短編集

やっこ

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異世界召喚(?)

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「ここ……は?」
目が覚めると、そこは森の中だった。
鳥のさえずり、川のせせらぎ、木の葉が風邪で揺れる音。どれも心地のいいものだが、そうも思っていられない状況にカイトは困惑する。
格好はパジャマで、自分が寝ていたのはベットはではなく地面だった。そのことから、寝ている間にどこかへ連れていかれたのだろうと考えた。幸いスマホはポケットに入れていたはずだ。
「キャーーーキャーーキャー」
「うわっ!?」
ポケットをまさぐりながら、当たりを見回そうと立つと、耳元に奇声が聞こえた。振り向くと、テナガザルのような見た目の猿だった。
「なんだコイツ……?」
しかしその猿の毛色は7色だった。挑発的な目で後ろに隠していた手を前に突き出した。
「え」
それは、カイトのスマホだった。
「キキー!キキーーーー!」
カイトがそれを取ろうとすると、木を登って森の奥へと逃げてしまった。
「はぁ……なんなんだここは。」
辺りをよく見回すと、何だか不思議な森だった。木々にはそれぞれ顔のようなものがついてて、よく見ると根っこから動いていた。周りにいる鳥も、くちばしが異様に長かったり、キノコのサイズが大きすぎたり、何だか異世界を連想させられる。それに、太陽光はあるが太陽がなく、常に朝といった感じだ。
「ぐぅぅ」
今度はどんな生物だと思い足元を見たが、その音はカイトの腹の虫だった。
なにか食べ物になるようなものはないかと少し歩くと、ちょうど良さそうな果物があった。
「甘っ!美味い!」
リンゴのような果物が落ちていた。中身は真っ赤で、少しグロかった。
たまたま落ちているなんて僥倖だと思っていたが、とある違和感に気づく。その果実は、大きな葉っぱの上に7つ程落ちていた。いや、置かれていたのだ。
「グルルッ。」
身の危険を感じ、後ろを振り向くと、サイのような、カバのような生き物が威嚇をしていた。口に1つ果実を加えていて、きっと集めていた最中だろう。
「うわぁぁぁーーー!だれかぁーーーー!」
状況を理解したカイトは、全速力で逃げた。陸上部に入っていたカイトだが、サイに勝てるはずがない。段々と距離が縮められていく。
そして、サイとカイトの距離が10cmをきる寸前。「キョエエエエ!!!」
大きな鷹のような鳥にカイトは空高くへと連れてかれた。襟元を咥えられ、上空を飛び回る。
自分が助けられたのではなく、餌として捕まえられたということぐらい、この大鳥のヨダレを見ればわかる。
すると前から、別の種類の鳥が飛んで来た。 
「キョエエエ!」
「ヒュルルルル!!」
クチバシでの激しい攻防は、まるで餌を取り合う鷹と鷲のように見えた。決死の覚悟でこの勝負の決着を見ていたカイトだが、ふいに重力を感じる。
「うわぁぁあああああ!!?」
激しい攻防により、自分は振り落とされてしまったのだ。そのことに気づかず、まだ決着のつかないままでいる2匹の鳥を見ながら、カイトは高速落下した。
段々と死が近づいてきているのがわかる。
「ゴッ」
カイトが地面に打ち付けられた鈍い音がした。
頭からの落下。即死するはずの落下だが、地面がとても柔らかく、奇跡的にも身体への傷はなかった。
しかしカイトは、頭に致命的な傷をおってしまった。目を覚ましたカイトが呟く。
「ここ……は?」
それは記憶喪失だった。

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