WILD GUNS 最果ての町

自由言論社

文字の大きさ
11 / 19

#10 決意

しおりを挟む

「そうです。妻と息子はワッツさんに助けられました」

 やっぱりだ。エディが命を懸けて救った家族だ。
 クワント・カーライルと名乗る夫は港に複数の船舶を所有する資産家で、その日は仕事が忙しく、夫人と息子だけを先にランズロウにいかせたという。
「妻はこの町の出身で熱心なグリスコ教徒です。息子の5才の誕生日に生まれ故郷であるランズロウのグリスコ教会で洗礼を受けさせようと出向いた矢先のできごとでした」
 傍らのエミリー夫人は伏し目がちで、黒いトーク帽のベールが彼女の心を覆い隠している。
 息子のマーカスはおれの腰のリボルバーに興味津々といった様子だ。手を伸ばしたくてうずうずしている。
 エミリー夫人がそんな息子の態度を見とがめて、グイとその手を引っ張る。
「これからどこへ?」
 おれはクワントに訊いた。
「近くのホテルに一泊しようかと……」
「やめたほうがいい」
 即座にいった。
「あのドン・フォーゲルが今日帰ってくる。すぐさまここを離れるんだ」
 いささか強い口調でいうと、おれは背中を向けた。
「あなたはどうするんです」
 問いが背中に返ってきた。
「おれは……」
 どうこたえようか逡巡しているとクワントがいった。
「ここはワッツさんの故郷なんでしょう? ドン・フォーゲルが返ってくるということは——!!」
「あなたッ!!」
 エミリー夫人がはじめて口をひらいた。
 おれはクワント・カーライルに振り返り向き直る。
「そう、お察しの通りだ。ドンは必ずこの町を恐怖と暴力で支配する」
「ならば、わたしはここに残る。ここはワッツさんの故郷だ。ドン・フォーゲルなんかには荒らさせない!」
「あなた、無茶はやめて! 確かにワッツさんに恩はあるけど、あの方はもう死んでしまった。でも、わたしたちは生きている。生きているわたしやマーカスのことも考えて!!」
 夫人がクワントの袖をつかみ揺さぶる。目に涙をためて訴えている。
「ママ!」
 取り乱した母親をマーカスが心配そうにみつめ泣きそうな顔になる。
 おれはいった。
「あんた、銃を扱った経験は?」
 一応、クワントの腰のホルスターにはリボルバーがおさまっている。問題はそれを躊躇なく、しかも素早く抜けるかだ。
「わたしは若いころ、軍隊にいたことがある」
「では、抜いてみろ」
 おれは銃把に手をかけた。
「抜けっ、腰抜け!」
 挑発した。
 クワントがホルスターからリボルバーを抜いた。
 その姿が瞬時に固まる。
 それよりも早くおれが抜いて彼の心臓に銃口を突きつけたからだ。
 クワントの表情が凍りついている。
「ワッツがなんのためにあんたら家族を救ったかよく考えてみろ」
 クワントが力なくリボルバーをホルスターにもどす。
「……あなた」
「パパ」
 エミリーが、マーカスがクワントに抱きつき、涙を流している。
 互いに抱きしめあう家族をみておれは覚悟を決めた。
 そうだ、ここは友の故郷だ。
 その故郷を守ることができるのはおれしかいない。
 死んでもだれも泣かない、おれしかいないのだ。


    #11につづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

花嫁

一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...