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#10 決意
しおりを挟む「そうです。妻と息子はワッツさんに助けられました」
やっぱりだ。エディが命を懸けて救った家族だ。
クワント・カーライルと名乗る夫は港に複数の船舶を所有する資産家で、その日は仕事が忙しく、夫人と息子だけを先にランズロウにいかせたという。
「妻はこの町の出身で熱心なグリスコ教徒です。息子の5才の誕生日に生まれ故郷であるランズロウのグリスコ教会で洗礼を受けさせようと出向いた矢先のできごとでした」
傍らのエミリー夫人は伏し目がちで、黒いトーク帽のベールが彼女の心を覆い隠している。
息子のマーカスはおれの腰のリボルバーに興味津々といった様子だ。手を伸ばしたくてうずうずしている。
エミリー夫人がそんな息子の態度を見とがめて、グイとその手を引っ張る。
「これからどこへ?」
おれはクワントに訊いた。
「近くのホテルに一泊しようかと……」
「やめたほうがいい」
即座にいった。
「あのドン・フォーゲルが今日帰ってくる。すぐさまここを離れるんだ」
いささか強い口調でいうと、おれは背中を向けた。
「あなたはどうするんです」
問いが背中に返ってきた。
「おれは……」
どうこたえようか逡巡しているとクワントがいった。
「ここはワッツさんの故郷なんでしょう? ドン・フォーゲルが返ってくるということは——!!」
「あなたッ!!」
エミリー夫人がはじめて口をひらいた。
おれはクワント・カーライルに振り返り向き直る。
「そう、お察しの通りだ。ドンは必ずこの町を恐怖と暴力で支配する」
「ならば、わたしはここに残る。ここはワッツさんの故郷だ。ドン・フォーゲルなんかには荒らさせない!」
「あなた、無茶はやめて! 確かにワッツさんに恩はあるけど、あの方はもう死んでしまった。でも、わたしたちは生きている。生きているわたしやマーカスのことも考えて!!」
夫人がクワントの袖をつかみ揺さぶる。目に涙をためて訴えている。
「ママ!」
取り乱した母親をマーカスが心配そうにみつめ泣きそうな顔になる。
おれはいった。
「あんた、銃を扱った経験は?」
一応、クワントの腰のホルスターにはリボルバーがおさまっている。問題はそれを躊躇なく、しかも素早く抜けるかだ。
「わたしは若いころ、軍隊にいたことがある」
「では、抜いてみろ」
おれは銃把に手をかけた。
「抜けっ、腰抜け!」
挑発した。
クワントがホルスターからリボルバーを抜いた。
その姿が瞬時に固まる。
それよりも早くおれが抜いて彼の心臓に銃口を突きつけたからだ。
クワントの表情が凍りついている。
「ワッツがなんのためにあんたら家族を救ったかよく考えてみろ」
クワントが力なくリボルバーをホルスターにもどす。
「……あなた」
「パパ」
エミリーが、マーカスがクワントに抱きつき、涙を流している。
互いに抱きしめあう家族をみておれは覚悟を決めた。
そうだ、ここは友の故郷だ。
その故郷を守ることができるのはおれしかいない。
死んでもだれも泣かない、おれしかいないのだ。
#11につづく
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