんてできない」
それは世界の形。そして自分の形。すべてが揺れ動きながらバランスを保っている。
「千呪観音《せんじゅかんのん》」
カンナの背後から数多の手を持つ観音菩薩が姿を現す。それは仏と呼ぶにはあまりにも歪んでいて、おぞましい姿をしていた。
「さようなら、トバリくん」
「星座のつるぎ!」
いつの間にか雨は上がっていた。そして夕陽がさす空に、およそ似つかわしくない無数の光輝く剣が夜空を埋め尽くす星座のごとく覆っている。どうやら冷静になってきたらしい。話も通じるようになってきたが、殺意も変わらない。とても厄介極まりない状況だ。
俺は全力で魔力を解き放つ。ツクヨミとの訓練の時と同じ。いや、それ以上に出し惜しみはしない。前の時はただ感情の濁流に流されるだけだった。でも、今はもっとはっきりと自分の感情が見える。流れに乗りながらも、その流れを構成する細やかな感情たちが……浮かび上がる闇とそれに対を成す光の群。その奥深く、先にあるのは……なんだ?まだ、見えないものが深奥にある。
「超重力渦《ブラックホール》」
今はとにかくカンナの攻め手を受け止めるしかない。俺は巨大な重力の塊を天へと生み出した。それは降り注ぐ星座の剣たちを引っ張り込み、飲み込んでいく。俺は同時に神器《カルマグラディウス》を使って、なんとか鋭い槍の連撃をさばいた。
「カンナ!君は心の底で、自分こそが一番の異分子だと思っているんじゃないか?」
カンナは苦しそうな表情のまま攻撃の手を緩めない。ぶつかり合う光と闇がコントラストを成して、白黒の火花を飛ばしている。
「だから、ずっと囚われているんじゃないのか。自分だけが周りと違うから、自分が許せないんじゃないのか?それじゃ一生救われないだろ。一生、苦しみが消えないのは当たり前だ」
「終末の神狼!終末の神狼……終末の神狼!!」
彼女の魔素は大きく揺れ、攻撃の手が緩まり俺は一度距離をとった。だが、彼女の放った魔法によって周りを巨大な狼の群れが守るように取り囲む。なんて数だ……素直に尊敬するよ。でも……!
「逃げるなよ!そのままじゃ、一生とらわれたままだ!ちゃんと苦しみと向き合うんだ!自分と……向き合えよ!」
「うるさい!うるっ……さい!!」
彼女の手の動きに呼応してフェンリルたちが群れを成して獲物を殺そうと飛び掛かってくる。これは彼女の心の反映だ。防御反応だ。俺の叫びは届いている。きっと、核心をついている。俺はさらに魔力を解放した。絶対にあきらめない。
「反重力渦《ホワイトホール》!」
天に再び出現したのは巨大な天使の輪を想起するような、そんな反重力の穴だ。その揺れる渦の中から、先ほど取り込んだ星座を描くほどの無数の剣たちが狼の群れへと降り注ぐ。流れ出る剣の速度はすさまじく、次々と狼たちを屠っていった。とりのがした奴らも今の俺なら切り伏せられる。俺は戦いながらも言葉を紡いだ。
「前に……言ってくれたよな。人が生きているのは誰かの願いの証明だって。人は苦しくても生きなくちゃいけないって」
「それは……そうだよ。その言葉は呪いなの。君にも呪いをかけた。現に君はその言葉によって生かされてきた。そして、私も知らない製作者《だれかさん》の呪いに縛られている。そうでしょ?」
「違う!カンナは自分で自分を縛り付けているだけだ!」
願いが呪いになるなんて、ふざけるな。想いが溢れてくる。言いたいことを全部言わなくちゃ気が済まない。こんなのはおかしいんだ。
「人の願いを呪いに変えてしまうのは、自分自身だけなんだよ!わかるだろ!」
「なんなの!そんな分かった風な口ばっかり言って……!トバリくんに何がわかるって言うの?人の気持ちなんて、お互いに誰にもわからないのに!絶対にわかり合うことなんてできないのに!!」
「そうだ、わからない。俺は君の心がわからないよ。でも、だからこそこんなに必死なんじゃないか!君の心が知りたくて、そばにいたいって思うんじゃないか!たとえ完全でなくなって、分かち合いたいんだよ!一緒に生きたいんだよ!!」
「どうして……?なんでそんなに私のことを思うの?迷惑なの。君に死んでほしいのに、心が揺れちゃうの。苦しくてしょうがないの。もう、やめてよ。私は君の事なんて……」
彼女の目からはぼろぼろと涙がこぼれている。そして俺も気づけば泣いていた。魔素は彼女の心象を表すように震え、それと同調するように俺の心も揺れている。
「本当は……わかってるんだろ?この世界からバグを全部消すことなんて、できやしないって。だってバグは生まれ続ける。生き物は突然変異を繰り返して生き残ってきたんだ。そして、それが世界を動かしている。だって、このリインバースが存在しているのだっておかしいんだよ」
「だったら……どうしたらいいの?なんで私は死ねないの?教えてよ、トバリくん」
魔力の根源。奥深くに眠る感情。コード。それがだんだんと輪郭を帯びてくる。それは手を伸ばせば届きそうで、意識をすると遠ざかってしまう。それは矛盾した存在だ。無限であり有限。確かに存在するけれど、つかむことができないイデア。
「答えられないんでしょ?そっちこそわかってよ……一緒に生きたくたって一緒にいられなくなる悲しみを。殺したくなくても殺さなきゃいけない痛みを。もういいの、どんなに綺麗ごとを言ったって一緒に生きることなんてできない」
それは世界の形。そして自分の形。すべてが揺れ動きながらバランスを保っている。
「千呪観音《せんじゅかんのん》」
カンナの背後から数多の手を持つ観音菩薩が姿を現す。それは仏と呼ぶにはあまりにも歪んでいて、おぞましい姿をしていた。
「さようなら、トバリくん」
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