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第3話:転校生は魔獣ハンター!-月光怪鳥ルナキラス登場-(後編)
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ゲゲゲゲ――――――――――――ッ!!
大きく広げた翼から月光のような輝きを放つ、自動車サイズぐらいの鳥に似た姿をした奇怪な何かが、絶叫を残してはじめたちの頭上を通過していった。
発生した物凄い風圧に押され、究太郎ともども激しく尻餅をついたはじめは状況がしばらくの間、飲み込めなかった。
「なんだ……あれ……」
「――――怪獣だ!」
究太郎が喜びか恐怖か、よく分からない悲鳴を上げていた。彼は首にいつもかけているデジカメの電源を入れ、飛び去った巨鳥の跡を追うように夢中になってシャッターを切り始めた。
「ジャージーデビルだっ!」
はじめは何と言っていいか分からず、写真を撮り続ける究太郎につられるように夕空を舞う巨大な影の動きを目で追いかけることしか出来なかった。
ちょうどその時、校庭の方でワッと声が上がるのが分かった。
考えてみれば当たり前だった。放課後というのもあって、遊んでいる生徒たちがいたのだ。サッカーゴールやバスケットコートで運動していたグループ、朝礼台にあぐらをかいてカードゲームをしていたグループ、いずれもその日は人数が少ないようだが、いずれにしれも大半が自分たちより下級生のようで、彼らもまた学校に出現した巨大な飛行生物の存在に気付いて、驚きの声を上げていたのだ。
ふと……はじめの中に嫌な予感が芽生えてくる。
「究太郎、アイツって肉食かな?」
「えっ」
はじめの問いかけに、究太郎がようやく我に返ったかのような間の抜けた音を漏らす。
「これ、もしかしてヤバいんじゃないか?」
究太郎の顔から、分かりやすく血の気が引いていくように思えた……自分たちは思ったより危険な状況だったのだ。喜んで写真など撮っている場合ではどうやらなかった。
「お――――いっ!」
はじめは咄嗟に立ち上がると、広いグラウンドめがけて声を張り上げた。
「そこにいると危ないぞ、逃げろ! 学校の中へ入れ!」
呼びかけと前後するように、空中の巨鳥がUターンをして再び地上に向かい始めた。それを見て流石に状況を理解したのか、遊んでいた生徒たちは反応速度に差こそあれ、徐々に悲鳴を上げながら校舎を目指してバラバラと駆け足を始めた。
だが、明らかにスピードが違いすぎる。
地上スレスレを巨鳥が通過すると、何人かの生徒が風によって突き飛ばされたみたく地面に転がった。泣き出してしまった子さえいる。はじめと究太郎は、今度こそ本気で恐ろしくなった。
「助けなきゃ!」
はじめは言った。
「あのままじゃアイツに食べられる!」
「先生を呼んできた方がいいよ、はじめ!」
究太郎が引き止める。
「体育の成績が2の俺たちじゃムリだよ!」
勿論、五段階評価の下から二番目である。しかし、放っておいたら取り返しのつかないことになるのは、火を見るよりも明らかだった。はじめが足踏みしていると、
「おーい、風が強いから一旦中へ入れーっ!」
救世主が現れてくれた。我らが児嶋先生である。
「先生!」
「砂ぼこりが酷いな……ここの昇降口も閉めとかないと、学校の中が砂まみれになりそうだ」
「それより、怪獣がいるんですよ!」
はじめと究太郎はしがみ付くように必死になって訴えた。
「ジャージーデビルがみんなを食べようとしてる!」
「え、怪獣?」
先生は校庭に目を凝らしてキョロキョロするが、すぐに疑わしげな顔になった。
「何にもいないぞ。錯覚じゃないのかい?」
「ほら、あれ!」
巨鳥がとうとう生徒たちの傍に着陸すると、風にあおられひっくり返った何名かがケラケラと笑い出していた。あまりにも非現実的な状況に、頭が追いつかずパニックを起こしているのかもしれない。
「うーん、やっぱり先生には何も見えないな。確かに風は強いけれど」
すぐ目と鼻の先で起きている出来事だというのに、先生はやがてそんなことまで言い出して首を傾げてしまった。はじめは絶望しそうになる。
「どのみち、みんな危機感がなさ過ぎるな……ちょっと放送室へ行ってくる」
踵を返した先生を見て、はじめはふとある可能性に気が付いた。
この人には、もしや本気で何も見えていないのでは?
あの怪獣は自分たち――子どもの目にしか見えない存在なのだ。
「校庭中に呼びかけないと……君たちも危ないから、外には出ないようにな」
児嶋先生は、そうしてふたりを残して立ち去ってしまった。はじめと究太郎は、思わず顔を見合わせる。もはや誰も頼れない。この場には、自分たちしかいないのだ。
「あ~~~~、もうっ!」
「おい、はじめ!?」
はじめは無我夢中でグラウンドに飛び出した。もう細かいことを考えているヒマなどない。とにかく一秒でも早く、一人でも多くみんなを校舎に入らせ、それから自分も全速力で逃げるのだ。それ以外にない。
幸い、生徒の多くは散々転びながらも、校舎の近くにやって来ていた。自分が今やって来た昇降口を指差しながら、はじめは喉が涸れるかと思うほど大声を出しまくる。
まだ残っている人はいないかと周囲を確かめていると、移動式バスケットゴールの足元に、小さな男の子が身を隠すようにしてうずくまり、泣いているのを見つけた。きっとまだ一年か二年生だ。
彼のところに走っていき、立たせて校舎へ連れていこうとしたその時、
「はじめ、危ない!」
究太郎の声で振り返ったはじめの視界いっぱいに、見上げるような怪獣の巨体があった。
真っ黒な身体から伸びた、それぞれ一本しかないカギ爪で地面に立つそいつは、シルエットこそ鳥でも顔面はしかし、どう見ても馬だった。雄たけびを上げ、牙を剥き出した怪獣の顔が荒い息遣いと共に近づいて来るのを見て、はじめは恐怖で頭が真っ白になる。
――――直後、怪獣の全身が視界から掻き消えた。
「えっ」
前触れもなく怪獣が横向きにぶっ飛ばされ、グラウンドの地面を削りながら転がっていった挙句、別のバスケットゴールに激突して鈍い金属音を響かせた。
一秒前まで怪獣のいたその場所に、はじめと大して変わらないサイズの細い人影がシュタッと軽やかな足音を立てて着地する。後頭部から伸びた短めのポニーテールが、パーカーフードの上で無造作に揺れている。
上城ひかるだった。
「…………やっと見つけた、幼魔獣」
上城ひかるはそう言って自分の何倍も大きな怪獣をにらみつける。はじめはまだ理解が追いついてこなかった。もしかして、彼女が今のをやったのか? あの巨大な怪獣を何メートルも遠くに吹き飛ばした? どうやって?
「あの、上城さ……」
「早く逃げて」
上城ひかるは振り返ることもなくそれだけ告げると、首にかけていた例の竹筒を外して脇に構えた。怒り狂った怪獣が起き上がって突っ込んでくるのとほぼ同時に、彼女はただ一言こう唱える。
「――――聖水筒射剣ッ!」
上城ひかるの手に、竹筒を柄にしてたちまち巨大な水の刃が出現する。
呆気にとられるはじめの目の前で、上城ひかるは巨大な敵を迎え撃つように構えた剣を振りかざし、全力で疾走を開始した!
大きく広げた翼から月光のような輝きを放つ、自動車サイズぐらいの鳥に似た姿をした奇怪な何かが、絶叫を残してはじめたちの頭上を通過していった。
発生した物凄い風圧に押され、究太郎ともども激しく尻餅をついたはじめは状況がしばらくの間、飲み込めなかった。
「なんだ……あれ……」
「――――怪獣だ!」
究太郎が喜びか恐怖か、よく分からない悲鳴を上げていた。彼は首にいつもかけているデジカメの電源を入れ、飛び去った巨鳥の跡を追うように夢中になってシャッターを切り始めた。
「ジャージーデビルだっ!」
はじめは何と言っていいか分からず、写真を撮り続ける究太郎につられるように夕空を舞う巨大な影の動きを目で追いかけることしか出来なかった。
ちょうどその時、校庭の方でワッと声が上がるのが分かった。
考えてみれば当たり前だった。放課後というのもあって、遊んでいる生徒たちがいたのだ。サッカーゴールやバスケットコートで運動していたグループ、朝礼台にあぐらをかいてカードゲームをしていたグループ、いずれもその日は人数が少ないようだが、いずれにしれも大半が自分たちより下級生のようで、彼らもまた学校に出現した巨大な飛行生物の存在に気付いて、驚きの声を上げていたのだ。
ふと……はじめの中に嫌な予感が芽生えてくる。
「究太郎、アイツって肉食かな?」
「えっ」
はじめの問いかけに、究太郎がようやく我に返ったかのような間の抜けた音を漏らす。
「これ、もしかしてヤバいんじゃないか?」
究太郎の顔から、分かりやすく血の気が引いていくように思えた……自分たちは思ったより危険な状況だったのだ。喜んで写真など撮っている場合ではどうやらなかった。
「お――――いっ!」
はじめは咄嗟に立ち上がると、広いグラウンドめがけて声を張り上げた。
「そこにいると危ないぞ、逃げろ! 学校の中へ入れ!」
呼びかけと前後するように、空中の巨鳥がUターンをして再び地上に向かい始めた。それを見て流石に状況を理解したのか、遊んでいた生徒たちは反応速度に差こそあれ、徐々に悲鳴を上げながら校舎を目指してバラバラと駆け足を始めた。
だが、明らかにスピードが違いすぎる。
地上スレスレを巨鳥が通過すると、何人かの生徒が風によって突き飛ばされたみたく地面に転がった。泣き出してしまった子さえいる。はじめと究太郎は、今度こそ本気で恐ろしくなった。
「助けなきゃ!」
はじめは言った。
「あのままじゃアイツに食べられる!」
「先生を呼んできた方がいいよ、はじめ!」
究太郎が引き止める。
「体育の成績が2の俺たちじゃムリだよ!」
勿論、五段階評価の下から二番目である。しかし、放っておいたら取り返しのつかないことになるのは、火を見るよりも明らかだった。はじめが足踏みしていると、
「おーい、風が強いから一旦中へ入れーっ!」
救世主が現れてくれた。我らが児嶋先生である。
「先生!」
「砂ぼこりが酷いな……ここの昇降口も閉めとかないと、学校の中が砂まみれになりそうだ」
「それより、怪獣がいるんですよ!」
はじめと究太郎はしがみ付くように必死になって訴えた。
「ジャージーデビルがみんなを食べようとしてる!」
「え、怪獣?」
先生は校庭に目を凝らしてキョロキョロするが、すぐに疑わしげな顔になった。
「何にもいないぞ。錯覚じゃないのかい?」
「ほら、あれ!」
巨鳥がとうとう生徒たちの傍に着陸すると、風にあおられひっくり返った何名かがケラケラと笑い出していた。あまりにも非現実的な状況に、頭が追いつかずパニックを起こしているのかもしれない。
「うーん、やっぱり先生には何も見えないな。確かに風は強いけれど」
すぐ目と鼻の先で起きている出来事だというのに、先生はやがてそんなことまで言い出して首を傾げてしまった。はじめは絶望しそうになる。
「どのみち、みんな危機感がなさ過ぎるな……ちょっと放送室へ行ってくる」
踵を返した先生を見て、はじめはふとある可能性に気が付いた。
この人には、もしや本気で何も見えていないのでは?
あの怪獣は自分たち――子どもの目にしか見えない存在なのだ。
「校庭中に呼びかけないと……君たちも危ないから、外には出ないようにな」
児嶋先生は、そうしてふたりを残して立ち去ってしまった。はじめと究太郎は、思わず顔を見合わせる。もはや誰も頼れない。この場には、自分たちしかいないのだ。
「あ~~~~、もうっ!」
「おい、はじめ!?」
はじめは無我夢中でグラウンドに飛び出した。もう細かいことを考えているヒマなどない。とにかく一秒でも早く、一人でも多くみんなを校舎に入らせ、それから自分も全速力で逃げるのだ。それ以外にない。
幸い、生徒の多くは散々転びながらも、校舎の近くにやって来ていた。自分が今やって来た昇降口を指差しながら、はじめは喉が涸れるかと思うほど大声を出しまくる。
まだ残っている人はいないかと周囲を確かめていると、移動式バスケットゴールの足元に、小さな男の子が身を隠すようにしてうずくまり、泣いているのを見つけた。きっとまだ一年か二年生だ。
彼のところに走っていき、立たせて校舎へ連れていこうとしたその時、
「はじめ、危ない!」
究太郎の声で振り返ったはじめの視界いっぱいに、見上げるような怪獣の巨体があった。
真っ黒な身体から伸びた、それぞれ一本しかないカギ爪で地面に立つそいつは、シルエットこそ鳥でも顔面はしかし、どう見ても馬だった。雄たけびを上げ、牙を剥き出した怪獣の顔が荒い息遣いと共に近づいて来るのを見て、はじめは恐怖で頭が真っ白になる。
――――直後、怪獣の全身が視界から掻き消えた。
「えっ」
前触れもなく怪獣が横向きにぶっ飛ばされ、グラウンドの地面を削りながら転がっていった挙句、別のバスケットゴールに激突して鈍い金属音を響かせた。
一秒前まで怪獣のいたその場所に、はじめと大して変わらないサイズの細い人影がシュタッと軽やかな足音を立てて着地する。後頭部から伸びた短めのポニーテールが、パーカーフードの上で無造作に揺れている。
上城ひかるだった。
「…………やっと見つけた、幼魔獣」
上城ひかるはそう言って自分の何倍も大きな怪獣をにらみつける。はじめはまだ理解が追いついてこなかった。もしかして、彼女が今のをやったのか? あの巨大な怪獣を何メートルも遠くに吹き飛ばした? どうやって?
「あの、上城さ……」
「早く逃げて」
上城ひかるは振り返ることもなくそれだけ告げると、首にかけていた例の竹筒を外して脇に構えた。怒り狂った怪獣が起き上がって突っ込んでくるのとほぼ同時に、彼女はただ一言こう唱える。
「――――聖水筒射剣ッ!」
上城ひかるの手に、竹筒を柄にしてたちまち巨大な水の刃が出現する。
呆気にとられるはじめの目の前で、上城ひかるは巨大な敵を迎え撃つように構えた剣を振りかざし、全力で疾走を開始した!
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