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被保護編 337年
337年4月8-2
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<なぜ敬語を使う?>
「・・・」
「なぜ今までのように話してくれないのか?」
「あなたと私の今の立場にふさわしい話し方だと思っています」
「敬語を遣わないでほしい。今までのように話してほしい」
「それは無理です」
「敬語を遣うなと、最初に言ったのはあなただ」
「確かに私は頼みました。それは上下関係を作りたくなかったからです。作る必要がなかったというべきか。私を敬う必要もないから遣わないでほしいと頼みました」
「私も同じだ」
「違います。明らかな上下関係がありますから」
「上下などない。あるとすれば私が下だ」
「ご冗談を。少なくとも私が自立す」
「とにかく止めてほしい」
彼女は少し笑った。
「今のあなたには逃れられない地位があります。地位というのはわずかばかりの特典と、それに見合わないくらい大きな義務と責任が付随します。特典もなければ義務からも、責任からも解放されていたときを懐かしむお気持ちはわかりますが、もう戻れないのだから、今の状況にふさわしい行動をするべきだと思います」
彼女の言う事は正しい。残念なことにほとんどが正しい。
しかしその正しさについて行けるのは、彼女に好意を抱かない人間だけだ。
「それに日本語も使わないほうがいいでしょう。ソファイユリスでは他言語という考えがない。理解できない言葉を人が話せば混乱を、いえ恐怖を与えます」
それでいいのか? 寂しくはないのか? 日本を忘れようとしているかのようだ。私は忘れたくない。
理屈に人は従うかもしれないが、人の心はそうではない。あなたもそうではないのか。日本のことは口に出さなくても、あんなにもあの土地が好きだった。
「あなたが言う事は正しい。が、私の身になって考えてくれないか」
「・・・」
「普段は仕方ないとしても、せめて事情を知る彼らの前では前のように話してほしい。それが無理なら二人きりの時だけでも」
「・・・」
難しい顔で考えている。不満そうでもある。
「何を考えているか言ってほしい」
「・・・あなたの気持ちはわかるけど、皆さんを信頼しているのもわかるけど、人前で今までのようにしゃべると、私がどこから来たか知られる可能性が高くなる。王太子に不敬なのに許されるのは弱みがあるからと思われる。じゃあどこで恩を売ったと普通は考える。皆さんの前ではいい。じゃあこの邸の使用人は? 関わる人が増えると情報はどこからか漏れる」
その通りだ。だがそこは理由をつけられる。視察先で怪我をし、それを看病したのがともやで、怪我のせいで長く帰らなかったとすれば説明できる。
「なるほど。説明できなくはないか・・・二人きりっていうのもね。そんなことはこれからは滅多にないだろうから、それはさすがに気の毒だと思う。じゃあ、事情を知る人の前では、大変失礼な話し方をするね」
よかった。それはよかったが、聞き捨てならない発言が一部あった。
それを追求しようと口を開こうとした時、先に彼女が言った。
「日本語は使わない。いいですね?」
「二人だけの時に使おう」
鼻で笑うのは止してほしい。
「じゃあ二人だけのときに」
「・・・」
「なぜ今までのように話してくれないのか?」
「あなたと私の今の立場にふさわしい話し方だと思っています」
「敬語を遣わないでほしい。今までのように話してほしい」
「それは無理です」
「敬語を遣うなと、最初に言ったのはあなただ」
「確かに私は頼みました。それは上下関係を作りたくなかったからです。作る必要がなかったというべきか。私を敬う必要もないから遣わないでほしいと頼みました」
「私も同じだ」
「違います。明らかな上下関係がありますから」
「上下などない。あるとすれば私が下だ」
「ご冗談を。少なくとも私が自立す」
「とにかく止めてほしい」
彼女は少し笑った。
「今のあなたには逃れられない地位があります。地位というのはわずかばかりの特典と、それに見合わないくらい大きな義務と責任が付随します。特典もなければ義務からも、責任からも解放されていたときを懐かしむお気持ちはわかりますが、もう戻れないのだから、今の状況にふさわしい行動をするべきだと思います」
彼女の言う事は正しい。残念なことにほとんどが正しい。
しかしその正しさについて行けるのは、彼女に好意を抱かない人間だけだ。
「それに日本語も使わないほうがいいでしょう。ソファイユリスでは他言語という考えがない。理解できない言葉を人が話せば混乱を、いえ恐怖を与えます」
それでいいのか? 寂しくはないのか? 日本を忘れようとしているかのようだ。私は忘れたくない。
理屈に人は従うかもしれないが、人の心はそうではない。あなたもそうではないのか。日本のことは口に出さなくても、あんなにもあの土地が好きだった。
「あなたが言う事は正しい。が、私の身になって考えてくれないか」
「・・・」
「普段は仕方ないとしても、せめて事情を知る彼らの前では前のように話してほしい。それが無理なら二人きりの時だけでも」
「・・・」
難しい顔で考えている。不満そうでもある。
「何を考えているか言ってほしい」
「・・・あなたの気持ちはわかるけど、皆さんを信頼しているのもわかるけど、人前で今までのようにしゃべると、私がどこから来たか知られる可能性が高くなる。王太子に不敬なのに許されるのは弱みがあるからと思われる。じゃあどこで恩を売ったと普通は考える。皆さんの前ではいい。じゃあこの邸の使用人は? 関わる人が増えると情報はどこからか漏れる」
その通りだ。だがそこは理由をつけられる。視察先で怪我をし、それを看病したのがともやで、怪我のせいで長く帰らなかったとすれば説明できる。
「なるほど。説明できなくはないか・・・二人きりっていうのもね。そんなことはこれからは滅多にないだろうから、それはさすがに気の毒だと思う。じゃあ、事情を知る人の前では、大変失礼な話し方をするね」
よかった。それはよかったが、聞き捨てならない発言が一部あった。
それを追求しようと口を開こうとした時、先に彼女が言った。
「日本語は使わない。いいですね?」
「二人だけの時に使おう」
鼻で笑うのは止してほしい。
「じゃあ二人だけのときに」
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