「貴方に心ときめいて」

華南

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45話

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「う、ん……」

「エレーヌ」

魘されるエレーヌの手を強く握る。

「エレーヌ。
お前を護る事が出来なくて済まない」

唇にエレーヌの手を寄せる。
そっと口付けを落としエレーヌに視線を注ぐ。
薄らと汗を滲ませ、苦渋に満ちた表情で吐息を漏らしている。

そんなエレーヌにオリバーの表情が歪む。

(何故、あの男と出会った。
何故、あの男がこの世界に転生している。
何故……)

何度も心の中で問いただしても答など出ない。
紗雪がエレーヌとして転生して、己がエレーヌの兄として転生して。

(ああ、だからなのか。
あれ程エレーヌに心を奪われていたのは。
エレーヌが紗雪だから、か)

「紗雪……」

君はずっと俺の存在に気付いていなかった。
俺の事をずっと、「一柳泰斗」と思い、信じて。

(君との関わりと持っていたのは、泰斗では無く俺だった。
君が初めて俺にコーヒーを淹れてくれて。
緊張で震えながらも、君は何人分のコーヒーをトレイに載せて持ってきてくれた。他部署の君の心遣いに俺は)

泰斗には感謝していた。
あの時、泰斗が体調を崩し、期日が差し迫った企画を俺に依頼しなければ君ともう一度再会する事は無かった。

直に君と……。

(24年前の事故が全てを狂わした。
俺達親子も、紗雪も、そして
あの事故さえ無ければ、俺達は出会わなかった。
君は両親と幸せに暮らし、君を心から愛する男性と出逢い、結婚し家庭を築き。
そんな未来を潰した俺達親子が居なければ。
欲に眩み、人の命の重さを軽視し容易く奪った俺の父親が、いや、あの女達が居なければ君は)

後悔でしか無い。
自分が出会った事で紗雪の人生に翳りを与えてしまった。
ひっそりと静かに生きたいと願う、紗雪の人生を、エレーヌの人生を俺は奪ってしまった。
現世でも己の想いに気付かなければエレーヌを窮地に追い込む事は無かった。
王太子ラルフのエレーヌに対する関心も、元を正せば己がグーベルト家を出て王都に上がった事が起因である。
己の気の緩みが浅はかな行動がエレーヌの存在を王太子に知られた事が原因では無いか。
前世でも、そしてこの現世でも俺の存在はエレーヌの人生を歪ませてしまう。

エレーヌを哀しませてしまう。

俺がエレーヌに恋をしなければ。

前世でも紗雪に恋をしなければ、紗雪は……。

保科祥吾に囚われてる事なく自由に生きていく事が出来たのでは無いか。
哀しみの涙を流し、感情を喪ってこの世を去った人生を歩む事は無かったのでは無いか。

(何度も後悔した。
だが後悔しても何を変える事が出来る?
事が及んだのであればこれから先どうすればエレーヌにとって、紗雪にとって最善と言えるか。

……。

俺がエレーヌにを告げれば、この世でエレーヌと結ばれる道が開ける。
だがそれはエレーヌの望む人生では、無い。
エレーヌには、静かに、心穏やかに生きて欲しい。
王室に関わる事なくエレーヌの事をこよなく愛する存在と……)

エレーヌをこよなく愛する存在……。

紗雪が望む相手、と。

「ああ、そうか」

くつくつと嗤いが出る。

ここは紗雪がプレイしていたゲームの世界を模倣した世界。
生前の紗雪が執心だった男が存在するのでは無いか?

王太子ラルフも、第2王子ルーファンも存在している。
他のキャラクターも遜色なく存在している。

そして、も。

紗雪が頬を染めながら攻略していた。

アルバン侯爵家のジェラルドがいるでは無いか。

ずっと望んでいた相手が目の前に存在したら、紗雪は哀しみの連鎖から逃れる事が出来るのでは無いか。

俺と言う存在からも、保科祥吾からも解き放たれる事が出来る。

「エレーヌ、俺は」

そっと頬に唇を落とす。
君の幸せを願っている。
君を誰よりも愛しているから、俺は。

俺の命を賭しても君の幸せを護るよ。

紗雪。

君を愛している……。
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