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閑話20
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恋をした。
愛される悦びも知った。
でも、その愛は私が本当に望んだ愛のカタチでは無かった……。
***
突然、今ある境遇に変化が起きた。
「貴女、祥吾さんの愛人なの?」
いきなり訪ねて来た女性に放たれた言葉。
一瞬、何を言われているか判らなかった。
(あ、愛人?)
どうしてそう言われるの?
確かに恋人と思われる方が不自然だと思うけど。
だけどどうしてこの女性に言われないといけないの?
「あ、私は、愛人では無い、です」
段々と声が小さくなっていく。
祥吾さんに愛をずっと囁かれている。
求められている。
だけど恋人であるかと言えば、私には自信が無い。
「貴女、もしかして祥吾さんの婚約者とか思っていないわよね?
世間知らずの、身の程を弁えない低俗な女ね、アンタって」
と、言いながら急に近づいて来て、私の頬を叩く。
ぱしん、と小気味良い音が部屋に響いて。
(な、何が起こったの?
わ、私……)
ジンジンと痛みが強くなっていく頬に手を充てる。
頬を叩かれた。
目の前の女性に視線を注ぐと物凄い形相で私を射抜いている。
憎悪の籠った目で。
「よくも私の祥吾さんに手を出したわね。
この泥棒猫!
淫乱女、ええ、アンタにはその言葉がお似合いよ。
こんな貧相な対して美人でも無い、野暮ったい女に祥吾さんは何、トチ狂ったのよ!
この女の何処がよくて祥吾さんは」
「あ、貴女は一体……」
事の成り行きに呆然としながら、つい、問うてしまう。
綺麗な女性。
洗練された美貌に、華やかな出立ちはまるで薔薇の様に妖艶で、匂い立つ様に美しい。
祥吾さんの側に居ても遜色ない美貌を兼ね備えた。
「私は赤瀬美菜子。
祥吾さんのれっきとした婚約者よ」
衝撃な発言に、大きく目を見開いてしまう。
ぞして同時に、やはり、と呟いてしまう。
あんなに全てを備えた祥吾さんに女性の影が無いとは思えなかった。
財力のある男性に、それ相応に相応しい婚約者が居てもおかしくは無い。
寧ろ居ない方が訝しげられる。
(だったらどうして私に愛を囁くの?
私を欲して離さないとしているの?
私の未来を、子供が出来たら子供ごと欲しがる素振りは、一体……)
「どうしてなの?
アンタ、本当に何も知らなかったの?
私と祥吾さんは幼い頃から、両親が決めた婚約者なの。
勿論、相愛の中よ。
私はずっと祥吾さんを愛しているの。
彼も私に、そう囁いて毎回、抱いているわ。
美菜子が一番、美しいって。
愛しているって、何度も何度も激しく抱かれているわ」
うっとりと悦に入った言い振りに、私の表情が段々と曇っていく。
この美しい女性を、私を抱く様に抱いている。
あんなに激しく中を穿ち、快楽に導いて……。
「あら、何を泣き出しているの?
当たり前の事でしょう?婚約者なんだから。
今年中に式を挙げる事になってるのに、何故、アンタが祥吾さんに纏わりついているの?
アンタ、祥吾さんの会社で、ううん、アンタの会社でも大層な女だって言われているの、知らないの?
ふふふ、だから祥吾さんに強引に迫って、身体の関係を強要したのね。
アンタが祥吾さんの会社の社員をたらし込んで、祥吾さんに気に入られる様に自分を売り込んだって噂されているの判らないの?」
「そん、そんな!
ち、違います、私は決してそんな事、していない!」
「じゃあ、どうして祥吾さんはアンタを側に置いているの?
アンタ、一体、何を祥吾さんに吹き込んだの?」
「わ、私は祥吾さん、いいえ、保科さんに、仕事を依頼されて……」
「依頼された事が、肉体関係だったと言いたい訳?」
「……」
「自分の姿を鏡で見て、何も思わないの?
祥吾さんにお似合いの相手と、本当に思っているの?」
(ど、どうしてこんな言葉を受けないといけないの?
解っている。
この女性の様に、美しい容姿でも良家のお嬢様でも、何でもない。
平凡な、ううん、平凡以下のモブな……)
ボロボロと涙が溢れて止まらない。
こんなに惨めな事って、無い。
尊厳を、どうして見ず知らずの女性に言われないといけないの?
祥吾さんに、婚約者が居たなんて知らなかった。
祥吾さんに激しく、まるで嵐の様な愛を捧げられて。
私だって、何故、彼が愛を求めるのか理解できない。
自分の身に起こっている事に、気持ちが追い付かない。
そんな中で、少しずつ祥吾さんの愛に気持ちが傾いていき……。
「それ以上の暴言は許さない」
低音の怒気を含んだ声が部屋に響き渡る。
いつの間にか祥吾さんが帰宅している。
「祥吾さん」
怯みながらも声に艶を含んで近付く美菜子を一瞥して、祥吾は紗雪の元に行く。
「さゆ」
あの、冷たい響きを含んだ声音では無く、蕩ける様に紗雪の名を呼ぶ。
祥吾の変化に、美菜子は一瞬、我を忘れて茫然と立ち竦む。
「祥吾さ、ん……」
「済まない、さゆ。
お前の心に深い傷を与えて」
柔らかく耳元で囁いて紗雪を抱き締める。
事の成り行きに美菜子はワナワナと震えてしまう。
「ど、どうして、そんな女に優しくするの?
祥吾さんには私と言う婚約者が、未来の妻が居るのに、どうして」
「お前が勝手にほざいているのだろう?
俺がお前に愛を囁いた事なんて、一度も無い」
バッサリと切り捨てる様に放つ言葉に、美菜子が何度も何度もかぶりを振る。
「そ、そんな、あり得ない……。
な、何を言ってるの?祥吾さん。
あ、あんなに激しく私を抱いて」
「はああ?
俺は一度もお前の身体に触れた事は、無い。
何、寝言を言っている」
「だ、だって、わ、私……」
「お前が誰に抱かれているか、知りたいか?」
ニヤリ、と口元を歪ませ冷酷な眼で美菜子を見る。
自分の身体に、確かな鬱血がある。
女として求められた……。
「う、嘘よ。
い、いや、いや、嘘よ、そんな……」
顔を歪ませ自らの身体を抱き締める美菜子を、祥吾は部屋の外に控えさせている部下を呼び付ける。
「俺の婚約者を名乗る女が、お前達を欲しがっている。
連れて相手をしろ」
無言で入ってくる男達に囚われて美菜子は激しい抵抗をしながら部屋を出て行く。
「ど、どうして祥吾さん……。
ずっと、ずっと私だけを見つめていてくれたじゃ無いの!
子供の頃から、ずっと……」
「ふん、俺はお前の事なんてこれっぽっちの関心すら無い。
そんな女に何故、愛を囁く?
子供の頃、お前が勝手に親に泣きついて俺の婚約者だと嘯いていただけだろう。
それに今のお前に何のメリットがある?
倒産寸前の会社の社長令嬢さん。
借金まみれのお前に、俺が何故、手を差し伸べないといけない」
酷薄な笑みを浮かべ祥吾が言う。
「いやああああ、祥吾さん!
た、助けて……」
「煩い女だ。
早く連れ出せ」
祥吾の腕の中で紗雪はカタカタと身体を震えさせながら、事の終わりを見る。
祥吾の、いつもとは違う別人の貌。
(この人は一体……)
冷酷な表情。
残酷な言葉、そして、今ある現実は……。
「さゆ。
怖かっただろう?
もう、心配は無い。
ああ、そうだな。
ここでは無く、もっと、お前を守れる場所に行こう」
紗雪を抱き上げ、寝室へと向かう祥吾。
そっと紗雪をベットに横たえ、赤く腫れた頬に何度も何度もキスを降らす。
「さゆ、さゆ。
痛かっただろう。
俺が上書きするから、な」
どろり、と甘い闇に囚われる。
逃げられない。
祥吾の底知れぬ愛から逃れる事は出来ない。
「ああ、さゆ。
愛している
決してお前を離さない……」
俺のさゆ、と耳元で囁きながら紗雪の身体を暴いていった……。
愛される悦びも知った。
でも、その愛は私が本当に望んだ愛のカタチでは無かった……。
***
突然、今ある境遇に変化が起きた。
「貴女、祥吾さんの愛人なの?」
いきなり訪ねて来た女性に放たれた言葉。
一瞬、何を言われているか判らなかった。
(あ、愛人?)
どうしてそう言われるの?
確かに恋人と思われる方が不自然だと思うけど。
だけどどうしてこの女性に言われないといけないの?
「あ、私は、愛人では無い、です」
段々と声が小さくなっていく。
祥吾さんに愛をずっと囁かれている。
求められている。
だけど恋人であるかと言えば、私には自信が無い。
「貴女、もしかして祥吾さんの婚約者とか思っていないわよね?
世間知らずの、身の程を弁えない低俗な女ね、アンタって」
と、言いながら急に近づいて来て、私の頬を叩く。
ぱしん、と小気味良い音が部屋に響いて。
(な、何が起こったの?
わ、私……)
ジンジンと痛みが強くなっていく頬に手を充てる。
頬を叩かれた。
目の前の女性に視線を注ぐと物凄い形相で私を射抜いている。
憎悪の籠った目で。
「よくも私の祥吾さんに手を出したわね。
この泥棒猫!
淫乱女、ええ、アンタにはその言葉がお似合いよ。
こんな貧相な対して美人でも無い、野暮ったい女に祥吾さんは何、トチ狂ったのよ!
この女の何処がよくて祥吾さんは」
「あ、貴女は一体……」
事の成り行きに呆然としながら、つい、問うてしまう。
綺麗な女性。
洗練された美貌に、華やかな出立ちはまるで薔薇の様に妖艶で、匂い立つ様に美しい。
祥吾さんの側に居ても遜色ない美貌を兼ね備えた。
「私は赤瀬美菜子。
祥吾さんのれっきとした婚約者よ」
衝撃な発言に、大きく目を見開いてしまう。
ぞして同時に、やはり、と呟いてしまう。
あんなに全てを備えた祥吾さんに女性の影が無いとは思えなかった。
財力のある男性に、それ相応に相応しい婚約者が居てもおかしくは無い。
寧ろ居ない方が訝しげられる。
(だったらどうして私に愛を囁くの?
私を欲して離さないとしているの?
私の未来を、子供が出来たら子供ごと欲しがる素振りは、一体……)
「どうしてなの?
アンタ、本当に何も知らなかったの?
私と祥吾さんは幼い頃から、両親が決めた婚約者なの。
勿論、相愛の中よ。
私はずっと祥吾さんを愛しているの。
彼も私に、そう囁いて毎回、抱いているわ。
美菜子が一番、美しいって。
愛しているって、何度も何度も激しく抱かれているわ」
うっとりと悦に入った言い振りに、私の表情が段々と曇っていく。
この美しい女性を、私を抱く様に抱いている。
あんなに激しく中を穿ち、快楽に導いて……。
「あら、何を泣き出しているの?
当たり前の事でしょう?婚約者なんだから。
今年中に式を挙げる事になってるのに、何故、アンタが祥吾さんに纏わりついているの?
アンタ、祥吾さんの会社で、ううん、アンタの会社でも大層な女だって言われているの、知らないの?
ふふふ、だから祥吾さんに強引に迫って、身体の関係を強要したのね。
アンタが祥吾さんの会社の社員をたらし込んで、祥吾さんに気に入られる様に自分を売り込んだって噂されているの判らないの?」
「そん、そんな!
ち、違います、私は決してそんな事、していない!」
「じゃあ、どうして祥吾さんはアンタを側に置いているの?
アンタ、一体、何を祥吾さんに吹き込んだの?」
「わ、私は祥吾さん、いいえ、保科さんに、仕事を依頼されて……」
「依頼された事が、肉体関係だったと言いたい訳?」
「……」
「自分の姿を鏡で見て、何も思わないの?
祥吾さんにお似合いの相手と、本当に思っているの?」
(ど、どうしてこんな言葉を受けないといけないの?
解っている。
この女性の様に、美しい容姿でも良家のお嬢様でも、何でもない。
平凡な、ううん、平凡以下のモブな……)
ボロボロと涙が溢れて止まらない。
こんなに惨めな事って、無い。
尊厳を、どうして見ず知らずの女性に言われないといけないの?
祥吾さんに、婚約者が居たなんて知らなかった。
祥吾さんに激しく、まるで嵐の様な愛を捧げられて。
私だって、何故、彼が愛を求めるのか理解できない。
自分の身に起こっている事に、気持ちが追い付かない。
そんな中で、少しずつ祥吾さんの愛に気持ちが傾いていき……。
「それ以上の暴言は許さない」
低音の怒気を含んだ声が部屋に響き渡る。
いつの間にか祥吾さんが帰宅している。
「祥吾さん」
怯みながらも声に艶を含んで近付く美菜子を一瞥して、祥吾は紗雪の元に行く。
「さゆ」
あの、冷たい響きを含んだ声音では無く、蕩ける様に紗雪の名を呼ぶ。
祥吾の変化に、美菜子は一瞬、我を忘れて茫然と立ち竦む。
「祥吾さ、ん……」
「済まない、さゆ。
お前の心に深い傷を与えて」
柔らかく耳元で囁いて紗雪を抱き締める。
事の成り行きに美菜子はワナワナと震えてしまう。
「ど、どうして、そんな女に優しくするの?
祥吾さんには私と言う婚約者が、未来の妻が居るのに、どうして」
「お前が勝手にほざいているのだろう?
俺がお前に愛を囁いた事なんて、一度も無い」
バッサリと切り捨てる様に放つ言葉に、美菜子が何度も何度もかぶりを振る。
「そ、そんな、あり得ない……。
な、何を言ってるの?祥吾さん。
あ、あんなに激しく私を抱いて」
「はああ?
俺は一度もお前の身体に触れた事は、無い。
何、寝言を言っている」
「だ、だって、わ、私……」
「お前が誰に抱かれているか、知りたいか?」
ニヤリ、と口元を歪ませ冷酷な眼で美菜子を見る。
自分の身体に、確かな鬱血がある。
女として求められた……。
「う、嘘よ。
い、いや、いや、嘘よ、そんな……」
顔を歪ませ自らの身体を抱き締める美菜子を、祥吾は部屋の外に控えさせている部下を呼び付ける。
「俺の婚約者を名乗る女が、お前達を欲しがっている。
連れて相手をしろ」
無言で入ってくる男達に囚われて美菜子は激しい抵抗をしながら部屋を出て行く。
「ど、どうして祥吾さん……。
ずっと、ずっと私だけを見つめていてくれたじゃ無いの!
子供の頃から、ずっと……」
「ふん、俺はお前の事なんてこれっぽっちの関心すら無い。
そんな女に何故、愛を囁く?
子供の頃、お前が勝手に親に泣きついて俺の婚約者だと嘯いていただけだろう。
それに今のお前に何のメリットがある?
倒産寸前の会社の社長令嬢さん。
借金まみれのお前に、俺が何故、手を差し伸べないといけない」
酷薄な笑みを浮かべ祥吾が言う。
「いやああああ、祥吾さん!
た、助けて……」
「煩い女だ。
早く連れ出せ」
祥吾の腕の中で紗雪はカタカタと身体を震えさせながら、事の終わりを見る。
祥吾の、いつもとは違う別人の貌。
(この人は一体……)
冷酷な表情。
残酷な言葉、そして、今ある現実は……。
「さゆ。
怖かっただろう?
もう、心配は無い。
ああ、そうだな。
ここでは無く、もっと、お前を守れる場所に行こう」
紗雪を抱き上げ、寝室へと向かう祥吾。
そっと紗雪をベットに横たえ、赤く腫れた頬に何度も何度もキスを降らす。
「さゆ、さゆ。
痛かっただろう。
俺が上書きするから、な」
どろり、と甘い闇に囚われる。
逃げられない。
祥吾の底知れぬ愛から逃れる事は出来ない。
「ああ、さゆ。
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決してお前を離さない……」
俺のさゆ、と耳元で囁きながら紗雪の身体を暴いていった……。
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