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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-82.J.B.(56)We Roll Deep.(転がり落ちて俺達は)
しおりを挟む炎の罠は一定時間で止まるようになっていたらしく、暫くして再び静寂が戻る。
クークの死体はまだくすぶるかに煙を漂わせ、全く気分の悪いことこの上ねえ。
さんざん人を焼き殺してきたクークの最期としちゃ、正直かなり出来すぎだ。
その沈黙の中、改まった調子でハコブがアデリアとジャンヌへと向き直ると、
「さっきはひどい物言いをして済まなかったな。
聞いては居るだろうが、クークから情報を引き出すための演技だった。
悪く思わんでくれ」
と謝罪する。
相手が見習いでもこういうところではキチンと筋を通すのが、如何にもハコブらしい。
「……ま、別に、いまさら文句はねえよ」
そっぽを向いてるジャンヌの方は、逆に人に謝るのも感謝するのも下手くそだ。
「ええて、そんなん……。結局仇はきちんと取れたんやしな」
同じくジャンヌの横でうつむき気味にしているアデリアもまた何やら神妙な調子。
「どうしたよ? 穴掘りネズミの屁でも嗅いだみてーな面ァしてよ?」
「……何か変な感じやんね。目の前でパパの仇が死んだのに、別にスカっともせえへんし、嬉しくもなんともないんよ……」
神妙というよりは、気の抜けたような……てな方が近いのかもしれねえな。
ある種の張りつめていた部分が緩んじまってる。こればっかしは、他人がどうこう言える事でもねえ。
「それにな。前、妖精ちゃんが言うとったんよ。
パパは死んだかもしれへんけど、アタシ等の心の中におって、その命はそうやって受け継がれてくんやってな……。
だから……ほんまのとここんな奴のことなんか、どーでも良かったんかもしれへん。
アタシの中にあるパパの命までは、コイツには奪えへんかったんやもん」
ピートの奴、知らねーとこでそんなご大層なこと言ってたんかよ? すげえ似合わねえわ。
「ま、何にせよケリはついたしよ。後はこの仕掛けだか表示だかが何か分かりゃあ……」
空気を変えようとしてかアダンが陽気にそう言いかけたとき、見計らったかのようにその壁の円柱の仕掛け……いや、“表示”が音を立てて動き出した。
「うぉお、おい、マジか!? 俺ァ何もやってねーぞ!?」
「わーっとるわい! こことは別の場所で、誰かが仕掛けを作動させたんだろうよ」
慌てるアダンに、そうオッサンが返す。
見ると、ちょうど三段目、土の意匠が彫られた円盤が回り、その位置が上二つと同じ中央に揃う。
しばしの沈黙。
ややあって最初に口を開いたのはニキで、
「これ、あともう一つどこかの仕掛けを作動させれば、隠された区画に繋がるのかな?」
「かもしれん……が、うーむ……。違うかもしれん」
実際誰にも確証はないよな。
「もしかしたらこの彫られた意匠に、元になる仕掛けの場所の秘密が隠されてるかも……」
マーランが思案顔で屈み込んでじっくりと表示を見ようとする。
しかしそこで意外にも全く別の視点をもたらしたのは、もう一つの円柱の近くにいたアデリアだ。
「あんなあ、これ、気のせいかもしらんけど、一番下のやつ、ちょっと窪んでへん?」
ジャンヌとアデリアは、クークから逃れた際にほぼ柱にぶつかるかというくらいの勢いで跳び去って居たこともあり、俺達より柱のかなり近くにいる。つまり柱の正面、というよりは上の方からそれを見ている。
上から見ている分、表面のへこみのようなものに気がつきやすかったのかもしれない。
「やっぱほら、ここんとこ……」
言いつつ動いてより近づき屈もうとし、脚をもつれさせ転びかける。そのアデリアをすかさず横から受け止めて支えるジャンヌ。
だがそのとき、アデリアの脚が四段目の窪みあたりへとぶつかって、何かの仕掛けが作動した。
ゴウン……という重い音と共にその柱が左右に開く。
「へ!? うそ、何!?」
慌てたアデリアは顔を上げて様子を見ようとして、さらにバランスを崩しジャンヌを巻き込み二人で転ぶ。
これが普段なら問題なかった。だが丁度二人の目の前で仕掛けが作動し、石柱が割れて空間が広がりつつある状態。
「ジャンヌ! アデリア!」
口々に叫ぶ声も間に合わず、二人は絡み合いもつれ合いしながら、開いた空間へと転がり落ちる。
俺は“シジュメルの翼”へと魔力を通して飛び上がりその空間へと向かう。
そこはやや急な、そしてうねるような木製階段のあるチューブ状の通路のようになっていて、その中を二人して転げ落ちているのが見えた。
「いいゃゃゃゃああああぁぁぁぁぁぁぁ ─────……………… !!!!」
「追ってくるぜ!」
そう言って飛び上がり後を追うが、これまた実に飛びにくい通路だ。
狭い空間での飛行にも慣れたと言っても、ここは完全に狭いトンネルのようで、その上うねり曲がり下がっている。
二人の転がる勢いよりも早く巧くぶつからずに飛びながら下るってのは難しい。
ぶつかり、転び、途中からは飛ぶよりむしろ走って降りる方が早いと判断し追いかけていくと、勢いつきすぎて止まらなくなり、そのまま空中へと放り出された。
「うおっ!?」
再び“シジュメルの翼”へと魔力を通して空中で浮遊。
「おい、ジャンヌ! アデリア! どこだ!?」
大声で呼びかけてみるもまるで反応も気配もない。
見回すとそこは、やはり木製のホールのようなやや広い空間。
まるで一本の巨木の中をくり抜いたかと言うような雰囲気で、壁には今俺が降りてきたような階段が幾つか繋がっている。
そこそこの高さから転げ落ちていると思われるジャンヌ達だが、まさか怪我で動けなくなったか? と下の方へと視線をやると───奇妙な生き物がそこにいた。
豚、だ。
いや、一頭は間違い無く豚だ。
ただし馬鹿みてえにデカい。体長は半パーカ弱(1.5から2メートル)ぐらいか? 白と黒のまだら模様で、背中に騎乗用の鞍なんか乗せている。
そしてもう一頭……いや、一人……か?
豚……というか上を向いた豚っ鼻にデカい三白眼。丸々太った体格に低い身長。鉄兜を被り、革と金属の鎧と棍棒を装備。ボサボサの長い髪は白っぽい汚れた灰色。そして肌の色は灰緑色……とでも言うか。兎に角、人間じゃないことだけは確か。
そいつが、大口を上げて上を……つまり俺を見ている。
ジャンヌもアデリアも、姿形どころか気配も無い。ここに落ちてきたのはまず確実だ。途中で見失ったのでもない限り、それは間違い無い。
じゃあ……怪しいのはこの豚っ鼻野郎しかいねえって話だ。
「……おい」
俺はその豚鼻デブに声をかける。
「おい、てめーだよ!!」
声を荒げて再び言うと豚鼻デブはようやく自分に話しかけられたらことに気付いて、ぱくぱくと口を開け閉め。
「どこに行った!? ジャンヌとアデリア……二人はどこに……いや、どこにやった!?」
コイツが犯人と決まったワケでもないのに、そう詰問するみたいに問い詰める。
豚鼻デブはあわあわと口をぱくぱくさせるばかりで、まともな言葉なんざてんで出てこねえ。
もしかしたら言葉を知らねェんじゃねえかってぐれえに目に見えて慌ててる。
「おい! 聞いてんのか!? それとも口きけねえのか!? 何か答えろ!!」
苛立ちをそのままぶつけるように叫んでいると、背中に別の何かがぶつかり衝撃を受け落ちそうになる。
「おおっ、危ない危ない!」
緊張感無くそう言うのは、当然ながらイベンダーのオッサン。
俺の後を追って飛び込んだ様だが、壁にぶつかりながらも強引に飛んできたようだ。
「おい、オッサン!
例の変な鏡でジャンヌ達の居場所分からねーか!?」
そう聞くとなんとか態勢を立て直し、俺の横に浮かんで周りを一瞥。
そして急に大声で、
「おおお!? 何じゃお前さん、ガンボンじゃないか!?
何でこんな所に……うぅむ、そうか、追って来たのか!」
下に居る豚鼻デブへと話しかける。
「あ!? ちょっと待てよオッサン、こいつ知り合いなのか!?」
何だよそれよ。急展開すぎて話についてけねえぞ。
「うむ、まあな。
というか……んーー? 分からんか?
そうかこれじゃ分からんな」
言いつつ床へと降り立つと、兜の面を上に上げ素顔を見せて、
「おおう、髭も変わっとるからな。
これでどうだ? ん?」
両手で口周りを隠して顔を見せる。
豚鼻デブはそれをじっ……くりと眺めてからしばらくして、自信なさげな小声で、
「タル……ボッ……ト?」
と、そう呟いた。
「おうおう、そうだそうだ。
もっとも俺は今、“イベンダー”と名乗っとるがな!」
良く分からんがこの豚鼻デブ野郎はオッサンが死にかけて前世の記憶を思い出す前の知り合いで、その頃の名前はタルボットというものだった───と言うことらしい。
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