10歳差の王子様

めぇ

文字の大きさ
17 / 37
第2章 碧斗、中学1年生。あさひ、社会人3年目。

5.

しおりを挟む
カタカタカタとパソコンのキーボードを叩く音が響いてるあさひの部屋。

地べたにぺたんと座りながらローテーブルの上に置いたパソコンとずっとにらめっこしているあさひの前で、クマのぬいるぐみを膝の上に置いてぼーっとその姿を見ていた。

今日もあさひは忙しそうだ。せっかく来てみたけどオレのことが見えてるかも怪しい。

「…あさひ、飲み物とかいる?」

「ううん、いらない」

「お菓子は!いる?」

「いらない」

…忙しそうだ。けわしい顔がそれを物語っている。

ぬいぐるみが好きなあさひはオレの膝の上にいるクマのぬいぐるみ以外にもベッドにたくさん並べてある。その横の壁には好きなアイドルのポスター、隣の本棚にはマンガがぎゅうぎゅうにしき詰められている。

そんな中でパソコンに向かって仕事してるってなんか違和感だ…

「ねぇ、あさひ」

「んー?」

「何か欲しいものないの?」

オレにできることはこれくらい、だから聞いてみたんだけどオレには到底叶えてあげられない答えが返って来た。

「休みかな」

それはあげられるものじゃない。
今からあさひの会社の社長にはなれないしなぁ…

帰ってって言わない優しいあさひの邪魔をしないように息をひそめ、本棚のマンガに手を伸ばした。

「あっ!!」

あさひが叫んだ。ビクッとなって肩が震えた。

「な、何?どうしたの…?」

「その、マンガ…!」

「え?」

オレが手に持ったマンガを指さした。

「それ今めっちゃ良い展開なの!読んで!」

「……うん、読む!」

急にパァっと表情を輝かせた。

やばい、笑うなオレ。

これはあさひお得意の百面相だ!
ここで笑ったらあさひの集中力が切れる…!

マンガでニヤける顔を隠して、こっそーりと視界から消えるように横になってマンガを読み始めた。


「ね、超良い展開だったでしょ!」


「わかる、まさかあそこで全部ひっくり返ると思わなかった!」

「でしょ!完全に想像の上!!誰も予想出来ないよ~!」

オレがマンガを閉じた瞬間、あさひが待ってましたと言わんばかりに話しかけて来た。おかげですっかりパソコンを叩く手は止まっていた。

「それで、そのあとのキュン的展開…!あそこが最高なの♡♡」

ついオレまで楽しくなっちゃって、うんうんと話を聞いて頷いた。あさひと話すのは楽しいから。

「それでね…っ」

「?」

「いや、話してる場合じゃないんだった…!やばい、久しぶりだったから夢中になっちゃった!」

頭を抱えてあさひが俯いた。

あぁ~っとうなるような声を出して、やばい…
いや、きっとやばいのはオレの方…!

オレがあさひの仕事を止めてしまった。いい加減、帰らないとあさひが危ない。

オレがマンガを読んでいる間もパソコンの音はひたすらにカタカタ鳴っていた。だけど急にダンッと力強く押されて無音になる時間があった。あれはたぶん書いた文章を消してた、それが何度も繰り返されて…

これ以上ここにいたらいけない…!と、立ち上がろうとした時だった。

 

―コンコンッ 

 

ノック音が聞こえた。あさひとドアの方を見ると、ドア越しに声が聞こえた。

「焼き芋しようぜ!」

…兄貴。
めっちゃくちゃタイミング悪いんだけど。タイミング最悪なんだけど。

「碧斗も一緒だろ?サツマイモ買って来たから!」

空気を読んでくれ、今そんなのん気なこと言ってる場合じゃないんだ。そんな明るい声で誘って来ないでくれ。

あさひがはぁっと息を吐いてドアを開けた。

「拓海くん、今忙しくて…」

「息抜きも必要だぞ」

いや、急に来て言うセリフそれかよ。

「今休憩したし、適度に休んでるよ」

「あさひは根詰め過ぎてる、もう少し力抜いてやらないと潰れるぞ」

兄貴にあさひの何がわかるんだよ、あさひの何も見てないだろ。

「………。」

兄貴がぽんっとあさひの肩を叩いた。なっと、微笑みかけて。

何わかった口聞いてんだよ、テキトーなこと言ってんじゃねぇよ。


…って、言ってるのはオレの方だった。


「……わかった」

それにうんと小さく頷いたあさひ。

一瞬だった。ほんの一言だった。

あさひを納得させるのに。

「ほら、碧斗も来い!焼き芋すぐ焼き上がるから!」

そう言われてゆっくり立ち上がる。

 

なぜだろう、なぜあさひは兄貴の誘いに“うん”って答えたんだろう。
オレはあさひの欲しいものもあげられなかったのに。

 

あさひのことをわかってるのはオレじゃないのかな。


やっと身長も追いついたのに、やっとあさひと同じ目線になったのに…


全然同じ場所にいない。



オレはまだあさひの隣にいない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

未来スコープ  ―この学園、裏ありすぎなんですけど!? ―

米田悠由
児童書・童話
「やばっ!これ、やっぱ未来見れるんだ!」 平凡な女子高生・白石藍が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“触れたものの行く末を映す”装置だった。 好奇心旺盛な藍は、未来スコープを通して、学園に潜む都市伝説や不可解な出来事の真相に迫っていく。 旧校舎の謎、転校生・蓮の正体、そして学園の奥深くに潜む秘密。 見えた未来が、藍たちの運命を大きく揺るがしていく。 未来スコープが映し出すのは、甘く切ないだけではない未来。 誰かを信じる気持ち、誰かを疑う勇気、そして真実を暴く覚悟。 藍は「信じるとはどういうことか」を問われていく。 この物語は、好奇心と正義感、友情と疑念の狭間で揺れながら、自分の軸を見つけていく少女の記録です。 感情の揺らぎと、未来への探究心が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第3作。 読後、きっと「誰かを信じるとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

大人にナイショの秘密基地

湖ノ上茶屋
児童書・童話
ある日届いた不思議な封筒。それは、子ども専用ホテルの招待状だった。このことを大人にナイショにして、十時までに眠れば、そのホテルへ行けるという。ぼくは言われたとおりに寝てみた。すると、どういうわけか、本当にホテルについた!ぼくはチェックインしたときに渡された鍵――ピィピィや友だちと夜な夜な遊んでいるうちに、とんでもないことに巻き込まれたことに気づいて――!

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

処理中です...