ぼくらの放課後魔獣戦線【自主怪獣×学園オカルトファンタジー】

彩条あきら

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第16話:大決戦!オオカミ屋敷-超魔獣鬼メガテンダべロス登場-(前編)

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 血の気を失くしたはじめの視線は、もうずっと屋敷の床に倒れて動かないひかるへ釘付けとなっていた。背後から友人が駆けつけて来たことにも、大分経つまで気付かなかった。

「……じめ、しっかりしなよ! はじめったら!」
 肩を大きく究太郎に揺さぶられ、はじめはハッとなる。
「突っ立ってる場合じゃないよ! 上城さん助けないと!」

 彼らの耳にグルルルル……と低い威嚇の声が聞こえてくる。出どころは当然、ひかるを打ち倒した目の前の一体の魔獣。それ以外には考えられなかったのだが、
「こいつら……一体だけじゃなかったのか!?」

 そう、屋敷に巣食う青いオオカミの魔獣は一匹狼ではなかった。確認できるだけでも全部で三体。ひかるの前に立つ一体、ホールを見下ろすエントランス二階部分に陣取る一体、そして更に煙状態で飛来し実体化した全身から放電を起こしている一体。最後のはおそらくひかるが交戦してダメージを与えた個体だ。

 本物のオオカミがそうであるように、彼らは群れで行動する魔獣だったのだ。はじめは目の前が真っ暗になりそうになる。こんな状況、どうすれば……。
「――伏せて、はじめ!」

 その時突如として、究太郎が手に持った何かを魔獣たちの方を狙って勢いよく投げつける。それは遠目にはおよそ五〇〇ミリぐらいの大きさのペットボトルのように見えた。すると次の瞬間、驚くべきことが起こった。

 ひかると魔獣の中間あたりに落下したボトルから透明の液体が噴出すると、魔獣たちが悲鳴を上げ大きくのけぞったではないか! その反応は、ひかるの聖水による攻撃を喰らった時の反応と瓜二つで、はじめは思わず究太郎の方を凝視してしまった。

「究太郎、あれ何――」
「説明は後! それより早く上城さんのこと!」
 確かにもう考えている暇はなさそうだった。はじめは究太郎を信じ思い切って飛び出すと、倒れたひかるの元へと駆けつけて即座にその上体を起こした。

「上城! 上城しっかり!」
 幸いにも、彼女はまだ息をしていることが分かった。生きていてくれて本当に良かった、と安堵したのも束の間、今度はひかるがぐったりと目を開けないことに気付かされた。しかも、異常に息が荒く体まで熱い。

「上城、死ぬな! 死なないでよ!」
 究太郎の時と違って魂を取られた訳ではなさそうだが、明らかに思わしくない様子だ。
 と、そこへ再び敵のうなり声が近づいて来る。はじめが反射的にひかるを抱き寄せて庇おうとすると、これまた再び究太郎の投擲とうてきした謎ボトルの液体が撒き散らされ、それ以上の接近は阻まれる。

 はじめはその隙に、ひかるの体を抱えて立ち上がった。いわゆるお姫様抱っこの状態だが、この際とやかくは言ってられなかった。

「はじめ、こっちだよ! まだ壊れてない部屋がある!」
 究太郎の誘導に従って、はじめは殆んど死にもの狂いになり自分の足を動かした。いわゆる火事場の馬鹿力というやつなのだろう、屋敷内の調度品や割れた窓が次から次へと視界を過ぎ去っていく。

 だがおそらく最大の理由は、普段の戦いからは想像もできない程に、ひかるが華奢きゃしゃで軽くて小さな体をしていたということだった。こんな今にも折れそうな体で、ひとりで魔獣と戦っていたのか……はじめは驚きが溢れてくるのを隠せない。

 そうこうするうち、廊下で唯一ドアの壊れていない部屋へとたどり着いた彼らは中へ入るとドアを密閉。更に究太郎は、例のボトルを新たに取り出すとドアの前は勿論、部屋の四隅の角など、敵が出入りできそうな角度ある部分へ、片っ端から中の液体を撒き散らす。

「どんだけもつか分かんないけど……ちゃんと効いてたし、これでしばらくの間は立てこもるしかないな……」
「それ、本当に何の液なの!?」
「星乃天然水!」
 はじめの問いかけに、究太郎は至極簡潔に答えてみせた。

「煮詰めて中の成分濃くしてさ、あと親が使ってる炭酸水メーカーでガス入れたんだ。振って投げたら、中身が噴き出すようにね……人工聖水爆弾ってとこかな」
「…………マジで凄いな、究太郎」
「ただの思いつきだよ。でも本当、役に立って良かった!」

 地味に物凄いことをしているのに、究太郎は発明の解説が出来た事を喜ぶぐらいのもので、偉ぶる様子が全くない。その点も含めて、はじめは究太郎を改めて尊敬した。

「上城さんはどう?」
「……息はしてるけど、凄く熱がある。それに汗びっしょりだし」
「もしかして、熱中症じゃないかな。息苦しいまんま無茶苦茶な戦い方してたし、今日熱いし……」
 はじめの上着を枕にして床に寝たひかるの様子を見ながら、究太郎は努めて冷静に言った。

「とにかく、水分あげて体と頭を冷やさないと。俺は上城さんが飲めるドリンクを作るから、はじめは一応服を脱がせてあげて」
「ふ――――へぇっ!?」
「ごめん、今のは言い方が悪かった」
 究太郎は素直に詫びた。真顔で言ってくるから始末が悪い。

「熱を下げないとだから、せめてパーカーだけは脱がせてあげて。あと、水筒でよく濡らしたハンカチとかで汗も拭いてあげて。上城さんには、後で謝ろう」
 言うが早いか、究太郎は背負っていたリュックを下ろすと中身を順に取り出し、テキパキと床に並べ始めた。

 はじめはしばらく迷っていたが、背に腹は代えられないと覚悟して「ごめん」と念のために告げ、おっかなびっくりとだが、ひかるのパーカー前のファスナーを下ろし始めた。それから優しく彼女の上体を起こした上で、両腕を袖からゆっくりと引き抜いていく。

 その時、部屋のすぐ外側から魔獣たちの低くうなる声が聞こえてきて、はじめはまた咄嗟にひかるの体を抱き寄せて庇うようにする。
「シッ……大丈夫……入ってはこれないハズ……」
「…………っ!」

 状況が状況なので迷っていられなかったが、はじめは今ひかるがシャツ一枚なことを忘れていた。半袖だが防寒性の良さそうな、赤い厚手の生地のシャツ。しかも柔らかくて汗に濡れた彼女の肌に、はじめは意図せずに触れてしまっていて、首筋にはひかるの熱い吐息がかかってくる。はじめは一瞬、自分がとてつもなく卑劣なことをしているんじゃないかという気持ちにさせられた。

 彼らが息を潜めるようにしていると、ドアの前をうろついていた声はやがて何処へともなく遠ざかっていった……ホッと息を吐いたはじめだが、いつの間にか心臓がバクバクと波打っていることに気が付いた。
 今にも爆発しそうなぐらいだったが、正直なところそれが何による緊張なのか自信が無く、こんな時に馬鹿じゃないのかとはじめは自分をひどく責めそうになった。

「よし出来た……上城さん起きて、上城さん……」
 はじめが濡らしたハンカチで顔や手足の汗をぬぐい終えるのを待ってから、究太郎はひかるを静かに揺り起こした。

 彼女はそこで、やっと少しだけ目を開けこっちの方を見てくれた。手近なもので扇いで風を送っているのもあるが、体温が少しは下がったのだろうか……意識がまだ朦朧としているためなのか、知らぬ間に自分がシャツ一枚になっていることについては、今のところは何も言ってこなかった。

「聞いて、上城さんは熱中症で倒れたんだ。水分取らないといけないから、上城さんのためにこれを作った」
 究太郎が差し出したのは、水筒のフタに入った少し白く濁った即席の特性ドリンクだ。

「心配しないで。俺が持ってきた星乃天然水に、祖母ばあちゃんのくれたレモンのはちみつ漬けを入れたんだ。上城さんが飲んでる聖水を、スポーツドリンクみたくしたと思って」
 ひかるは少しだけ迷った表情をしていたが、やがて小さく頷くとコップを受け取ってコクリコクリと飲み始める。

 はじめは何だか、物凄く感動的な瞬間を目撃しているような気分になった。究太郎は究太郎で、ひかるが特性ドリンクを飲み干してしまったのを見るや否や、すぐさま二杯目を勧めたりしている。

「本当はあと、塩分とかがあるといいんだけど……」
「おにぎり」
 はじめは思いついたことをそのまま言ってしまったのに遅れて気付き、場違いに聞こえたらどうしようと慌てふためいた。明らかにさっきのがまだ尾を引いてテンパっている。いい加減に忘れろ。

「あのいや、ぼくが今日持ってきたのが手作りおにぎりで、海苔のりが家に無かったから代わりに塩をいっぱいまぶして作ったんだ。それ駄目かな?」
「いいよ! 全然いい! 上城さんも少しぐらい食べた方が回復するし……」

 ところが、こちらは相変わらず首を横に振って拒否の姿勢を示すひかる。はじめは、究太郎ドリンクとの態度の落差に少なからずショックを覚えた。
「上城さん、食べとかないとまた悪くなるよ……」
「……違うの」
 究太郎が穏やかに忠告するが、ひかるは再度首を振って言った。

「気持ちは……すごく嬉しい……けど駄目なの……あいつを倒すまで、私は食べちゃ駄目なの……じゃないと勝てない……」
「戦うって……前に言ってた、言葉を話す魔獣のこと?」
「…………今まで隠していて、本当にごめんなさい」

 はじめの問いかけに、ひかるは目を落として手首をギュッと握り締めた。また、あの赤と青のミサンガだ。彼女はやがて静かに告白をした。

「前の学校で、友達が魔獣に食べられて……戻って来なかったの……」
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