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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~

2-57.J.B.(33)Bad company too bad.(ヤバいネ! 悪たれ部隊)

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 王国駐屯軍の対魔人ディモニウムの遊軍部隊、ニコラウス・コンティーニ率いる“悪たれ部隊”を引き入れたは良いが、当然というかなんというか、全体の指揮権を要求されたのは難しいところだ。
 貴族街の三大ファミリーの一つ、プレイゼスの“気取り屋”パコからの情報じゃあ、ニコラウス・コンティーニは軍人としては英雄豪傑の類ではなく、どちらかというと策略家タイプ。本来なら政治家向きの資質らしい。
 曰く、「父親が“英雄”だろ~? その上、兄である長男エリゼオは光属性魔術に秀でた神官戦士で、三男で弟のガイウスはそれこそ父の資質をまっとーに受け継いだ剣技に秀でた豪傑軍人タイプでなあ~。まあ、ひねくれた性格もあって、かーなり居心地は悪かったみてえだぜ~」
 
 英雄の父、誰からも好かれ尊敬される兄、そして自分以上に父に似た優れた軍人となる資質のある弟。
 そりゃあグレるな。俺ならソッコー家出するわ。
 因みにあまりの悪相で老けて見えるが、実年齢としてはまだ20代半ばらしい。マジかよ。
 
「ま、それでも意地で軍務について、身体あんま強くねェ~のを補う為に昔の戦記だ兵法書だ何だを勉強しまくってよォ~。
 親のコネでも何でもなく、若くして自力で百人長にまで上り詰めたってェ~話よ? まあ、たいしたモンだねェ~」
 
 親兄弟の存在や、それらに起因する周囲からのプレッシャーに押しつぶされず、自分で自分の道を切り開いた。
 百人長は王国軍の階級としては前線指揮官で、単純な剣技体力のみならず、状況判断に現場での指揮能力、士気の鼓舞というものが必要となる。
 大きな戦で全体の戦略を練る立場にはないが、それでもニコラウスの本来の資質を活かせる立場だった。
 英雄の子としてさすがに一兵卒からと言うことはなかったらしいが、小隊長からの出世としても早い方だったらしい。
 確かにたいした男だ。そうそう真似できるこっちゃねえな。
 
「だぁ~が、そーの後が悪かったんだよな~」
 増長もあったのかもしんねェけどよォ~、と付け加える。
 王国は旧帝国領の中心部と東方寄りを領有している。周囲は敵だらけだし、辺境では旧属領の反乱が相次ぎ、野盗山賊、魔獣にゴブリンの群れ等が跋扈してる。
 それらの鎮圧や討伐任務に駆り出されていたが、ある大規模な討伐任務の際、上官相手に酔ってかなりの非礼をしたのだとか。
 これがたたき上げで後ろ盾のない者なら、下手すりゃ首が飛び、良くても降格、叉は懲罰といったものの、ここでやはり家名がそれを助けた。
 なんと言っても「英雄の息子」だ。
 とは言え何の処罰も無いというわけにもいかない。元より普段の素行言動が悪く敵が多い。結果、誰もがやりたがらぬ僻地、クトリアでの「対魔人ディモニウムの遊軍部隊の指揮官」という役職へと追いやられた。
 
 王国駐屯軍にとって、クトリアの不毛の荒野ウエイストランドを跋扈する魔人ディモニウムの賊徒達は厄介な存在だ。
 普通の野盗山賊討伐のように容易くはいかないし、地の利もない。
 奴らの「生ける魔導具」とも言える魔術の行使はこちらの兵力をガンガン削るし、その上で無秩序だが勢いのある戦い方は、規律を重視する帝国流の軍隊にはやりにくい。
 何せ戦場の流儀などありゃしない。奇襲夜討ち朝駆け騙し討ち、何でもありの連中だ。
 その上ある種のアッパー系ドラッグのような興奮作用のある錬金薬か何かを常用してる連中も多く、死を恐れぬ突撃もかましてくる。
 なんつーか、映画のポストアポカリプトなモヒカン兵士たちみてえな連中だ。
 
 で、かと言って犠牲を多くしてなんとか退治したところで、王国側にとって得られる利益が少ない。
 連中は狩人や隊商、その他クトリア人達を頻繁に襲っているが、現状王国にとって最重要である二つの拠点や幾つかのキャンプにまでは大規模な攻勢は仕掛けては来ない。
 王国から来た商人やクトリアでの“お遊び”をしに来る連中は、定期便の王国軍護衛付きの武装馬車で移動するし、大きな被害は今の所無い。
 
 その点で言えば、襲われる事もそうそうないと油断をしていた囚人達の作業現場が急襲されたことは、かなり珍しい事だったらしい。
 その時も護衛の王国軍兵士達は、囚人達、特にデレルの言うほど実際の死傷者は多くなく、形勢不利とみるや囚人達を置いて早々と逃げ出している。
 撤退指示の前に逃げた兵士達は一応それなりの処罰は受けているらしいが、そもそも国土防衛や貴族、自由市民達の護衛とは異なり、「たかが囚人」の命の価値など王国側にとっちゃあ一山幾ら。いくらでも補充出来る安い使い捨て労働力でしかない。
 罪を犯し労役を課された囚人よりも訓練を受けた兵士の命の安全を優先すべきで、兵力差の大きかった襲撃の際に囚人達を見捨てて撤退したという隊長判断は妥当だったとの意見も多かったらしい。
 それへの反対意見も、囚人を守れと言うことではなく、早すぎる撤退は魔人ディモニウム勢力の増長を招く、というものでしかない。
 
 とにかく、王国側はクトリアの“魔人ディモニウム対策”に関しては、決して本腰をいれてはいない。
 だからこそ、邪術士討伐から5年も経過している現在まで、魔人ディモニウムの勢力がのさばり続けても居る。
 
 勿論、本国と違ってクトリアに来ている王国駐屯軍の兵士達にとってはそんなに他人事じゃあない。
 そこそこ結構な被害は出ているし、死ぬのは本国の貴族達ではなく駐屯軍兵士だ。本音のところではなんとかしたい。
 だが、そのための余力が無い。
 だからこそ、名ばかりの“対魔人ディモニウム部隊”は、誰もやりたがらない役回りなわけだ。
 
 そんな僻地の、さらには誰もが嫌がる名ばかり役職へ「左遷」されたニコラウスが腐ったかというと、まあ当初は腐りに腐った。
 腐りすぎて、貴族街での御乱行でかなーり悪評も立ったそうな。
 
「まァ~、酷かったねえ、あの頃は~」
 クランドロール辺りじゃ、いつか“鉄槌頭”ネロスがブチ切れてその頭突きで潰しちまうんじゃ無いかとか、美食のマヌサアルバ会で毒を盛られるんじゃないかとかも噂されるほどに酷かった、と。
 
 その御乱行が収まったのは比較的最近だ。
 彼の父、英雄リッカルド・コンティーニ将軍が、聖光教団の“預言”を元にして組織された「闇の主討伐連合軍」の指揮官として闇の森へと赴くが、しかし大規模な魔法の反撃で軍は壊滅的打撃を受け、リッカルド将軍も怪我を負ったこと。それがきっかけだ。
 そもそも闇の主討伐連合軍の指揮官なんてのは、誰も引き受けたくない任務だ。
 王国は魔術師協会と繋がりが深い。闇の主も協会の一員で、重職に就いていた。
 討伐の呼び掛けがあってから、闇の主は協会の役職を全て退き、関係を絶って黒金の塔へと隠遁。協会にも「あらゆる干渉無用なり」と、言わば絶縁状を出したらしい。
 その辺り、どんな複雑なやりとり密約策謀があったかは分からんし、今の話だって伝聞の伝聞のそのまた伝聞みたいな不確かな情報。
 
 何にせよここで問題なのは、王国側も本音では闇の主討伐連合にはそう乗り気ではなく、しかし全く知らぬ存ぜぬを貫き通すのは角が立つ。
 成功しても得るものは少なく、失敗すれば不名誉のそしりを受けるのみ。
 討伐連合軍指揮官なんてのは、ハイリスクローリターンで誰もが嫌がるものだった、ということだ。
 そしてその「誰もが嫌がる任務」をリッカルド将軍が受けざるを得なかったのは、ニコラウスのやらかしに対して自らの名で「温情ある処置」に留めて貰ったという事が原因なのだ、と。
 
 これは、堪える。
 いくら僻地で腐りきっていたとは言え、自分の不始末のせいで父親が止むに止まれず受けた「ヤバい任務」。
 その結果が、不名誉な敗北と、怪我。
 ニコラウスとしてはもはや、「ウダウダ腐ってる場合じゃねェ!」というところだろう。
 なんとか功名を成したい。
 出来れば名誉回復をして、王国本土へと帰還したい。
 それ以降ニコラウスは御乱行をぴたりと止め、部隊の訓練と再編に邁進した。
 
 ここでやったことが、聞くとなかなか面白い。
 まずとにかく、とんでもなくハードな訓練をしてどんどん脱落者を出す。
 訓練についてこれない者達は別の隊へと押し付け、変わりに各隊の問題児やはみ出し者を受け入れた。
 素行の悪い荒くれ者、卑怯卑劣となじられる者、臆病で泣き虫と虐められて居る者に怠け者。
 ほかの部隊では鼻つまみ、役立たずとされてた連中をだ。
 
 それから現地採用兵を増やした。
 駐屯軍は現地での運用に限った現地採用兵を許可している。
 その後戦功を立てて認められれば、王国の準市民としての権利を得ることも出来る、という触れ込みだ。
 傭兵として部隊ごと雇うこともあるが、ニコラウスは個人単位で見所のある者達を正式に自分の部隊へと組み込んだ。
 
 クトリアとティフツデイル王国は、文化風土が異なるし言葉も近いがやや違う。
 意志疎通もうまく行かないし、何より王国の人間は長い間邪術士に支配されていたクトリアの人間を見下している。
 クトリア人=邪術士の奴隷だった連中であり、無知無教養な蛮人達、というのが、ここ30年ばかりの王国側からのクトリア人評価だ。
 まあ、帝国崩壊後もなんとか文明社会を維持し続けていた王国と、王朝が完全に崩壊して無法の地と化したクトリアとでは、失われたものの差はデカいし、あながち間違っちゃあいねえけどな。
 何にせよ、たいていの王国兵はクトリア人と肩を並べて戦うなんてのは問題外だと考えている。
 
 ニコラウスはそう考えなかった。
 帝国流の戦場の流儀を知らぬ魔人ディモニウムどもに立ち向かうのに何が必要か?
 それを徹底して考え抜いた。
 その結果導き出したのが、帝国流を捨てる、ということだ。
 
 徹底的にハードな訓練を課して、それについてこれる勇猛かつ屈強な精鋭を残す。
 それからはみ出し者あぶれ者を集め、奇才や異能を見つけだす。
 粗野粗暴な暴れ者は規律だった行軍は出来ないが、魔人ディモニウムの無秩序な凶暴さへの対抗戦力になる。
 卑劣漢は連中のやりそうな手段策略を予想し、それらへの対処法を考えることが出来た。
 臆病者は敵の攻めてくる気配を察知するのに優れ、怠け者は効率良く少ない労力で成果を上げる方法を考えた。
 そして現地採用のクトリア人達は、この地の利を知り抜いている。
 
 その上どこでどう蓄財したのか、出所不明の私財をつぎ込んでいる。
 手柄を立てれば出自を問わずに褒美を出し、兵の装備にも金を出す。
 とにかく、赴任してきた当初からは考えられない豹変ぶりだ。
 
 それが、現在の“対魔人ディモニウム部隊”、別名“悪たれ部隊”の生まれるまで。
 
 ニコラウスにとって、魔人ディモニウム討伐は自らの功名のための手段にすぎない。
 だから「ニコラウスに任せておけば、俺達が動かなくてもなんとかなるんじゃないか?」とは、残念ながらいかない。
 
 例えば、だ。
 クーク達が再び戦力を立て直し、ボーマ城塞の襲撃をしたとする。
 そこではまた苛烈な戦いが繰り広げられれば、いずれかが倒れ、もういずれかは多大な損害を受けるだろう。
 ボーマ城塞側が勝てば、功名にはならないが残りの魔人ディモニウム戦力が減り、自分が功名を立てやすくなる。
 クーク側が勝ったとしても、被害は大きく勢力は衰えてる。そこを巧く突けば、少ない労力で「クーク討伐」の功名を立てられる。
 
 つまりニコラウスには「クトリア人達を魔人ディモニウムから守る」なんて意識は欠片もなく、むしろクトリア人達がガンガン殺されてでも、ある程度魔人ディモニウム勢力を減らしてもらえればそれで良い、という考えだ。徹底徹尾、自分の功名の為にしか動かない。
 
 だがそれは、ある程度の小競り合いの中での話だ。
 今回みたいにクトリア人達が一つにまとまって魔人ディモニウムと対峙し、負けるならばまだ良いが、まかり間違って勝ってしまったらどうなるか?
 しかもかつての闘技場の二枚看板、“金色の鬣こんじきのたてがみ”ホルストに、“狂乱”のグイド・フォルクスが共闘して戦い、挙げ句クトリアで未だ名を馳せる邪術士シャーイダールまでそこに名を連ねている。
 
 そうなれば功名どころじゃない。むしろ「あれだけ訓練だ再編だとやっていながら、結局何の役にも立ってないじゃないか」と謗られるのは目に見えている。
 つまるとこ、父、リッカルド将軍とある意味似た立場だ。
 ここでこの魔人ディモニウム討伐連合の盟主となり、是が非でも戦功を立てなければ後がない。
 そうすれば、「自ら部隊を鍛え上げ、その上ホルストやグイド・フォルクスに現地人の諸勢力をまとめ上げて討伐を果たした英雄」と、大々的に触れ回れる。
 
 俺達は魔人ディモニウム討伐にニコラウスの“悪たれ”部隊を利用でき、ニコラウスも自らの功名のため俺達を利用できる。
 ニコラウスはその共通の利害を、あの少ないやり取りで瞬時に読み取った。
 
 ここでニコラウスが虚栄心だけの無能な男なら、ちょいとばかし話は変わるだろう。むしろその方が扱いやすかったかもしれないが。
 だが奴は有能だ。有能で尊大で、野心家でもあり、同時に独善的で利己的で冷酷だ。
 そこだけは警戒しとかなきゃならない。
 下手をすると俺達クトリア人勢力を全て捨て駒にした策略を平気で立てかねない。そんな男だからな。
 
 ◆ ◇ ◆
 
「おーーーーーーーい、居るかーーーーー!? 生きてるかーーーーー!?」
 そう大声で叫び呼びかけてるのは、“優男”のデレル。
 今来ているのは、魔人ディモニウム達から逃げたしたものの、デレルやフォルクス達とは別行動をとった脱走囚人達が最後に隠れていた洞窟の前。
 洞窟、とは言うが、遠目には岩山の裂け目のようにしか見えず、なるほど隠れ潜むにはなかなかの場所だ。
 
 中に何者かが潜んでいるのは、“シジュメルの翼”による気流の察知と集音である程度分かる。
 その中でややざわめいた後に動きがあり、間を置いて一人の男の声が返って来る。
 
「誰だ!? 何の用だ!?」
「俺だよ、俺! デレルだよ! 覚えてっか!? まさか忘れちまッたなンて寂しィ事ァ言ってくれンなよなァ~?」
 その返答に応じて、1人の男が顔を見せる。
「てめェ、デレ公か!? この詐欺師野郎、よくも面ァ出せたな!?」
 
 男はボロボロのチェニックに囚人用の首枷姿。髪も髭も伸び放題で汚らしく、手には木と革紐に、どうやら岩蟹の甲羅の一部を利用して作った手製の槍を持っていた。よくみるとチェニックにも岩蟹の甲羅が張り付けられていて、間に合わせの防具として利用してもいるらしい。
 
「詐欺師?」
 男の言ったその言葉に、隣に居たホルストが小声で反応する。
 デレルは首枷のしるしも「軽微な経済犯」というものだったが、本人曰く「借金の踏み倒し」だと言う。
 ただこの男の言うとおりだとしても、記は多分変わらない。
 早々と降参して従順になったが、以外とタチの悪い野郎かもしれねえなあ。
 
「おい! 人聞きの悪ィ事言うなよ!
 それよりな、お前等まだ揃ってっか!? 良い話を持ってきてやったぜ!」
 
 ……ダメだ、話のもって行き方が完全に詐欺師のそれだ。
 
「ふざけんな! どーせまた騙す気だろ!?」
 
 完全に信用が無い。
 これで「俺が声かけりゃあ、素直に言うこと聞きやすぜ」とかほざいてたんだからなあ。やっぱ詐欺師確定だな。しかも三流の。
「ホルストの旦那、頼むぜ。コイツじゃこじれる」
 ため息とともにホルストへと依頼。
 まあこういうときの説得力じゃあ「剣闘士の英雄」ホルストにかなう奴はいない。
 
「俺は“金色の鬣こんじきのたてがみ”、ホルストだ!
 おまえ達の境遇経緯はここにいるデレルとグイド・フォルクスから聞いている!
 そして、王国駐屯軍から、素直に投降すれば逃亡の罪には問わないとの確約を取ってきた!
 今すぐにでも戻ることは出来るし、我々に協力すれば減刑もあり得るぞ!」
 よく響く、人を引きつける良い声だ。
 
 洞窟の中がざわめいて、それから人の数が増えて小さな裂け目から溢れ出てくる。
「お、おい見ろよ、ほ、本物か……?」
「俺、観たことあるぞ! ありゃ本人に間違いねえ!」
「本当の本当に“金色の鬣こんじきのたてがみ”ホルストなのか!?」
「すげえ……こんな所で会えるなんて……」
 
 なんつーか、王国民の中でのホルストのスターっぷりが想像以上にすげえ。
 こりゃ言うなれば、大リーガーやNBA、NFLのスター選手が突然現れたみたいなもんだろう。
 しかも望んでしたことではないとは言え、故郷から離れた僻地の不毛の荒野ウエイストランドでの逃亡生活中に、だ。
 それで感激しないわけがねえ。俺がその立場なら、ホルストに後光が差して見えてくるわ。
 
「……なあ、おい、ホルスト。その……さっきの話は本当か?
 本当に、今戻れば逃亡の罪には問われないんだな?」
 最初に出てきた手製の槍を持った男がそう聞いてくる。
「ああ、本当だ。
 ニコラウス・コンティーニ閣下から了承を取り付けてきてある」
 
「自分に権限はない」などと言いつつも、あの後即座に囚人たちの労役を管轄していた担当者に掛け合い……というか脅して、その条件は既にクリアした。決めたとなると行動が素早いし、ついでにありゃあ敵も増やす。
 
「そ、それとその、協力ってのは何なんだ?」
 それぞれに手製の武器防具で武装している脱走囚人達が、やや遠巻きにしつつもじもじしながらホルストを囲む。
 何照れてんだよおまえ等。乙女か。
 
「おまえ達を連れ去ろうとした魔人ディモニウム、“炎の料理人”フレイマ・クークを討伐する。
 それに参戦すれば、罪を減じてもらえるぞ」
 
 ホルストを取り囲んでいた脱走囚人達の顔色が、分かり易いほどに青ざめた。
 ……ま、そりゃそうだわな。

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