35 / 35
第36話 揺れる世界、選ぶ足
しおりを挟む
魔界城・外郭訓練場。
朝の空気は冷たく、澄んでいた。
セラフィナは、木剣を手に立っている。
(……昨日より、落ち着いてる)
自分でもわかるくらい、
呼吸が整っていた。
「では、始めましょうか」
クロウ・フェルゼンは、いつも通り一歩距離を取る。
「今日は」
「剣と魔術、交互です」
「……欲張りじゃない?」
「姫君が“全部いく”と仰いましたので」
「……言ったけど」
でも、嫌じゃない。
(逃げないって、決めたし)
* * *
まずは、剣。
踏み込み。
型。
止める。
「……っ」
恐怖が、胸をかすめる。
だが。
「……止まれる」
剣を下ろす。
呼吸。
「はい」
クロウの声は、変わらず穏やかだ。
「今の判断は、正確でした」
「……前より、マシ?」
「ええ」
即答。
「明らかに」
セラフィナは、少しだけ笑った。
* * *
次は、魔術。
魔導陣の中央。
「集中しろ」
魔王の声。
「今日は」
「揺らして、止める」
セラフィナは、目を閉じる。
胸の奥。
あの、巨大な力。
(……暴れないで)
魔力が、ふわりと立ち上がる。
空気が、揺れる。
「……っ」
一瞬、膨れ上がりかけ――
止める。
静寂。
「……できた」
小さな声。
魔王は、ゆっくりと頷いた。
「制御が、早くなったな」
その瞬間。
――ズン。
地面が、震えた。
* * *
「……何?」
クロウが、即座に剣を抜く。
遠く。
城外の森。
黒い靄が、立ち上っていた。
「魔獣……?」
「いや」
魔王の目が、細まる。
「違う」
「……誘導されている」
空気が、ざわつく。
次の瞬間。
「姫君、下がってください!」
クロウが、前に出た。
森の影から現れたのは、
人影。
黒装束。
だが――魔族でも、人間でもない。
「……やっぱり、いる」
低い笑い声。
「魔界の姫」
「近くで見ると」
「本当に、いい“核”だ」
セラフィナの背筋が、凍る。
(……利用)
クロウが、一歩踏み込む。
「姫君に、近づくな」
「おっと」
男は、肩をすくめる。
「今日は、奪いに来たわけじゃない」
「確認だよ」
視線が、セラフィナに突き刺さる。
「どれくらい、制御できてるか」
「……っ」
魔力が、反射的に跳ねる。
地面が、軋む。
「姫君!」
クロウの声。
(……止める)
(今だ)
セラフィナは、歯を食いしばる。
(私は)
(選ぶ)
魔力を――抑える。
空気が、静まった。
男が、目を見開く。
「……ほう」
「止めたか」
「思ったより、早いな」
次の瞬間。
影が、弾けた。
――消えた。
* * *
静寂。
鳥の声だけが、戻ってくる。
「……今の」
セラフィナの声が、震える。
「……狙われてた?」
魔王は、即座に娘の前に立った。
「……ああ」
「だが」
「今のは、“様子見”だ」
クロウは、剣を収め、片膝をつく。
「姫君」
「……お怪我は」
「ない」
セラフィナは、深く息を吐く。
心臓が、まだ速い。
「……怖かった」
正直な言葉。
でも。
「でも」
顔を上げる。
「逃げなかった」
クロウの目が、わずかに揺れた。
「……はい」
「確かに」
魔王は、静かに言う。
「世界が、お前を見始めている」
「それは、もう止まらん」
セラフィナは、拳を握る。
(……それでも)
「……じゃあ」
「もっと、ちゃんとやる」
「剣も」
「魔法も」
「怖いままでいいから」
クロウは、即答した。
「では」
「私が、常にそばに」
「剣を、構えます」
魔王は、娘の頭に手を置く。
「……無茶は、するな」
「するけど」
セラフィナは、見上げて言う。
「一人じゃ、しない」
魔王は、わずかに笑った。
* * *
遠く。
闇の中。
「……面白い」
男は、口元を歪める。
「制御を覚え始めた姫」
「守る騎士」
「焦る魔王」
「――壊しがいがある」
影は、次の一手を選び始めていた。
朝の空気は冷たく、澄んでいた。
セラフィナは、木剣を手に立っている。
(……昨日より、落ち着いてる)
自分でもわかるくらい、
呼吸が整っていた。
「では、始めましょうか」
クロウ・フェルゼンは、いつも通り一歩距離を取る。
「今日は」
「剣と魔術、交互です」
「……欲張りじゃない?」
「姫君が“全部いく”と仰いましたので」
「……言ったけど」
でも、嫌じゃない。
(逃げないって、決めたし)
* * *
まずは、剣。
踏み込み。
型。
止める。
「……っ」
恐怖が、胸をかすめる。
だが。
「……止まれる」
剣を下ろす。
呼吸。
「はい」
クロウの声は、変わらず穏やかだ。
「今の判断は、正確でした」
「……前より、マシ?」
「ええ」
即答。
「明らかに」
セラフィナは、少しだけ笑った。
* * *
次は、魔術。
魔導陣の中央。
「集中しろ」
魔王の声。
「今日は」
「揺らして、止める」
セラフィナは、目を閉じる。
胸の奥。
あの、巨大な力。
(……暴れないで)
魔力が、ふわりと立ち上がる。
空気が、揺れる。
「……っ」
一瞬、膨れ上がりかけ――
止める。
静寂。
「……できた」
小さな声。
魔王は、ゆっくりと頷いた。
「制御が、早くなったな」
その瞬間。
――ズン。
地面が、震えた。
* * *
「……何?」
クロウが、即座に剣を抜く。
遠く。
城外の森。
黒い靄が、立ち上っていた。
「魔獣……?」
「いや」
魔王の目が、細まる。
「違う」
「……誘導されている」
空気が、ざわつく。
次の瞬間。
「姫君、下がってください!」
クロウが、前に出た。
森の影から現れたのは、
人影。
黒装束。
だが――魔族でも、人間でもない。
「……やっぱり、いる」
低い笑い声。
「魔界の姫」
「近くで見ると」
「本当に、いい“核”だ」
セラフィナの背筋が、凍る。
(……利用)
クロウが、一歩踏み込む。
「姫君に、近づくな」
「おっと」
男は、肩をすくめる。
「今日は、奪いに来たわけじゃない」
「確認だよ」
視線が、セラフィナに突き刺さる。
「どれくらい、制御できてるか」
「……っ」
魔力が、反射的に跳ねる。
地面が、軋む。
「姫君!」
クロウの声。
(……止める)
(今だ)
セラフィナは、歯を食いしばる。
(私は)
(選ぶ)
魔力を――抑える。
空気が、静まった。
男が、目を見開く。
「……ほう」
「止めたか」
「思ったより、早いな」
次の瞬間。
影が、弾けた。
――消えた。
* * *
静寂。
鳥の声だけが、戻ってくる。
「……今の」
セラフィナの声が、震える。
「……狙われてた?」
魔王は、即座に娘の前に立った。
「……ああ」
「だが」
「今のは、“様子見”だ」
クロウは、剣を収め、片膝をつく。
「姫君」
「……お怪我は」
「ない」
セラフィナは、深く息を吐く。
心臓が、まだ速い。
「……怖かった」
正直な言葉。
でも。
「でも」
顔を上げる。
「逃げなかった」
クロウの目が、わずかに揺れた。
「……はい」
「確かに」
魔王は、静かに言う。
「世界が、お前を見始めている」
「それは、もう止まらん」
セラフィナは、拳を握る。
(……それでも)
「……じゃあ」
「もっと、ちゃんとやる」
「剣も」
「魔法も」
「怖いままでいいから」
クロウは、即答した。
「では」
「私が、常にそばに」
「剣を、構えます」
魔王は、娘の頭に手を置く。
「……無茶は、するな」
「するけど」
セラフィナは、見上げて言う。
「一人じゃ、しない」
魔王は、わずかに笑った。
* * *
遠く。
闇の中。
「……面白い」
男は、口元を歪める。
「制御を覚え始めた姫」
「守る騎士」
「焦る魔王」
「――壊しがいがある」
影は、次の一手を選び始めていた。
3
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。
aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。
ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・
4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。
それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、
生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり
どんどんヤンデレ男になっていき・・・・
ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡
何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた
いに。
恋愛
"佐久良 麗"
これが私の名前。
名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。
両親は他界
好きなものも特にない
将来の夢なんてない
好きな人なんてもっといない
本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。
社畜OL、異世界で「天使」になる ~私を拾ってくれた太陽の騎士様が、過保護で嫉妬深くて、めちゃくちゃ愛してきます~
藤森瑠璃香
恋愛
連日の残業と終わらないプロジェクトの果てに、OLの佐藤美月は過労で意識を失う。次に目覚めた時、そこはアーサー王が治める国「キャメロット」だった。
森で魔物に襲われ絶体絶命の私を救ってくれたのは、「太陽の騎士」と呼ばれる最強の騎士ガウェイン。しかし彼は、強くて純粋だけど、少し子供っぽい脳筋騎士様だった!
「護衛だ!」と宣言しては一日中手を繋いで離さず、他の男性と話しただけであからさまに嫉妬したり……。その過保護で独占欲の強い愛情表現に戸惑いながらも、仕事に疲れた美月の心は、彼の太陽のような笑顔に癒されていく。
やがて王の顧問となった彼女は、現代知識とPMスキルを武器に「魔女」の嫌疑を乗り越え、国を救う「キャメロットの天使」へ。
不器用で一途な騎士様から贈られる、甘すぎるほどの溺愛に満ちた、異世界シンデレラストーリー、ここに開幕!
温泉聖女はスローライフを目指したい
皿うどん
恋愛
アラサーの咲希は、仕事帰りに酔っ払いに背中を押されて死にかけたことをきっかけに異世界へ召喚された。
一緒に召喚された三人は癒やしなど貴重なスキルを授かったが、咲希のスキルは「温泉」で、湯に浸かる習慣がないこの国では理解されなかった。
「温泉って最高のスキルじゃない!?」とうきうきだった咲希だが、「ハズレ聖女」「ハズレスキル」と陰口をたたかれて冷遇され、城を出ることを決意する。
王に見張りとして付けられたイケメンと共に、城を出ることを許された咲希。
咲希のスキルがちょっぴりチートなことは誰も知らないまま、聖女への道を駆け上がる咲希は銭湯を経営して温泉に浸かり放題のスローライフを目指すのだった。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!
キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。
だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。
「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」
そこからいろいろな人に愛されていく。
作者のキムチ鍋です!
不定期で投稿していきます‼️
19時投稿です‼️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる