WILD GUNS 最果ての町

自由言論社

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#8 見切りどき

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 すっかり客足のひいた店内にもどったおれは、椅子を手繰り寄せ、背もたれを前にしてどっかとまたがった。
 黙々とグラスを拭いている亭主をキッとにらみつける。
「あんたがおれを用心棒に雇った理由がやっとわかったぜ」
 亭主は目をあげ、いたずらがみつかった子供のような視線をくれるとニヤリと笑った。
「おれとドンを嚙み合わせるつもりだな」
「おまえさん、ライアン・クロウという賞金稼ぎだろ?」
 ラモン亭主の目が底光りしている。
「噂に聞いたことがある。ドンを逮捕したそうじゃないか」
「逮捕したのは連邦保安官だ。おれはヤツに鉛玉をぶち込んだだけだ」
「同じことだよ。ドンは帰ってくる。手を貸してもらいたい」
 新婚旅行に旅立ったこの町の保安官は帰ってこないだろう。いや、帰ってこないというよりは、彼は逃げたのだ。
 連邦保安官事務所から派遣されてくる予定の代理保安官もおそらくこない。法執行官である保安官すら恐れさせる男、それがドン・フォーゲルなのだ。

「この〈クラウン亭〉という酒場は親父の代からの飲み屋でね。ドンたち無法者のたまり場だった。みかじめの取り立ても厳しくて、親父はドンに殺されたようなものだ」
 ラモン・クラウンは突然、昔話を語りはじめた。
「ヤツは”王国”を築くため、この町を出ていった。正直ほっとしたよ。ドンがいなくなってランズロウは平穏と秩序を取りもどした。もう、昔にもどってほしくないんだ」
 ドン・フォーゲルには独特のカリスマ性があり、南西部各地の無法者たちを束ね、独自のネットワークを築いていた。そのネットワークによる情報で銀行や列車を襲い、ときには軍から武器弾薬、商人からは鉱山の採掘権などを強奪略奪して財を蓄えた。
 彼は巨大な富を一か所に集めることなく分散させた。それが”王国”と呼ばれるもので、南西部の物流の主要地点に複数あり、いわばドン・フォーゲルは大陸南西部の裏の支配者といっていい。
 だが……

 ドンは失墜した。逮捕収監され、懲役についた彼の各地の富は全部、時の政府によって没収され仲間も手下も散り散りになった。”王国”は崩壊したのだ。
 そのドンが帰ってくる。一度の挫折であきらめるような男ではない。このランズロウを足場に再起をはかるに違いない。
「やれやれ……」
 と、おれは首を振った。
「手を貸してくれたら、金貨を20枚やる。それでどうだ?」
 亭主がカウンターから身を乗り出してきた。

「おれも手を貸すよ!」

 厨房からダンが飛びだしてきた。目がらんらんと輝いている。
「おまえじゃダメだ。おれはこの賞金稼ぎの旦那に頼んでいる」
 亭主がにべもなく却下する。
「ライアン、おれに拳銃の撃ち方を教えてくれ。おれだって、この町の役に立ちたい!」
 ダンがおれに視線を向けた。すがりつくような視線だ。
 おれはいった。
「ガンマンという稼業をつづけたもので40まで生きたものはいない。たいてい30半ばで墓場にゆく。おれもそろそろ、そういうお年頃だ。としとともに反射神経は鈍る。相手より早く抜けなくなったときが見切りどきなのさ」
「その見切りどきがきたというのか?」
 亭主がカウンターから出てきて、おれの正面に立った。
「あんたはまだ早い。モランドの銃を制したじゃないか」
「あんな酔っ払いの馬鹿など敵じゃない。この南西部ではおれより早いヤツなどごろごろいる。おれがいままで生き延びてきたのは運がよかったからだ」
 おれはそういうと腰をあげた。
 出ていこうとするおれの背中に亭主がいった。
「ドン・フォーゲルは明日の午後、州境の駅に着くそうだ。手下が三人、すでに迎えに向かっているそうだ」
 酒場の亭主だけに情報が早い。
 おれは無言でスイングドアを押し開け出ていった。


    #9につづく
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