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第1章

第三十一話 「ネルさん、出産する」

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「う、う~ん。」

「ネル、頑張って!」

「ネルちゃん!」

「はぁ、はぁ。」




「なんでそこであきらめるの!」

「うるせー!そんなにしかるなっつーの……あー!」

「そんなに無理しなくてしゃべらない方がいいと思うよ。」

「汗、ふきましょうか?」

あぁ。頼む。
一人の看護師が、あせをふいた。
痛い……下が痛い……下が痛いよぉ~。

「奥さん、頑張って!」

「剣士だったころを思い出して!」

「あっ、あっ、あー!」

ネルさん、あれから2時間、かかってるよぉ。

「どうやら、出産するのは、難しいみたいだね。」

「じゃ、じゃあネル様は!?どーなるの!?」

「……おそらく、死ぬだろう。」

「そ、そんなぁ~。ネルたばびなないでぇ~!」

「お前、うっさい。」

「どぅわぁれが、俺様のかわいい女房を、死なせてるんじゃーっ!」

ん?後ろから声がした?
後ろを振り返ると……。

「ウルフ一郎さん!それに、ジュンブライト!」

「どうやら、間に合ったみたいだな。」

もう!二人とも、なにやってたのよぉ!

「こ、こいつがいろいろ、からかうんだよぉ!」

ボカッ!
からかうのはやめなさいっ!

「はい、すみません。」

ジュンブライトの頭の上には、大きなたんこぶがついている。

「あ、あー!」

「ネル!」

「ネル様!」

ウルフ一郎さんとウルフ三郎さんは、ドアにへばりついちゃって。

「あんたは関係ないだろっ。」

「はぁ、はぁ、はぁ。……ウルフ一郎か?」

「あぁ!そうだ!」

「ウルフ三郎もいまーす!」

「てめぇは邪魔!」

「いてっ!」

ウルフ三郎さん、ドンマイです。

「とにかく、頑張れよ!」

「とにかく、頑張れよ!」

「この俺様が。」

「この俺様が。」

「ついてるからなっ!」

「ついてるからなっ!」

「って、マネすんな、ボケーッ!」

「ウルフ一郎……。」

「それと!」

「それと!」

「俺様は!」

「俺様は!」

「お前の旦那だから!」

「旦那だから!」

「マネすんなって、言ったろうが、ボケーッ!」

「……伝わったよ。ちゃんと伝わった。だから……あたし、頑張るよ。」

ウルフ一郎さんは、大きくうなずいた。

「あぁ。頑張れ。」

「ネル様ぁ~、ファイトォ~!」

「あ、あ、あー!」

(痛い……けど、あたしは頑張るんだ。この子のために!)

「う、う~ん!」

頑張れ、ネルさん!

(お願いです、神様。どうか、妻と子供が、無事でいてくれるように、してください。これが、俺様のわがままだから。)

「あっ、あっ、あー!」

「奥さん、頑張って!」

「向こうでみなさんが応援してますよ!」

「奥さん、ファイト~!」

「ネルちゃん、頑張って!」

「ネル!」

はぁ、はぁ。言われなくても、わかってるよ。

「う、う~ん。う、う~ん。う、う~ん。う、う~ん。う、う~ん。う、う~ん。う、う~ん。」

「奥さん!頭が出ましたよ!」

「もう少し、もう少しですよ!」

うっせぇ、クソババア。

「う、う~ん。う、う~ん!」

「ホンギャー、ホンギャー、ホンギャー!」

「!?」

ガチャッ。

「お、おい!ギロ、赤ちゃんは!?」

すると、ギロさんはにこっと笑って。

「元気な男の子が、産まれたよ。」

「やったぁ~!」

「なんだか、感動しちゃいます。」

「うわ~ん!あたし、おばあちゃんになるんだねぇ~!」

「母ちゃん、うるさい。」

「ネル様ぁ~!よく頑張った!」

「あ、うるさい人、もう一人いたんだった。」

「あなた。」

「あぁ。あの子は苦しみながら、頑張ったんだよ。」

ネルさん、無事に出産しましたぁ!
ん?あれっ?ウルフ一郎さん、下を向いちゃって、どーしたんだろ。
拳をにぎりしめてるし。

「おい、どーした、オオカミヤロー。うれしくねぇのか?」

ジュンブライトがのぞきこんだ、その時。ウルフ一郎さんは、顔を上げた。
ウルフ一郎さん、泣いてる……。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!ひくっ、ひくっ、ひくっ、ひくっ。うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

あんなに声を上げて泣くウルフ一郎さん、初めて見た……。

「はぁ、はぁ、はぁ。……赤ちゃんは?」

「ここにいますよ。」

「はい。」

「ホンギャー、ホンギャー!」

「うわぁ、かわいい~。」

「よしよし。もう、泣かなくていいよぉ。お母さんは、ここにいるよぉ。」

「ウルフ一郎にそっくりね、顔が。」

「あぁ。それに、オオカミのしっぽが生えてるし。」

「まぁ!ふふふ、かわいい。」

「アハハハハ。ほんっと、ヴァンパイアとオオカミのハーフは、かわいいなぁ。」

「うふふ。」


                                ☆
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