逍遙の殺人鬼

こあら

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朝食を終えた私は使い終わった食器を洗っている
今日は仮面舞踏会が行われるとのことで、緊張と少しの好奇心が私の心を燻る
特に役目はないらしいが、それでも心臓はドキドキだった

洗い終わって振り向くと、そこにはジャンさんが立っていて驚いた
何も言わずそこに居て何をしていたんだか…………
腕を組んでこちらを見続ける彼の横を通り過ぎようとするも「待て」と二の腕掴まれ、どこへ行くのか移動し始めた









「座れ」

「はい……」

やってきたのはジャンさんの部屋で、命令口調で言ってくる
怒っているのか分からないが、私を座らせると何やらゴソゴソとしている
相変わらずの蔵書に、そっちばかりに目が行ってしまい「おい」とお声がかかった

「目、瞑れ」

「なんでですか」

「早くしろ」

説明を一切してくれない彼に渋々従い目を閉じると、頬に冷たい何かを感じて目を開けた
その冷たさの主はジャンさんの手で、それより彼の顔の近さに狼狽てしまう
何を……と口を開く私を無視いして前髪をピンで止めると、透さんから貰った物を取り出しては私に塗っていく
どうやら化粧をしてくれるみたいで、黙々と作業を進めるジャンさん

そんな彼を見ていると「目」と言われ、慌てて瞑り目元を触れるその感触に集中した
透さんにしてもらったものに近いそれは、手際良く動いている
心地よいその感覚を味わっていると「口開け」と言われ、ビクッと身体が反応してしまう

恐る恐る口を開けば、彼の冷え切った指と人工物の感触が触れる
そのなぞる感覚に必死で耐える

(なんだか恥ずかしい……)

「くっそ、」

「え?」

その苛立った声に目を開けると、どうやらリップをはみ出して塗ってしまったらしい
透さんの”つけ過ぎ注意”の言葉をしっかり守っているジャンさんは、それに集中し過ぎて唇の輪郭を脱線してしまった様だ
拭きましょうか?と問う、私を見ては「いや」と答える

ちょっと優しいその手つきの感覚に困惑し、思わず彼から目が離せなかった
こちらを見ている彼の瞳に私は眉を少し潜めた

「……あの…、」

「うるさい」

そう言って、はみ出た口元をそっと親指で拭く
自分で拭けます…そう言ったら、否定するみたいで、また離れてしまいそうで彼の"うるさい"の言葉に対抗できなかった
そうなったらやだな…なんて罪深い思いを抱く私は本当に貪欲だ

「脱げ」

「っえ、どうしてです!?」

「着替えに決まってんだろ」

戸惑う私を捕まえては脱がそうとする彼を止め、自分で着替えますから!と距離を取った
流石にそれまでやってもらわなくても、子供じゃあるまいし……
そう思っていると「これ1人じゃ着れぇぞ」とドレスを見せてくる

(そうだ…ドレスだった……)

そのことを忘れていたこの都合にいい記憶のせいで、空回りさせられる
それは後ろにファスナーが付いているものの、ウエスト部分にコルセットのような存在があって、誰かに縛ってもらわないといけない構造に作られている

「分かりました…コルセットの所はお願いしますから、後ろ向いてて下さい。」

「めんどい」

身体の向き変えるだけなのに、何が”めんどい”んだ……
私の反応を楽しんでいるとしか思えないジャンさんに急かされ、その場で着替えることになってしまった
彼に背を向け、着替える
すると「またババ臭ぇ下着」とか聞こえてくるが無視だ
ファスナーを上げようとすると、三つ編みに引っ掛かり上がろうとしてくれない
そんな反抗期なファスナーから、三つ編みを救出してくれるジャンさん
私はその三つ編みを握りしめて、ファスナーが上がり終わるのを待った
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