魔王の娘に転生した私は、恐れられるどころか世界一の美貌で恋愛ルート確定でした

月影みるく

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第36話 揺れる世界、選ぶ足

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魔界城・外郭訓練場。

朝の空気は冷たく、澄んでいた。

セラフィナは、木剣を手に立っている。

(……昨日より、落ち着いてる)

自分でもわかるくらい、
呼吸が整っていた。

「では、始めましょうか」

クロウ・フェルゼンは、いつも通り一歩距離を取る。

「今日は」

「剣と魔術、交互です」

「……欲張りじゃない?」

「姫君が“全部いく”と仰いましたので」

「……言ったけど」

でも、嫌じゃない。

(逃げないって、決めたし)

* * *

まずは、剣。

踏み込み。
型。
止める。

「……っ」

恐怖が、胸をかすめる。

だが。

「……止まれる」

剣を下ろす。

呼吸。

「はい」

クロウの声は、変わらず穏やかだ。

「今の判断は、正確でした」

「……前より、マシ?」

「ええ」

即答。

「明らかに」

セラフィナは、少しだけ笑った。

* * *

次は、魔術。

魔導陣の中央。

「集中しろ」

魔王の声。

「今日は」

「揺らして、止める」

セラフィナは、目を閉じる。

胸の奥。

あの、巨大な力。

(……暴れないで)

魔力が、ふわりと立ち上がる。

空気が、揺れる。

「……っ」

一瞬、膨れ上がりかけ――

止める。

静寂。

「……できた」

小さな声。

魔王は、ゆっくりと頷いた。

「制御が、早くなったな」

その瞬間。

――ズン。

地面が、震えた。

* * *

「……何?」

クロウが、即座に剣を抜く。

遠く。
城外の森。

黒い靄が、立ち上っていた。

「魔獣……?」

「いや」

魔王の目が、細まる。

「違う」

「……誘導されている」

空気が、ざわつく。

次の瞬間。

「姫君、下がってください!」

クロウが、前に出た。

森の影から現れたのは、
人影。

黒装束。

だが――魔族でも、人間でもない。

「……やっぱり、いる」

低い笑い声。

「魔界の姫」

「近くで見ると」

「本当に、いい“核”だ」

セラフィナの背筋が、凍る。

(……利用)

クロウが、一歩踏み込む。

「姫君に、近づくな」

「おっと」

男は、肩をすくめる。

「今日は、奪いに来たわけじゃない」

「確認だよ」

視線が、セラフィナに突き刺さる。

「どれくらい、制御できてるか」

「……っ」

魔力が、反射的に跳ねる。

地面が、軋む。

「姫君!」

クロウの声。

(……止める)

(今だ)

セラフィナは、歯を食いしばる。

(私は)

(選ぶ)

魔力を――抑える。

空気が、静まった。

男が、目を見開く。

「……ほう」

「止めたか」

「思ったより、早いな」

次の瞬間。

影が、弾けた。

――消えた。

* * *

静寂。

鳥の声だけが、戻ってくる。

「……今の」

セラフィナの声が、震える。

「……狙われてた?」

魔王は、即座に娘の前に立った。

「……ああ」

「だが」

「今のは、“様子見”だ」

クロウは、剣を収め、片膝をつく。

「姫君」

「……お怪我は」

「ない」

セラフィナは、深く息を吐く。

心臓が、まだ速い。

「……怖かった」

正直な言葉。

でも。

「でも」

顔を上げる。

「逃げなかった」

クロウの目が、わずかに揺れた。

「……はい」

「確かに」

魔王は、静かに言う。

「世界が、お前を見始めている」

「それは、もう止まらん」

セラフィナは、拳を握る。

(……それでも)

「……じゃあ」

「もっと、ちゃんとやる」

「剣も」

「魔法も」

「怖いままでいいから」

クロウは、即答した。

「では」

「私が、常にそばに」

「剣を、構えます」

魔王は、娘の頭に手を置く。

「……無茶は、するな」

「するけど」

セラフィナは、見上げて言う。

「一人じゃ、しない」

魔王は、わずかに笑った。

* * *

遠く。

闇の中。

「……面白い」

男は、口元を歪める。

「制御を覚え始めた姫」

「守る騎士」

「焦る魔王」

「――壊しがいがある」

影は、次の一手を選び始めていた。
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