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2話
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(ああ、幸せだな……)
この十年間、振り返ると幸せだとつくづく感じる。
生前、多分、29歳までの記憶しか持ち得ていないのは、その年で命を落としたのでは無いかと推測している。何故、この世界に転生したのは未だに謎なのだが……。
(まさか、ピンクの世界を見たいが為に転生したって冗談は勘弁してほしい。
余りにも情けないから。
そりゃあ生前は一つも浮いた話などありませんでした。
悲しい事に。
仕事が忙し過ぎて恋愛に感ける時間なんて無かった。
憧れの人は居たけど……)
一柳さん……。
密かに好意を抱いていた人。
地味で平凡な私には雲の上の存在だった。
話す事など、殆ど無かった。
一柳さんは企画部の係長で、私は営業課の唯の派遣社員。
あ、今と同じくモブだわ。
モブはモブらしく職場での華々しい活躍も、一際目立つ程の力量も持ち合わせていなかった。
私が職場に求められていたのは、お茶汲みにコピー取り、ファイリングに文章の清書。
係長の雑用を言いつけられたり、他の常勤の私用での買い物を言いつけられたり、本当に唯の雑用係だった。それでも、仕事は真面目に熟さないといけないと真摯に向き合っていたのが良かったのか、悪かったのか。
数ヶ月後、同じ部署の上杉さんが寿退社する事にあたり急遽、事務職での常勤が必要となった為、私に白羽の矢が当たった。
派遣では無く常勤になれば今までにない補償が付くと思い、常勤の話を受けたのだが。
給料面でも、常勤になったから手取りが多くなったかと言えば、正直、派遣の方がマシだったと言わざる得ない。
常勤と言う肩書の為に、以前にも増して仕事での雑用が増えていった。
派遣の時は何とか定時に帰宅する事が出来たのだが、常勤になった途端、今まで以上に仕事量(主に雑用)が増え終電を逃す事が常日頃と化していた。
通勤手当を超える通勤金額。
仕事場から終電を逃すとタクシーでの帰宅になるのだが、この通勤代でどれだけ痛い目に遭っていたか。
それだけでは無い。
帰宅が余りにも遅いが為に、食事すら満足に作る事が出来ない。
カップラーメンにコンビニ弁当が日々続く中、生活費の殆どがタクシー代と食事で消えていった。
それでも常勤になっての手取りが増えていたら気持ちに張り合いがあるのだが、それも微妙。
ううん、多分、派遣の時が良かった。
心身、疲労が蓄積され気持ちがどんよりになる一方。
なんの為に仕事しているんだろう……。
頭に過るのはそれだけ。
華々しい活躍なんて無い。
任される仕事は派遣の時と一緒。
ううん、もっと酷くなっている。
常勤になってから、急に係長の企画を清書して欲しいと帰宅時に言われたり、先輩に決算での雑用を任されれたり。
流石に派遣の時には言い難かったのか、それを見越しての常勤の推薦だったのか。
反論もせず与えられた仕事を黙々とこなしていたのが果たして良かったのだろうか。
そんなやり切れない日々の中、企画部の一柳さんに出会った。
企画部にお茶を入れて欲しいとの依頼があり、人数分の珈琲を淹れて運んでいけば、私の淹れた珈琲が美味しかったと一柳さんから声かけられたのが始まり。
褒められた時、ぽかんとしている自分が存在した。
そして頬が急に赤くなっていって。
仕事で初めて褒められた。
誰一人、お茶を、珈琲を淹れても美味しいとの言葉を貰った事なんて無かった。
ただ一言の言葉。
それがこんなにも嬉しいなんて。
涼やかな目元に笑うと少し幼くなる。
4歳年上の一柳泰斗さん。
仄かに宿った恋心。
淡い想いであって、どうこうしたいと言う気持ちにはならなかった。
だって私はモブキャラだから。
だからヒロインの様に求めようとは思わない。
でも密かに想いを寄せても良いよね?
だって好きになる事は自由なんだから。
告白さえしなかったら、この気持ちは私だけのもの。
だからかも知れない。
「貴方に心ときめいて」と言うゲームに猛烈に心を奪われたのは。
ゲームなんて興味など無かった。
所詮は架空の世界での物語だから。
最初、綺麗なパッケージだな、とぼんやりと思っただけ。
書かれてるストーリーを見てくすり、と笑う自分がいて。
そして無意識に泣いている自分が、いた。
涙を拭って、奪い去る様に「貴方に心ときめいて」を買って帰った。
気持ちを抑える事が出来なかった。
だって私だって、ヒロインになりたいから。
誰から必要と言われたい。
誰から強く求められたい
好きな人に、好きだと告白したい……。
そんな思いが爆発して私は「貴方に心ときめいて」に心奪われてしまった。
ううん、ハマるしか無かった。
そうする事で心のバランスを取ろうとしていた。
この十年間、振り返ると幸せだとつくづく感じる。
生前、多分、29歳までの記憶しか持ち得ていないのは、その年で命を落としたのでは無いかと推測している。何故、この世界に転生したのは未だに謎なのだが……。
(まさか、ピンクの世界を見たいが為に転生したって冗談は勘弁してほしい。
余りにも情けないから。
そりゃあ生前は一つも浮いた話などありませんでした。
悲しい事に。
仕事が忙し過ぎて恋愛に感ける時間なんて無かった。
憧れの人は居たけど……)
一柳さん……。
密かに好意を抱いていた人。
地味で平凡な私には雲の上の存在だった。
話す事など、殆ど無かった。
一柳さんは企画部の係長で、私は営業課の唯の派遣社員。
あ、今と同じくモブだわ。
モブはモブらしく職場での華々しい活躍も、一際目立つ程の力量も持ち合わせていなかった。
私が職場に求められていたのは、お茶汲みにコピー取り、ファイリングに文章の清書。
係長の雑用を言いつけられたり、他の常勤の私用での買い物を言いつけられたり、本当に唯の雑用係だった。それでも、仕事は真面目に熟さないといけないと真摯に向き合っていたのが良かったのか、悪かったのか。
数ヶ月後、同じ部署の上杉さんが寿退社する事にあたり急遽、事務職での常勤が必要となった為、私に白羽の矢が当たった。
派遣では無く常勤になれば今までにない補償が付くと思い、常勤の話を受けたのだが。
給料面でも、常勤になったから手取りが多くなったかと言えば、正直、派遣の方がマシだったと言わざる得ない。
常勤と言う肩書の為に、以前にも増して仕事での雑用が増えていった。
派遣の時は何とか定時に帰宅する事が出来たのだが、常勤になった途端、今まで以上に仕事量(主に雑用)が増え終電を逃す事が常日頃と化していた。
通勤手当を超える通勤金額。
仕事場から終電を逃すとタクシーでの帰宅になるのだが、この通勤代でどれだけ痛い目に遭っていたか。
それだけでは無い。
帰宅が余りにも遅いが為に、食事すら満足に作る事が出来ない。
カップラーメンにコンビニ弁当が日々続く中、生活費の殆どがタクシー代と食事で消えていった。
それでも常勤になっての手取りが増えていたら気持ちに張り合いがあるのだが、それも微妙。
ううん、多分、派遣の時が良かった。
心身、疲労が蓄積され気持ちがどんよりになる一方。
なんの為に仕事しているんだろう……。
頭に過るのはそれだけ。
華々しい活躍なんて無い。
任される仕事は派遣の時と一緒。
ううん、もっと酷くなっている。
常勤になってから、急に係長の企画を清書して欲しいと帰宅時に言われたり、先輩に決算での雑用を任されれたり。
流石に派遣の時には言い難かったのか、それを見越しての常勤の推薦だったのか。
反論もせず与えられた仕事を黙々とこなしていたのが果たして良かったのだろうか。
そんなやり切れない日々の中、企画部の一柳さんに出会った。
企画部にお茶を入れて欲しいとの依頼があり、人数分の珈琲を淹れて運んでいけば、私の淹れた珈琲が美味しかったと一柳さんから声かけられたのが始まり。
褒められた時、ぽかんとしている自分が存在した。
そして頬が急に赤くなっていって。
仕事で初めて褒められた。
誰一人、お茶を、珈琲を淹れても美味しいとの言葉を貰った事なんて無かった。
ただ一言の言葉。
それがこんなにも嬉しいなんて。
涼やかな目元に笑うと少し幼くなる。
4歳年上の一柳泰斗さん。
仄かに宿った恋心。
淡い想いであって、どうこうしたいと言う気持ちにはならなかった。
だって私はモブキャラだから。
だからヒロインの様に求めようとは思わない。
でも密かに想いを寄せても良いよね?
だって好きになる事は自由なんだから。
告白さえしなかったら、この気持ちは私だけのもの。
だからかも知れない。
「貴方に心ときめいて」と言うゲームに猛烈に心を奪われたのは。
ゲームなんて興味など無かった。
所詮は架空の世界での物語だから。
最初、綺麗なパッケージだな、とぼんやりと思っただけ。
書かれてるストーリーを見てくすり、と笑う自分がいて。
そして無意識に泣いている自分が、いた。
涙を拭って、奪い去る様に「貴方に心ときめいて」を買って帰った。
気持ちを抑える事が出来なかった。
だって私だって、ヒロインになりたいから。
誰から必要と言われたい。
誰から強く求められたい
好きな人に、好きだと告白したい……。
そんな思いが爆発して私は「貴方に心ときめいて」に心奪われてしまった。
ううん、ハマるしか無かった。
そうする事で心のバランスを取ろうとしていた。
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