終生飼育は原則ですから

被保護編 342年

342年7月2

　だめならだめでしょうがない。若くないしと思っていたけど、妊娠した。
　よかったのか悪かったのか。
　ひとりになれるのはありがたい。昼も夜もひとりでいられる。

　しかしこんなにつわりって苦しいものなの？
　気持ち悪い。今までは生理的に気持ち悪かったけど、今は直接物理的に気持ち悪い。
　美味しんぼでは空腹の時間が長いとよくないってあったけど、空腹なんて感じないね。食べなくても気持ち悪いし、ちょっと食べても気持ち悪い。
　だけど私は養育器官。栄養は取らないと。

　ソウシュウ様は大変気遣ってくれる。
　そんなに丁重に扱っていいんだろうか。生まれるのはどんな子かわからない。私はこの世界の人間じゃない。何か違いがあるかもしれない。これは言えないことだけど。
　私の妊娠は伏せておくべきだと思う。望まない子だった場合は、そのままなかったことにしたほうがいい。

　私は、ソウシュウ様には本当は子供がいることを知っている。
　そういうことは親切にも教えてくれる人に事欠かない。
　その前例に倣うべきだ。生まれてから、ある程度育ってから決めた方がいい。

　私は子供が嫌いだ。なぜかわからないけど、かわいいと思えない。
　自分の子は別だと言われたこともあるけど、別じゃないどころか、いっそう嫌いだ。
　もしも、レイサスの子だったら違ったんだろうか。

　それにしても何もできない。
　ソウシュウ様の機嫌を取れればここに残った意味はある。何もしなくてもいいといえばいい。
　私の存在意義って何だ。
　そして吐いて苦しいのにまだ現実感がないな。妊娠して出産するなんて想像できない。

　私は恵まれすぎている。
　生きるのに必死で、今日食べるもの、寝る場所、明日どうやって生き延びるかを考えなくちゃいけなければ、現実感云々じゃなく、何としても生きようとしただろう。
　生きようとしたかな。現実感のなさからその前に諦めていたかもしれない。娼婦とかそういう職は無理だ。

　ソウシュウ様は、私に子を諦めろと何度も言う。
　人間、コストをかければかけるほど大事なものになるんだよ。ここまで苦労しているんだからおろさない。また繰り返す気になるか、自分でも自信がない。
　諦めたらまた繰り返すことになる。それなら今我慢する。

　もし私が死んでも、それはそれでいいかな。現実感がないし。
　この生活をずっと続けるなら、あっさり終わりにした方がいい気がする。
　実際死に掛けたら、生汚く死にたくないと言うんだろうけど。

　家に帰りたい。自分の家に帰りたい。家族に会いたい。
　猫に会いたい。
　・・・いや考えるべきじゃない。自分で捨てた。そんな事を思う資格はない。

　さっさと生まれてくれないかな。まだ先が長い。はるか長い。
　耐えられるかな。