終生飼育は原則ですから

被保護編 338年

338年5月2-1

　この夏に麹菌を捕まえたい。
　米の長粒種は市場にも常にある。米は麦より生産性がいいはずなんだけど、値段が同じくらいなのは、食生活に根づいていないせいなんだろう。
　長粒種でもできるのかもしれないけれど、日本であれだけ繁栄しているアスペルギルス・オリゼだから、やっぱりせめて短粒種で実験してみるべきだ。

　連合のウォリアックが二キロ用意してくれた。玄米だ。そうだよね。精米は難しい。玄米でも大丈夫。

　昔、炊いた玄米を陶器のおひつに入れていたら、暑かったせいか、翌日開けたらふわっふわにかびていた。けれど麹のにおいがしたんだよね。
　もちろん見た瞬間捨てたけど、たぶんあれは腐敗菌ではなくアスペルギルス・オリゼが着いたんだ。麹菌じゃないか確かめてみたかったけど、食べてみる勇気はなかった。食べてみておけばよかったよ。
　あれを再現したい。

　やっぱり菌類の繁殖には気温が必要だから夏。
　他に必要なのは蓋つきの容器と大豆と塩と穀物。麹菌を捕まえても保存できないからすぐ麹を作らないといけない。

　蓋つき容器は陶器のを五個買ってきた。
　ガラス容器の方がよかったんだけど、ガラスは高い。そして前と条件を近づけたかった。

　金曜の帰りにシルヴィオ邸に寄って玄米を磨いで浸水させておく。半分の一キロつかう。
　土曜にまた行って炊飯。その間に容器を煮沸消毒。
　レイサスとシルヴィオとファリオンまでいるのが邪魔なんだけど。ただ煮ているだけだからつまらないよ。炊けたら容器に入れるだけだから、もっとつまらないよ。

　蒸らしが終わった玄米を暑いうちに容器に入れる。茶碗一杯くらいずつ。
　残った米を食べる。
　久しぶり。米に執着はないと思ったけど、やっぱり米はいい。

　この世界に来てから体調がよくなり肌もきれいになった。
　やっぱり食生活なのか。
　ジャンクな物がないし、砂糖も摂取量が四分の一にはなってる。
　無性にポテトチップが食べたいし、精製度の高いお菓子が食べたくはなるけれど、ないものは仕方ない。自分で作るものじゃないんだよね。市販品が食べたい。
　しかし食べないことで、確実に生理痛はよくなった。
　しかし恋しいものです。チョコレート。チョコレートをくれ。

　久しぶりの米もおいしかった。三人も少し食べたけど、何もかけない加工しないただの炊いた米を、なぜ私が黙々と食べ続けるか理解できないでしょう。
　味はもちろん日本の米とは比較できない程度だけど、私は米の味がわからないからこれでもいい。うちは米農家じゃないからいいの。